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ケン・ローチ監督
『11'09"01_セプテンバー11』採録


 フェードイン。
 世界地図があらわれ、イギリスの部分が白く光り、そこからレーダーが発したような円がどんどん拡がって字幕スーパー――
「ケン・ローチ
 イギリス」
 フェードアウト。

 ロンドンにあるオフィスの一室、カラー(以下同)。
 手紙を書くパブロ。
 パブロのナレーション「9月11日にニューヨークで肉親や友人を亡くした方々へ。
 私はロンドン在住のチリ人で、あなた方と共通点を持っています……」

 ニュース映像、モノクロ(以下同)。
 夜。逃げまどう市民。
 パブロの声「私の愛する者たちも殺されました。
 それは9月11日のこと――」

 再び現在のオフィス。
 手紙を書くパブロ。
 パブロの声「……同じく火曜日です」

 白黒のニュース映像は、投票するチリ市民。
 パブロの声「1970年に選挙があり、18歳の私は初めて投票しました」
 市民のなかを歩くアジェンデ。
 パブロの声「私たちの夢は労働の対価や、国の富を皆で分かち合える社会でした」
 特大のプラカードを打ち立てて喚声を上げ、歓喜するアジェンデ支持の大群衆。
 パブロの声「1970年の9月、我々は勝ったのです。
 (パブロの弾き語り)
 ♪赤と白と青の旗が空にひるがえり
  私たちの物語は始まった
  あらゆる街角で……」
 その間、歓呼の声に沸き立つ群衆、市民、子どもたちの笑顔……
 三たびオフィス。ギターを抱えて歌うパブロ。
 パブロの声
「(パブロの弾き語り)
 ♪わき上がる声は波のようにうねり
  山から海へと伝わっていった」
 一転、軽快で明るいラテンリズムの間奏となり、モノクロ画面。スラムの子どもと、土塊を巻き上げるトラクター……。
 さまざまな労働現場。
 パブロの声「子供たちにはミルクと教育を、貧しい農民には土地を――。炭坑や銅山など主要産業はすべて国民が所有しました。人々は初めて尊厳を得たのです」
 紡績工場でのインタビュー。
 答える女性「私は人々の知性に絶大な信頼を置いています。人間は組織化されてこそ知性を発揮するのです」
 パブロの声「だが、それは危険を招きました……」

 場面は一転してアメリカ議会。
 そこで……
 パブロの声「アメリカのキッシンジャー国務長官が“国民の無責任さによる共産化は黙認できない”と発言したのです。
 我々の民主的な決議は無視されました。デモクラシーより利益が重要なのです」
 手紙を書くパブロ。
 パブロの声「その瞬間から、我々とあなた方の苦しみは合法化されました」
 チリ。
 緊急車両がサイレンを鳴らして走りまわり、緊迫する市街の大通り――。
 パブロの声「ニクソン大統領は経済的な制裁を宣告。CIAを使って軍部を蜂起させました。クーデターです」
 警官隊と対峙する市民。
 催涙弾の発砲音。
 瓦礫が積まれて炎上する大通りの一角。
 パブロの声「1000万ドル以上の資金がアジェンデ大統領打倒に費やされました」

 オフィス。
 手紙を書くパブロ。
 パブロの声「あなた方の指導者が破壊を指示したのです」

 チリ。
 荷台に労働者を満載して走り去るトラック。
 パブロの声「彼らは交通ストによって経済を麻痺させました。あらゆる商業は停止し、混乱が生じました」
 街頭に繰り出すヘルメットと無気味な腕章の右翼集団。ものものしい数の旗と殺気だった隊列行進。
 パブロの声「アメリカはチリ国内の不平分子と結託、ネオ・ファシストは米ドルの後ろ盾で工場や発電所を爆破しました」
 線路の一角が仕掛け爆弾により爆発し、建物が吹き飛ぶ映像も――。
 パブロの声「だが逆効果でした」
 破壊と混乱のあとの夜の闇に、「アジェンデ!」「アジェンデ!」と叫ぶ大統領支持派のデモ。
 ニュース映像から聞こえる「アジェンデを守れ」の声、声、声――。
 インタビューに答える女性「私はチリ人! アジェンデ政権を守るわ。人民の政府ですもの!」
 民衆に演説する大統領。
 アジェンデ「皆で守り抜こう、未来を築く権利を! 自由と正義を守る権利を!」
 演説に聞き入る人の海――。
 パブロの声「地方選挙で我々は支持者を増やしました。すると米国は――」

 一転、カラー映像――
 2001年の米国議会。演説するブッシュ大統領。
 ブッシュ「9月11日、自由の敵は我々に戦争を仕掛けた。夜には世界が一変し、自由そのものが攻撃されることになった」

 また一転、モノクロ映像――
 1973年のチリの空。南米チリの9月は冬である。
 すさまじい爆音を響かせて去来するジェット戦闘機。ミサイル攻撃を受ける大統領府モネダ宮――。
 1波、2波、つぎつぎと襲い来る攻撃機。
 爆発、炎上するモネダ宮。




