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作 マルガリテ/純子

第二章
クーデター



暗 転


 純子は、まだ眠りのなかにあった。夢のなかで飛行機の爆音を何度か聞いた気もする。
 階段を駆け上がる足音で目が醒めた。
「ゴルペよ、ゴルペ!」
 クーデター勃発を報らせるアナベルの声、その調子は事態の異常さを伝えて余りあった。
 純子があわててベッドから跳ね起きた。
 パジャマを脱いで外出着に手をかけた時、目のまえにアナベルがいた。
「とうとう始まったのね!」
 昨日の内にまとめておいたボストンバッグを小脇に再び向きなおった時には、セミロングのタイトスカートを履いた旅装となっていた。
「最後の日くらいはと思ったんだけど……」
 薄い黄色地、空色の大きな花の柄を裾にあしらった純子お気に入りの旅行着だった。
「似合うわよ。きれいだわよ」
 アナベルが無理に微笑んで胸を詰まらせた。
「あっ」と、薄情にも、その時になってブランカの不在に気づいたのだった。
「知らなかったの? マリアがゆうべから帰宅してないらしいのよ。家族が心配して電話してきて、それで朝早く出たきりなの」
 何日かガイドしてくれたマリアの、大人になりきれぬ童顔が妙な懐かしさで蘇った。
 階段を降りる途中にもお喋りはつづいた。
「主人は市街戦の訓練を受けたカラビネーロス(国家警察隊)2万4千と、100万の労働者で反乱はすぐ鎮圧されると言うけど……」
 そのカルロスはキッチンでパンを頬ばっていたが、ワイシャツ着の上に締めたネクタイは乱れに乱れ、彼もまたその狼狽ぶりが窺えた。
 雑音混じりのラジオから流れるアジェンデの声に耳をかたむけた時、純子の背中を冷たいものが流れた。
[……これが、わたしが皆さんに語りかけることができる最期の機会でしょう。
 空軍がラジオ・ポルタレスとラジオ・コルポラシオンの放送塔を爆撃しました。したがって、わたしの声は皆さんの耳に届いてはいないかも知れませんが……]
 呼びかけは軍の攻撃対象となった政府系局のなかの、共産党系ラジオ・マガジャネス(英語読み=マゼラン)からだった。
 そのなかでアジェンデは、議会と憲法に銃口を向けた“裏切り者”を罵り、国民に対しては、これから始まる“冬の時代”への忍従と不屈を呼びかけて、こう結んだ。
[……いつか誰かが、 この暗い時代を切り開く日が来る、それまで耐えて欲しい。 遅かれ早かれ自由の大道を人々が歩くことが出来る、よりよい未来が作られるその日まで。
 チリ万歳!  市民万歳!  労働者万歳!
 わたしは、わたしの犠牲が決して無駄でないことを固く信じています。 少なくとも、臆病者の裏切りに対しては、犯罪を罰する教訓となるだろうことも含めて……]
 わずかの間にカルロス家の雰囲気も一変した。身じろぎひとつせず聞き入るアナベルが目に涙を溜め、下に降ろした手を固く握り締めた。
 居ても立ってもいられなかった。
「ブランカを探しに!」
 反転した背中をカルロスが制めた。
「待ちなさい。食べて行きなさい!」
 テーブルに向きなおらせて、バターをたっぷり塗ったトーストを勧めた。
「こんな時に――」
「こんな時だからさ。これから先、商店は略奪を怖れてシャッターを閉めるだろうし、軍隊に拘束されるかも知れない。しっかりと腹ごしらえして行きなさい。さあ、食べるんだ!」
 なおも勧められて思い出した。
 いつか、なにかで知り合った関東大震災体験者という孤老の言葉が頭をよぎった。
「被災した時、昼食前だったの」
「空きっ腹で火の中を逃げたのよ」
「あれ以来、間食を絶やしたことないわ」
 冗談とも本気ともつかぬ教訓話だった。
 パンを引ったくると貪るように食いつき、カルロス夫妻の目をみはらせた。
 ラジオの音は軍隊マーチに変わっていた。
 壁掛け時計はすでに10時半。上空にはヘリコプターの旋回音も聞かれた。
「君はまっすぐ大使館へ走れ。ブランカはわたしに任せて!」
「でも、彼女は……」
 うっかり言いかけ、あわてて口をつぐんだ。
 ブランカの酒場勤めは夫妻の知らぬことだった。それを教えるべきか隠し通すべきか。
 時間はない。別れ時だった。
「いろいろお世話になりました。帰って、ブランカの留学には必ずお世話を……」
「こんな時にいいのよ。とにかく気をつけて。あなただけでも無事に帰ってもらわねば……」
 奥さんとはそこで別れた。
 パンプスを突っかけ、カルロスを追った。
 彼はいち早く十字路に達し、「早く行け」という手ぶりで見送った。純子はそれらしく大使館の方角へと歩き出しながら会釈した。
「いろいろお世話になりました」
「元気で!」
 これで夫妻とは会えなくなる――深い感慨に胸を熱くした時、もう一度手を振ってカルロスが見えなくなった。
 きびすを返して駆け出した。
 憲法広場のあたりからオモチャの花火が連発するような音がして、大統領府で銃撃戦が始まったことを窺わせた。
〈あの子はわたしが見つけなければ!〉
 一時でも友の存在を忘れた罪の意識に急かされ、この事態においても危険を危険と感じる自制心は微塵も働かなかった。
 それにしても平日のこの時間、歩く人影が全くない。早くも軍が政権を掌握し、外出禁止令が発布されたかのような異様な静けさ――。
 突然、強風が吹いて木の葉が大きく舞った。
 いつもは人波であふれるバザールにも人の気配はなく、潰れたトマトやバナナが無惨に転がっていて、不吉な予感を高めた。
 見上げる空を白い鳩が飛び交っている。
 マポーチョ川沿いの緑地帯の一部が目に入り、川と並行した道をリッチの店へ急いだ。
〈マルガリータ……〉
 店の名が意中の人に由来するのかどうか、遂に聞きそびれたことを後悔しながら走った。
 横丁の路地を曲がりかけてあわてて足を止めた。背中を屈めて恐る恐る向こうを窺った。
 酒場の前にはジープが停まり、制服の外套をピシッと着込んだカラビネーロスが、自動小銃を肩から吊して全開されたシャッターの間を往き来していた。
〈ジェームスとブランカになんの容疑が!?〉
 思わず後ずさりしたところ肩を叩かれ、「あっ」と声を上げるところだった。
「あなたは……」
 相手はジェームスの因縁話を聞かせてくれた、いつかの夜の客だった。
「30分も前からあんなだよ」と眉をひそめた。
「ジェームスは」
「分からん。それよりあんたが危ない。外国人はアジェンデ派と通じ、武装蜂起して内乱を画策する不逞のヤカラという悪宣伝で軍も血眼だ」
 ドーン!
 モネダ宮の方角から腹に響く砲声が轟いた。
 さっきまで聞こえていたオモチャの花火のような音も爆竹音に変わり、銃声が近づいた証拠でもある。
「とにかくここは危険だ。わたしの家に――」
 そう言って、すぐ近くの電器店を兼ねた自宅に案内した。
 ショーケースの一角でラジオが鳴っていた。
 アナウンサーが緊迫の情況を刻々伝えた。
[5分前、最後のマルクス主義放送局、ラジオ・マガジャネスが放送を中止し、今回蜂起を遂行した軍事評議会によって遂に沈黙させられた。これに対し、大統領はなんらかの声明か降伏を宣言するしかない]
 別の声が応ずる。
[だが、現時点で大統領が退陣を公示する手段は、もはやなにもないのではないか]
[ない。まったくない]
 冷徹な調子が軍放送網であることを雄弁に物語っていた。
 また、ドーン……という轟音。今度の砲声はガラス戸を震わせて耳に大きく響いた。
「長距離砲だ。川の上手から聞こえた」
 店主が説明に振り仰いだところに、いつ来たのか細君とおぼしき女性が、エプロンの端を摘んだまま呆然と立ちすくんでいた。
 ラジオは、雑音混じりにラウドスピーカーから流れる降伏勧告を伝えた。
[モネダ宮は11時までに明け渡さねばならない。さもなければ、チリ空軍と地上部隊による仮借ない攻撃を受けることになろう。
 労働者は職場にとどまるよう。何人も職場離脱は許されない。命令を無視する者は空陸の部隊から攻撃され、殲滅される]
 大変な事態になった。
 細君の純子を見る視線に、敵意すらただよっているようだ。この家に厄介をかけてはならないという遠慮のほか、反対に密告される可能性も考慮に入れなければならなくなった。
「お邪魔しました」
 きびすを返した時、店主がなにか言おうとしたが、それを振り切って外へ出た。
 出るやいなや足の向くまま電気店を後にした。
 ひときわ大きな砲声――こんどは断続的に轟き渡り、クーデターは本格化したようだった。近所の家の軒下の締め切った窓を通して、軍放送局による実況が続いた。
[……警告は言い渡された。このような情況のもと、軍命令に従わないことは自殺を意味する。9月11日の、このような厳格な声明に反抗することができたのは、ただ自殺者だけだった]
[11時まで、まだ7分あります]
[この時点、この軍務を遂行すべき軍用機が基地で準備をととのえたに違いないということを意味する……]
 やがて東の方角から、軍用機とおぼしき爆音が近づいた。





