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作 マルガリテ/純子

第三章
純子の闇



 夢


〈ここはどこ……わたしはどこにいるの………どうなったの。なにがあったの………〉
 朦朧とした意識のなかから必死で自分を呼び起こそうとしました。
 純子、さあ、起きて……しっかりして………
 どうなったの………確かめないと………
 自分の心さえ思い通りにならない、記憶が、暗闇の底から浮かび上がってきては沈み、また浮いて、それを捕まえようとしたらまた沈んでいってしまう……
 ジュンコー……ジュ、ン、コー……
 どこかで誰かが呼んでいる。
 あの声は――
〈え? あなたなの?〉
 突然、遠くに連なる雪をかぶった大アンデスの山並み。
 そして、
「ジュンコ」
「あ、やっぱり!」
 わたしの目のまえにいるのは、健康的な小麦色の肌をした、はちきれる若さを地味な衣服に包みこんだ情熱的な南米娘、10歳以上も年下のあの子でした。
「ジュンコ、なぜ、こんなところにいるの?」
 片言の日本語で訊いてきました。
 心配そうな目で、顔で、わたしをじっと見ていました。
「こんなところにいては、ダメよ。さあ、わたしと、いっしょに来るのよ。“ゴルペ”がすぐそこまで迫っているのだから――」
 ゴルペってなあに?
 ともかく手を引かれ、起き上がったとき、屏風のようなアンデスの靄がかった青い山並みが一瞬揺れたように感じました。娘はわたしの手を引いて荒野を小走りに駆け抜けました。
「早く、国境まで急ぐのよ!」
「国境までって、アリカはずっと先よ」
 必死について行きながら、背後で足音を感じました。
「振り返ってはダメ! カラビネーロスに撃ち殺されるわっ」
「どうして? 国家警察隊(カラビネーロス)は味方じゃなかったの!?」
 反論しましたが、かといって振り返る勇気もありません。そうこうするうち、おびただしい軍靴の響きが追いつき、みるみる耳元に迫りました。
「あっ!」
 不意に後頭部に一撃をくらって昏倒しました。
 また、たった一人の闇のなかに引き戻されてしまいました。
 そして、その闇が、ぼんやり開けて行き――





魔 女


 意識がもどったとき、目のまえに白衣の女がいました。そいつが、ぎゅっと肩と手を掴んで起こし、あごをしゃくって「出ろ」のポーズ。
「ドンデ・バー(どこ行くの)?」というスペイン語の質問は無視されました。
 女とは思えぬ力でベッドからひきずり降ろされました。しばらく寝かされていたため、とっさには足元がふらつきましたが、それを容赦なく無理矢理立たされました。
 そして、いきなり黒い布で目隠し。
〈また、屈辱的なアレか〉と思い、心が冷え冷えとしました。
 ドアを開ける音。そのあと背中が押され、背後でドアが閉まる音。
「ゴー」
 いつもとおなじ廊下を歩かされました。
〈歩数から推して25メートルあまり〉
 そこで立ち止まり、ドアが開けられるはずでした。
 突然、銃声――
 びっくりして、震えあがりました。銃声は散発的で遠くからでしたが、忘れかけていた記憶がよみがえって足が金縛りに遭ったのです。
 男たちの断末魔の叫び。のたうちまわる女たちの裸の全身……目隠しで頭のなかも暗闇でしたが、その心のなかの真っ黒いスクリーンに地獄の光景がフラッシュバックしたのです。
「ストップ!」
 声で制止させられ、ノックの音。ドアを開ける音。「なかへ」とうながされ、またうしろでドアの閉まる音。それから別の足音と気配が近づき、腕を取られて案内されました。
 そして、あの独特の嗄れ声。
「ミランダは下がってよし。パオラはそいつを取ってやれ」
 足音が一つ前を横切り、背後では目隠しが外されました。
 目を開けたところに星条旗マークの軍服を着た40年輩の女将校。それ以外も女・女・女! 医者以外は迷彩服を着た若い軍人が4人、5人……とにかく女ばかりの軍団に、ハリウッドのB級映画でも観ている気分でした。
 飾りっ気のないコンクリートがむき出しの部屋の中心から、待ちわびていたご馳走を舌なめずりし、必死に欲望を抑え込んでじっと見つめる猛禽の目――。
〈あいつが“魔女”のキンバリー!〉
 心の奥では敵意を燃えたぎらせましたが、もちろん表情は必死で平静を装いました。
「よーし」
と、キンバリーが椅子から立ち上がり、2メートルはあろうかと思われる長身をそびやかしました。
「脱げ。裸になれ」
 眉一つ動かさず命じました。
 一枚きりの囚着を脱ぐのに手間などいらず、わたしはたちまち全裸となりました。
 黙って下を向いた時、乳房の谷間越しに、恥丘にこんもりとした森を作って黒々とした陰毛の頂きが見えました。
 その裸を猛禽の目が舐めるように見たあと、部下たちに振り返りました。
「おなじアジア女といえど、こいつはハポネーサ(日本女)。チナ(中国女)でもコレアーナ(朝鮮女)でもタイランデーナ(タイ女)でもない、今夜はその違いをとくと拝ませてやる」
 もったいをつけた前置きで周囲の期待を高め、逆にわたしは得体の知れぬ予感に苛まれ、気持ちは怯むばかりでした。
 何かの機械がワゴンに乗せて運ばれました。
 部屋の中央に重々しく鎮座した奇妙な椅子。手足を大の字に拡げて拘束する鉄パイプ製の張り出しが四方に伸び、お尻の座面は無いに等しくなっています。
 真正面に立つ黒人兵士――こいつの名は知っていました。チキータが拷問椅子に向けて顎をしゃくりました。
 下卑た視線を感じながら拷問台に登りました。
〈この椅子にはそういう姿勢で座るものだ〉という先入観に支配されての行為だったのですが、クスクス笑いに混じって、
「自分から手足拡げてやがるよぉ」
 そんな言葉を投げつけられ、こんどは反射的に手足を縮めていました。
 手首足首を頑丈な拘束ベルトで固定され、拷問台に付いたハンドルが回されると、椅子全体が傾転して性器と肛門とを真正面に剥き出される格好になってしまいました。
〈ああ、こんな姿で見ず知らずの外国人女性たちに取り囲まれるなんて……〉
 人生でこれほどの恥辱を経験したことなどありませんでした。
 情けない気持ちで見た先に、邪険で乱暴なチキータとは違う黒人女兵士パオラが……歳の頃はわたしよりすこし下くらいに見えました。
 そしていよいよ、キンバリーが特徴のある嗄れ声で宣告を下しました。
「さぁ、実験をはじめるぞ。テーマは『女捕虜に対する最も効果的拷問法』だ。
 はじめるまえに一つだけ言っておく。拷問中の質問にはすぐに答えること。まどろっこしいことをするとどうなるか。これまで見てきたことを、そのカボチャ頭で思い出すがいい!」
 とっさにマポーチョ川の川面に映える真っ赤な夕陽を思い出しました。懐かしい日の記憶の赤は、すぐあとに起きた惨劇により今は禍々しい血の色として頭に刻みつけられていました。
 消え入りそうな声で答えた時、
「声が小さいッ!」と大喝し、わたしの乳首を指で摘んで捻りあげました。
「あぅッ、痛ッ!」
「大きな声で返事っ」
「は、はいっ!」
「よろしい」
 ニンマリ笑ったキンバリーは、兵士たちが準備していた拷問装置が乗ったとおぼしきワゴンを近くへ引いてこさせました。
〈なに? 何をされるの?〉
 拷問台の上で、わたしの心臓は不安に押し潰されそうでした。
 キンバリー准将と、白衣を着た女。
 2人が手慣れた様子で装置を準備していきます。ダイヤルやスイッチが並んだ金属の箱、その箱の上に並ぶ端子、さらには赤と黒の電線。先端に銀色に光るワニクチクリップ……!
 キンバリーに小声で指示された女医が股を拡げたわたしの正面に立ち、両乳首を指で摘んで愛撫をはじめました。恐怖と裏腹な快感が沸き上がってきます。
〈そんな! いやよ!〉
 キンバリーが黒いコードのクリップを持ち、赤い方を女医に手渡します。
「どうかしら? 十分勃(た)った?」
「ええ」
 勃起を強要されたわたしの乳首を2人の女がそれぞれ指で引っ張り、無理矢理伸ばされた乳首の側面を包み込むようにしてクリップを挟み付けました。
「あぁぁぁ……いや、やめてください……お願い、怖いです、お願い……」
 無駄だと分かっていながらも、わたしは必死で頼み込みました。
「あらぁ、なにをやめてほしいのォ? なにをされるか、分かったのかしらねェ?」
「お願いです、お願いです、やめて、許して」
 猫なで声を翻し、キンバリーの怒声が響きました。
「『やめて』は要らぬ! ちゃんと分かるよう答えろっ。何をされると思うのかっ?」
 わたしは半泣きで答えました。
「あぁぁ、で、電気を流され、ます」
「どこへ?」
「ち、乳首です」 
 突然、「ヒャーッハッハハハハッ」と、癇性な笑い声。若いだけが取り柄の馬鹿ギャル兵の軽薄なはしゃぎようでした。
 また、あの黒人の目を意識しました。キンバリーとも女軍団とも離れて、なぜか彼女だけ異質な存在に思えてしかたありませんでした。
 その間にもキンバリーが講釈をつづけます。
「女の乳首はね、こうやって拷問を受けるためにあるのよォ! ほら、プラスとマイナスのために2つ付いてるでしょ?」
 狂気の理屈。こんな情況でなければ吹き出していたでしょう。
「さぁ、はじめましょうね。どんな痛さかしらねェ」
 舌なめずりするように装置に向かいました。
 突然の衝撃、とでもいうのでしょうか。ズシンと響くというか、乳房全体を四方から棍棒で殴られたようなショックが一瞬走り、続いて真っ赤に焼けた大きなペンチで両方の乳首を挟み潰されながら、引きちぎられるような痛みがわたしを襲いました。
「ウッギエエェェーッ」
 絶叫がわたしの喉の奥からほとばしり、同時に拷問台に縛られた上半身がガクガクと痙攣をはじめ、下半身から生暖かいものが勢いよく流れ出していく感覚を感じ取りました。
「ああっ、くそっ! もうションベンちびりやがった。ミランダ!」
 キンバリーのいまいましそうな声。25、6歳に見える白衣の助手が横に付きました。
「持ってろ」と命令。
 ブリキの洗面器の底を打つ水の音が響きます。
「クソも出てくるかも知れんぞ!」
 吐き捨てるように言い、つぎに若いほうの黒人に振り返りました。
「チキータ、明日からは最初に浣腸して全部出させとけ。それと膀胱にチューブを捻じ込んでションベン採りながらにしないとな!」
「はい」
 交わされる会話の内容など、わたしにはどうでもいいことでした。ひたすら乳首を責め立てる電流の痛みに身をよじることしかできなかったのです。
「うぐ、うぐ。うぁぁ、うぁぁぁぁ」
 苦悶の呻き声を上げるわたしにキンバリーの尋問が始まりました。
「あらァ、ずいぶん痛そうねェ。どうしたの?」
 魔女がどういうことを答えさせたいのか、それは分かっていましたが、その時には答える余裕などありませんでした。
「いだい、いだい、いだいですぅぅ。やめで、やめでー。あああー」
 許しを請うことが却って逆効果になることは判っていても、口からはそんな濁音言葉しか出てこないのです。
「言いたくないか……言いたくなるようにするには、と」
 楽しそうに呟いたキンバリーが、さっきミランダと呼んだ女医に目配せしました。乳首に流れ込む電流がさらに強くなったのを感じました。
 焼き潰されるような激痛を放つ乳首を中心に、乳房の表面を放電が舐め回し、這い回るような痒みとも痛みとも分からない感覚。その乳房の内部では乳腺が煮えて引きつれるような痛みすら襲います。
「さあ、答えよ。お前はどうして痛がっている?」
 冷酷な魔女の質問。
「あぁぁ、ご、拷問に……かけられて、いますぅぅ」
 この女はキチガイなのでしょうか? 恫喝したと思ったら次には猫なで声。喋り方がその都度コロコロと変化を繰り返します。
「あらぁ、そうなのォ? で、どんな拷問かしら?」
「ち、乳首にィ、でんぎ、ながざれでまずうううーう!」
 必死に、懸命に、無理して言葉を絞り出すわたしにさらに優しく問いかけが続きます。
「そうなんだ! で、乳首を拷問されるのって、感じるかしら? うれしい? 恥ずかしい?」
「あぅぅぅ……は、はい」
 はっ、としました。どうして「はい」なんて答えたのか――わたしはその時、確かにその状況に不思議な悦びすら感じていたのかも知れません。ただ、しかしそんなものは一瞬でかき消えていきました。
「そうかっ! そうかっ! よおし、もっと責めつづけろ」
 キンバリーがミランダに命じました。
 女兵士たちのある者は目をぎらつかせ、ある者は興味深げに、ある者ははしゃぎながら取り囲むなかで、わたしは拷問を受ける乳首と乳房を精一杯反り返らせ、前へ突き出しながら狂ったように頭を振って泣き叫びつづけました。
 1時間はつづいたでしょうか。
 電気を止められて拷問台の上にグッタリとなったわたしは「ヒィー……ヒィー……」という溜息とも嗚咽ともつかない声を漏らしながら、電極を挟まれたままの乳首を大きく上下させ、荒い息づかいをして横たわっていたのです。





