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創刊3周年記念特集 カレン裁判の全貌
(本紙は安楽死法制化絶対反対を叫ぶ)


「植物人間の娘に自然な死を」と、アメリカの両親が裁判に訴えた話は今でも知る人が多いと思う。
 カレン・アン・クインラン、それが娘の名だ。人工呼吸器につながれ、やっと生きているしかない命、と医者も裁判所も判断し、両親の訴えが認められたのが1976年3月31日。
 ところがその判断を裏切って、人工呼吸器を外されても今なお生きるカレン。生命の神秘と言うのか、はたまた奇跡と称するのか。

 自力で生きるカレンと共に3年を経過。

 一貫した主張を続けてきた本紙障問が、いま“命の原点”に立ち帰り、ここに総力特集してカレン裁判の全貌を描く!

 アメリカでは、1960年代ごろから人工呼吸器が広く使われ出し、それまでなら死んでしまう重症患者もその助けによって救われ、それによって「植物人間」と言われる人々の存在が注目しだした。
 植物人間――医学的には遷延性意識障害者と呼ばれ、現在日本には約3000人いると推定される。
 自力移動・自立摂取不可能、大小便などの失禁、意味のある発言不可能、外部との意思疎通不可能、眼球による対外物の認識も不可能――な場合、植物人間と呼ばれる。
 近年、交通事故の増加に伴い、その損傷部位の69・7%が頭部であることから、それによる原因が多い。他の原因として、脳卒中、一酸化炭素中毒などがある。(1976年現在)

 植物人間になってなお機械の助けを借りて生きるというのは「見苦しい」、ある時期に来たら自分で「死を選ぶ」という考え方もあり、健康な時の意志を書面にして登録する「生者の意志」運動というのがある。
 この運動、アメリカではリビング・ウィル運動と呼ばれ、すでに10年以上の実績を持ち、12万人もの登録者がいる(77年8月現在)。
 わが国では76年1月31日結成された日本安楽死協会(太田典礼理事長)が盛んに推進し、アメリカに習えとばかり、「生者の意思」に基く「自然死法」の成立も目差している。
 自然死法――カレンの裁判以来アメリカのいくつかの州で成立し、現実に「安楽死」が実行されている。

 だが本紙は反対である。合法化されずとも、家族や患者の申し出によって、医者による安楽死は現実に行なわれているが、そのどこまでが本当の安楽死だろう。
 本紙ならずとも反対している人は多いのだ。

「僕自身事故に会って死線をさまよった事もあるが、周囲ではひどい苦しみように見えても当人は意識もなく、むしろ父親の夢を見たりして安らかな気持ちの中にいた。
 そういう事は経験した本人でなければ分らない。
 苦しみがあっても生きるものだし、生きなければならないんじゃないかな。カレンさんが生き続ける姿は素晴らしいし、周囲の人達はベストをつくして生き続けさせるべきだ。法制化は絶対反対」(参議院議員 八代英太氏)

「自分が植物人間だったり、親や子供がそうなった場合に、死んだ方がいいと言わないかどうかはあやしい。個人的には死んだ方がいいと言うかも知れない。だからと言って他人に強制する事は許されない。
 法制化するという事は、死んだ方がいいという考えを他人にも押しつける事なんだ。
 30年前は結核になればほとんど死ぬと考えられた。ところがその頃の医学では考えもつかない事が今の時代では可能となった。大脳の医学も同じ事。今日の医学があす、あさっても永久に続くとは限らない。
 その可能性を信じるか信じないかという事で、僕は信じる。だが殺しちゃったものはもう生き返らないんだ」(身障者グループ「しののめ」主宰・俳人 花田春光氏)

 ただし、植物人間を抱えた家族の苦労も大変だ。医療費よりも大きい付添看護費などで、通常家庭の経済状態は半年でパンクすると言われる。
 と言って殺していいということにはならない。それは社会的に解決さるべき問題だ。
 現に東北の5県では必要経費の約半額を公費で負担しているのに、国では交通事故被害にのみ、同額程度支払われることが、今年になってやっと決まった段階だ。
 ただ、その甲斐あって、東北と新潟の7県では植物人間の6パーセントが植物状態を脱却し、重度脳性マヒ者並に回復している。

「脱却はしてませんよ、あれだって。あんなのをね、脱却したという方に問題がある、と我々は言っているんだ。
 日本の医学は“延命”が医者の本業である、とまちがった教育をしているからだとはっきり言ってるんだ」(日本安楽死協会 太田典礼氏)

「不老はいいが長寿は困る」「障害者も手のかかる者は遠慮しなさい」と言う太田氏のことだから、言わずもがなのことばにはちがいない。
 現在協会の会員は2000人弱だが、今年中に1万人目差すとはりきっている。会員のほとんどが「生者の意志」登録をすませていると言う。

「ほっといたら大変だ」ということで昨年12月4日結成されたのが「安楽死法制化を阻止する会」で、水上勉、野間宏ら文化人5氏が発起人として名を連ねた。

「生命とは神秘なもの。それなのに周りの健康な人間が面倒がって止めるなどという事は絶対いけない。
 安楽死を法制化するアメリカは、快楽主義の国家の合理主義が行きついた姿だ。一握りの植物人間を殺す事を法制化する事など絶対に許せない」(「安楽死法制化を阻止する会」発起人・作家 水上勉氏)


――特集掲載に際して、以下を参考とした。
『カレン 生と死』(B・D・コーレン、二見書房)
『カレンの裁判』(ワレン・V・ブッシュ・プロ制作のTVドラマ=テレビ朝日放映)
「“安楽死”を考える」(読売新聞)
「サッチャンの記録〜“植物人間”との闘い」(梶出金志、読売新聞)
「公園通りの午後」(渡辺淳一、毎日新聞)
「植物人間の記録」(藤田真一、朝日新聞)

ドラマ カレンがともす灯

創刊号 奔流(主張)から

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