戒 厳


「ホーカー・ハンターだ!」
 アパートの2階、3階の窓から身を乗り出して叫んでいる。
 爆音――
 曇天に変わった空に4機、機影を鈍くきらめかせて迫る戦闘機。とっさに攻撃対象のモネダ宮がおなじ方角にあるものと思い、純子は旅行バッグを大事に抱えて大通りへと駆け出した。
 閑散としていた路地とは一変、大通りではなにかから逃げまどう人々の姿が目立った。
〈なんだろう〉と振り返った時、飛来する攻撃機の降下角度にぎょっとなった。
「俺たちを爆撃する気か!?」
「ほんとだ、こっちに向かってくる!」
 走りながら見上げて口々に叫んでいる。
 戦闘機は超低空で迫り、4機のうち1機が編隊を離れて、こともあろうに純子たちのいるこの通りを目指しているのだった。
 キィーン……
 神経を逆撫でする独特の金属音――怪鳥のような唸り声を発して頭上すれすれで通過し、飛び去る刹那に凄まじい連続速射音が響いた。
 機銃が放たれた先で悲鳴が起きた。
〈うそ!?〉と、我が目を疑った。
 純子の真っ白な頭のなかで一瞬見た残像がくっきり焼きついていた。翼下に燃料タンクを搭載した戦闘機の大きさもだが、パイロットの顔まで見えた近さが信じられなかった。
「また来るわ!」と切羽詰まった金切り声。
「伏せろ、みんな伏せろ!」
 気丈にリードして、うろたえる女性の肩を支える男性もいた。
 純子も反射的に身を伏せた。転がって転がって道路の端まで行くと両手で耳を塞ぎ、ミノムシのように縮こまってひたすら固くなった。
 急降下音と銃撃音が同時に頭上を通過した。
 ドーン、ドーン……
 先に通過した攻撃機からのロケット弾攻撃とおぼしき爆発音がモネダの方角から聞こえ、地響きが固い路面を通してもろに腹に響いた。
 立ち上がろうとしたが、足がもつれて立てなかった。誰かに助けられたようでもあり、自力で持ちなおしたようでもあるが、ただ、全身に激しい震えが走り、肩で呼吸していた。
「なにをしている!」
「こんなところにいると殺されるぞ!」
 耳に響く怒鳴り声。
 突然、肩を突き飛ばされて我に返り、激しくダッシュした。逃げまどう人々の流れに逆らうことなど出来ず、同方向に尾いて走るのが精一杯だった。
 ダダダダッ、と銃撃音がしたが、こんどのは戦闘機からのものではなかった。
 また、グウウーン、という飛行機の旋回音が聞こえ、空爆と機銃掃射を予感したが、伏せることは考えず、全力疾走に専念した。
〈死ぬなら死ね!〉と思った。
 また、飛行機の降下音。それが耳元に迫って、さすがにこの時ばかりは背筋を恐怖感に貫かれ、運を天に、神よ仏と念じていた。
 ギュウウウーン……と通過音が尾を引いて上をよぎり、風圧に髪が激しくなびいたが、機銃音はかなり前方から耳に届いた。
〈助かった!〉
 安堵した時、バシャッと水溜まりを踏んで、しぶきが飛ぶのも感じた。「雨降りでもないのに何故?」という疑問。だが、そんなものはすぐに消し飛んだ。
「装甲車だ!」
「逃げろっ!」
 萎縮した身体に冷水を浴びせられたような新たな戦慄と恐怖。「逃げたらかえって危険だ」という選択肢は浮かばず、集団心理に引きずられて足が止まることはなかった。
 銃声が散発的に響いても走り続けた。
 逃げている間も大統領宮殿を叩いていると思われる爆撃音は一定間隔で続き、攻撃が洗練された正確なものであることを窺わせた。
 バーン、バーンと、威嚇発砲音が空に向けて響いた。
 なにげなく横を向いた時、2台の軍用車両が猛スピードで走り抜け、目指す目抜き通りの四つ角でハの字に停車した。
 拡声器から警告が放たれた。
「止まれ。動く者は誰であっても撃つ!」
 有無をいわさぬ凛とした宣告がエコーを利かせて響き渡った。
 気がついたら純子は人々の先頭だった。命令にびっくりして足を止めた先に、重機関銃を搭載した装甲車とジープが頑として立ちはだかっていた。
 ジープから下士官が降り立った。
「みんな壁のまえに並べ!」
 銃口に脅され、純子から順に建物のまえに横一列に立たされた。
 心臓が激しく動悸を打った。
 壁に両手をついて両脚を少し開き加減に立たされ、ボディチェックが始まった。胸や腰をさすられ、ブラウスやスカートのポケットを裏返され、髪の毛や耳の穴まで探られた。
 一通り調べが済んで、また前を向かされた。
 責任者らしい下士官が近づいた。
 ニタニタ笑いながら部下を押しのけ、純子の頭から爪先まで眺め下ろした。
「どこから来た」
「ハポン(日本)、ハポネス(日本人です)」
 そう答えた時、相手の目が光って、〈しまった〉と思った。流暢なスペイン語が、この男の猜疑心にかえって火を付けたと思い込んだ。
「パサポルテ(パスポート)」
 いわれる同時くらいに、手は地面に落とした旅行用バックに伸びていた。
「ただの旅行者です。日本大使館に出国の手続きに行くところだったんです」
 下士官はパスポートを一瞥しただけですぐ返した。
「どうかな? 中国かも知れん、朝鮮かも分からん」
 そう訝って穴が開くほど見つめていたが、その目が下を向き、小銃の先がタイトスカートのセミロングの裾をこじ上げた。
 自然と目が行って、ハッとしてゾッとなった。
 今朝、出がけに履いたスカートの裾、自慢の花柄部分がべっとりと血で濡れていた。当然、パンプスも酷く汚れていた。追われる途中踏んだのは血溜まりだったのだ。
 それから先は悪夢だった。呆然と見わたす街のあちこち修羅場だった。
 兵士が射的でもするかのように逃げまどう市民を撃つ横で、壁のまえに並ばされた市民が兵士の一斉射撃でバタバタとなぎ倒される。舗道に投げ出された重傷の怪我人を、別の市民が寄ってたかって棒で叩いてとどめを差す場面――。
〈アジェンデ派が反アジェンデ派により、軍民一体となって、ここぞとばかり無惨に粛正されている……!〉
 人の命がまったく価値観をともなわぬ非現実感に、この世の地獄を見る思いだった。
「まず、お前」
「その次は、お前だ」
 壁に並ばされた者のうち、女性だけ選ばれ、指差された順に列から除外されたが、純子は無視された。
 一瞬には歳のせいかと早合点したが、除外された2人はいずれもパンタロン履きだった。兵士の1人が女の肩を捕まえ、別の1人がナイフを抜いて挑みかかった。
「これからは女のズボンは厳禁だ!」
 そう言って前に屈んだ兵隊が、パンタロンの腿の部分を器用に切り裂き、たちまち膝から下が露出された。
 次いでヒッピー男が指差された。長髪の若者ばかり4、5人、列から弾かれ、こっちはハサミをかまえて迫られた。
「男のクセに女みたいな頭をするな!」
「よせっ、やめろっ」
 最初の若者は果敢に抵抗し、銃床でしこたま小突かれ、凄い呻き声を発してうずくまった。
 火災を起こした民家もあり、あちこちで煙も上がっていた。
 通りでは銃声に混じってガラス戸の割れる音もして、兵隊たちによるアパートローラー作戦も展開されていた。
 その一隊が純子からも丸見えの、目抜き通りの角に建つ古びたアパートを取り囲んだ。
 兵士がドアを開けたところ、管理人とおぼしき初老の男性が出て応対した。二言三言交わし、突然、別の兵士の銃口が火を噴き、「あっ」と思う間に管理人は胸を押さえて倒れ込んだ。
 その直後、玄関からも裏からも一斉に兵士がなだれ込み、1階、2階で激しく物が砕け合う音、悲鳴や怒号や銃声までが響いて、見ているこちらがドキドキするくらいだった。
「MIRが隠れているとの通報を受けた。抵抗するな。抵抗する者は全員射殺する!」
 拡声器での警告。やがて兵士に引っ立てられた若者が玄関から、外階段を通って降り、また裏の非常口からと次々姿を現わした。
「手を頭の後ろで組ませろ!」
 どこかの大学の男子学生寮だろうか。いずれも二十歳前後という若者が両手を頭の後ろで組まされ、次々と連行された。
 最後に奥から出てきた学生に、周囲の目が一斉に惹きつけられた。
 異様に怯えた顔、目は敵意に燃えているようでぎらぎらし、命令に逆らい両手を下げたままという態度が大胆に見え、若い新兵をかえってたじろがせたほどだった。
「さっさと命令に服させろ。変なそぶりを見せたらかまわん、撃ち殺せ!」
 下士官の苛立つ指示が若い兵士を元気づけた。
 再度「撃つぞ!」と銃口の先を振った。
 相手は動物が唸るような声を上げ、降ろした手をぶるぶる震わせた。その右手がポケットに伸びた、と、純子にも誰の目にもそう見えた時――。
「ミゲルーっ!」と、必死に名を呼びながら駆けつける女性の到着が数歩遅かった。
 兵士のマシンガンが火を噴いて、若者の身体が弾け飛んだ。
 人垣から飛び出した純子と同世代くらいの女性。それがボロ屑のように横たわる我が子を抱き起こし、狂ったように泣き喚いた。
「貴様はパルチザンの母親か!?」
 誰何する兵士を爛々とした眼で睨み返した。
「この子のどこがパルチザン!? 言葉もろくに喋れぬこんな身で、なぜ撃たれねばならないの!」
 哀れな母親の抗弁は虚しく響くばかりだった。
「不具の息子なら親がしっかり付いておらんでどうするか!」
 下士官は非情な物言いで吐き捨てた。そのままでは母親まで撃たれかねない。そう思った時、見物の人垣を割って知人が歩み出た。
 哀れな母親は一心に慰められ、説得され、子の亡骸と共に虚しく退散するしかなかった。
 目のまえのジープでは、別の下士官が無線を受けた。
「……こっちには車は回せん? まだ、過激派が潜伏してる恐れがあるって? 分かった」
 そのあと二言三言受けて無線を切った。
「よーし。この先の角まで移動だ」
 ジープの先導で、軍が“テロリスト容疑者”と決めつけ、拘束した人々――その中にはたった今拘束した学生も含まれるが、それらをはじめとして純子ら旅行者も連行された。
 その頃には硝煙の臭いが鼻を衝いた。
 路地をいくつか越える途中、広い道路のあちこちに死体が点々と転がり、骸(むくろ)にはそれぞれ新聞紙が掛けられていた。
 また、ブロック塀の前に横たわる死体は身体をくの字に、頭から血を流したり、地面に伏した胸から下を血だまりにしていた。
 家々の窓には軍への忠誠を示して、左上の青地に星一つ、右が白、下は赤というチリ国旗がおりからの微風にはためいていた。
 移送の車を待つ間、気まぐれに点けたラジオからは大統領府攻撃の続報が伝えられた。
[モネダ宮殿は、まだ激しい砲爆撃を受けている。大統領執務室から濃い煙が……市の南部全体が猛煙に包まれています。
 通りは空っぽです。空は曇っている。どんよりとした9月11日火曜日の午後です。
 可哀想に……。大聖堂の鳩が行き場を失って虚しく羽ばたいています。あ、また、飛行機が近づいて来ている]
 爆音に混じってラウドスピーカーからの声。
[軍事評議会は住民に対し、以下の諸点について注意を喚起した。
 第一に、トマス・モロの由緒ある大統領私邸は空から爆撃せざるを得なかった。反乱分子が軍と国家警察に対し抵抗したからである。
 第二に、現時点以降、何人たりとも街頭での集合、往来は軍によって無条件に禁止される。この命令はチリ全軍と国家警察隊最高司令官諸閣下によって署名されている]
 また別のアナウンサーの声。
[パルチザンたちが今、不意討ちを食らって思い知らされた。彼らには、ここ犯行現場において即決裁判が下されるだろう。あ、今、処刑された。現在、午後1時4分前――]
 実況の声に銃撃音がかぶさる。
 ラジオを聞く兵隊たちが、威勢のいい実況内容には手を叩いてはしゃぎ、その際には近くの民家やアパートの開け放たれた窓からも、同じ調子でどよめき声が溢れ出した。
〈人が死んでいるというのに……!〉
 純子はその愚劣、冷酷にへどが出る思いだった。
[激しい銃撃戦の向こうに、市の上空を北に流れる猛煙が見えます。サン・クリストバルの丘はほとんど見えない。爆撃され、火を噴いたモネダ宮からの猛煙のため、丘は見えなくなっています……]
 茫乎とした目で、黒く靄っているモネダ宮殿のあたりの空を見上げた。
〈アジェンデが死んだ!〉
 純子もまた、それを直感した。チリのひとつの歴史が終わった瞬間でもあった。
 軍歌が流れ、そこへ爆裂音がダブった。
[共産党本部の捜索で銃撃戦に発展しました]
 アナウンサーの解説で一時シーンとなったが、
[2時約8分前――
 民間人数人が、共産党本部から連行……]との報告が入ると一斉に湧き立った。通りにも民家の軒先も、どよめきが溢れ渡った。
〈調べられることはなにもないし、喋ることはなにもない〉
 無理にでも自分にそう言い聞かせていた。
 ラジオは鳴り続けている。
[2時5分前。男21人、女3人の民間人が共産党本部から連行されたという情報が伝えられています]
 民家の軒先から黄色い喚声。それに、ラジオから流れるヘリコプターの爆音がダブった。
 アナウンサーが緊迫の情況を伝える。
[ただいまヘリコプターが1機、市の中心部上空をパトロール飛行し始めたとのことです]
 別の声が引き継いだ。
[ここに命令第10号を読み上げる。
 以下氏名の者は本日1973年9月11日、16時30分までに自発的に国防省まで出頭すること。さもなくば軍事評議会の命令を拒否した者とみなす。その結果どうなるかは明らかであろう。
 カルメン・グロリア・アグアヨ、カルロス・アルタミラーノ・オレゴ、クロドミロ・アルメイダ、ラウラ・アジェンデ・ゴセンス、ホルヘ・アラーテ……]
 エンジン音が近づき、通りの向こうから軽トラック2台と大型マイクロバスの姿が見えた。
 いきなり純子は兵士に腕を掴まれ、左右から取り囲まれて後ろ手に縛られた。
「なにをするのっ!?」
「黙れ! “赤”の手先が……」
 有無をいわさず他の旅行者と峻別され、学生はじめ軍がテロリスト容疑者と目した人々と一緒くたにされ、トラックに向かわされた。
「さあ乗れ! 愚図愚図するなっ!」
 銃口に脅され、怒鳴られながら、拘束された人々が次々にトラックの荷台に押し込められた。
 家畜か物扱いに人を鮨詰め満載させたトラックが、ジープと装甲車に先導されて走り出した。





