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壊れゆく“わたし”… |
| ●●● 写 真 |
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ぎゃああああーっ…… 記憶の闇の彼方から聞こえる叫び――。 |
| ●●● 餌 |
| 明かりを落とした執務室の暗がりで、受話器を固く握り締めてキンバリーが猛禽の目のまなじりを吊り上げていた。 「……『まだ呼び戻せぬ』とはどういう意味ですか? すぐ帰れるはずじゃなかったんですか!」 それからは一方的に聞いている風だったが、憤懣やるかたない表情は最後まで和らぐことはなかった。 キンバリーが憮然として受話器を置いた。 酒瓶に手を伸ばしたが諦めた。ツマミと一緒に置かれたバーボンはすでに空だった。 「こうなったら、なにか手柄を上げてねじ込むしかない。そのためにもブランカと……!」 と、半開きのドアのまえに佇む人影。ぎょっとなって目を凝らしたらパオラだった。 「入る時はノックくらいしろ」 「何度もしました」 明かりを点け、“忠実な黒人顔”と向き合う形になった。 「リッチの店での収穫は?」と、用とは別のことを訊きただした。 「再度の捜索でもなにも見当たりません」 「襲撃が奴の仕業であることは間違いない。わたしの直感に狂いはない」 「でも、カジノでの米人夫妻殺害までは、ベトナム戦争に批判的なこと以外では、ただの安酒場の主(あるじ)に過ぎなかったじゃないですか」 「どうかな」 猛禽の顔が凄みを利かせたが、それが一転、相好を崩した。 「そうだ、ハポネス(日本人)だった」 「お連れしました」 いったん畏まると、廊下に待たせてある純子を引き連れた。 「よし」と頷き、パオラへは「下がってよし」 ドアが閉められ、こんどばかりは鍵をかけた。 テーブルに広げた酒やオードブルを眺めながら、純子がうっかり腹を鳴らした。 「さあ」 魔女が顎をしゃくった。もう、それだけで反射的に囚着のボタンを外して全裸になった。 身体のところどころに赤アザ――拷問による電流斑が、随所に刻まれていた。 乳房に触れた。と、電気を受けたように全身ビクついた。それに続けてぶるぶる震えだした。 「も、もう拷問は……」と、涙目になって哀願した。 乳首には固くこびり付いた血の痕も見えた。 「酷いのー」 この口から、そんな白々しい感想が出るのか。 絨毯の床を指して「座れ」、次いで「正座姿勢を取れ」。なるようになるしかない。 洋酒棚から新しい瓶を出すと再び腰かけた。 「おまえも食え」 そう言って純子の横を目がけて食べ残しの骨付きチキンが放られた。 「犬のように食うんだ。手なんか使うな」 内心〈むっ〉としたが、すぐに両手を着き、肘を曲げてむしゃぶりついた。空腹が反発心をねじ伏せ、ガツガツと平らげた。 “犬”の見物を極上の肴に魔女が酒のピッチを上げた。 チキンに飽きると牛の干し肉を放った。 「それ、四つんばいで這って拾え」 つぎつぎと所を変えて飛ばし、猟犬のようにけしかけて取りに行かせたが、のそのそと馴れない足取りが犬というよりは老いぼれ猫だった。 やっと酔いが回ったキンバリーが、立って行って正座姿勢を崩させた。 「美味そうな脚だの」 手がふくらはぎを撫で、太腿を撫で、別の手は上体を前に倒して尻を突き出させた。 「昼間は何をされた?」 そう訊いたら消え入りそうな声で、 「お尻を……」 一言呟いた顔がはにかんだ。 「そうか、尻をな」 生唾を呑む音が耳に付いた。 「……………」 無気味な沈黙。その部分に視線を痛く感じた。 「可哀想に、フィスト皺が出来ておる」 ぴちゃぴちゃと水音。その時にはキンバリーが自が指を口に含む音、次いでそれが肛門に分け入って、尻壺をなぶり回す音に代わった。 「あ……」 男並みに太い指で掻き回され、荒っぽさが加わるごとに痛みは少しずつ倍加していった。 「うう……」 「痛いか。痛いだろうな」 一時、指が出し入れされたが、どうしてだろう、あの悪魔が今夜に限っては慎重に、まるでガラス細工でも愛おしむように気持ちを込めた。 突然、「おおーっ」とケダモノの咆哮。 キンバリーの手が自分を軽々と抱き上げ、横抱きにしてベッドへと運んだ。シーツに横たえ、猛禽の眼をぎらぎらさせて軍服を脱ぎはじめる。 キンバリーの裸は見たことがある。そう、いつかの乱痴気騒ぎの際、尿を飲むことを強要された後、下半身パンツまで脱ぎ捨てた裸で顔の上に覆い被さったのだった。 ただ、今のキンバリーはあの時とは明らかに何か違っていた。 魔女が下着まで脱ぎ捨て、純子と同じ全裸になった。 「むふぅー」 再び獣の咆吼。今度ははっきりと聞こえた。キンバリーの長身がベッドを軋ませながら上がってきた。戸惑いと恐怖とで身体を横向きに、手脚を縮めた純子を跨いで覆い被さった。 荒々しく肩を掴んで、清潔なシーツの上に放り投げるよう仰向けにされた。そして両腕を万歳姿勢させてベッドに押さえつけた。 巨大な乳房が否応なしに目に飛び込んだ。 「ここに電気を流されたんじゃの」 そう呟きながら、ざらざらとした舌先が乳首を小突き、転がし、乳輪ごとカッポリと口に含んで吸い付いた。 「噛んだら、痛いかの」 やさしげにそう言って前歯で、拷問でヒリヒリ痛む純子の乳首を咥えた。 「あ! 痛いっ」 思わず声が漏れる。こんな女に自分の身体を愛されるなんて、虫酸が走る話……と、これまでなら蛇蝎(だかつ)の如く嫌うはずなのに、今、この時の心臓は甘美に高まりを示し始めていた。 