 音


 シーンと静まり返ったなかに、隣室から電話のやりとりが聞こえました。
「国務長官のご機嫌はいかがですか? はい、准将のキンバリーですよ」
〈え?〉
 緊張に耳をそばだて、アメリカの国務長官の名を思い出すべく神経を集中しました。
「奴さん、とうとう死んでくれて大成功でしたね……」
 どうやら、この場の相手は国務長官ではないようでした。
「自殺? いいえ、あの“クソったれのアジェンデ”は、ロベルト・ガリド大尉の突入部隊に射殺されたんです。とどめの一発が頭を吹き飛ばして凄惨な死にざまだったとか……」
 独特の嗄れ声で得意げに応じてました。
「それより、わたしはいつ帰れますか? そろそろこの国にも飽きたのでね。長官にとりなして10月には戻れるようにしてもらえませんか」
 ねちねちと頼み込み、そのあと受話器が置かれました。
 ノックの音。ドアを開ける音。誰かの入来でしたが、足音は1人ではありません。
 パオラらしき声の報告にうなずくと、
「ベトナムでやってるようなサーチ・アンド・デストロイ(索敵殲滅)作戦だな。で、これまでの首都の死者は?」
「1500人から3000人とのことです」
「ほおー」という嘆息。あの冷徹なキンバリーでさえ驚きを隠せない数字に、わたしは愕然とする思いでした。
「過激派の抵抗は?」
「工科大学などでは学生が武器を取って応戦したそうですが、組織的なものではなくことごとく鎮圧したそうです」
「さもあろう」とキンバリーは満足し、
「キューバなどから武器を大量入手してクーデターに備えていたなどとはな、ありゃ右派のプロパガンダなんだよ」などと訊かれもしないことまで吹聴、「宮殿から出てきた兵器などもでっち上げだよ」とまで続けました。
「それにしても死者の数の多さは……」
 声を詰まらせたのは、もちろんキンバリーなどではありません。
「なあ、パオラ」
「あ、はい」
「わたしはベトナムへも行ったことがあるからよく判るが、おまえはサイゴンでの死体の山を写真かなにかで見たことあるかい?」
「いえ」
「つまりはそれが首都サンチャゴの現在の姿なのさ。200人、300人の死体の山。ふつうじゃ考えられないが、わたしには想像できる」
 そのあと少しの沈黙があり、耳を澄ますとすすり泣くような声がしていました。
「この者の名は?」
「カトリーナ・ロハスです」
 そう答えたらキンバリーが馬鹿にして鼻を鳴らしました。
「また一匹ロハスだ。おまえの親戚じゃないのか?」との冷やかし。
「ロハス、ロペスなど南米では馬のクソ並に多い苗字だが、カトリーナというアメリカ名前を付けたのは気にいらんな。名付け親は誰だ? 泥棒の父親か、淫売の母親か!」
 打擲(ちょうちゃく)と共に悲鳴が起きました。
「もういい、下がれ」
 パオラを退出させ、入れ替わりに別の者が入ってきたようです。
「ミランダ、いいところへ来た。脚を押さえろ」
〈また、あの女か!〉と思いました。
「安全ピンは布を留めるためだけのものではないぞ」という言葉のすぐ後で、
「いやあーっ、キャアアーッ」
 甲高い悲鳴が、ひとしきりつづきました。
「見ろ、色浅黒いオマンコでも、これならピカピカして見栄えがするだろう。この後、おまえならどう責める?」
「わたしならこう」
 すると悲鳴がさらに高まりました。
「おお、いろいろ形が変わって面白いのお。どれ、わたしにも引っぱらせろ。大きく開いてオマンコ穴の洞窟をじっくり観察してやる」
 そう言ったと思うや、悲鳴は耐えがたい絶叫へと転調しました。





検 査


 うっすらとした光が、わたしの目に戻ってきました。
 なにがあったのか、まだ朦朧とした状態は続いていて、どうしようもない不安が鉛のようにずっしりと影を落としていましたが、2、3度瞬きした後に、パッと点く蛍光灯のように今度はやけに鮮やかに記憶が蘇りました。
〈そうだ。こないだは、あの恐ろしい女将軍にナイフで脅され……そう! 恥ずかしい身体検査で性器を、そして肛門までを!〉
 部屋に戻されてから与えられた粗末な食事に薬でも入っていたのでしょうか? 記憶がなくなっています。というより、ずっと眠ってしまっていたみたい。そして……
〈ここはどこ!? 昨日の部屋とは違う! 解放してもらえるの? さあ、身体よ、目を覚ましなさい!〉
 寝ているのか起きているのか分からない状態がしばらくつづき……
「ひえーっ」という悲鳴。
 つぎに、ぼそぼそと尋問とおぼしき声。
〈なに? となりの部屋の音なの?〉
 そこでようやく目を醒ましました。
 なんのことはない、独房のベッドの布団にくるまっていました。
 耳を澄ますとキンバリーの、あの嗄れ声が聞こえました。
「さあ、どうした。同じことを二度いうのは嫌いだと教えたはずだぞ。わたしが命じたことは即実行すること。口応えも、ぐずぐずすることも許さない。そんな態度をとったらすぐ処刑するわ。罪状なんてどうにでもなるのよ」
 冷徹な殺人マシーンの本性剥き出しに矢継ぎ早なセリフの連発。
「気をつけ!」
 突然の凛とした声――。
〈あの悪魔は誰にでもあんな調子なんだ……〉
 それが演出なのか性格からなのか、キンバリーという軍人がいま一つ分かりません。
「では、訊くぞ。素直に答えろよ……」
 思わず頭を振りました。
〈わたしは旅行者、あの人たちとは無関係。ただ、同性愛者のサディストが職権を笠に着て戯れ事に興じているだけ。わたしは、その気まぐれの一時的遊び相手に過ぎないのよ。だから、いつかきっと解放される日がくるはずだわ!〉
 心の中で否定して、「違う!」「違う!」と叫びつづけ、そうして現実から逃避すべく必死に耳をふさいでいました。
 だが、一度蘇った記憶の残像は、どんなに否定しても消えるものではありませんでした。