尋 問


 トラックの荷台に転がされた純子の耳に聞き慣れたアナウンス。カーラジオがいまだ延々と流すのは、軍への出頭者名簿の読み上げである。
[ホワン・ガルセス、フワン・イバニェス、ホルヘ・インサンス……]
 一言も聞き逃すまいと耳をそばだてた。
〈ジェームス・リッチ、マリア・ロハス……そういえばブランカのフルネームは?〉
 マリオ・パレストロ・ロハスという名を聞き違えたこと、ロハス姓が3人たて続けに出て面食らったこと。また、マリアは後に言いにくい姓が続くたった一つしかなかった。
 ジェームス・リッチは出てこなかった。
 なによりも、かんじん要のブランカの姓を確かめておかなかった迂闊を悔いた。
「あれはシャーマン戦車じゃないか」
「いよいよ地獄の一丁目だぜ」
 ひそひそ声に、精一杯上体を浮かした。
 キャタピラを擁す“動く砲塔”がどっしり陣取るそばに、豪壮な外壁――それだけ見ても巨大な競技場のようだが、そこがマリアに案内された収容人員8万人の国立サンチャゴ・スタジアムかどうかは判断つきかねた。
 車がすーっと屋内に吸い込まれるやいなや、たちまち目の前が暗くなった。
 荷台の扉が開けられ、また銃口を突きつけられてトラックから降ろされる時には、純子の胸を絶望感がひしひしと浸した。
 気がついたら廊下の途中の一時監禁室、元々の表札は選手用ロッカー室の一つだった。
「入ってろ」
 縄を解かれ、乱暴に押しやられた。
 30人ばかりの人々が膝を抱えて座り込み、大勢の男たちに混じって女もいた。純子は女性のいるところを探して割り込んだ。
 20代後半くらいの綺麗な白人が笑顔で迎えてくれた。その安心から、
「あなたもアジェンデ派?……」
 うっかり訊いてしまい、慌てて口をつぐんだ。
「いいのよ。アジトを急襲されて、もう言い逃れなんかできっこないんだから」
「で、お仲間は?」と、つい、また尋ねた。
「全員射殺されたわ」
 ぼそっと答え、その時ばかりはひどく沈鬱な表情でうなだれた。
「ゴメンナサイ……ほんとにゴメンナサイ!」
 何度も何度も頭を下げた。だが、それさえ意に介さず、
「ちょっと待って」と、Gパンのポッケから出したハンカチをツバキで湿らせ、
「変な病気持ってないからね」
 そんな冗談まで言って、額をゴシゴシこすり始めるのだった。
「あ、もしかして……」
「さあ、これであなたもいい女」
 笑ってハンカチを丸めた時、ドアが開いて兵隊が呼びに来た。
「マリア・アルベルディ、出ろ」
 すっくと立ったのは、たった今、親切にしてくれた彼女ではないか。
 呆っ気に取られて見上げる純子。目のまえの形の良いお尻が、つと反転した。
〈ムーチョ・アニーモ!(頑張って)〉
 振り向いた口の動きが確かにそう語り、ウインクをしてドアの向こうに消えた。
 背中を感動が貫いた。
〈自分がどうなるかも分からないのに――!〉
 地獄で天使に会った気がした。マリアという名前だったことも因縁めいて感じられた。
 それからも一人、また一人と迎えに来たが、純子だけは呼ばれずに時が過ぎた。
 ドーン、ダダダダ……
 出し抜けに轟く激しい銃撃音に肝を潰した。壁の裏か、すぐ近くでの処刑か――そんなことが何回か繰り返され、神経が掻き乱されて頭がおかしくなりそうだった。
 銃声の後では必ずバケツで水をぶちまける音がして、隅っこの方で「血を洗い流してるんだ」と囁く声も聞こえた。
〈あの気丈なマリアや、その他の人がたはどうなったのだろう……〉
 想像されるのは不吉なこと以外なかった。
 バーンと扉が開いた。
「おまえだ!」
 いよいよ純子が呼ばれた。
 今度、連れて行かれたのは化粧室だった。
 戸を開けたとたん怒鳴り声――。
「この“赤”の売女がぁーっ!」
 烈しい平手を張られ、若い女性が椅子ごと床に飛ばされた。転がったところを、兵隊が小銃を振り上げ、銃床部分を女の腹に打ちつけた。
「いや、お腹はやめてっ!」
 必死に身体を縮めてその部分を庇う女性。
「う、ううーっ」
 やがてガックリと首を垂れた。
 2人がかりで引っ立てられ、両方から支えられ、引きずられるようにして運ばれて行った。
 ドキドキ見守る純子の目の前でバタンと扉が閉まった。
 椅子が起こされ、着席を命じられた。
 あらためて見回せば、どこが化粧室かと見まごうばかりだ。学校の保健室で見るような衝立によるボロ隠し効果により、そこは正しく尋問室と呼ぶに相応しかった。
 その威圧感に対して必死に抗した。
「ポルファ・ボール、テレホーネ、ハポネス・エンバセダー!(お願い、日本大使館に電話して!)」
 懸命の説得は「黙れ!」の一言で一蹴された。
 尋問が開始された。
「チリに入国したのは?」
「今年の7月26日です」
「これまでマルクス主義関連の文献を読んだり、チリに持ち込んだりしたことは?」
「ありません」
「これまでにチェ・ゲバラや毛沢東に関する本を読んだりチリへ持ち込んだりしたことは?」
「ありません。日本にいた時でさえ、新聞の政治欄など興味なかったくらいです」
 押収されたバッグにだってそれ関連の物は何一つない。敢えてといえばブランカらと交わした政治的会話で、それは頭の中にしか存在しない。それさえ強引に穿るというなら話は別だが。
 不意の来訪者で尋問が中断された。
 兵士が2人――うち1人は二の腕に星条旗マークを付け、軍服の色もチリ軍のとは違った。それが衝立の奥に引っ込み、出て来た時はコードをばらけた四角い装置を持っていた。
 米軍服がチリ軍服にあれこれ指図した。
 チリ軍人がコードを電源に、装置のスイッチをひねり、コードの先を触れ合わせた。バチッと音がして物凄い火花が散った。そこまでを見せ、2人の軍人は装置を抱えて出ていった。
 純子の胸のドキドキは最高潮に高まっていた。
「ジェームス・リッチと彼の店を知ってるな?」
〈そら来た〉と思った。だが、下手な隠し立てはかえって怪しませる。
「旅費を稼ぐため何日か働かせてもらいました」
「それだけか?」
「リッチさんがどうかしたので?」
「質問してるのは俺だ!」
 怒鳴って机を叩き、ピストルを掴んで貧乏揺すりするように机をガタガタいわせた。
 銃口はこちらを向いている。安全装置はかかっているのだろうか。外れているとしたら振動で暴発することはないのか。そんなことを考えたら生きた心地もしなかった。
 尋問官は一度は撥ねつけたものの事情を明かした。
「ジェームス・リッチはビニヤ・デ・マルのカジノでアメリカ人夫婦を殺害した極悪人だ。行きがけの駄賃にメイドまで2人かっさらった」
「ええっ!?」
 純子が真底驚いたものの、「浚った(さらった)メイド」が聞いて呆れた。「救った性奴」の誤訳だろうと、下手なダ洒落を思いついて内心ほくそ笑んだりもした。
 いつかの哀れな姉妹が脳裡をよぎった。あの2人がジェームスとどんな関係があるのか。ブランカやマリアが絡んでのことか。それとも持ち前の正義感に駆られての義侠だったのか。
「どうだ、なにか思い当たることがあるか」
「いえ、仕事以外の話は何も」
 素っ気なくとぼけておいて心ではジェームスの義挙に喝采を送った。さっきのマリアに続き、2人分の勇気をもらった気になった。
 純子の中のふてぶてしさが盛り返した。
〈いっそ洗いざらいゲロしてやるか。
 学祭で軍事政権下の囚人虐待に関心を持ち、内なる被虐心を呼び醒まされ、じかに確かめに南米に来た、語学もそのための猛勉強、そう告白したらこいつらどんな顔するだろう〉
 捨て鉢に椅子から立ちかけた時、またノックして兵隊が1人入ってきた。
「はっ」と尋問官が居ずまいを正して敬礼した。
「この女なら俺がもらい請けるぞ」
 そう断って、純子には「立て」と命令した。
 その時には純子は腹をくくっていた。下士官に尾いて出かかったところ肩を掴まれた。
「え?」
「トイレに行きたくはないか?」
 朝から混乱続きで、実はずっと我慢していたが相手の手前いったんは警戒の目を向ける。
「安心しろ。そんなつもりじゃない。これからまた長くなるからだ」
 言うが速いか衝立の向こうに飛び込んだ。便座にまたがると見栄も警戒心もどこかに忘れて放尿音を響かせた。
 手洗いの横に荷物が乱雑に置かれ、〈この中にも拷問道具があるのだろうか〉と無意識に一瞥したが、ケースの横に隠れて奇妙な棒状の物が落ちていた。
〈なんだろう?〉とは思ったが、バラ線――先端に鉄条網を巻きつけた警棒を、まだこの時は拷問具の一種とは考えなかった。
 一緒に部屋を出てすぐ、米兵はチリ人新兵から敬礼された。何か訊きたいようで、よく見ればあの戒厳下、ホールドアップできなかった障害者を射殺した兵士と同じくらい若かった。
 上官は純子を待たせて廊下の隅に行かせた。
 最初は分からなかったが、耳が馴れてくるにつれて2人の会話内容が聞き取れた。
「わたしたちが聞いたのはアジェンデ政権が外国勢力と謀り、すべての軍人を殺す計画だった。ピノチェト将軍が起こした今回の決起は、彼らの実行を阻止するためのものだったとか……」
「それに異論でも?」
「いえ。ただ、検束した連中は皆、そのような類の人間ではなかったように見受けられ……」
 そう言いかけたものの、
「テロリストの嘘の仮面になど騙されてはいかん。貴様の上官は誰だ、氏名と所属を言え!」
 突然の恫喝に遭って、若い兵士は肝を冷やして敬礼も忘れて退散した。
 入れ替わりに別の下士官が近づいた。
「彼、どうかしましたか?」
「あいつは使えんな。アリカの国境警備にでも回してしまえ」
 にべもなく吐き捨てて純子に向きなおった。
「さあ、行くぞ」
「どこへ。まだ疑いは晴れませんので?」
「あるお方の、たっての希望でな。日本人の、それも大人の女がご所望らしいのだ」
 そう言ってニヤニヤ笑うばかりだった。
 2つ、3つと通り過ぎ、4つ目のロッカー室の前に来た。銃を構えた兵士が2人立っていた。扉に赤いテープでチェックマークがある、ということはここだけ“特別”ということか。
 拳で大きくノックする。隙間ができて顔が覗いた。
「どうした」
 下士官が歩み出て自分から告げた。
「俺だ。“ブツ”を届けに来た」
 そう答えたらチェーンが外れ、ドアが中から大きく開いた。