「お前も、吸ってくれぃ」 キンバリーの乳首が、純子の唇に触れるまで降りてきた。 〈いっそ咬み千切ってやろうか〉 一瞬、脳裏をかすめた敵意――。 しかし長い間、辱めと拷問を続けられた身体が「優しくされたい」と渇望する感情にあっさりと流し去られ、純子が舌を出し、キンバリーの乳首を優しく舐め返し迎え入れた。 猛鳥の顔つきからは想像できない白い肌に薄い褐色の巨大な乳輪、そして乳首が純子の舌に反応して尖ってくるのがわかった。 「うう……むっふぅぅ」 呻き声を漏らしながら、〈こっちも〉と言わんばかりに、もう片方の乳房も純子に含ませる。純子は必死だった。この猛女の情を乞うことができるようにと、乳首への刺激を続けた。 と、いきなりキンバリーがガバと起き上がり、部屋の片隅からロープを持ち出した。 「腕を拡げろ」 やはりそうかと思った。 いつもどおりに命じると、手際よく純子の両手首をベッドのフレームに縛り付けた。足をM字開脚し、閉じることができないようにそれぞれ膝の下の部分を縛り上げていった。 「心配するな。今夜は拷問はせん」 その言葉に少し安堵した純子。おとなしくされるがままになった。 縛って拡げられた両脚の膝を、ぐいと押されて更に大きく拡げられた。 陰唇が開いたのだろう、膣口に外気を感じた。 キンバリーの指が大陰唇を左右に押し開いた。ヌラリと濡れた純子の小陰唇は、すでに十分充血して鋭敏になっていた。舌がその肉襞を押し割って侵入を始めた。 割れ目の下から上に向けて舐め上げた。ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ……犬が水でも飲むように、キンバリーは激しく頭を上下に振りながら、湧き出す純子の愛液を啜りむさぼった。 続いて片方の小陰唇を、唇に食わえて吸い上げた。口の中に吸い含んだ薄い肉襞を前歯で優しく噛み、刺激を加える。陰核の包皮が剥き上げられ、ピンク色の女の核が露出された。 「これも拷問のポイントだが、心配するな。ミランダたちにはやらさん。わしがそのうちにな……」 気休めにもならないことを呟きながら、キンバリーの舌先は今度はその陰核を激しく刺激し始めた。同時に、純子の肛門まで垂れてきた愛液を指になすりつけると、そのままズボリ――。 「う!」 肛門にねじ込まれた刹那に短い声が漏れた。 陰核への刺激に肛門への指攻撃が加わった。長くて太い指が純子の直腸の中を掻き回し、ヌチャヌチャと汚らしい音を立てながらリズミカルにピストンの刺激を与える。 「あ、あ、あぁぁ……ぁぁぁぁ……」 それまでは必死で我慢していたが、耐えきれず甘い声が純子から漏れ始めた。それがさらに、肛門を貪るキンバリーの指の動きに拍車をかけていった。 「あぅ。い、痛い……です」 「フン、何を言うか。これくらい我慢せい! 好きだぞ。わたしはとうからおまえを好きに思っていたのだ。好きこそゆえの憎さじゃ」 陰核を舐め続けるキンバリーが、信じられない言葉を言い放ちながら再び純子の割れ目に鼻と口を埋めていった。 双弁(ラビア)を指で摘み、引っ張り、陰核の包皮を剥き上げては、細かく指を震わせて刺激を与えられる、じくじくと湧き出る愛液をキンバリーがやさしく啜った。 「おう、おう」と噎びながら飲み下していく。 指が再び肛門をまさぐった。 純子はもう締めることをしなかった。拷問された痛みは残っていたものの、力を抜いてキンバリーの指を受け入れた時、ふと、淫辱の記憶が蘇る。 女兵士たちに囲まれ、弄ばれる中で同じように肛門を指で掻き回され、聞くに耐えない言葉で嘲笑われた時の火の出るような羞恥の記憶。だが、それも一瞬だった。 キンバリーに対する深い憎悪と拷問への恐怖、その感情も、たった一晩の爛熟した倒錯の性の饗宴が、快楽が洗い流し、消し去った。 「ああ! ああ、ああーん!」 痛みを越えた快楽のよがり声を上げながら、純子はなりふりかまわず悶え続けるのだった。 |
| ●●● 拷問授業 |
| 翌日は、迷彩服を着た10数人の若い女性GIたちの目に晒された。ただし、キンバリーは不在で、その代わりをミランダが務めた。 無影灯の明かりの下に、いつもは素通りするだけの開脚寝台が、開脚部分を仕舞われたシンプルな寝台としてそこに存在した。 〈いよいよこれに乗せられて……!〉 純子がドキドキする思いで凝視した。 寝台部分の下のレバーやハンドルが〈いかにも〉な印象の本格的医療寝台。それが今、操作によって背中部分や腰部に微妙なリクライニングが施された。 「さあ、みんなに自分の体をとくと拝ませな」 チキータが、まずは侮蔑の眼差しでうながしたが、その後が違っていた。 囚着を脱ぐ純子を指揮棒が差した。 「年齢は37歳、アジア種の健康体。歳のわりに肌にたるみはなく、乳房は大き過ぎず小さくもなく、検体としては申し分ない身体」 まるで家畜の品評会のような口上を述べた。 屈辱を噛み締め振り返ったところに卑猥な笑みを湛えた軽薄そうな女性GIたち――あの魔女に尿を飲まされたドンチキ騒ぎの時にもいたが、こんなに大勢は初めてだった。 〈これが全部キンバリーの親衛隊……?〉 その思案の間もチキータの口上は続いた。 「テロリストのジャップ女をこれから拷問にかけるが、これは尋問マニュアルの授業でもある。一同、気持ちを引き締めて見学するように」 今日に限っては兵士の規範を発揮した。 ミランダが顎をしゃくると、チキータが鞭を振るい、尻を打つ威勢のいい音が響いた。 