 あの日――
 あの時には仮設収容所となって、後に悪名を馳せるチリ・スタジアムからジープに乗せられ、最初に着いたのも軍関係の施設でした。
「ここで」と言って目隠しを外された時、そこは外国のSM映画にでてくる拘置所の取調室そのもの! 窓もない殺風景な部屋に机があって、そこに座るキンバリー。横にはなぜかテーブルまで用意されていました。
 事務机の向こうから、じっと見つめる表情が無気味で、それこそ得体の知れぬ恐ろしさにゾッとしたものです。
「服を脱げ。全裸になれ」
 キンバリーの感情を排した命令。
 ただ、その一瞬、わたしが脱衣の手を止めたのは、周囲に数人いる異性の兵隊たちよりも、ただ一人、冷然と侮蔑の目を向ける同性の若い黒人兵の存在に躊躇していたのです。
「さあ、どうしたの? 同じことを二度いうのは嫌いなの、わたしが命じたことは即実行すること。口応えも、ぐずぐずすることも許さないわよ!」
 相手の苛立つようすに、わたしは肝をつぶしました。
 セーターを脱ぎ、シャツのボタンを少し震える指先ではずし終えると、そのシャツも床へと脱ぎ捨てました。上半身がブラジャーだけになるとスカートも脱ぎ捨て、ストッキングを脱いだとき、生唾を呑む音を聞いた気がしました。
 ぶるっと肩をすくめてブラジャーに手をかけましたが、腕を後ろに回してホックを外そうにも指先が震えてうまくいきません。相手の苛立ちを思い浮かべ、その焦りからますます外せなくなるのです。
 無意識に顔をうつむけたとき、きついくらいの照明に映えて乳房が鳥肌立って見え、
(取れた!)
 やっとホックが外れました。奇妙な安心――キンバリーの苛立ちを収めることができたという安堵感に包まれ、肩紐から腕を抜きました。
 乳房が露わになり、寒さで乳首と乳輪が縮まっているのを実感しました。
「ほぅ、なかなかいい身体ねェ。グラマーじゃないけど、いいわよ!」
 褒めてるのかなんなのか。
 ともあれ最後は、なるべく股を開かないよう片足ずつ膝を内側に向けて降ろすと、そのショーツに押されていた陰毛が、恥丘にこんもりと丸く黒い森を作っているのが見えました。
 テーブルを指差し「そこにへばりつきなさい」
「は?」
「バカ、うつぶせに上体を寝かして、尻を突き出すんだ」
 周囲で下卑た笑いが起きました。
 言われた通りにしたものの、恥ずかしさから腰を引いたところ、また准将の恐ろしい一喝が飛びました。
「足を曲げるんじゃない!」
 床に着いた足が精一杯まえに寄せられ、そのあと足首が掴まれて開脚され、お尻はさっきとおなじくらい突き出されたことになります。
「チキータ、手袋」
「はい」
 ゴムがこすれ合い、伸び縮みする微かな音までが、やけにはっきりと聞こえました。
「力を抜け」
 その直後、指がわたしの肛門に突き立てられ、ずぶりと抉り込みました。
「う、うーっ!」
 痛さと羞恥から足を閉じようとするものの、両足首をしっかり掴まれびくとも動かせるものではありません。その間、指責めは容赦なく繰り返され、乱暴な動きをつづけていました。
「ひいっ、ああっ!」
「固いな。まさか未経験などということは……」
 女将軍の、生唾を呑みそこねたような妙に粘っこい呟き。
 わたしは必死に悲鳴をこらえていましたが、その悲鳴の堰を切らんとするように、先に入れた2本が括約筋を抉って回転し、それから3本目が押し入りました。
「痛いーっ、や、やめてーっ!」
 激痛に首を振りました。
 3本になった指はさまざまに形を変えて巧みなファック攻撃を繰り返し、縦横無尽に肛門のなかを蹂躙し尽くしました。
「ふん、やっと濡れてきおった」
 ぬちゃぬちゃという抽送音が、恥ずかしいことにわたしの耳元にまで届いておりました。
 やっと指が抜かれました。
「うっ、臭うな」
 顔をしかめ、抜き出した指をかざした時、チキータと呼ばれた黒人女性兵が、そして周囲が笑いで湧き返りました。
 ピシャンと平手で尻をしこたま叩かれ、立たされました。
「あそこへ!」と、部屋の隅を指差して命じ、次いで「壁に背中を向けて立て!」
 迫力に気圧され、おどおどと従いました。
「おい、写真だ。写真を撮れ」
 チキータではない部下が命じられ、カメラを構えて戻ると、こんどは「手を腰に、直立不動の姿勢を取れ!」とわたしへの命令。
「まず、正面を向け」
「右向け、右」
「よし。おなじように回って、こんどは背面だ。尻を向けろ」
「そのまま右に、さっきとは逆の横向きだ」
 癇性に急き立て、看守もわたしもあたふたとしてシャッター音が立てつづけて響きました。
「よし、戻って、またテーブルに上がれ。こっちを縁にして座れ」
 短気な物言いに脅かされて、わたしは大あわてで引き返すと、テーブルの端にちょこんと座りました。
「寝ろ」
 その位置で命令されたので、そのまま横になったら看守が2人左右をはさみ、片方ずつ足を取られ、腰から下が観音開きにされました。
「チキータ」
 また、あの黒人が呼ばれたのです。
 無意識に顔を上げたものの、男の看守によって押さえつけられました。一瞬見た目に、チキータの手には手術用の薄いゴム手袋が――。
 その手が性器に触れました。陰唇を開いて、“ご開帳”されて、そのあとシャッター音が響きました。
「こんどはコレで」
 その直後、固くて冷んやりとした異物が膣を押し広げて入ってきました。苦痛に呻きましたが、それを歯牙にもかけず器具は深奥部に入りきって、そのあと奥が開かれました。
「ううっ」
 身体が反射的に暴れましたが、屈強な男の腕の中では虚しい足掻きに過ぎません。
「見てみろ、中はピンク色をしておる」
「イヤらしい。あんなに濡れて……」
 くくくくく、と含み笑い。それにかぶさってシャッター音が2つ、3つ。
「さ、次だ」とキンバリー。
 こんどは何を!?
 金属製の医療器具が抜かれた性器に、冷んやり、ぬるぬるした液が垂らされ、チキータが自分の手にもわたしの割れ目にもたっぷりと垂らし、まんべんなく塗り込められました。
「いやあーっ!」と、首を振ったところ、
「もう子どもじゃないのよ」
 そう言うやいなや割れ目がたちまち押し開かれました。
「この歳でペニスだけってことないでしょ?」
「そんな無茶な……壊れるっ!」
 股間を引き裂く鋭い痛みは、だんだん強まりました。
「どうだ」
「固いですね、どうします?」
 チキータは上官に伺いを立てながらも、いいところを見せたくて手刀の手を中でさまざまに蠢かせ、膣をほぐしにかかりました。フィストなど未経験のわたしは痛がるしかありません。
「痛い、許して!」
 涙目で哀願するわたしの苦しみようは、相手を興奮させるばかりでした。手が拳に変わろうとして、中心の痛みが強まりました
「ウアアアーッ!!」
 悲鳴が最大限に達した時、キンバリーの「待った」がかかり、ようやく手が抜き出されました。
 わたしはうつ伏せにされ、チキータには別の用が言いつけられました。
 ふたたび彼女が戻る時には、手袋の手に子どもの背丈ほどのゴム棒をしならせていました。
 激痛が肛門を貫きました。
「痛っ、ああっうーっ!」
 棒の先が正確に穴をえぐって入口を拡張し、わたしは悲鳴をあげてのけぞりました。苦しまぎれに身をよじりますが、男の凄い力に邪魔されてそれすらかないません。
「ペニスとくらべて味はどうだ? おい」
「うんうーっ、あっ!」
 苦痛に顔を歪ませ、脂汗を滲ませました。
「きゃああっっ!!」
 肛門に突き刺さった棒が直腸の奥でいったん阻まれました。その痛さといったらたまりません。が、チキータは挿入に手心などくわえません。
「ここはこうやって」というキンバリーの指示で棒が角度を変え、肛門にあらたな痛みが加わりました。敏感でデリケートな小穴をこじられる苦痛は耐えがたいものでした。
「ぎゃっ!」と叫んだとき、棒がすっぽ抜けました。
「やー……ああっ!」
 固くて長い異物が腸壁を突き通っていく違和感は、化け物ミミズが肛門を押し割って腸深く入り込み、無気味にうごめき伸び縮みしながら奥へ奥へとズルズル移動していくような……。
 全身で震えました。
「ああっ!」
 新たな痛みに苛まれながら嗚咽を洩らしつづけました。
 棒が腸の奥の奥で、これ以上行き場もなく阻まれました。腸を圧迫する激しい痛み。腸壁が破られるのではという思いに戦慄しました。
 棒が逆移動を開始した時、安堵の溜息をつきました。
 異物が腸を抜け、長々とアヌスをこすれる異物感。次には激しい抽送が繰り返されました。
「濡れてます」
「感じてやがる、割れ目からよだれ流してる」
 男たちからも下卑た感想が吐かれました。
「なんか臭いな」
「棒がウンコ付けてるぜ」
 キャハハハという癇性な笑いも――。
「これくらいにしとこう」
 その言葉で上体が自由になりました。足首を掴んでいた手も離されました。
 顔のまえに腸を貫通し、直腸を掻き回した棒の先が突き出されました。
「……!」
 汚臭と恥辱の残滓に目をそむけました。
 だが、それで終わったわけではありませんでした。
「もう一度試してみろ」
 キンバリーの気まぐれから、また手を取られ脚を掴まれ、反転して仰向けに寝かされました。
 再び腰から下が観音開きにされ、チキータの手の先が割れ目を抉って入り込みました。
「うぎゃああーっ!」
 激痛にのけぞった時、そこに猛禽の目が、嗜虐にねっとりと瞳を輝かせてわたしの顔をまじまじと覗き込んでいました。