絶 叫


 バタンと後ろでドアが閉まった。
 ロッカーケースが並ぶ前にカーテンの衝立。その向こうから突然、
「ギャアアアーッ!」
 耳をつんざく絶叫――。
 びっくりして立ちすくむ純子が衝立の先を覗き込んだ。
 絶叫は数秒で収まり、部屋の中ほどにマットを取り払った骨組みだけのベッド、それに乗せられた全裸の女性。目隠しされ、乳房と生殖器部に電気のコードを付けられていた。
 大の字の身体が、また大きくのけぞった。
「ヒギャアアアーッ!」
 伸びきった四肢を痙攣させて絶叫した。
 片側に、椅子に載せた拷問装置を操作する尋問官と6、7人の兵士。その反対側では拷問を見物させられる4人の女性たち。
 豊かな胸から、やや、ぽってりした腹部にかけて汗で光らせ、乳首から垂れた電線が苦悶に合わせてブルブル震えた。コードは陰毛を湛えた股間からも伸びている。
 純子が、見物する囚人の5人目に加えられた。
〈あっ、この人は!〉と思い当たった。
 取調室での初期段階、床に転がされ、腹を銃床で小突かれていたあの女性だった。お腹の膨らみ具合から妊娠3か月くらいの身であろうことが、今、間近で見てしかと確認された。
 尋問に当たる係官は、取調室に電気拷問装置を取りに来た2人のうちの、米軍人の方だった。軍服の二の腕に星条旗マークがあった。
 その男が汗びっしょりの頭を掴んで揺すった。
「どうだ、まだ喋らんか」
「赤ちゃんは、赤ちゃんだけは……」
 妊婦は、それだけをうわごとのように繰り返した。
 スイッチが入れられた。
「ひええーっ!」
 激しい痙攣と絶叫。
 痙攣と連動して開かれた内腿に著しいひきつれを生じ、失禁したのか微かに尿の臭いもしていた。
 通電、絶叫、悶絶。そして停止。
 また通電しては絶叫。その叫びは横で聞いているだけでも肝が冷えるほど凄まじい断末魔の叫びだった。
 通電と停止の間隔は気まぐれに、目隠し効果で相手をビクビクさせて愉しんでいるのだった。
 哀れな犠牲者がガックリ首を垂れた。
「も、もうやめて……」
「まったく強情な、というより薄情な母親だ。腹の子が可哀想と思わんか。ほら、ほーら」
 そう言って、またスイッチを操作した。
「ぎええーっ!」
 ガチャガチャと操作し、次にはダイヤルをひねったら、絶叫がキチガイじみて響き渡った。
 純子もそうだが、次に自分の番が来るかも知れない他の女たちも胸が潰れる思いのはずだ。
「さあ、言え。アジトはどこだ。リーダーは誰だ。仲間は誰と誰だ」
 尋問が繰り返され、ダイヤルが上げられた。
「ぐえええーっ!!」
 髪の毛が逆立ち、四肢の筋がぶち切れるくらい浮き立った。
 スイッチが切られ、全身がガックリと力を失った。汗びっしょりの身体から激しい喘ぎが洩れ、乳房が大きく息づいた。
 やっと終わった。
 コードを1つ、2つと外され、これで解放されると思った妊婦が安堵の吐息をついた。
 ベルトが解かれ、目隠しもひっぱがされ、ぐったりとした身体を兵士が2人がかりで運び、部屋の隅のソファーに乱暴に投げ出した。
 尋問官が瓶コーラを一気呑みした。ゴクゴク音をさせて美味そうに飲み干し、その空瓶を振って、
「次、おまえ」
 2人目に差されたのは二十歳前後の混血女性だった。
 キッと係官をにらみ返し、すかさず左鉄拳が腹にめり込んだ。「うーっ」と激しく呻いて床にうずくまる女性。
「俺を甘く見たな」
 拷問担当の下士官が部下に目くばせした。
 床にへばったきり、まだ苦しそうに腹を押さえている彼女は引っ立てられた。「脱げっ」と背中をぶっ叩かれながら命じられた。
 目を爛々とさせて自棄気味にセーターを脱ぎ、ブラジャーを外してこれも投げ捨てた。
 パンティごとGパンを脱ぎ、靴下まで脱ぎ捨てた全裸の全身はぴちぴちとしてみずみずしい小麦色だった。
「脚を開け。ベッドに手を着いて踏ん張れ」
 言いなりになるしかない。
 後ろに手を着き、素足がしっかり床を踏んで立つ人の字の全身を尋問官は一時満足そうに眺め降ろしたが、コーラ瓶を持つ手が股間に伸びた。
〈あっ〉と純子がその部分を凝視した。
 陰毛をこじったコーラ瓶の先が、つと下がって割れ目を押し分けて入りかけた。
 口をへの字に、歯ぎしりして耐える女性がそれでも毅然として目を開けたままだった。ガラスの口が割れ目を広げて押し入り、しっかり見開く瞳の瞼が細かく痙攣した。
「ひっ。むぐうっ!」
 悲鳴を耐える気丈が声をひきつらせ、見ている女たちには痛々しく感じ取れた。逆に兵たちは嗜虐心をそそられ興奮した。
 瓶の太いところが入っていき、割れ目は大きく開かれた。
「ああっ、ひいーっ!」
 屹立した人の字が卒倒した。挿入を逃れたい本能が無意識的に爪先立ちを招き、力んだ精悍な素足の腿にも膝にもふくらはぎにも硬直の筋がぴくぴくと浮き立った。
 瓶はまだ入っていく、いや、無惨に力を込めた挿入を確実に実行していく。すぼまった部分が全部見えなくなり、コーラ瓶のいちばん太い所までが挿入され、
「うぎゃあっ、ひええっ!」
 爪先立ちした脚をぶるぶる震わせて女性はそれでも必死に耐えた。おそらく、他の内臓ごと子宮を突き上げられながら、おぞましい痛撃地獄に耐えているに違いなかった。
 ゆっくりと瓶を抜きにかかった。精一杯背伸びしていた人の字の全身が床に沈み、すっかり抜き出された時には、女性はぐったりとした。
「連れてけ、可愛いがってやれ」
 言うが早いか、床に倒れかかった女の手を引き、兵の一人が下卑た笑いを浮かべて部屋の奥の衝立の陰に引っ込んだ。
 残り4人。だが、ドキドキする思いの純子を無視し、尋問官はハタで見ているのも哀れな程におどおどしている少女に目を付けた。
 身長は150センチあるかないか、どこから見ても10代の色白美少女に白羽の矢が立った。
「おまえだ」
 指差された小柄な全身がビクンと反応した。
「脱げ。裸になれ」
 命令された瞬間、唇が激しく震えた。
 ブラウスを脱ぎ、スカートを脱ぎ、床に重ねていった。下着になってからは泣きそうになり、ぎこちなくブラジャーとパンティを脱ぐと、最後に靴下を脱いだ。
「歳はいくつだ」
「16、です」
 消え入りそうに答えた。
「じっとしてろ」と命じ、手が股間に伸びた。
「お、お許しをーっ!」
 逃げようとするのを部下たちが手を掴み、足を押さえ、身動きできなくなったと見るや尋問官の指が乱暴に膣にねじ込まれた。
「痛いーっ、いやあーっ!」
 首を振って悶える泣き顔を愉しみ愉しみ、たっぷりと中をなぶった指が出された。明かりにかざした人差し指と中指の第二関節まで、血に濡れてぬらぬらと光っていた。
「子どものクセに“赤”にかぶれるとはな」
 部下のチリ兵からハンケチで指を拭かれながら、この機会にとばかり講釈を垂れた。
「いいか、よく憶えておけよ。危険思想の排除も害虫駆除と一緒でな、農薬散布は新芽のうちから徹底しないと効果がないのだ」
 若いチリ兵が興味津々、目を丸くした。
「クソったれ“赤坊主”アジェンデ政権下では、こんなガキの逮捕権は認められなかったよな」
 20代そこそこに見えるチリ兵が笑いながら相づちを打った。
「まあ、楽しみにしていろ。2、3か月後には最高裁から未成年者の逮捕、投獄権が与えられるはずだ。それからは好きに料理できるぞ」
 愚劣な願望に裏打ちされた極秘情報に、居並ぶチリ兵から一斉に下卑た笑いが洩れた。
「さて、この娘にも薬剤散布をほどこすか」
 そう言って何事か耳打ちされた部下が肘掛け椅子を運んできた。
「よし、ここにくくりつけろ」
 少女は後ろ手に縛られ、股間を丸見えに逆さに抱えられ椅子に乗せられた。背もたれ部分に腰をもたせかけ、バンザイさせられた脚の膝部分は肘掛けに固定された。
 立って見下ろす位置に性器と肛門がまるで無防備にさらされ、開いた脚は下に向かって翼を拡げたように伸びきった。
「ゆ、許して……」
 羞恥の泣き顔、さらには無惨な開脚ポーズで身も世もない有り様の少女。