「さあ、上がれ……違う違う。頭はこっちだ」 当然、足載せ台の取付部が出ている方に足を伸ばして座りかけたのに逆だという。 〈どっちだって関係ないわよ。拷問される身に変わりはない……〉 捨て鉢な気分で向きなおった。 ミランダが耳打ちで命令を伝えた。 大きく頷く残忍そうな笑みの黒人顔が、いったんその場を離れ、ミランダからベルトを渡されたギャル兵が純子の拘束にかかった。 手が頭の上で組まされ、手首にベルトを巻かれて固定された時、チキータがペンチと針金ようの物を持参して戻った。 〈針金? いや、違うわ、ピアノ線だわ〉 友だちのフラワーアレンジメントを手伝った記憶から確信した。 無影灯の明かりに映える銀色の針金。キラッと見えたのはそればかりではなかった。寝台の縁外に出されて拘束された足の付け根、無防備に晒された中心にも周囲の目は集まった。 ミランダの手が伸び、股間の繁みを掻き上げて指が淫裂を広げた。淫靡な赤肉が覗いて、ぬめって輝くピンクの淫肉が衆目に晒された。 「あ。あんなに濡れて……」 「ということは、このオバサン、マゾ?」 ギャル兵の盛んな嘲笑にどっと湧き立った。 「マゾを拷問しても効果ないんとちゃいます?」 テキサス訛り丸出しの質問にミランダが過敏に反応した。 「今のは誰?」 悪びれもせず手を挙げたのは、見物人の中では場違いなほど年長の女だった。 「ローラといいます」 「歳は? 出身は?」 「もうすぐ27。ミッドランドの出です」 「それだから“テキサスの田舎者”といわれるのよ。あなた、ろくな男と結婚しないわよ!」 寡黙なミランダが、この場はめずらしく1フレーズ以上の叱責を表情を荒げて発した。 ペンチを振るうとピアノ線を1本、2本、それぞれ15、6センチ長に正確に切り揃えた。 〈いったい何を!?〉と、それまでは後方に控えていたパオラまでが、おぞましい予感に惹きつけられて数歩近づいた。 ミランダが、新たに2本の細い皮ベルトを使って乳房の根元を搾り上げた。白魚の指が乳首をつまむと、クリップの食い込みでできた生傷が、なお痛々しく周囲の目に触れた。 能面顔が、ベルトの上に張り出した乳房を手の平でまさぐった。指先が乳首の下のコリコリした部分を探り当てた。 「う……痛ッ!」 激しく顔をしかめた時、ピアノ線の先端を短く持って狙いすました。 その瞬間、周囲がどよめいた。パオラ以外の面々が期待に顔を輝かせた。 乳首を襲う小さな痛さが、ブツリという酷い痛みに変わった時、 「うーっ!」と、暴れる純子の上体をチキータとギャル兵が押さえつけた。 ミランダが針金を持つ手に力を込めた。瞬き一つせず指先に全神経を集中する顔。猛々しいだけの猛禽の目とは違う冷徹な観察者の眼――。 「く、くひいーっ!」 惨たらしい刺痛。 さらに次の瞬間、観察者の眼は拷問者の眼に変わり、針が乳腺に沿ってぐっと刺し貫かれた時、純子はこの上ない激痛に目を剥いた。 「ぎえっ」 頭の上で組まされた手が固く握り締められ、痛みをこらえるあまり全身がカッと熱くなり、脂汗がじくじくと滲み出るのを感じた。 「く、くくーっ……」 歯ぎしりしながらも必死に耐えた。 能面が指先を器用に操り、押し込んでは摘み、摘んでは押し込んでを繰り返して、15、6センチあったピアノ線のあらかたを刺し込んだ。 「あ、あーっ……」 トーンの低い呻きが甲高い悲鳴に転調しかけた時、2本目のピアノ線が突き通された。 「ううっ!」 必死に耐える意志が頬をぴくぴくさせた。 乳腺に針金を通される実感はグリグリ、ブツブツブツッ……と音には聞こえないものの、まさにそういう感覚だった。 「写真の女の正体は」 「し、知らないっ! 知りませんっ!」 尋問するチキータと否定する純子の掛け合い。 とうとう乳首には3本ものピアノ線が突き通され、先端からキラキラした針金の先が飛び出た。 ミランダの操るピアノ線がまた1本―― 「痛いっ! うーっ!」 グリグリ、ブツブツッと、もう片方の乳房にも3本のピアノ線が刺し通された。 涙にかすんだ目で恐る恐る変わり果てた自が乳房を見た。 双つの乳房の先端から、それぞれ3本の針金。銀色に輝いて見える細長い凶針。ただ、それらは刺され終わってみると不思議と痛みは感じなかった。 また、おなじみの装置が、ワゴンごとガラガラと不細工な音を立てて引き出されてきた。 〈まさか!?〉 そのまさかのコードが合計6本、乳首から飛び出している銀色の針金の先に結ばれた。 「さあ、写真の女のことを!」 「ガイドのマリアよ、それ以外のことは……」 痛撃はこんどもだしぬけにきた。真っ赤に焼いた無数の針がミシン針の往復運動のように両乳首を刺し貫き、千切り取られる痛みだった。 「ギャアアアアーッ!」 「言え。言ってしまえば楽になる」 チキータの詰問に首を振って喚き狂った。苦しまぎれにのけぞった時、乳房が揺れてコードも右に左になびいた。ピアノ線が光を反射してキラキラした。 「ウギャアアアーッ!」 泣き叫び、苦しまぎれに後頭部を台に打ちつけたりもしたが、すぐに押さえ込まれた。真っ赤に灼熱したブラジャーで掻きむしられる痛さに加え、凄まじい衝撃に叩かれる乳房。 「ひええーっ!!」 背中を精一杯弓なりに浮かせた時、天井を向いた乳房の先端、乳首から突き出た銀色に光る針の根元から血が流れた。 チキータが根元を締め上げ、ぱんぱんに張った乳房を掴んだ。 「そら、言えーっ」 もう片方の手が、こんどはコードを付けた3本のピアノ線を鷲づかみにして捻りあげた。 「ウギャァァァーッ!」 