悦 獄


 昨日につづく今日なのか、それとも、まだあの凌辱地獄がつづいたままなのか……だとすれば、わたしの女の部分はチキータという若い黒人女の拳を食わえさせられているはず――
 チュイイイイーン……
 電動ノコギリの回転音。ドリルやハンマーを打つ音も響いていました。間近ではなく、すこし遠くからです。歩測25メートルの、いつもの拷問部屋より先のあたりで……。
〈なんだろう。なにが始まるのだろう〉
 部屋を改築しているのでしょうか。
 まさか処刑室を!?――なんの根拠もない閃きに次々と湧く処刑妄想。ハンギング、ギロチン、鋸引き、電圧を徐々に高める電気椅子――。
〈そういえば1950年代、マッカーシズムの“赤狩り”旋風が吹き荒れる中、スパイ罪で死刑を宣告されたローゼンバーグ夫妻は、電気椅子処刑の模様を全米にラジオ中継され、処刑の際の電圧も通常より弱められたんだっけ!〉
 そんなことまで頭をよぎりました。
〈それにしても、あの模様は何?〉
 天井と分かって、照明が目に入りましたが、ひどく無愛想な蛍光灯です。
 身体が変でした。服を着ていない感覚。少しも動かせないまま身体を引き伸ばされた感じ。確かめようとして頭を持ち上げました。
〈え? 何これ? 乳首が見える! その先には丸く盛り上がった丘に、フサフサと茂る黒い繊毛。恥ずかしい!〉
 裸なんだ! 今日は腕も脚も動かない、縛られた状態の裸。大の字に拡げられて………。
〈いったい何が? ここはどこ?〉
 再び混沌とした闇が――やはり、まだ正常ではありません。毎日毎晩あんなことを繰り返され、薬物注射までされて……こんなところにいたら身も心もボロボロにされてしまう!
〈逃げよう。でも逃げられない。あぁぁ……〉
 指が性器に触れています。
 え? ウソ!
〈感じるわ。気持ちいい。ああ、もっと! もっと! やめないで!! あなた……
 時間が戻ったのね……。それともわたし、長い夢を見ていたのかしら?〉
 ずいぶん前に別れた男。今となっては憎いなんて感情はないけれど、この感覚はここ数年忘れていたもの、性器を愛撫されるあの感覚。時間が戻った? そんな馬鹿な――。
〈しっかりして! 目を開けないと!〉
 あの模様、蛍光灯、見覚えがあるわ。つい、この間のこと……この間? ついさっきじゃなかったの?
〈やはりどうかしている!〉
 しかし手足を動かそうにも自由が利きませんでした。縛られているのではなく痺れた感じでした。ただ、首から上はなんともなく、ちょっとだけ頭をもたげてもみました。
 黒い物が降りてきてハッとしました。
 また、なにも見えません! さっきは性器に盛り上がったふさふさの陰毛が見えたのに……。真っ暗なまま一瞬焦りましたが、目隠しをされているのだとわかり観念しました。
〈それに、この気配……たしかに誰かいる〉
 男? 女の人なの?
 腰に触れられました。そうして、下に履いているはずの囚着がゆっくり降ろされ、衣類が腰から離れていきました。
 太腿が掴まれました。がっしりと掴まれ、その時点では男かと思いました。膝を曲げて観音開きするまでのあいだの猛々しさから男以外に考えられなかったのです。
〈レイプされる!〉
 女としての防御本能で抵抗を試みましたが四肢に力が入りません。どんなに必死にいきんでも身体から力が抜けてしまった感じです。四肢麻痺というのはこんなものかと思いました。
 それから間がありました。
 脚を広げられたまま、それ以上はなにもされなかったのです。
〈見られてるんだわ。下半身は裸。恥ずかしい部分をさらされ、それをじっと見られている。誰なの? 男? それとも女?〉
 恐ろしく無気味な時間がつづきました。
 そして、
「マチュアード、シーイズ(やはり、大人の女は)……」
 キンバリーではない女の声。
〈誰? あ、ミランダとかいう女? あいつが、こんな声を出すこともあるの?〉
 背筋を貫く異様な戦慄。
 不意に電気に当てられたような……
「ひいっ!」
 笛のような悲鳴を上げていました。
 首から上を除く身体全体痺れて感覚がなくなったのに、首から下で唯一麻痺がおよばない部分があるなんて! その鋭敏な中心に神経が集中し、そこを鋭い刺激に直撃されるなんて!
 愛液を溢れさせたようです。
 股間をタオルで拭かれました。
 拭いているのは白衣の女――ミランダだという思い込みが頭のスクリーンに、そう描かせたのでしょう。中心に目を凝らしながらデリケートに拭き清めています。
 指がいきなり性器をとらえました。
「あっ!」と、声を荒げました。
 陰唇をめくり、陰核を転がし、割れ目を愛撫しながら尿道孔にまで微妙な振動をくわえる、その巧みな指技により、さっきまでの緊張は解け、性器全体とろけるようでした。
 リズミカルで的確な動きは“快感マシーン”とでもいえましょうか。
「見て、プッシーがひくひくしてる」と別の声。
〈一人じゃなかったんだ!〉
 全身から気力までが萎えていくようでした。
「口開けてる!」
「あんぐりしてヨダレ垂らしてるみたい!」
 興奮して囃したてました。
 ああっ、恥ずかしい。こんな格好にされ、ゲスで軽薄で鬼のような女たちのまえであられもない声をあげ、あられもない姿で、あられもない部分から、あられもなく淫液を……。
「ああっ、あ、あーあ! ん、あー……!」
 いつしか甘美な声を発していました。
「どうしたの? どんな気持ちなの? ほら遠慮なく言ってごらん」
 また、別の声。今日はキンバリーはいないようです。
〈いやっ……あ、また、きた!〉
 びりびりと痺れる快感に全身の筋が突っ張って感じられました。手足を縛る戒めが、力むたびに強く痛く肌に食い込むのが分かりました。
 やめてっ、ほどいて。見られたくない。こんな姿をさらしたくない!
 押し寄せる快感のさざなみは逆らいようもない大波に変わり、わたしは身も世もあらず派手なよがり声をあげていたのです。
 キャアッハッハッハッハ……
 わたしが耳にする自分が発するアノ声にダブって素っ頓狂な嗤い。もう何度目かの絶頂を迎え、なにが起こっても不思議はない快感段階。
 また、きました。
「ああっ。あーっ!」
「なんなの? 気持ちいいの、良くないの?」
 必死に首を振りました。下になって、よけい重く感じる頭をやっともたげ、髪をばさばさに揺するほど首を振って叫んだのです。
「いい! 気持ちいい! もっとーっ!」
 思わず日本語で叫んだわたしに、雰囲気だけで受けたのかドッと笑いが湧きました。
 囃したてる声がこんどははっきりと耳に届きました。
「オー、リッチ・ラブ・ジュース!(凄い! 愛蜜!)」
「トゥー・マッチ・アンド・トゥー・コンク! イッツ・ホワイティー・バブリング・ライク・ソープ!(白くて濃くてジュウジュウ泡立ってる!)」
 英語の冷やかしが耳から遠くなり、局部は別の快感に貫かれていました。
 指で開かれた陰唇の、ぱっくり割られた性器の突起に舌が差し入れられ、ざらざらした先が、陰核を転がす刺激が背筋を貫いていました。
 ぬちゃぬちゃ、ぴしゃぴしゃ、蛇のように執拗な舌攻め。
〈わたしの股間のアノ部分に舌を這わせ、舌で突いている! あぁぁ、気持ちいい!〉
 びりびりと脳髄を貫く快感。
 執拗に、濃厚に、たっぷりと時間をかけ、技巧を込めて――
〈ああ! 気持ちいい、気持ちいい、いい、いい、いい! やめないで! もっとつづけて、お願いーっ!〉
 また、永遠の淵が迫ってきました。
 飲み込まれる!
 闇に引き戻される!
 しっかりしないと。闇の迫る早さに勝てない……
 ああ、ぁぁ……………