 器具など載せたトレイが運ばれ、床に置かれた。スポイトとガラス管を立てたビーカー、薬品瓶。アヒル口の内視鏡は少女の体型とは不釣り合いに大きく、それゆえ酷く見えた。
 尋問官の米兵が口上を述べた。
「農薬の代わりに濃塩酸を用意した。硫酸とまでは行かないが消毒には十分。ただし、この際には処女膜ごと焼いてしまうことになるが……」
 その口上に、またまた周囲がどよめいた。
 少女は目を剥いた。
「いやああーっ!」
 狂ったように暴れ、椅子をギシギシいわせた。
 内視鏡が取られた。
 部下から広口瓶が差し出され、それにアヒル口の先が浸けられた。それが出された時は、挿入部分が潤滑液で十分ぬるぬるにされていた。
 そうして医具の先が割れ目をこじった。たらりと垂れた余分な粘液をピンクの秘唇になすりつけ、まんべんなく周囲に塗りこめた。
「いや、怖い……!」
 アヒル口が上から下に向けて差し込まれ、医具に押し割られる処女性器。ピンクの秘唇がゆっくりゆっくり開かれていく。
「痛い。痛いです、やめて!」
 半分から先は一気挿入された。
「いやああーっ!」
 顔中苦痛の皺を刻み、目を見開いて泣き叫ぶ少女。
「焼き切る前に処女膜は裂けちゃったよ」
 面白がって上から医具で開かれた淫肉の洞窟を覗き込み、部下たちにもうながした。2人、3人、代わる代わる覗き見た。
「ほら、おまえも見ろ」と、純子が耳を引っぱられて無理矢理観察させられた。
 アヒル口の先が大きく開かれた。ペンライトが当てられ、明かりに照らされた秘奥部にもっこりと子宮口、だが、そこは血塗られてぬらぬらしていた。
 部下にトレイを持たせ、劇薬指定の瓶の蓋を開けてスポイトに液をたっぷり吸い込んだ。
「“赤”などにかぶれた罰だ」
 そう言って、真っ直ぐ下に向けたスポイトから液をしたたり落とした。
 性器越しに見える少女の顔が驚愕の表情になり、目が飛び出る程に見開かれた。
「ギャアアアアーッ!」
 断末魔の絶叫。
 異臭が純子の鼻を衝いた。医具で開かれた底から白煙が立ちのぼり、おぞましさに目を背けた。
「見ろ! 明日のおまえだ!」
 尋問官が頬を、顔を反転させ、煙をくゆらす少女の性器にぶつかるくらい激しく押しやった。
 そうして、
「ギャッ! ウギャアアアーッ!!……」
 ぽたぽたぽたと滴る劇薬によって少女の秘底は血にまみれながら醜く爛れていった。
「ギャアアッ、ギャッ、ギャアアアーッ!!」
 けたたましい叫び声がその場の空気を切り裂き、密室の壁を震わせるほどに続いた。
「どれ、おまえも見るか」
 純子が横にどかされ、別の囚人が引っ立てられ、異臭ただよう無惨な秘所を無理矢理覗き込まされた。
 次にガラス管が差し込まれ、管の先が膣壁に向けられ、スポイトの慎重操作で管を伝って正確に流し込まれた。
「ぎゃっ、ヒギャアアアーッ!!」
 無惨な二つ折り姿勢が、嵐の海の小舟のように大きく揺れて、ギシギシ音をたてる椅子がバラバラに壊れ散るかと思うほど大きく揺れた。
 耳を塞ぎたい思いをやっとこらえた。純子の熱い心は〈憶えておくぞ!〉との怒りを込め、復讐心を溜め込み、少女の悲惨を目を背けることなく心に刻みつけた。
「薬剤散布も、これだけやれば十分」
 汗みずくの全身、目を見開いて激しい喘ぎを洩らす少女を見下ろしながら米人尋問官がうそぶいた。
「もう一度あの腹ぼて女を連れて来い!」
 嗜虐心に取り憑かれた心は、さっき電気ショック拷問を受けた妊婦を再度呼びつけた。
 2人がかりでお産ポーズに抱え上げられ、ベッドの縦方向とは垂直に腰が突き出され、3人目の兵士は両手を頭の上で組ませた。
 傍らから手術用ゴム手袋が手渡され、手に装着した後、広口瓶が差し出された。手袋の手が突っ込まれ、拳になって出た時は潤滑液でぬるぬるに光っていた。
 尋問官が口元を歪め、薄い医療用手袋の右手が手のひらを上にして股間に突っ込まれた。
「ひえーっ!」
 妊婦がのけ反って悲鳴をあげる間、性器から生えた手首がめまぐるしく動いた。
「いやあーっ、お腹が。お腹!」
 一回転して出かかった手が拳になっていた。それが一気に突き入れられた。
「うがあーっ!」
 首を振って苦しみ悶える妊婦を歯牙にもかけず残虐なフィストファックが続けられた。だんだん速さを増し、粗暴さが際だった。
「ヘイ・ベイビー」
「淫売め、思い知れ!」
 見物のチリ兵が、ボクシング観戦のように拳を振り上げてはやし立てるなか、星条旗マークの下士官兵は嬉々として拷辱に励んだ。
「くうっ。くひーっ!」
 びっくりしたような女の悲鳴。
「うーっ!」
 目を剥いた時には苦痛の呻き。
 抜けると見るや拳がまた奥に没し、手首が生えた後にはまた拳に変わり、拳と手首が交互に開かれた局部に見え隠れした。
 その間、「うっ」とのけ反り、「ああっ」と首を振り、「ひっ」と突っ伏し、「げっ」と身をよじる妊婦の苦悶の呻きが連発された。
 飽くことなく残虐に嬉々としてフィストファックに専念する。
 ピストン運動がだんだん速まり、強さも加わって妊婦の苦痛の表情も際だった。呻くたびに首が振られた。
「壊してしまえ!」
「殺してしまえ!」
 周囲が、さらに過激に煽った。
 ヴァギナを襲うピストン連打が狂気じみた速さになった。絶えがたい呻きに合わせ、濡れそぼつ膣が開いたりすぼんだりを繰り返した。
 周囲は固唾を呑んで見守っている。
「ううーっ! あああーっ!」
 髪を振り乱して身悶える妊婦の額や背中が汗を浮かべて光った。
 やがてヴァギナに出し入れされる拳の勢いが少しずつ弱まった。速さも減衰し、妊婦の苦悶も小さくなり、のけぞりも顕著でなくなった。
 つと一瞬、手の動きが止まったかに見えた。その実、膣が食わえた手首の延長、肩まで続く腕の筋肉が隆と浮き立ち、満身の力が込められたことが見てとれた。
 妊婦の顔が驚愕地獄顔になった。
「ううああ、あわわわあーっ!」
 狂ったように泣き喚き、万力で押さえつけられたような手足の先以外が、自由の利く範囲で最大限激しく暴れた。
 何が起こったのかと思ったほどだった。
「いやああーっ! いやだああーっ!」
 髪が音を立ててざんばらに乱れ舞った。
 拳はかなりの深さにめり込みつつ腕自体がそれ以上行きようなく阻まれているはずだったが、それがずるっ、ずるずるっとなお挿入される兆しを見せた。
「ギャアアアーッ!」と耳をつんざく絶叫。
〈ディープフィスト!〉
 純子が“その道”の知識から連想したが、この場合はアヌスではない。これ以上行き場のないヴァギナなのだ、子宮を貫通しない限りは。
〈子宮を……!?〉
 尋問官の口から無気味な笑い声が起こった。背筋が寒くなるような悪意を込めた笑い。
 と、その時、ぽたぽたぽたと何かが滴る音、やがて、ぴちゃぴちゃぴちゃと滴る頻度と程度が増したことを表す音の変化。
 純子が目を剥き、嘔吐をこらえた。
 パックリ口を開け、深々と腕を食わえた膣から尋常ならざる流血――恐るべきディープフィストが子宮を貫通、破壊させて凶行されていたのであろうか!?
「赤ちゃんが……赤ちゃん……!」
 うわごとのように繰り返し、その合間にも悲鳴と叫喚。背中が精一杯のけぞった。
「ひぎゃあああーっ!!」
 その悲鳴をBGMと愉しみ、苦悶に狂喜し、醜く口元をゆがめながら、たっぷり時間をかけてひねり込み、掻き回し、えぐりまくった。
 絶叫――
 絶叫に重なってグチャグチャグチャ……
 うねるように隆起を繰り返す腹の下で残酷な音が聞こえ、床に滴る流血はまだ続いていた。
「ブエノ、ブエノ!(いいぞ、いいぞ)」
 同胞の異性の惨たらしい苦悶に興じ、やんやの喝采が送られた。
「ううーっ……!」
 一声激しく呻き、がっくりと首を垂れた。
 汗で光る顔、ローションを塗ったような全身が苦しそうに波打ったが、やがてそれも収まり死んだようになった。
 膣から腕がゆっくりと引き抜かれた。尋問官の手首から先が、どぶどろの血みどろだった。