さらに乳首をしっかりと指で摘み、そこから乳房の奥深く侵入された凶線をピストンのように細かに出し入れして女の肉の内奥をほじくりかえす責め苦を加えた。 「うえっ、ヒエエーッ!」 信じられない激痛に後頭部をのけぞらせた。 新たな流血が二筋、三筋、真っ赤な線を描いて滴った。 「ほらほらほらァ、早く吐いてしまえよっ」 チキータの顔が恍惚とした。頬が引きつり、瞳が妖しくぬめった。狂ったようにピアノ線を突き動かす手が、一方の乳房、そのあと、もう片方の乳房と、徹底した乳房責めに興じ狂った。 「さぁ、喋れっ。吐けっ吐けーっ」 「ヒギャ。ヒギャアァァァ、ウギイ。ウギギィィーッ!!」 ミランダの手がスイッチを止めた。 どっと純子の身体が崩れ落ちた。 「はあー、はあー、はぎぃぃー、はあー……」 荒々しい吐息が縛られた乳房を激しく上下させる。その間、電流の余波が、赤く、熱く、ちりちりと乳房の中を走り回っていた。 「どうだ? 話す気になったのか?」 容赦なくミランダが詰問する。 周囲は、今ではシーンと凍り付いていた。 「お、お願い、もう許して……本当に、知り、ませんので……」 精魂尽き果てた体の純子をミランダが一瞥した。能面の顔が、無情に冷酷にスイッチをひねり、純子の身体が拷問台の上でのけ反った。 「グヒャァァァーッ! ヒギギィィ……」 拷問電流を流し込まれる乳房をこれ以上はないほど突き上げ、激しく痙攣させた。 「ウギャ、ウギャァァ……ユルジデ、ギャウ、モウ、ユルジデェェーッ」 苦痛のあまり無意識に吐いた日本語に、静まり返っていたギャル兵が再度湧き立った。 「バカっ、クソぎたない国のクソ日本語など喋るな!」 怒って罵ったり純子の頭を叩いたりした。 「電圧を上げるわよ。そうね、10ボルト」 そう脅しておいてダイヤルがククッ……と回された。気が遠くなるような衝撃痛に、「くぅー」という甲高い呻きを発した。歯ぎしりの音までが聞こえた。 再度スイッチが切られた チキータが「喋る気になったか?」 激しい喘ぎを洩らす純子が、同時に全身をぶるぶると震わせた。凄まじい電気責めによる後遺痙攣だけでない死への恐怖の震えもあった。 「お願いー、もうやめてー。もうやめ……ゆ、ゆるしてくださいー。あ、あぁーん。ひいぃーん……」 ぐすぐすと泣きじゃくりながら哀願した。 ミランダが顎をしゃくって指図し、「人」の字拘束の脚の戒めを解かれた。 白衣の身体がやおら立ち上がった。自ら純子の両膝を掴んで観音開きし、チキータが上官の意志を察して純子の前に屈んだ。 「淫乱のマゾ女め。濡れ具合を見てやる」 片手が陰唇を押し広げ、もう片方の手指を膣にねじ込んだ。ヌルリと指が入り込む。ぬちゃぬちゃと音を立てて掻き回される異物感に、純子が弱々しく抵抗して眉をしかめた。 「ワァ! 濡れてるぅ! やっぱり拷問で感じてやがるよォ」 バカギャルの素っ頓狂な笑い声。軽薄の目が一斉に純子の身体に、乳首からピアノ線を飛び出させた姿に集中し、興奮に湧いた。 「くぅ、くぅぅ……ゆるして……ゆるし……」 純子が息も絶え絶えといった体で呟いた。 「ほんとはこんなことしたくないのよ」 能面が乳首の上で指を遊ばせながら、歯が浮くおためごかしを吐いた。 「性器をやるの?」 「そこはダメっていうのよ。その代わり……」 チキータがミランダに耳打ちされ、うっとり笑ってギャル兵たちを指図した。純子の顔のすぐ横に位置する脚乗せ部分を引き出し、固定した。 そうして、いきなり“でんぐり返し”にされた。大股開きに身体を2つ折りにし、お産ポーズ以上の恥ずかしい格好に晒すと、両足首が脚乗せ台にしっかりと固定された。 「な、なにを!?」 純子が、あまりの羞恥拘束に目を剥いて縮みあがった。 ミランダの手には警棒よりも太い鋼鉄製棒器具が握られていた。すでにローション液でたっぷり湿らされた先がアヌス穴にあてがわれた。 「いっ……!」 激痛に貫かれ、身をよじりながら凶器を受け入れるしかなかった。直径5センチもの固い棒状凶具が容赦なく、潤滑液のぬめりと滑りに助けられてどんどん秘孔を拡げて挿入された。 奥まで挿入されて直後、カチッとスイッチの音を聞いた。 「ギエエエーッ!」 凄まじい電撃痛に卒倒した。 肛門括約筋に締め付けられた棒状凶器が、鋭敏な秘孔を衝撃で貫き、直腸粘膜を蹂躙した。 「ヒゲッ、ヒギャアアアーッ!!」 その瞬間、でんぐり返しで足載せ台に繋がれたVの字の下肢が硬直の筋を浮き立たせた。 10秒、20秒……若い見習いギャル兵が大勢で固唾を呑んで見守る中、絶叫と苦悶は続く。 1分ほどしてスイッチが切られ、責め具がアヌスから抜かれるとワゴンの上に戻された。 また性器がめくられ、観察された。 たっぷりと観察し、指のぬめりを白衣の襟元にぬぐった。その後でコードを付けた胸のピアノ線を抜きにかかった。 ゆっくりと抜かれる時、「うーっ」と痛みに貫かれて純子が呻いた。 1本、2本、純子の悲鳴を愉しみながらゆっくり抜き取られた。6本抜き取るまでに純子は額にじっとりと脂汗を掻いた。 「も、もう、やめ……やめて……」 口元を処女のようにブルブル震わせた。 チキータがまた、性器を嬲りにかかる。 左右の小陰唇を指で摘み、引っ張ったり、伸ばしたり、拡げたり、そのたびに大勢のギャル兵が調子に乗ってはしゃぎ合う。 「わぁ! ビチョビチョだぁ」 「ゆるして、だってよぉ」 ギャル共の騒ぎをよそにミランダは黙々と作業にいそしんだ。乳首から抜いたピアノ線を、さらに5センチほどに短くしていった。 