 刃


 電気ドリルの音が激しくなりました。工事音が間近に聞こえるのは当然です。
 ここは独房の25メートル先にある拷問室。その隣りか、また隣りくらいで改修工事が行なわれているのです。
 その日はキンバリーもいました。
 騒音であるはずの工事音が耳に遠くなり、心地よい快美音と錯覚するほどの快感。ミランダの指がわたしのなかで蠢き、割れ目をぐしゃぐしゃにしています。
「あーあ、いいー……!」
 テーブルの上に開かれた四肢が、さらに突っ張ろうとしています。
「ううっ、あっああっ!」
 また、何度目かの絶頂が訪れました。
 頭の上で伸ばされた手が固く握られ、片側にミランダの重しを感じる脚の先が丸まって、きつい硬直をきたしています。
 わたしの中から愛液がほとばしった!
 突如として指が手に変わり、それが手刀となって押し入りました。
「ああっ」
 快感はいきなり痛みに変わりました。
「いや、やめて!」
 哀願して首を振り、拒否の声を繰り返し叫びました。
 手が拳に変わろうとしていますが、容易にそうはなりません。その間、苦痛はだんだん強くなり、身体は緊張で固くなるばかりでした。
「どうだ? 入らぬか」
「無理のようです」
 ミランダが首を振って手をゆっくり抜き出しました。ぐっしょりとした手が愛液まみれにぬめって光り、若い女性兵士がその手にタオルを渡しました。
 また、耳元でドリルとチェーンソーの音が響き渡りました。工事は耳元で行なわれているかのようにうるさく響きました。
 それまで頬杖をついて見ていたキンバリーが立ち上がりました。
 横にくると長身を屈め、つぎに伸び上がった時には手に戦闘ナイフを掴んでいました。
「!」
「今夜はこれで“検査”してやる。おとなしくしないと確実に怪我をするからな」
 猛禽の目が、ねっとりと瞳を輝かせていました。
「それにしても」と、大きな手が伸びて来て乳房がぎゅっと掴まれました。
「うっ」
「なかなかの弾力……」
 そう言って、ひねり出した乳房に刃物を押し付けました。長さ10センチ超、鍔(つば)から先、半分ほどがギザギザ刃のサバイバルナイフです。
「ひっ」と目を剥くわたし。
「怖いか」と凄んでみせるキンバリー。その狂気に戦慄したのです。
“政変”から数日、その間、外出してはあちこちの修羅場を転々とし――実際、何人もの人を殺めたに違いありません。全身から漂う血の臭いに狂気すらも加わって感じられたからです。
「そのまま動かないことね、動くとどうなるか……」
 言われなくとも恐怖にすくみあがり、手足を拡げた石になっていました。
「ゆ、許してください」
 知らずに涙声になっていました。
 指が乳首をつまんで転がしました。もてあそび、ナイフの切っ先を当てたりもします。
「あ、あ、あは……」
 いつそれが正真正銘の凶器となって襲いかかるかという恐怖。そのとき、わたしの目は大きく見開かれていたのでした。
「怖い? そうよね、わたしですら怖いもの。このナイフを持つ手に力を込めて、一気に引き裂きたい欲望と、そうはしまいという抑制。その二つが微妙にせめぎあっているわよ」
 冷んやりとした感触。寝かしたりこすったり、また刃を立ててちくちく突ついたりを繰り返しています。
 固唾を呑んで見守るなか、シーンと水を打って静まり返る周囲。それがまた耐えがたいほどに緊張を高めました。
 ぴくっと刃先がうごめき、その瞬間、周囲もざわめき、あまりの恐怖と緊張に全身ガクガク震えました。
 部下たちは、とりわけ軽薄気味なギャル兵たちは不測の事態を期待し、その期待にキンバリーが答える可能性は十分高いのです。
「あんたたち」
 目配せされ、手の空いた2人が両脚の戒めを解いて膝を抱え上げ、観音開きしました。
 ナイフがまた移動しました。切っ先は肌に触れたまま、微妙なちくちく感を維持したまま乳房を下降して肋(あばら)へ、鳩尾(みぞおち)を通って脇腹へと移りました。
「はあ、はあ、はあ……」
「怖いか?」
 太腿をこするナイフがぴたっと動きを止め、ぴしゃぴしゃと冷たい側面で肌を叩きました。おどしたりすかしたり、細やかな演出で焦らすだけ焦らしてもてあそばれました。
 いよいよナイフを秘所に近づけました、まっすぐ狙い定め、別の手で陰毛を掻き上げて進めました。
「きゃっ!」
 驚き、ずり下がろうとしたとき、白衣の女医と軍服の部下たちに両脇をがっちり抑えられ、びくとも動けなくされました。
 サバイバルナイフの先は、陰毛のなかに埋まって、割れ目に数ミリ入り込みました。
「もっと高く抱えろ」というキンバリーの指示で、こんどは性器も肛門も丸見えの〈お産ポーズ〉にさせられました。
 キンバリーがテーブルの縁に腰かけ、横から覗き込む要領で股間を凝視します。そうして慎重に割れ目にナイフの先を入れました。
「いやああーっ、やめてっ!」
 暴れようとする手に、肩に、ミランダの指先が食い込みました。
 ナイフでこじりながら呟きます。
「動くんじゃないよ、動くと大事な部分が切れるから。そうならないため自分から濡れること、気分を出して膣をぬるぬるにするのよ」
 そんな無茶苦茶な要求はありません。敏感な局部を、いつ鋭利な刃物で切られるかという極度の緊張で快感などとんでもないことですが、それでも一心に努めました。
 指が陰核を露出し、ナイフを寝かしてギザギザ部分を触れさせました。
「いや、怖い!」
 びりっとする刺激。ざわざわっとする戦慄じみた快感のさざ波。それによって発散するものを身内から感じた時、
「濡れてる濡れてる」
「このオバサン凄い、いやらしいー……」
 子どものような女たちのからかい。自分がひた隠しにしてきた被虐願望を暴かれる恥辱という名の精神的苦痛。それなのに、
〈もっとされたい! やめないで!〉
 嫌悪とは裏腹な感情で叫んでいたのです。
〈またナイフが動いた!〉
 チクリと鋭い痛みに、こんどは「やめて!」と叫ぼうとしたとき、
「動くな、黙れっ!」
 雷のような恫喝に制止させられました。
 それから先は冷たい鋭利な凶器が、それほど痛みも刺激もともなわず、少しずつ少しずつ中に入ってくるのです。
「あ、ああ……」
 切っ先が、いつ膣壁を突くか裂くかという恐怖感、ギザギザ部分が襞に触れる際の快感じみた刺激――頭がどうかなりそうでした。
「触れさせてみろ」
 キンバリーの指図で一方の縄が解かれ、自由にされた手の先がナイフの鍔に触れさせられました。鍔から先を手探りでたどり、すぐ性器の入口に手が行ってびっくりしました。
「あ、ああ、あふ……」
 わたしは腑抜けのように顎をふがふがさせて絶句しました。10センチ内外あった刃の部分、ギザ刃もふくめた金属部分すべてが膣内に没していたことに驚愕したのです。
「さあ、掻き回すわよ」
「ひっ!」
 キンバリーの宣告に仰天しました。こんどこそ惨たらしいことになると確信してすくみ上がりましたが、濡れなければ大怪我をするという恐怖に駆られ、また精神を集中しました。
「ああ、あーあ……」
 過去のあらゆるセックス経験やなにか、記憶を総動員してかかりました。それが表情に出るのか、キンバリーも部下たちも面白がって笑い転げました。
 ナイフが回転しました。ギザ刃が膣壁を刺激し、また愛液がにじみ出たようでした。それを裏づけて下卑た実況説明が吐かれました。
 また、うごめく刃先。鋭い刺激。
「いやああっ、もうダメー!」
 ついに神経の糸が〈ぷつん〉と切れてしまいました。その瞬間、すーっと解放感に包まれ、「もう、どうなってもいい!」と開きなおったとき、ぽたぽたぽたと床にしたたる水音――。
 ぴちゃぴちゃぴちゃ……
 発散するものはたちまち勢いを増し、やがてびしゃびしゃという音に変わると、周囲でどよめき笑いが起きました。
「またションベンかよ!」
 精一杯の嘲りを込めた一言、キンバリーの全身を揺する滝のような哄笑。
 わたしは激しく失禁していたのです。
 隣りから響くドリルとハンマーの騒音――電動器具のモーター音と槌音に混じって、わたしの放尿音がこれ以上ないほど勢いよくぶちまけられていました。