狂 気


 ロッカーケースが壁を埋めて並ぶ部屋の奥は衝立で仕切られ、その奥に別の空間があるようだ。さっきまでここで拷問された女性が、そっちに連れて行かれ、いなくなってしまった。
 今は、無惨な子宮破壊で股間を血まみれにした虫の息の女性と純子が残るのみ。
 と、奥で異変が――。
「う、うーっ!」と激しい呻き声。その直後で鈍い音も聞こえた。
 つと上官が歩いて行き「どうした?」。二言三言ぼそぼそ言い合う声がして、また戻った。
「フェラなどさせるからだ。頭に来て頚をねじったらイチコロだったとさ。ほら、俺を睨んだ活きのいい大学院生だ」と、べらべら一方的に説明した。
〈ああ!〉と純子が唸った。気丈な彼女の顔を思い出して胸が締めつけられた。
「工科大の学生ですって?」
「ああ。あそこじゃ学生が武器で抵抗して、ずいぶんと死んだんだ。バカなガキどもさ、軍隊相手に歯向かうなど狂気の沙汰。まるで“自殺志願”だ」と吐き捨て、
「そういえば」と言いかけた。
「恋人に会いに来て流れ弾で死んだ女がいたな」
「やはり学生で?」
「いや、神学校の卒業生でノンポリ。25歳といったが歳の割には童顔。職もなくぶらぶらしてて、旅行者のガイドなどして細々食いつないでたらしい。
 名前はブランカとかブランチとか……」
 その瞬間、純子は平静を保つのがやっとだった。
〈ブランカ? マリアではないの? でも、話の中身からしてわたしが知ってるマリア・ロハスにそっくり。だとしたら、なぜブランカという名前がここで出てくるの!?〉
 自分が知る人間の2人がそっくり入れ替わっていることに驚愕した。偶然などではないと確信したが、冷静な思考を巡らす間もなく、純子は2度驚くことになる。
 奥の、衝立の陰から出てきた女性に目をみはった。
 憔悴して変わり果ててはいるが、一時監禁場所で自分に優しくしてくれた、あのマリアだった。男に脇を支えられ、歩くのもおぼつかない風で部屋の中央までやっと出てきた。
「夕方からずっとだったの?」
 上着を脱いだ上半身シャツ姿の色浅黒いチリ人兵士に、米軍下士官はそれまでの平兵士に対する態度とは違う態度で接した。
 女みたいな優男だが、全身から異様な毒気を吐いている。“やり続け”の意味も、セックスではないと純子は断じて確信した。
 そいつが憮然と、また奥に引っ込んだ。
「こんどはあのガキか。好きだの」
 白人下士官は、いなくなった相手にはぞんざいな口調になった。
 虫の息の妊婦は隅にどかされ、生々しい床の血溜まりは、バケツの水とモップで清められた。
 マリアが、きっと米兵を睨んだ。
「殺さないと言ってたのに。嘘つき!」
 敵意を込めて激しくなじった。
「貴様が喋って教えたアジトを急襲し、抵抗したから全員射殺した、それだけのことだ」
「え? 拷問に耐えきれず仲間を裏切った女ですか」
「そうだ。八つ当たりもいいとこだ!」
 にべもなく吐き捨てた。
「抵抗なんかしてない! 武器を捨てて投降したのを壁に並べて射殺したんじゃないか。嘘つき! 鬼っ! 悪魔っ! 人でなしっ!」
 悪鬼の形相で掴みかかろうとして制められた。
「やれ」と顎をしゃくる米兵。配下が2人がかりで取り押さえた。
 骨組みだけのベッド、ただ拷問目的の寝台にマリアが横たえられた。すらりとした見事なプロポーション、そばで見ている純子ですらゾクゾクする全身が真っ直ぐ伸ばされた。
 米兵が指示し、開かれた足首に、腰の横に伸ばされた手首に、別に幅広のベルト3本が腋の下、腹部を締めつけてベッドの鉄柵に結ばれた。
 円筒形の黒い鉄の塊のような装置が運ばれた。コードが数本ばらけ、主線の電源は壁のコンセントに結ばれた。
 先端が剥かれて裸電線にされたコードが性器と肛門に、これは米兵が自分で行なった。さらには電流装置の操作も自分で担当した。
 スイッチが入れられ、ダイヤルに手をかけた。
 天井を見上げたマリアの眉間がぴくぴくした。
 次に「うーっ」という呻き。
 ダイヤルがゆっくり回され、呻き声が徐々に徐々に高まり、仰向け姿勢の背中と膝の上下が、スルメが火に炙られるように反りかえるが、ベルトで阻まれて止まる。
「まだだよな」
 ニタニタしながらゆっくりとダイヤルを回していく。
「あーあ……」
 マリアが薄目を開けて眉間に皺を刻んだ。
 上下半身の反り返りの度合いが大きくなり、ベルトに阻まれた分、肌にベルトが食い込んだ。手の先が握られ、足の先が内向きに反った。
「ああ……あ、ああっ!」と切なそうに首が振られた。
「これくらいが好きなんだよな」と、ダイヤルがそこで止められた。
 声をあげ続けるマリアのベルトの下の腹部が小刻みな痙攣をくり返した。
〈なに?〉と純子。
 さっきまでとは違った拷問の様相。マリアの声にも姿にもゾクゾクする。エロスというには余りに陰惨な、しかし確かに惨たらしいだけの拷問とはまた違うなにか!
 それが10分くらいは続いた。
「どれ」と生殖器部から出たコードに触れて一すくいした。天井の明かりにかざした指の先はぬめぬめと濡れて光った。
「ヌルイ遊びはこれくらいでいいだろう」
 そう言って膣からぐっしょり濡れたコードを抜いた。肛門からも抜いて、椅子の上の円筒型の発電装置を箱状のに置き換えた。
 装置から数本のコード。
 先を剥かれた2本は開かれた足の親指に巻きつけ、別の2本は腰の横で握った拳から手首から被覆部分も含めてぐるぐる巻きし、最後にクリップ状の4本が乳首と性器に噛まされた。
「もう一度裏切ってもらうぞ」
 そう言ったらマリアが歯を食いしばった。
「組織のリーダーは誰か。射殺した仲間のほかに細胞のトップがいるはずだ」
 尋問にマリアは拒否を貫いた。気丈にかまえて、その実、顔はすっかり血の気を失い、恐怖にぶるぶる震えていた。
 ダイヤルが大きく回され、スイッチが入れられた。
「ギャアアアアーッ!」
 凄まじい絶叫と共に、拘束された全身が一瞬跳ね上がったかに見えた。身体のそこかしこに硬直の筋が浮き出て、コードを巻かれた爪先が、他の指がてんでの方向にひきつれた。
 スイッチが切られてガクンと全身が沈み込んだ。悲鳴が止んだあとには「ぜい、ぜい……」という激しい喘鳴(ぜいめい)音。
 また通電して絶叫が響いた。
「どうだ、言わんか!」
 泣き叫ぶ耳元に怒鳴りかけた。
 マリアは首を振って必死に拒否した。
「今度はしぶといな」
 業を煮やして変圧ダイヤルが回された。絶叫がより激しさを増す。
 拷問の凄まじさに興をそそられ、奥に引っ込んだ平兵士たちがぞろぞろと出てきて見物に加わった。
 ノックの音。だが、拷問に夢中で誰も気付かなかった。再度、3度繰り返し、やっとチェーンを開けて出た時は番兵から不興顔をされた。
 それが訪問者を見たとたん、背筋を伸ばした。
「あ、将軍!」
 雷に打たれたようになり、全員敬礼で迎えた。
 その後では、部屋の空気がぴりぴりと張り詰めた。
 一見して40年輩と見た。が、外人の歳は分からぬ。ただ、2メートルはあるかと思われる長身をそびやかし、猛禽の眼を光らせた女性准将が来るやいなや純子に一瞥をくれた。
「おまえか、日本人旅行者とやらは」
 顎を取って上向かせた。
〈30年輩のオバンを所望した“奇特な主”はこいつか!〉
 そう思ったものの今は切羽詰まった時、
「わたしは政治的には無関係。今すぐ釈放してください、お願いします!」
 必死の体で懇願したが、相手からは冷然と見下ろされるばかりだった。