「やめでぇぇー、やめでっ……お願いです。お願いぃぃ……ひいーん」 純子の泣き声――その後、一時あたりがシーンとなった。 つぎに「おーっ」という喚声。視線が一箇所に集中した。 ミランダがまさぐったのは、もちろん性器ではなかった。 「いやあーっ!」 首を振って拒否するそばから、ミランダの指が肛門の襞を伸ばした。 激痛は突然襲った。 「痛いーっ!」 最初の1本が、ブチッ――そしてグリグリッという感じで敏感な肛肉を傷つけ、鋭い痛みを与えながら押し込まれた。 「イギャッ」 叫び声を上げて反射的に激しく尻を揺すったが、そんなことはただ痛みを大きくするだけであった。 「ひっ、ヒエエーッ!」 2本、3本と肛門の周囲にコードを付けたピアノ線が打ち込まれていく。 とうとう6本全部が打ち込まれた。 「さあ……これで喋る気になるか……」 呟いたミランダがカチッとスイッチを入れた。 「ギャエェェーッ」 鋭敏な秘部を襲う焼けただれる衝撃痛。絶叫は凄まじいばかりに響きわたった。 スイッチが切られた。ハアハアハア……激しい喘ぎと胸の息づき。それもほんの一時で、また上体がのけぞり、耳をつんざく絶叫が拷問室中に響きわたった。 「白状するのよ、早く!」 能面の顔がだんだん焦りの色を浮かべる、キンバリーに「自白期限」でも提示されているかのように。 じりじりと煙を上げて焼ける自らの肉体がイメージされた。その中で波音を聴いた気がした。まったくだしぬけに、目を瞑った頭の奥で防波堤が浮かんだ。それは、いつかテレビで見た台風情報の記憶映像だった。 進退極まった心境の純子が、とっさに妙計を閃かせた。 〈そうだ、自己暗示をかけよう!〉 そう決心した時、ジジジジジジ……という音が聞こえて酷い痛さと衝撃に襲われた。歯を食いしばって子どもの頃の思い出に結びつけた。 〈か、柿の木……! ひいーっ!〉 柿の木から落ちて、向こう脛を打った時、母が…… 〈お、お母さん! 助けて!〉 いや、違う! 柿をもいでくれと乞われたのを婉曲に断り、ふと目を離した隙に登って落ちたことを自分の罪のように悔やんだ母……。 〈あーっ! お、お母さん、許して。い、痛くはない。痛くなんかない……!〉 と、スイッチが止んで通電も中断した。が、 〈また来るぞ。こんどはマリアだ。憎っくきライアンに虫けらのように射殺されたマリアの怨念……いや、愛するマリアを守るんだ。防波堤となって……また、来るわ!〉 痛撃はいつもだしぬけに来る。 「ギャアアアッ!!」 目を剥いて窮屈な姿勢のままのけぞった。 ジジジジ……という音。肉を焼く異臭さえもただよっているようだった。 「ひええっ! くふうーっ!!」 目を剥いて歯を食いしばる汗みずくの顔。 でんぐり返しの二つ折りの身体は、硬直の筋を浮き立て、コードを付けたピアノ線を突き立てた股間と連動してぶるぶる震えていた。 こんどは長い、ミランダはなかなかスイッチを手放さない。 「ヒギャアアアアアーッ!!」 耳をつんざく絶叫も長く続いた。 パオラはあまりの酷さに目を背けた。 絶えきれず身体を反転させた。兵隊靴の足音を響かせてドアに向かって歩いた。 ドアを開けて身体半分隣室に入りかけた時だった。 ドーン、と轟音が響き、パオラは背中に爆風を浴びてよろめいた。爆発と同時に、部屋全体が傾いた気もした。 |
| ●●● 敵 |
| 緊急警報が鳴る中、兵士や収容所職員、看守が往き来して鉢の巣を突ついたような騒ぎとなった。銃を構えて飛び出す者、消火活動に専念する者、負傷者を担架で運ぶ者でごった返した。 眠ったように安らかな顔の、物言わぬ身となった若い兵士の脈を看たパオラが首を振った。 「死んだ?」 チキータがその瞬間「おーっ!」と両手を挙げて床にくずおれた。 犠牲者は、手を触れたすぐそばの後頭部が陥没して、じくじくと血を噴き出していた。 ミランダがあたりを振り返った。 うずくまって泣き出す者、互いに肩を取り合って励まし合う者のほか、ぽかんと口を開けて火事場見物でもする手合いもいた。 緊急警報が鳴るなか、兵士や職員、看守らがめまぐるしく往き来していた。 純子は夢を見ている気分だった。でんぐり返しの上から体重を受け止め、それが急速に冷たくなっていくのも感じた。 今の騒ぎで電気も停まったようで、弾け尽くす衝撃電流はすっかり息をひそめていた。 「いったい何が起こったの?」 ミランダがいつになく張り詰めた声を発した。 「バズーカ砲で攻撃されたようです」 若い声の報告に別の声が反応する。 「わたし、偶然目撃しました」 「言って」 「ロケット弾は柵の切れ目から飛んできてここの壁に命中しました。ただの1発です!」 ヒステリックに聞こえて、簡潔に要領を得た報告だった。 「チキータ、何やってるの!」 ミランダが離れた席でパオラがヒステリックに叫ぶと、そのあと純子の胸と脚の上の重しが軽くなった。 「セシーリャなら、もう死んでるわよ」 パオラのそのセリフの後、火を発したような泣き声がチキータから発せられた。 純子が無理にでも顔を上げた。ピアノ線を刺された胸が自分以外の血でべっとりと赤かった。 「どうしたの?」 ミランダが戻った。 「セシーリャが死んだわ。ロケット弾の破片とおぼしきもので頭を一撃。他に何人か怪我人が……」 そう報告したら「ふん」と鼻を鳴らした。 「運が悪かったのね。ここで見物していなければ、怪我か死んだのはこの女なのに」 憎々しげにほくそ笑んだ。といって純子を責める風でもなく、ただ、運命の皮肉を面白がるだけの冷徹な第三者的笑いだった。 