 孔


 脇腹に流れ落ちる自分の汗が、まるで意地悪い愛撫のように感じられました。
 そして、床には失禁の跡――。
〈え? これって、いつかの続き? あれの後? 別の日じゃないの?〉
 薬漬けになってしまったのか、日にちや時間感覚さえ定かではなくなっていました。
「ヘイ、ベイビー!」
 キンバリーがパン、パンと手拍子を2つ打ち、10歳くらいの少年が身の丈にそぐわぬ長い“お掃除モップ”を持って現われ、せっせと床を拭きはじめました。
〈やっぱり続きなんかじゃない!〉
 なぜならば、今は椅子に後ろ手に縛られ、乳首にはワニクチが付けられコードが垂れ下がっていたからです。ということは電気で責められ、その激しさで失神したかしたのでしょうか。
 横を忙しなくモップ掛けの少年が通りかかりました。ボロをまといながらも少女のように美しい横顔。思わず見とれてしまうほどでした。
「もういい、行け。失せろ!」
 汚らわしいモノでも見る目で、キンバリーから激しく追い立てられました。
「なにかの役に立てばと拾ってきたホームレスだけど、乞食はしょせん乞食……」
 邪見に言い捨てましたが、部下からは反論を返されました。
「磨きをかけたら使えそうですよ」
「そうかな」
「でも、ここにガスがいたら1分とは見過ごされないところね。あいつがガスの一物で串刺しにされるところを見てみたいわ」
 英語が通じないのをいいことに、女たちはきわどい戯れ口叩き、退散する少年を卑猥な目つきで見送っていました。
 関心が、またこちらに戻りました。今日はミランダが見当たりません。それに、いつもキンバリーの横に控える黒人女性兵、あの女だけはなぜか別格と思えてましたのに。
「ふーむ」とキンバリーの嘆息。
 椅子に後ろ手に縛られ、観音開きされた膝から先の足首を支柱に縛られた姿。わたしも、つい顔を下に向けて見ましたが、左右に浮き立った恥骨筋を見て羞恥心が込み上げました。
 乳房をひねられました。
「大き過ぎず小さ過ぎず、手頃の大きさだのー」
 呟きながら眺めながら弄びました。
「弾力もいい」
 若い兵士がニヤニヤとまとわりつきました。
「こうして見ると、屈強なレジスタンス戦士もかくやといった感じですね」
 言った途端に厳しくたしなめられました。
「バカめ、レジスタンスなどではないわ。奴らは“赤”のテロリスト、人殺しのならず者で、女は皆、淫売だ! よく憶えておけ」
 頭をもたげた時、キンバリーが拷問装置の前に屈んで細工をしているのが目に入りました。
〈まだ終わりじゃないんだ〉
 新たな不安が胸を締めつけました。
 自分の乳首に繋がっている2本の電線、キンバリーはその内の1本を装置の端子から外し、もう1本と同じ端子に付け直しました。
〈同じ極に……どうして?〉
 疑問は、すぐ戦慄に変わりました。
 さらにもう1本、新しいコードが取り出され、乳首に繋がっていたコードと取り替えられました。こんどのコードの先には直径3ミリほど、長さが10センチほどの細い金属棒が取り付けられています。
〈あれも……電極なの? でも、どこへ繋ぐ気なの?〉 
 金属棒の準備ができると、キンバリーは再び拷問装置のスイッチをバチリと入れ、ダイヤルを回しはじめました。
 装置が、ブゥーンと低い唸りを上げはじめました。でも、わたしの乳首に繋がれた電線は同じ極からでしたから何も感じません。
〈え? なにをする気?〉
 満面の笑みを浮かべたキンバリーが、ゴム手袋をはめた手指に例の金属棒を摘んで振り返ったとき、
〈いやよ! まさか!〉
 顔を歪ませ、弱々しく首を振っていました。
「さぁ、お待たせ。続きよ! 乳首だけなんて物足りないものね」
 横で薄ら笑いを浮かべる部下の一人に、打って変わって冷酷な命令口調で呟きました。
「尿道にローションを、これをねじ込むから」
「いやっ。いやっ、ああぁー」
 必死で逃れようと身をよじるわたしの性器にミランダが屈み込みました。指がわたしの大陰唇を、ぐいと左右に拡げ、それにつられて小陰唇もペロリと割れたのでしょうか、膣孔に冷んやりとした外気が触れました。
「こいつ……グショグショだ」
 部下の呟きに誘われて覗き込んだ別の兵士が嬉しそうにはしゃいでいます。
「このアマ、乳首が感じたんだってよー。拷問で感じてやがるよォ」
 後ろのざわめきなど無視したキンバリーがローションを指に掬い、拡げられたわたしの割れ目の中に入念に塗り込んでいきました。
「ふふ……良い良い」
 満足げにうなずくキンバリーがわたしの性器を拡げ、電極棒を小さな穴に近づけました。
「わかってるな? もう電気は流れてるのよ。この棒がお前の身体に触れた瞬間、乳首との間に電気が流れる……尿道の奥深く挿し込んでやる。さあ、どんな感じがするかしらァ?」
「いやー、いやっ」
 電極棒の先端が尿道口に触れ、
「ヒッ、ヒエッ! ヒエェーッ!」
 わたしの身体がビクンと大きく反応します。キンバリーはそのまま無慈悲にゆっくりと挿入をつづけます。
「さっきションベンをちびった罰よ」
「ウギッ!」
 激痛に反応する、ひときわ高い悲鳴がわたしの喉から絞り出されました。
「いだいッ、いだいでずうぅぅ。やめで、やめでぇぇー」
 感極まった際の濁音絶叫を連発し、再び煮えたぎりはじめた乳房を震わせて痙攣がわたしの身体を襲いました。
「ほら、こうしてやろう。感じるか?」
 キンバリーが電極棒を尿道に触れさせるたび、鋭い痛みがわたしを卒倒させました。
「ギャアアッ!」
 悲鳴を上げて首を振りました。
「ふん、たったこれくらいで……」
 そう呟きながら今度はおそろしく慎重に、ゆっくりと挿入し、それにつれて電気刺激が尿道深く貫通しました。
「ウギャアアッ、キャアアアーッ!」
 耐えがたい刺激、痛撃に、椅子をガタガタ揺らして泣き喚いたのです。
 慎重に小さな凶器を蠢かされるあいだ、鋭い電撃刺激は尿道間をはじき回り、貫通し、ついには膀胱内まで電撃が貫きました。
 内臓をこね回される苦しみの中で、肛門から何かが吹き出すのを身体でも感じました。
 ブビッ、ブスゥゥ、ブリブリ……
 ブビチィィ……!
「うわっ、糞たれやがった! このやろう」 
「くっせー」
「汚ねー」
 聞くに堪えない嘲りを耳にしながら、椅子に乗ったお尻にはブリブリブリとちびる大便の、温みを持ったにゅるにゅる感――耐えがたいおぞましさと羞恥感に死にたいほどでした。
「チッ、準備をかけた割には、さっさと台無しにしやがって!」
 吹き出た大便が飛び散ったのでしょう。ゴム手袋をいまいましげに脱ぎ捨てたキンバリーが、苛立ちまじりに命じました。
「このままつづけろ、たっぷり時間をかけてな! 臭いのは我慢して身体の反応を確かめよっ、痛がりようを録音にでも記録しておけ」
 言い捨てて出て行きました。
 あとは残った部下たちによる電流調教が延々とつづけられました。
「やめて」
「痛いよォ」
「もうダメっ」
 そんな言葉を発していましたが、いつか言葉は言葉としての役目を果たさなくなり、嗚咽混じりの悲鳴しか上げられなくなっていました。
「あがぁぁ……おぉぉん……おぉぉん」
 もう、限界と思った時、ミランダとパオラが入ってきました。
「准将がお出かけよ! みんな見送りに出て」
 ミランダが手を叩いて急き立てました。
「あんたは残って、この女の始末よ」
 馬鹿にしたような笑いをパオラに残し、若い兵士をぞろぞろ引き連れ出て行きました。
 ふっ、と自嘲笑いを浮かべたパオラ。だが、次にはうって変わって、
「いま、綺麗にしてあげるわね」
 手足のベルトを解き、椅子から立ち上がらせると、お湯で浸したタオルで粗相の始末をはじめたのです。その優しさに、わたしは不覚にも涙をこぼしていたのでした。
 そういえば、工事の騒音もぴたりと止んで、隣室の工事は完了したようでした。
 開け放たれたドアから、ジープが走り出すエンジン音が勇ましく響いて聞こえました。




 壁


 廊下の明かりが覗き窓から入り込むだけの暗い独房に、隣室のキンバリーの声が聞こえてきます。
「バカな奴だ、あのジャップ女は」
 誰かが相手のようでした。
「……それはな、ストックホルム症候群といって、監禁生活が長くなると、ちょっと優しい言葉をかけられたりしただけで、自分の味方だなどと思い込んでしまう、とんでもない誤解だ」
「だったらパオラに裏切る心配は?」
 ミランダの声でした。
「あいつにそんな度胸あるものか。有色人同士のよしみ――黒がちょっとマシな黄色に対し、羨望混じりに同情しただけだろうさ」
 吐き捨てるように断定しました。
 その日は不思議と頭もスッキリしていました。昨日から注射を打たれてないせいでしょう。
〈わたしはバカだった〉
 醒めた頭で考えれば、無実の旅行者を捕らえて拷問までして簡単に解放などするはずがありません。
〈それにしても隣りは執務室のようだが、その部屋の会話がなぜこんなにも……?〉
 その疑問を明かすため、この夜ばかりは本気になって追求心を奮いました。
 最初に思いついたことは隣室とつながった換気口でしたが、暗い中でいくら眼を凝らしてもここは完全密閉、壁に境目や空間など見当たりもしません。
 ところが灯台もと暗し。寝ているベッドの耳元に眼を凝らしたところ、壁の一角がくすんで見え、手探りした部分が剥げ落ちて薄くなっていたのに、やっと気づいたのでした。
〈大変だ! これを奴らに知られたら……〉
 焦りと同時に別の考えも――。
 殺害が前提なら拷問室との行き帰り、建物を特定されないためとおぼしき目隠しなど無用。ということは本国送還は無理だとしても、必ずしも殺されるとは限らないのでは……。
 微かな希望の明かりが見えたものの、この壁の破損部分――隣室の会話が筒抜け状態であることは絶対知られてはならないことです。
〈困った。どうすれば壁を元にもどせるか!〉
 思い悩んでいる時に、隣室からキンバリー、ミランダのおぞましい会話が聞こえました。
「子どもの割にはイヤらしい形だな……」
 そう言って「ふふふ……」と含み笑いを発しました。
「ケンドール夫人のオモチャだった期間が長かったですからね」
「たっぷり使いこまれたわけだ。ということは、襲撃テロを手引きしたのはテログループへの協力というより、復讐心からのことか。
 で、夫人の容態は?」
「手当ての甲斐なく、昨日死んだそうです」
「そうか。
 ………む? 今、笑ったな。こいつ、確かに笑っていたぞ」
「そうなの? 答えなさい」
 ミランダの詰問のあと呻き声。それをはね返す気丈な声が凛と響きました。
「殺して! もう思い残すことはないわ」
 また、キンバリーが笑いました。こんどはいつもの無気味な意志を秘めた笑いでした。
「いいとも、望み通り殺してやる。ただし、楽には殺さんぞ。
 そうさな、3、4日はかけて、じわじわと殺す。その間、おまえのココは少しずつ切り刻まれ、焼かれ、壊されていく。それに耐えられるか? 殺してくれと喚くことはないかな?」
 そう言った時、電話が鳴り響きました。
 二言三言応えて受話器を置き、ミランダになにごとか耳打ちしたようです。
 あとから振り返れば、この電話がわたしの運命の分岐点。それまではほんの座興に過ぎず、その瞬間こそが、実はわたしにとって“終わりの始まり”だったのです。