 パブロの声「9月11日、私たちの国は“自由の敵”に襲われました。
 夜明けと同時に戦車隊が大統領官邸に攻め込みました。大統領や大臣は中におり、攻撃が始まっても逃げませんでした」
 黒煙に包まれるモネダ宮。
 ラジオから、大統領の国民への呼びかけが流れる。
 アジェンデの声「彼らが武力で我々を支配しても、社会の進歩は決して止まらない。犯罪や武力に屈することはない。……」
 機関銃をかまえたボディガードと、そのあとにつづくステッキをついたアジェンデ大統領と側近の静止画。
 アジェンデの顔のアップ。
 アジェンデの声「歴史は我々人民によって築かれる。チリよ、人民と労働者よ、永遠なれ!」
 建物の一角の窓から、炎を噴き上げるモネダ宮。
 パブロの声「アジェンデ大統領は殺害されました。殺されたのです……」
 逃げまどう市民。
 軍人を満載したトラックが狂ったように走り回る。
 パブロの声「忘れられない火曜日。1973年9月11日――。
 未来が砕け散ったその日」

 オフィス。カラー映像。
 涙を浮かべ、手紙を書く手を止めて顔を覆うパブロ。
 ギター演奏のBGMが挿入される。

 軍隊の検問。弾圧。
 パブロの声「私はヒザを撃たれ、地面に顔を叩きつけられ、何度も何度も殴られ、時々、意識を失いました」
 両手を前に差し出させられる若者。壁に背を向けて立たされ、警棒で脅される若者。連行され、ジープで運ばれる人々……
 パブロの声
「(パブロの弾き語り――歌の途中、白黒のニュース映像から、一転ギターを抱えて歌うパブロのカラー映像に、またニュース映像にと)
 ♪9月11日 あなたは仕事に出かけ
  サンティアゴの町は包囲された
  銃声が耳をつんざき
  裏切りが闇を広げ
  人の死すら おぼろげにする
  仕事に出かけ あなたは戻らない
  町から町へ
  私はひたすら歩き回った
  あなたを捜し 消息を求めて
  私の手には あなたの小さな写真
  あなたの瞳に 懐かしい微笑みが宿る
  どこにいる? どこにいるの?」
 軍隊の銃口に囲まれ、スタジアムに押し込められた無数の市民、労働者。
 方々の町中では行方不明となった家族を求めて、不安な面持ちで列をなす女性たちの顔、顔、顔……
 パブロの声
「(パブロの弾き語り)
 ♪荒れ果てた大地
  光を奪われ
  体は傷ついても 夢は生き続ける
  火曜に出かけ あなたは戻らない」
 後奏。




 目隠しされてトラックに乗せられ、後ろ手に縛られ、荷物のように押し込められてどこへともなく運ばれていく市民……
 ギターを抱えたパブロ。
 パブロの声「ある日ヘルマン・カストロが連れて行かれるのを見ました……」
 空き地に放置された死体、死体……
 パブロの声「彼は歩けず、耳から血を流し、骨を折られて殺されたのです。
 拷問収容所を運営するのは、アメリカで教育を受けた軍人たちでした。彼らは家族の目の前で収容者をヘリから落とし、腹を切り裂いたりしました。
 それだけではありません。生殖器に電流を流したり、女性の膣にネズミを入れたり、犬に女性を強姦させました……」
 逮捕され、連行され行く人々。
 哀しみにくれる女性たち。
 また、逮捕。連行……路上に放置された死体。
 パブロの声「そして“死の隊列”――町から町へと無作為に処刑して回り、3万人が殺されたのです。3万人……」

 キッシンジャーとにこやかに握手を交わすピノチェト将軍――。
 パブロの声「米国大使がキッシンジャーに拷問の実状を訴えると、“説教はやめろ”との返事。
 クーデターの首謀者ピノチェトはキッシンジャーから政変成功を祝福され、チリに米ドルが流れ込みました」
 静止画は収容所の遠景。看守の前でホールドアップし、そのあと引き立てられる囚人のシルエット映像。
 パブロの声「私はテロリストと呼ばれ、裁判もなしに投獄。5年後に釈放されましたが、仲間の安全のため出国しました」

 屋外でのパブロ。
 パブロの声「どんなに切望してもチリには帰れません。故郷は大切ですが、私には子供もいます……」
 友だちとサッカーに興じる子どもたち。微笑ましく見守る女性2人。歩み寄って、子たちと手を取り合う。
 パブロの声「ロンドン生まれの彼らを流浪の身にはできません。今は帰れませんが、心から帰国を願います」

 また白黒映像。
 民衆に手を振り、民衆のなかを歩く在りし日のアジェンデ。
 そのアジェンデを歓迎し、微笑みかける市民たち、女性たち。
 パブロの声「聖アウグスティヌスいわく。
“希望には2人の娘がいる”。“怒り”と“勇気”です。現状への怒りと、変わろうとする勇気です」
 パブロの手に家族写真。そばにはもう1枚と、書きかけの手紙。そして最後の部分を書く手元からパブロの顔へ――。
 パブロの声「ニューヨークで両親や友人を亡くした方々へ。
 間もなく訪れる9月11日は我々には29周年。皆さんには1周年です。
 いつまでもお互いを忘れずにいましょう。
 パブロ」
 署名してペンを置く。
 暗転。

(2002年製作本編の日本版DVDから)


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