担架が次々運ばれ、怪我人が乗せられた。 チキータの泣き声が遠ざかり、死体に付き添って行ったのが純子にも分かった。 「今、2人目の死亡を確認」 ギャル兵の報告にミランダが表情を固くした。 「いったい何者の仕業かしら。こんなに大胆な攻撃を仕掛けてくるなんて」 純子の前にも担架が運ばれ、やっと窮屈な拘束姿勢からも解かれることになった。 「凄かったねえ、まるで映画みたいだった」 「ベトナムもこんなかねえ」 廊下の軽薄な話し声が独房まで筒抜けた。傷を消毒した脱脂綿をピンセットでトレイに移し、 「あんな連中が親衛隊じゃ、准将も……」 ミランダが呆れ顔をした時、お喋りが止んだ。 聞き慣れた足音が近づき、ドアが開いてキンバリーの入来だ。パオラも一緒である。 ずかずかと歩み寄って純子を見下ろした。 「落ち着いたか?」 「はい」 ミランダが治療具を片づけ、キンバリーの座る席を設けた。 さっそく座り込むと、今度のことでの自分の推測を述べた。 「MIRだ。仲間をわたしに処刑された復讐心から、死に物狂いの反撃に出たに違いない」 「そんな」と、パオラが異論をはさんだ。 「まだ、反体制派の仕業と決めるのは早計かと思います。軽々には申せませんが、このところの閣下への風当たりや何かも考え合わせ、米軍上層部という線を疑ってみる必要も……」 パオラの出過ぎた推論に、出鼻をくじかれたミランダが能面の眉を吊り上げた。 「まあ待て。パオラの意見にも一理ある。MIRはガスに当たらせるとして、ミランダは若いのを連れてジェームス・リッチの線をたどれ」 懐かしい名が出て、純子の心は騒いだ。 「よもやとも思うが奴はベトナム戦でのヒーロー、スナイパーとしても優秀だし胆力も人一倍だ。『カサブランカ』のボギーを気取って、反体制派に肩入れしたとも考えられる」 拷問だけが趣味のような魔女の口から映画のジョークが出たことに純子は驚いた。 「パオラは引きつづき“特殊”の線を探れ」 それだけ差配すると部下を下がらせ、キンバリーと純子、2人きりになった。 毛布をめくって、包帯の巻かれた胸をじっと見つめた。 「リッチさんのことで、また、わたしを?」 純子が震える声で尋ねた。 「もう、拷問はせん。どんなに責めてもおまえは吐かんだろう。これ以上は傷付けん」 妙にしんみりとした体で答えたが、その手は食わない。このような女が相手では、最悪の場合を覚悟して覚悟し過ぎることはない。 「このたびのことでは、閣下の部下を楯にする形で申し訳ないことを……」 もとより外交辞令だが、 「そう言ってくれるのか、ありがとう」 つくづく実感をともなった言葉に純子が2度驚かされた。 「おまえがわたしの部下ならばなあー」と、そんなことまで呟いた。 よもや狂ったか。だが、キンバリーのその顔は落ち着き払ってこんな話を始めた。 「最近、中南米史の本を読んでいてな、その中にこんな記述があった」 キンバリーが寝物語でもする調子で続けた。 「1540年代初頭のペルー。ゴンサーロ・ピサロの反乱は、植民国スペインがそれまでに経験したことのない国家と王室への叛逆であり、権力者の心胆寒からしめる大事件だった」 「……………」 「このピサロを討つべく本国から遣わされたのが異端審議官ペドロ・デ・ラ・ガスカでな、2年にわたる一進一退の闘いは、ピサロが500の兵と敗走し、処刑される悲劇に終わった。 そのピサロ討伐の際、王党軍に身を投じた一人にロペ・レ・アギレという者がいて……」 純子は、ひたすらキンバリーが語る、南米の侵略と抵抗の小史に耳を傾けた。 「ペドロ・デ・ウルスアの探検隊に加わった時には、叛逆の機運ありと見抜いて1561年元日の夜、ウルスアを殺害。一行の中から貴族出のフェルナンド・デ・グスマンを長に仰いだ」 キンバリーは憑かれたように語り続けた。 「……アギレはグスマンを焚きつけ、スペインからの独立を目指してペルー征服を企てた。 だが、そんな遠大な計画には反対者が多く、アギレは野望実現のため粛正を断行、グスマンも殺して、みずから総督の位についた」 純子の頭の中のスクリーンには、一人の男の波乱の人生が映画のように蘇っていた。 「アギレはアマゾン川を下り、アマゾンの支流に迷い込み、密林の真っ只中でスペインからの独立を宣言した。 その年の7月、船隊は大西洋に出て、さらに西に向かってある島にたどり着いた」 「島?」と純子が思わず口に出した。 「島の役人を騙し、武器庫を襲い、スペイン軍の守備兵の多くを一味に加えてアギレが立て籠もった島の名をマルガリータ島といった」 「あ!」と純子が驚いた。 「酒場の名を誰もが愛人かなにかと勘違いしているが、ジェームス・リッチはそんな柔な男じゃない。反逆と義侠心によって、すぐに熱くなるような男だとわたしは見ている」 そう評価して話の続きにもどった。 「さて、アギレがその後、どうなったと思う」 魔女の問いに純子は首をった。 「マルガリータ島を出て、2000の討伐軍に追われたアギレは、アンデス越えに失敗して進退極まった。最後は娘を短刀で殺し、みずからはかつての部下の小銃手たちに撃ち殺された」 リッチの運命(さだめ)もその通りだといわんばかりに話をし終えた時、ノックしてドアが開き、ガスが色浅黒い二枚目顔を覗かせた。 「いま行く」 キンバリーが立った。 半開きの戸の陰から2人のひそひそ話が純子の耳にまで届いた。 「やはりMIRの仕業か!?」 キンバリーの声が勢いづいた。 「襲撃犯が乗り替えた車が国道沿いで――」 「見つかったか!」 「いま、遺留品からなにから厳しく捜索していますが……」 その言葉のあとで戸が閉まり、施錠された。 |