狂 態


 わあっ、と湧き立って、いつもの拷問室のほうが騒がしいようすでした。といって、誰かが責められるような喚き声ではなく、陽気に騒いでパーティーのようでした。
〈なに、クリスマスはまだ先でしょ?〉
 そういえば南米のクリスマスは真夏。それでやることは一緒だからサンタは大汗掻かなきゃなんない、旅行に先だって身に付けた知識に思い出し笑いした時――
「え?」
 喧騒の方角からお迎えです。
 鍵がこじられ、懐中電灯の明かりと共に入ってきたのは男の看守でした。
「出ろっ」と乱暴に引っ立て、そのまま連れて行こうとするので自分から「目隠しを」と申し出たくらいです。
 看守は薄ら笑いを浮かべました。
「もう、その必要はない」
 その言葉はなにを意味するのでしょう。独房から出されるわたしの背筋を冷たいものが流れました。
 独房まえの通路は狭く、右手に明かりと思って一瞥したら別棟との渡り廊下で、奥行きから察して、ここは広い建物のごく一部のようです。
 5メートルおきくらいの天井から裸電球がぶら下がり、その明かりがいちばん近いところに独房の覗き窓があります。
 明かりを3つ越えてすぐが、いつもの拷問室です。すぐ奥の突き当たりが工事の騒音を響かせていた部屋で、ちょうど扉が半開きになっていたので、好奇心から覗きかけたところ、
「こっちだ」
 肩を掴まれ、方向転換させられました。
 ギャハハハハハ………
 ドアが開けられるとすぐ、素っ頓狂な笑い声が飛び出しました。
 タバコの煙が朦々と立ちこめ、安手の香水のニオイをむんむんさせて10人、20人、口紅と厚化粧と派手な衣裳で、一目でそれと分かる女たちの狂気の視線に射すくめられました。
 壁が割れるような哄笑が弾けました。
「道を空けなさい」
 ミランダが片手を差し出すと人垣が左右に分かれ、人の壁の間の向こうに椅子にふんぞり返ったキンバリーが見えました。
「さあ、ここを通って閣下のまえまで行け」
 ドーンと背中を押されました。
 観念して女たちの間を歩きはじめました。
「こんやの生け贄はこいつか」
「なんだ、おばさんじゃんか」
「歳は?」
「中国か? 朝鮮か? アカの国の女か」
 ぬうーっと手が伸びて、囚着の上から胸や腰を撫でたりさすったり。短い距離を歩いて行くまでのあいだ、一枚きりの衣服ははだけ、たちまち丸裸にされました。
 よろけながら、たどり着くと、泥酔した眼をとろんとさせて、キンバリーが椅子からすっくと立ち上がりました。
「口を開けろ」
 ミランダが、すかさず金属製の奇妙な形の開口具をねじ込みました。無理矢理口を開けさせられ、惨めな呻き声しか上げられず、頭のなかでは〈なぜ? どうして?〉という煩悶。
 突然キンバリーがズボンを脱ぎました。
〈キンバリーの裸……どうして? ウソでしょ!)
 狂ったかと思いました。あの魔女が衆目のまえでブーツを脱ぎ、軍服の下半分脱ぎ捨て、ショーツまで降ろしました。弛んだ腹の下に栗色の陰毛が茂っています。
「昨日はシャワーを浴びてない。少し痒くていかん……こいつめ、最後まで飲み切れるかどうか。一滴でもこぼしたらどうするか……」
 独り言を呟き呟き、床に膝を着かされ、半身を後転させられた顔の上にキンバリー准将の股間が近づきます。
「うぐうーっ!」
 必死に抗いましたがビクとも動かせるものではありません。
 栗色の陰毛の茂みにパックリと割れて拡がったクレバス――ぬらぬらとイヤらしく光って見えます。両側に垂れ下がった、びっくりするほど大きなどす黒い小陰唇、むせ返る強い臭気がわたしを襲いました。
 顔の上でしばらく静止していたその部分がヒクヒクと蠢いたかと思うと、出し抜けにビュッと濃厚な臭気を放つ液体が噴き出しました。一瞬止まり、そして連続してジャァァー、と噴き出してくる准将の尿!
「うぐっ、うげええーっ!」
 一滴でもこぼすと乳首を抉り取ると脅されていたわたしは、必死に意識を集中して自分の喉に飲み下す動きを強制しま した。
 周りの女共は、やんやの喝采でした。
 強烈な吐き気が襲いました。胃液と尿とが一気に逆流し、それでも口枷に漏斗で吐き出すことができず、鼻腔奥の粘膜を焼くような嫌な感覚とともに、鼻の穴から逆流物がタラタラと流れ出すのを感じました。
 そんなことにはお構いなしに勢いよく噴き放たれるキンバリーの尿。
〈まだ止まらない。一体どれだけ出るの? もうイヤ、許して……あーぁ……〉
 塩分とアンモニア、それに加えて酒に分解されたアルコール毒素のとぎ汁――腐乱した老廃物を思わせる生臭い味が口いっぱい広がり、それを飲み込んでいかなければならない屈辱、耐えがたい嘔吐感。
 ようやく出尽くしたらしく、涙目のわたしの目に映ったのは気味悪く濡れ光った小陰唇が、尿の滴をポタポタと滴り落としながら遠ざかっていく光景でした。
 取り囲んで儀式を眺める娼婦たちが話し合っている声が聞こえてきました。
「見て見て、この女! ションベン飲んで乳首おっ勃ててるわよ」
「閣下のを飲ませてもらって興奮してるんだ。切り取ったらどんな声出すか」
「この年なら、もう用済み。抉っちゃえ抉っちゃえ」
「でも、一気に落としちゃダメよ」
「カミソリで皮を剥いで、ゆっくり削り取って行くほうが面白いかも」
 酔っぱらい女たちの常軌を逸した戯れ口に〈ぞっ〉としました。また、酔った目つきの異様さはキンバリーもおなじで、天性の鬼畜性癖がアルコールの助けを借りてどんなことになるやら……
「あらぁ、乳首だけ? クリトリスも抉り取ってやろうよ。それにこの陰唇も……」
 大勢のなかでいちばん先輩格らしいのが、わたしのラビアを指で摘んで引っ張りながら、
「カミソリで付け根から削ぎ取ってやろうよ! 止血は勿論焼け火箸でね」
 怖ろしい女です。この娼婦はキンバリーの分身ではないかと思ったほどです。
 やがて下着を着け、ズボンをはき終えた准将がパンパンと手を打ち鳴らしました。
「お開きよ! みんな、元の所定の持ち場にもどって、兵隊たちのお相手を勤めて……」
 さあ、さあと手で払って追い出しにかかったのです。
〈なんだったの、あの人たちは……〉
 床に尻餅着いたまま呆然と見送りました。
 化粧臭い女たちが引き潮のように去ったあとにはパオラだけ、今夜は軽薄な若いギャル兵は一人もいないようでした。
 キンバリーが後ろ髪を掴んで顔を振り向けさせ、酒臭い息を吐きかけながら囁きました。
「おまえだけに教えてやろう。わたしは本国に帰れることになった。10月に入れば、もう、こんな国ともおさらばだ」
 あの電話がそれかと合点しました。
 でも、知らせはそれだけではなかったのです。
「今日な、アメリカ人の死が確認された。これで今回の事変で“処刑”された同胞は2人目だ」
〈処刑……?〉
 キンバリーがなぜそんなことを言うのか、相手の真意が掴めないいまま耳をそばだてました。
「もちろん、処刑は本国の意向でもある。アカにかぶれた詮索好きの若者でな、事変まえからあちこち尋ね歩き、よけいな知恵を付け過ぎた。国家にとっては厄介者というわけだ」
 わたしの中で、なにかが音を立てて崩れはじめました。
 キンバリーのお喋りはつづきます。
「国益のためならアメリカは自国民をも殺す。それがどういうことか分かるよな、同盟国でもあるジャパニーズの利口なお嬢さんなら」
 そう言って頭を押しやり、大股歩きで出て行きました。
「ううっ」
 わたしはまた額にじくじくと脂汗を滲ませましたが、こんどの嘔吐感はもちろん、飲尿責めなどのせいではありませんでした。
「連れて来ぉーい!」
 さっき半開きだった部屋からキンバリーの声。パオラが手を引いてわたしを立たせ、脇を支えて歩き出しました。
 猿轡(さるぐつわ)でもされているのでしょうか、くぐもった悲鳴が聞こえ、廊下の突き当たりの部屋ではキンバリーが椅子に腰かけ、生体実験される捕虜の苦しみようを見物していました。
 ミランダが見慣れた装置のダイヤルを操作しています。そばには全裸の男性が四肢を広げ、脚立型の拷問椅子に縛りつけられていました。
 わたしは目をみはりました。
 年齢は20代後半、引き締まった細身の体躯は精悍そのものでした。
「ゥゥゥー、ゥゥゥー……ングゥゥー」
 猿轡の口から低い唸り声を漏らしています。 身体には何本もの電線、両乳首にはワニクチクリップ、2つの睾丸を包み込むように、針金が袋状になった電極が取り付けられ、肛門にも電極が挿入されているようです。
 そしてペニス! 亀頭の両側に付けられた電極は、1センチ幅の弾力性ゴムベルトを巻いて取り付けられています。
「ムウウゥーッ……」
 絶え間なく続く呻きと微かな痙攣。電流が流されているのがありありです。
 それにしても彼のペニスは電線をぶら下げながら天を突くように勃起し、そのペニスを前へ突き出すような格好に身体をのけ反らせ、激しく頭を左右に振って涙を流しているのです。
〈なんて立派な!〉
 その一瞬、過酷な現実を忘れて見とれたほどです。
「拷問で射精するものかどうかの実験だ。
 ミランダが言うには、ペニスへの電気刺激で射精が可能とのこと。それで朝から実験させているのだが、どうしたもんか……」
 自説通りにはいかないらしく、ただ、キンバリーには実験成果などどうでも良いことで、間近に控えた帰国の上機嫌も手伝って子どものようにはしゃいでいました。
「やっぱりダメか」
 とうとう痺れを切らしました。
 部屋の隅にあるベッドに目を向け、そのあとわたしに目を移し、気味悪い笑いを浮かべたものです。
「おまえにストリッパーになってもらうぞ! 女の股ぐらを眺めれば元気になるやも知れんからな」
 そう前置きしておいて命じました。
「脚を大きく開いた姿勢でそのベッドにへばりつき、ケツをこっちに突き出すんだ!」
 すぐには呑み込めず、おろおろしているとパオラが見かねて手取り足取りしました。
 キンバリーが陰唇に電極を挟み付け、わたしの身体にも通電が始まりました。
「わあーん、うああーっ!」
 電流が次第に強くなり、それに合わせて身体が痙攣を始め悲鳴が漏れ出します。ほどなくわたしは激しくお尻を、自分の意志とは無関係に、振り始めていました。
 キンバリーの指がわたしの割れ目を捉え、クチュクチュとこね回したりもしました。
「ほら、よく見ろ。この女も電流を流されて、もうこんなに濡らしておるのだぞ! どうだ! 早く精液を出せ!」
 そうして「睾丸への電流をもっと上げろ。ペニスのもだ。もっと強くしてみろ」とミランダを急き立て、哀れな男性囚の呻き声が一段と高くなりました。
「むぐうー。むぐぐぐうー、ぅぅぅぅー……うっ! うっ! うぅ、うぐむぅぅー」
 呻き声が変化し、男性の体に何が起こったか声だけでわたしにも分かりました。
「ほう、やっぱり大した物だな。効果ありか」
 感心したように呟いたキンバリーは、しかしちょっと失望した言葉も続けました。
「ううむ、これではもう精液とは言えんな。見てみろ、白くないぞ」
「“種”がないんですかねぇ」
 悲鳴をあげ、身体を悶えさせているわたしと男性の苦しみを単なる座興に、無責任な馬鹿話が面白そうに交わされました。
 10分、20分……一定電圧を保ったまま通電はつづけられ、結局射精は実現することはありませんでした。
「やめたやめた、もう止めてやれ」
 その言葉でやっと解放されることになりました。
 わたしは、ガックリと力を失い、急に寒けを覚えました。南米の9月は冬から春になったばかりで、裸でいるには辛い時季でした。その辛さを通り越しての悪寒でした。
 キンバリーがなにか言いつけかけた時、パオラがわたしの身体の変調に気づきました。
「大変です、ジュンコがひどい高熱です!」
「なに? だったらミランダ、おまえがバーボンを取って来い」
 代わりに用を言いつけて立ち上がりました。
 その間パオラはわたしをベッドに寝かせ、どこからか運んできて布団まで掛けてくれました。
 そこへミランダがもどり、洋酒瓶といっしょに注射器まで用意していました。
「わたしは医者なのよ」
 つっけんどんに言ってパオラを押しのけ、キンバリーに酒を渡すと、布団からわたしの手を引っ張り出して、注射を済ませました。
「これで明日には熱は下がります」
「この女ではまだまだ遊ばせてもらわねば……さっさと良くなれ」
 面倒臭そうに言った後、
「もう良い。あとはミランダと……おまえは自分の寝所に……あーあ」
 欠伸を一つした准将に一礼し、パオラが心配そうな一瞥を残して部屋から出て行きました。
 残った2人の所業が気が気でなかったのですが、注射の効果に助けられ、いつしかわたしも深い眠りに落ちたのでした。