「そのことはあとで」
 そう言って、また他の者たちにも目を向けた。
「わたしも愉しんで行きたいが首都の“掃除”が終わらぬでな。落ち着いたら戻るが、それまではこの女のお守りを頼む。良いか、このメスはわたしがツバを付けた。手を出すなよ」
 じろっと睨んでクギを刺し、純子には一瞥くれて颯爽と出て行った。
 バタンとドアが閉じられて、尋問官が振り返って純子に目を向けた。
「そういうことだ。安心して見物しておれ」
 感情を排した声で言って、またマリアの方に向きなおった。
 その手が、足が、時々痙攣をきたしていた。
「“赤”の淫売めが。汚い身体にまだ電気を残していやがる」
 それからがマリアの地獄だった。
 身体の向きがベッドと垂直にされ、下半身がベッドの外にはみ出て、だらりとした。
 両手首にロープを巻き、左右に引き伸ばして縛りつけた。次に砂袋をはさんで腰を浮かせ、観音開きを保ってベッドの鉄骨部分に膝、足首、腿の付け根をベルト固定した。
「今度は辛いぞ。最後まで耐えられるかな」
 そう脅しておいて、カエルの解剖姿勢の股間に目を落とした。
 アヒル口に開かれたヴァギナに、電極を噛ませた鉗子が1本通され、ハサミの形をした先が子宮口に突き立てられた。
「うっ」と顔をしかめるマリア。
 尋問官はドライバーを持ち、金属部分にもう一方の電極クリップを噛ませる。
 発電機のスイッチが押され、さっきとは別のダイヤルが回された。反対にさっき回したダイヤルは逆方向に回転させられた。
「女の部分をバーベキューにしてやる!」
 たっぷりと脅しつけ、指がラビアを摘み、ぬーっと秘肉を引き伸ばした。そこへドライバーの先を当てた。
「ギエエエーッ!」
 血を吐くような声が叫ばれ、その間ジジジジジ……という異様な音も装置から発せられていた。
 鼻を衝く異臭に純子は電極を当てられた部分を凝視し、そこから薄煙が立ちのぼっているのを確かめて驚愕した。
 マリアの苦悶は尋常でなかった。額に青筋を立て、関節が真っ白くなるほど固く握られた手足の先をブルブル震えさせているのだった。
 ジジジジ……ジ……ジジジィー……
 肉を焼く電流責めは中断することがなかった。それどころか、ゴムでも伸ばすように広げた陰唇を子細に眺め、少しずつところを変えて当てていった。
「ぎゃっ、うぎゃああーっ!」
 鼻を衝く異臭はますます度合いを増して、叫び声が現わす拷問の酷さ、陰惨さを加味して吐き気をもよおすほどだった。純子は足下がふらつくほどクラクラした。
「熱いだろう。辛いだろう。さあ、言ってしまえ。楽になるぞ」
 なおも尋問され、なおも首を振って拒否した。
「いやあーっ!」
 激しく首を振る喉にも、泣き叫ぶ顔にも汗が浮き出して輝きを発した。ひきつってのたうちまわる全身もローションオイルを塗りたくったようだった。
 当然、電極の一方を刺し込まれた子宮も焼けているはずで、ラビアとは別に、挿入して開いた医具の間から立ちのぼる薄煙に、純子は〈はっ〉となった。
「ウギャアアアーッ……!!」
 血を吐く絶叫は絶え間がなかった。
「1度裏切るも2度裏切るもおなじ。楽にならんか。組織のリーダーを言ってしまえ」
 冷酷に、情け容赦もなく責めは事務的に続けられ、尋問は機械的に繰り返された。
「おい」と部下を振り返った。
「タオルを噛ませろ」
 命じておいて装置を新たに操作した。
 凶器とは別の手が陰唇を剥き上げ、陰核を露出させた。いったん離したドライバーが尿道孔近くに突起する肉の核を直撃した。
「ギエエエエーッ! グギャアアアーッ!!」
 タオルを噛まされ、ガムテープで塞がれた猿轡の口が上向き、目を見開いて卒倒した後ろ頭が、ベッドの縁の鉄骨にぶち当たった。そのあと――
 ガンガンガンガンガン……!
 そのまま凄い音をさせて頭を打ちつけた。
「おい、抑えろ!」
 部下が駆け寄ったものの、電気を感じてびっくりしたように飛び退いた。
「何をしている!」
 怒鳴られ、若い兵士はあわてた。手袋を装着して、やっとマリアの頭を押さえつけた。
「舐めたマネをしやがって」
 ドライバーに力が込められた。十字の先を押しつけ押しつけ、絶叫が血を吐く叫びとなって響きわたった。
 固唾を呑んで見守る若い兵士たち――妊婦の時にはスポーツ観戦でもするように湧き立った彼らが、今は水を打ったように静まり返り、責められる秘部、局部を凝視した。
「ギヒイーッ!! ウギャギャアアーッ!!」
 純子が思わず耳を塞いだ。
 ドライバーの先が陰核を焼き潰しながら、肉を破って血を吹き出させた。たらたらたらと鮮血がしたたり、血を流しながらも傷口は煙を上げていた。
「ウオオオーッ!!」
 絶叫がケダモノの雄叫びを思わせた。
〈やめて! もうやめて!〉
 陰核から血を流し、いままた、尿道孔まで焼かれて血をしたたらせていた。
 またダイヤルが回された。
「ギヒャアアアーッ!!」
 泣き喚く絶叫は、限界以上を超えていて、苦しまぎれの全身が激しくのたうち回った。
 上半身では頭と手を押さえられた残り部分、胸から腰にかけてが蛇のようにのたくった。背中を浮かしてのたうち回り、形のいい乳房の揺れる下にあばらが甚だしく浮き立った。
「グゲエエエエーッ!!」
 血を吐く絶叫は、激しさの余り譬喩ではなくほんとに血を吐くかと思う凄惨さだった。
 観音開きされた膝から下にも腿にもふくらはぎにも浮き立つ硬直の筋。そこにも汗。ベッドの鉄骨を踏み締める足先はきつく丸まってブルブル震え、もちろんこれにも汗が光った。
「リーダーは誰か。細胞のトップは誰だ」
 尋問は続き、血にまみれた淫肉はあちこち醜く爛れ、いまでは目も当てられない有り様となっていた。
「ヒギャアアアーッ!!」
 一声叫ばせてスイッチが切られた。
 耐えきれず純子が尋問官の前に、床に手を突いて土下座した。
「お願いです! もうこれ以上は死んでしまいます! 後生一生のお願いです! 酷い尋問はやめてあげて下さい、お頼みします!」
 我が身の危険もかえりみず、とっさのことで日本語混じりに懇願していた。
「なに?」
「この人を自由に、もう楽にしてあげて……」
 涙混じりに頼んで声を詰まらせた。
「おい」と部下に命令。
 マリアはやっと拷問からも戒めからも解放された。兵隊たちに起こされ、両脇を支えられて純子のもとに運ばれた。
〈マリア!〉
 汗みずくの顔を一時見つめ、純子が両手の中に抱き締めた。
 マリアがなにか口にした。
「え?」
「こんどは……た、耐え抜けた」
 苦しい中から微笑み、純子にだけ聞こえる声でやっとつぶやいた。純子の抑えに抑えた感情が爆発し、堰を切って涙が溢れた。
 またなにか言いかけた。その口元をしっかりと見つめた。
「グラシアス(ありがとう)」――だが、その口の動きは最後まで続かずに……
 ドーン、と銃撃音。
 マリアの顔がガックリ目の前で、純子の腕の中に崩れ込んだ。手で触れた後頭部が噴水のように鮮血を噴き出した。
 びっくりして後ずさる純子――
 見上げる背後に、硝煙をくゆらす銃口と、ふてぶてしい面がまえの尋問官。
「望み通り楽にしてやったぞ」
 言うや否や拳銃をホルスターにしまった。
「ここはもう閉める。遊びは飽きた」
 そう言って米兵はきびすを返して部屋を出た。
「ま、マリア……!」
 純子の腕の中で、気丈で快活だったあのマリアがどんどん冷たくなっていった。