| ●●● 逮 捕 |
| サンチャゴ市内、ポール・ハリス街は、一人のアメリカ人が住んでいたことで後に有名になる。あのクーデター直後、チャールス・ホーマンという青年が失踪したのだった。 道一つ隔てた向こうの民家の明かりを、車窓から眺めながらキンバリーが訊いた。 「奴めが表向き失踪したことになって、ちょうど10日になるのか」 平服のキンバリーに対し、軍服のパオラがハンドルに身体を預けつつ記憶をたぐった。 「18日ですから、そうですね。……でも、逮捕と処刑の理由はなんだったんですか?」 「3年前のシュナイダー暗殺について嗅ぎ回ってたらしい。あれはチリの右派と反アジェンデ派軍人、それにCIAとの連携だからな。それに手を出した自己責任、消されて当然だ」 きっぱりと吐き捨てた時、ガラスの割れる音がして部屋の明かりが大きく揺らいだ。 「行くぞ」 キンバリーが勇躍、車から降り立った。 玄関で、背広の間からホルスターを覗かせて張り番している2人の私服警官の前を通り、ノックもせずにずかずかと入り込んだ。 母親とおぼしき中年の婦人が近づいた。 「これはこれはアメリカの将軍様! どうか娘をお助けください。娘は過激派とはなんの関係もないんです!」 おろおろと頼み込むのを邪険に振り切り、そのままターゲットの居室に向かった。 奥の寝室は窓ガラスが割れ、カーテンを揺らして夜風が入り込む中、床は本棚やロッカーからぶちまけられた物で惨憺たる有り様だった。 軍服の一人を除いた私服の警官数人に取り囲まれ、まだ少女といった年格好の色白美人が立って尋問を受けていた。 「ランチャーを積んだ軽トラックの助手席にこれが残されてました」 ガスパール・ルイスが学生証を見せた。 「カルラ・サラサーテ。16歳。チリ国立医科大の1年で、この家の一人娘です」 キンバリーが食指をうごめかせた。 品定めとばかりに娘の顎を取って引き寄せた。 ぶるぶるっと唇を震わせたうぶさに嗜虐心をそそられ、猛禽の目が爛々と輝いた。 ルイスが詰問した。 「武器入手の事実はないというのだな?」 と、その時ドアが叩かれ、母親が顔を出した。 「お母さん、わたしなら大丈夫!」 いち早くカルラが歩み出て、気丈に応じた。 一心になだめすかし、ドアと一緒に心配する母親を押し返した。 ルイスのにやけ顔が一変して凄みを発揮した。 「脱げ」 ドスを利かせた声で命じ、少女はセーターを脱ぎ、ブラジャーにも手をかけた。傍ら警官はトランクから電気装置を出し、コードの電源を壁のコンセントに結んだり準備に余念がない。 「おい」と、魔女が顎をしゃくった。 パオラは廊下に出て、悄気ている母親を支えて応接間まで付き添った。ソファーに掛けさせると、夫と入れ替わって別の椅子に腰かけた。 それから長い時間が経った。 コチコチコチ……と、壁掛け時計の音だけがはっきり聞こえた。秒針がえらく緩慢に5回転し、10回転した。その間というのが、パオラには息詰まるような時の流れだった。 はっとして顔を上げた。空耳かとも思ったが、それは確かに奥の部屋から聞こえていた。 「ああ……あうーうぅ……!」 両親も電気に打たれたように飛び上がった。母親がうろたえ、パオラが焦った。夫だけは妻を励まし、気丈に持ちこたえた。 「大丈夫ですよ、大丈夫」 気休めだけを呪文のように繰り返し、応接間のソファーがパオラには針の筵に感じられた。 奥からドアが開く気配――。 「パオラ」と声がして、キンバリーに呼ばれた。 元の部屋に帰るまでの間、パオラは惨劇の場を想像して心臓が早鐘を打った。 寝室にもどって〈あ!〉と息を呑んだ。 血の痕さえないものの、警官たちが後かたづけする横のベッドに腰を着き、不規則痙攣をくり返す全裸の全身は汗みずくで、憔悴しきった死人の顔に30分前の気丈さは微塵もなかった。 「わずかに上げた悲鳴が一回きりとは……!」 キンバリーが指のぬめりをハンカチで拭った。 壁のハンガーに掛かっているコートを投げつけ、 「どうせまた脱ぐ身だ、それを引っかけて行け」 ぞんざいに言い放って椅子から立った。 「この姿で両親の前を通らせると?」 「いかんか」 「情けはないのですか」 パオラがキッと睨んだ。 初めて見せた毅然たる反抗心に、ルイスが「お?」という顔をした。 その表情にただならぬ覚悟。 「バカ、なにをムキに……」 キンバリーが苦笑してガスの方に顔を向けた。 「廊下の奥が裏口になってます」 そう言ってガスが先に立った。 再びパオラが応接室に戻った。 「まだ聴取することがあり、娘さんは本部に連行しますが、調べが済めばすぐに帰れます。それまでどうか……」 心配顔の両親にそれだけ伝え、逃げるように玄関へと歩き出し、その家を後にしたのだった。 その約1時間後――。 |
| ●●● 囮 |