悪魔の振り子


 夜中、暗い中で目を醒ましました。
 部屋の隅がぽっと明るくなり、ひそひそ声がしました。
「一度電気を止めろ。あ、いや、乳首と肛門のは流したままにしておけ」
「睾丸とペニスのだけ外すんですね?」
 そうして作業をしているらしく、ガチャガチャと器具がこすれる音がしました。
「新しいメスね。安物は切れないからダメよ」
 キンバリーのその声の直後、
「うおーっ!」
 獣の咆哮のような烈しい声が叫ばれました。
 即座に「静かにしろ!」とミランダの叱責。
「ここで首を掻き斬られたいか」
 本気でやりかねない口ぶりに、男囚はただただ狼狽するばかりでした。
「電気拷問で痛覚がマヒしているから、なんでもないことよ」
 キンバリーが猫なで声でなだめすかしました。
「袋をハサミで切って中から摘出しなさい。繋がってる組織はなるだけ痛めてはダメよ。取り出した睾丸を責めて痛みを感じなくなったら面白くないもの。それが終わったら次は……」
「わぁーっ!」という男性の悲鳴で、あとの言葉が聞き取れませんでした。
「ムグググーッ、ムグウウーッ!」
 床をバタバタさせて、悲鳴と呻き声がひっきりなしに聞こえるようになりました。
 ミランダの黒い影が沈んで、キンバリーもいっしょに押さえかかることで、男囚の裸の股間のあたりが間接照明のなかに、ぼんやりと映えわたりました。
 キンバリーの手が見え、一瞬、金属製の冷たい光を発してハサミが差し込まれました。
 そして耳を、耳をつんざく叫び声が――
「ギャアアアーッ……!」
 ハサミがザクッとうごめき、ぴゅうっと血が飛んだようにも見えました。
 布団の中から顔を出して、ちらちらと目をやる先に血が――力み返って筋肉をぴくぴくさせ、ぶるぶると震える脚。固く押さえつけられた男囚のたくましい足と床のあいだから鮮血がゆっくりと流れ出すのが見えました。
「取れたーっ!」
 素っ頓狂にはしゃいで、なにかをつまんだ指の手を高々と差し上げるミランダ。いつも無口で、冷酷を心に押し隠している彼女からこれほど嬉々とした叫びを聞くのは初めてでした。
「ウガァァァ! ウグゴゴォォォゥ……!」
 地獄の底から響いてくるようなケダモノじみた呻き声――。
 高く差し上げたミランダの手を、腕を伝って血がぽたぽたと床にしたたり落ちていました。
〈お願い! もう声を上げるのはやめて! お願い! もう終わったのよ、痛みは去ったのよ! もう黙って! 気が狂うわっ!〉
 布団をかぶってガタガタ震えるわたしの頭に、男囚の呻き、叫びにダブって、サンチャゴ市内の狂乱が強烈な記憶として甦りました。
 機銃の乱射音――
 男たちの、女たちの悲鳴と絶叫――
 また、キンバリーの囁き声――。
「次はペニスね。新しいメス持ってきて。そう、ちょっと細身のやつ」
 カチャカチャと金属音が耳障りに響きます。「うん、いいわ。これをこうやって差し込んで……」
「うふふ」とミランダの笑い声。
「ほら、ぴったりのサイズ」
 その直後、
「ゴゴゴォァァァ!! フグッ! フグッ! フゴゴゴゴ!」
 つんざく断末魔に耳をふさぎながらも、わたしは見てしまったのです。銀色に輝くメスの鋭利な刃先が鈴口に入りかけたのを――!
「きひひひひ………」
 嬉しくて堪らないという顔で食い入るように見つめるキンバリー、ミランダの左手はペニスを握り、右手がゆっくりとメスを移動させました。
「ギャアアアーッ!」
 さあーっとほとばしる鮮血。銀色の柄が不自然にペニスに沿って移動していきます。
 布団に頭を突っ込みました。
 必死にふさぐ耳に、それでもなお悪魔の声が――。
「二つに分かれたわよーっ」
 嬉しそうに響く嬌声。
「こんなになってるんだー……」 
 かたく瞑っているはずの網膜に一瞥しただけの残像が灼き付いて消えません。
――精悍な若い男の股間。そこにぶらさがっている破れた革袋と、左右に裂けて白っぽい内面を晒している肉片。そのいずれもが真っ赤な血潮をドクン、ドクンと吹き出しているのでした。
 また、にわかに瘧(おこり)を生じました。
 わたしは心の中で叫びました。
〈ブランカ、助けて! お願い、ブランカ!〉
 アンデスの山並みを背景にしたいつかの夢に出てきた女性――この世で唯一無二の友であり、恋人とも思う同性の面影を求め、すがる思いで何度も何度もその名を呼びつつづけているのでした。

―第4章「壊れゆく“わたし”…」へ


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●マルガリテ/純子__嵐のなかで…●

カット写真 純 子
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