移 送


 また、一時監禁室に戻され、そこで丸2日留め置かれた。
 ふと、目を落とした。カルロス家を出る時着ていたお気に入りは、今は上が暗色のセーター、下が裾の短い無地のスカート、靴もパンプスからヒールとまるで違う装いに変わっていた。
 この一揃えを渡される時、兵士が言ったものだ。
「持ち主を失くした服などこれからいくらでも手に入る。気に入らねば、いつでも取っ替えてやるぞ」と。
 突如轟く間近の銃声音は聞かれなくなったが、少し遠くから一定パターンにのっとった、組織的ともいえる射撃音を耳にするようになった。
 音は彼方から聞こえ、機関銃の一斉射撃が10分か15分続き、そのあとピストルの音。少しして連続した音。また、散発的な音――。
〈競技場のトラックで処刑が行なわれてるのでは……!?〉
 純子ですらそう直感した。だが、その時には同房者から出る言葉は何もなく、ただ黙って沈鬱に運命の到来を待つばかりだった。
 食事はコチコチのパンと砂糖がわずか入ったコーヒーのみ。それさえ喉を通らぬほど、皆、差し迫った恐怖から胸を締めつけられていた。
 30人も入れば一杯のロッカー室内に100人、150人と押し込められ、最後は隙間もないほどの鮨詰め状態となった。これ以上詰め込まれたら息もできなくなるのではと怖れた時、ドアが開いて純子が呼ばれた。
「さあ、歩け」
 兵士は純子を連行し、ガレージの手前でストップをかけた。
「ここで待て」
 兵隊がその場を離れた隙に周囲を見回した。
 初めて連れて来られた時とは一変した光景、スタジアム全体が収容所と化した観もあり、あちこちに溢れ返る人の多さに驚いた。
 フロアーには拘束された人々の列がいくつも出来て、列の先頭に係が座る机と椅子が用意され、兵士がチェックリストと照らし合わせて拘束者をふるい分けた。
 選別を待つ間もなく列から弾かれ、兵士に引っ立てられる者もいた。なんだろうと思って横を見ると、兵隊と一緒になって歩く黒い頭巾の男。また、その男が別の者を指差した。
〈密告者……!〉
 純子は暗澹たる思いだった。
 少し離れた廊下には兵士に付き添われた全裸の男性。頭から血を流し、ちらっと見た顔はまるで魂の抜け殻だった。突然の銃声に驚き、だが、その銃声のした方に向かって歩かされた。
 さっきの兵士が戻った。
「よし、行け」
 うながされるままに歩いた。
 ガレージ前では囚人を大勢並べて棒打ち刑が行なわれていた。立ち並ぶ兵士のあいだを棍棒で殴られながら通り抜けるもので、男も女もぼこぼこにされながら走り抜けた。
 突然、囲みを破って一人飛び出した。即座に銃撃――密閉された室内では耳をつんざく轟音となり、男は鉢の巣になって床に吹っ飛んだ。
「見るな。行け!」
 拳銃の先で背中を小突かれ、純子は全身ガタガタ震え、両手で耳を塞いだまま足早にその場を通り過ぎた。
 広いガレージの隅にジープ。扉が開いて、後部座席からあの女が顔を見せた。
「おはよう。ゆうべは良く眠れて?」
 猛禽の眼が、今は柔和になって挨拶した。ドアを広く開けてうながし、純子はうながされるまま乗り込んで准将の横に腰かけた。
 黒い布が降りてきて目隠しされた。
「ゴー」と言うキンバリーの声。ジープがエンジン音を吹かして走り出した。
 緊張に身を固くした。10分も走っただろうか。いや、5分くらいかも知れない。硝煙が臭って、反射的に頭の中を戒厳下の忌まわしい光景がよみがえった。銃声と悲鳴。銃声は、今現在も遠くで聞こえている。
 ジープが速力を落として停車した。
「サンチャゴの街との見納めをさせてやろう」
 そう言って目隠しが取られ、純子の前に身を乗り出して自分からドアを開けて外に出るよう、うながした。
 車から降り立って目をみはった。
 目抜き通りの一角を戦車が居座り、道路のそこかしこ小銃をかまえた兵士と、あちこちに散乱する死体。方々で焚書の火も焚かれ、黒煙が立ちのぼってさながら戦場の様相を呈した。
 欄干が目に入り、サンチャゴ市内であるからにはマポーチョ川に架かる橋かと思われた。と、そこにうつ伏せに横たわった死体。その前で兵士と口論する口ひげの男性に眼が奪われた。
〈あっ、カルロスさんだ!〉
 その彼が銃口にひるむことなく死体から離れた場所に放置された棒状の物を1本、2本――よく見ればそれはクラッチ式の松葉杖。それを拾い集めて亡骸のそばにきちんとそろえた。
「この人にとって杖は脚だ。いわば身体の一部じゃないか。持たせてやるのは当然だろう!」
 憤然と食ってかかる声が、今度ははっきりと純子の耳まで届いた。その顔がこちらを向いて、あわてて目を伏せた。が、別れた時とは服装が違い、それだけじゃない、地獄を見た後の純子は顔も別人だったかも知れない。
 結局気づかれず、ふたたび顔を上げた時、カルロスの姿はどこへともなく消えていた。
「流行らんな。これから先、この国であのような“イズム”は。バカな男よ」
 キンバリーが吐き捨て、純子へ乗車をうながした。後部席には助手席から黒人女性兵士が移って来ており、後からキンバリーが乗り込むと両側からはさまれる形になった。
 また目隠しされ、今度は後ろ手錠まで架けられ、ジープが走り出した。
 Gパンのホックが外され、前が開かれ、手がパンティを、陰毛を掻き分けて侵入し、大胆にも陰唇を押し分けて侵入した。
「やはりな。無理もない……」
 そんなことを呟き呟き指なぶりに興じ続けた。
 ブラウスの袖がまくられ、二の腕にチクッと針の痛みが襲った。鎮静剤を打たれながら、
〈カルロスさん、奥さん、さようなら……〉
 ブランカにジェームス、そして2人のマリアにも別れを告げた時、涙が一筋流れた。
 全身に薬効のだるさを感じ、睡魔が頭の中を駈けめぐり、そうしていつか純子の意識は混濁の闇に呑み込まれた。


第3章「純子の闇」へ

*ストーリー部分の背景をなす出来事はすべて事実である。

以下『文献』「映像」[サイト]を参照とした

 執筆にあたって以下資料を参考とした。
 第2章前篇〈序曲〉低水準紛争解釈は『何も起こりはしなかった〜』からの引用、〈アンデスに抱かれて〉冒頭リンクの参照地図は『戒厳令下チリ潜入記〜』から流用。
 第2章後篇〈バルパラ〉、同〈ウイルス効果〉をはじめとしては、[チリ軍事クーデター前後の旅日記]を参照、一部は引用させていただきましたことを、街角の旅日記サイト主宰者様への深い謝意を込め、この場を借りてお断りいたします。
 なお、今回も徘人さんに言語考証を、さらにまたRYOのフォルクローレと山と歴史別館サイト主宰者RYOさんには、マポーチョに関する原語考証をお願いしました(筆者マルガリテ)。
 
表記例:『活字媒体』(著者・訳者・出版社名)
 
    「映像資料」(製作年・製作国・監督者名)
 
    [インターネット文献](著者・訳者・サイト名)

[アジェンデ最後の演説 1973年9月11日](ビクトル・ハラ=VICTOR JARA未完の歌)
『戒厳令下チリ潜入記――ある映画監督の冒険』(G. ガルシア=マルケス著、後藤政子訳、岩波書店)
『戒厳令の夜』下(五木寛之著、新潮社)
『革命商人』上・下(深田祐介著、文春文庫)
[キリング・ホープ 第34章より チリ 一九六四年〜一九七三年 鎚と鎌が子供の額に焼き印される」(ウィリアム・ブルム著、益岡賢訳、益岡賢のページ)
『サンチャゴに降る雨』(大石直紀著、光文社文庫)
「11'09''01 セプテンバー11」(2002年フランス作品、ケン・ローチ監督=オムニバス全11作品中第6エピソード)
[スペイン語のお勉強](みんなで楽しくスペイン語)
[スペイン人名 女性・男性・姓](M. Erech Ave.)
[チリ軍事クーデター前後の旅日記](街角の旅日記)
[チリ年表 その4〜その6]
『沈黙作戦――チリ・クーデターの内幕』(朝日新聞社編=写真集・証言集)
『何も起こりはしなかった――劇の言葉、政治の言葉』(ハロルド・ピンター著、喜志哲雄編訳、集英社新書)
『ミッシング』(トマス・ハウザー著、古藤晃訳、ダイナミックセラーズ)
「ミッシング」(1982年アメリカ作品、コスタ・ガブラス監督、ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン)
[もうひとつの911 チリ・クーデター](RYOのフォルクローレと山と歴史別館)
『物語 ラテン・アメリカの歴史――未来の大陸』(増田義郎著、中公新書)
『私は全裸にされ、体中に電気を通された!』(週刊女性自身1976年2月12日号、光文社)(以上50音順)



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●マルガリテ/純子__嵐のなかで…●

Photo by"U.S. Torture in Abu Ghraib Prison_RW/OR ONLINE"site
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