| ギャアアアーッ…… はっと、純子が独房のベッドで目覚めた。 〈また、囚人の拷問が始まった!〉 このところしばらく、絶えていたのに――。 〈何をされているんだろう……声からすると、とても若い娘のようだわ〉 独房の扉越しに廊下の奥から響いてくる悲鳴に耳を塞いだが、それでもなお塞ぎきれず耳に付いてきた。 うあー、うぁぁー……うわぁぁーん、うっぎぃぃーーっ……! 〈電気だわ。電気を流されてる……〉 純子にしてみれば日課並みとあって、電気を流されているときの悲鳴、止められたときの嗚咽、それらが手に取るようにわかった。 身体を動かすと、まだ乳房全体がズキンと疼く。乳腺にピアノ線の「針」を打たれた時の痛みがまだ残っている。あの娘もいま同じことをされてるのだろうか…… ひいー、ひいー……うううう、あぎゃぁぁー…… 両手で頭を抱え、背中を丸めた。 〈足音?〉と思った時にはすでにドアは開いていた。 「おい」と声を掛けられ、びっくりして飛び上がった。 暗がりに、それより黒い女の顔。ギラギラとかがやく無気味な双眸。 「来いよ。見物させてやる」 チキータの挨拶代わりのセリフがいつになく悪意じみて感じられた。 拷問台の上では、少女が全裸で大の字に縛り付けられていた。 顔つきとは裏腹に肉体ははち切れんばかりに成熟し、同性ながら恥ずかしさを覚えるほどにまぶしい美しさである。 純子は目をみはった。 両乳首にワニクチクリップが食い込み、小陰唇は左右それぞれ、爪楊枝ほどの太さの長い電極針で肉襞を縫うように刺し貫かれている。見るからに、それだけで痛々しかった。 その姿を舐めるように見つめる精悍な顔――。 〈この男、見たことがある!〉 クーデターのあの夜、収容所と化したスタジアムロッカー室の奥から一瞬見せた精悍な顔と身体つき、純子はガスパール・ルイスの顔を畏怖のまなざしでまじまじと眺めた。 その男が娘の顎をがっしと掴んだ。 「まだ喋る気にはならんようだが……そろそろ別の方法を試してみるかな? なあ、カルラ」 「ああー、やめてっ。ホントに知らない。ホントに知りません。武器なんか、本当に知らないんです!」 カルラと呼ばれた娘が泣きじゃくりながら震える声で哀願している。 「電極を外せ。工具箱を持ってこい」 部下に用を言いつけて向きなおった。 「キンバリー准将のお気に入りらしいが、ま、せいぜい寵愛を受けるんだな。今日はよく見ておけ。俺のやり方を見せてやる。准将がお前に飽きて俺に任さないように祈っとけよ」 純子にはたっぷりと脅しの口上をくれた。 工具箱が持ち込まれ、ガチャガチャと中を探って、細身の電気ドリルのような物が取り出された。 〈歯医者が使うドリル!〉 まさか、そんなもので拷問するなんて!? 先端の1円玉より小さい直径のドリル部分、あれにはダイヤモンドバーという砥石がはめ込んであり、毎分30〜40万回転もする――そんなことも被虐願望に衝かれて知り得た豆知識だった。 コードの先がコンセントに差し込まれ、ルイスがドリル本体のスイッチを押した。 ヴィーン、と不吉な電動音を立てて、先端部分が振動した。 「女の胴体にあと3本ベルトを掛けろ。乳房の上下と、もう1本は腹だ。しっかり縛れ」 また部下に命じて、恐怖で声も出ないカルラの顔を覗き込んで迫った。 無気味な唸り声を上げるドリルを、金縛りに遭ったように呆然と見つめている。 「心配するな。殺しはせん」 と、それまで息を呑んで凍り付いていたカルラが、突然堰を切ったように泣き叫んで哀願を始めた。 「いやーっ。お願い、やめてぇーっ!」 カルラの喚き声にルイスが苛ついた。 「口にボロ布でも詰めとけ」 頬を神経質そうに痙攣させて部下に言いつけた。そして拷問台に縛り付けられたカルラの胸の上にかがんでドリルの先端を近づけた。 純子もまた凍り付いたように動けなかった。 こういう惨たらしい光景は前にも例があった。そう、あの男囚の切り開かれたペニスを見たときと同じ恐怖の場面だった。 「むぐー、むぐぐー!」 カルラの最後の哀願も、口に詰め込まれたボロが言葉にさせなかった。 「白状する気になったら掌を開け」 自分の拷問のときも、よくこのフレーズが出てきた。どうでもいいことだと思いつつ何故か耳に貼り付いた。 「ぐむ、グムグゲーッ!」 およそ人間のものとは思えない地獄の底から絞り出すようなくぐもった悲鳴、いや、吠え声が純子の鼓膜を震わせた。 ルイスはカルラの豊かな乳房を根元から絞るように掌で掴み上げた。 淡い褐色をした乳輪の頂上に、ピンク色の乳首が真上を向いて尖っている。たった今まで電極クリップで挟まれていたのに加え、更にルイスの手で絞り上げられ、その乳首は硬く、大きく、はち切れるほどに勃起していた。 高速回転するドリルをゆっくり近づけ、ルイスにしては軽薄口調で脅しつけた。 「ほら、ほらぁ、もうすぐだぞー。喋るなら今のうちだぞー」 「むぐー、むぐうー」 カルラの泣き声混じりの呻き声が切迫したものに変わった。 「ひええーっ!」と叫ぶ刹那に、ドリルが乳頭に触れた。乳首に付けられた傷が、5ミリほどの細い赤い線となって音もなく現われた。 「あわ、あわ、ぐふふ……」 見開いた目を下に向けて驚愕するカルラの顔。 ルイスの手がわずかに方向を変えた。赤い線は一瞬、楕円形のやや窪んだ溝になって見えた。と、次には深紅の血滴が盛り上がる。それが溢れかえってタラタラと赤い筋を流し始めた。 「ぐむう、ぐみいーっ」 しっかりと拘束されたカルラの身体が激しく小刻みにもがき始めたことで、ルイスの掌と指とは更にしっかりと彼女の乳房を握りしめ、それが出血の勢いを増した。 〈見てらんない!〉 思わず目を背けた純子だが、すぐまたぱっちりと目を開けて向きなおった。 〈こいつらの所業を、しっかりと頭に焼きつけておかねば!〉 勇を奮って気を取りなおした。 再びルイスはドリルを近づけた。今度は鋭角ではなく、面部分を押し当てた。そしてカルラの乳首の表皮をゆっくりと削ぎ始めた。出血が激しさを増す。 「ぐむっ、ぐむううー! やめてっ、いやーっ、ひいいー!」 口に詰め込まれた布が落ち、悲鳴が響き渡った。 「ふん、ほら、喋れ喋れっ。綺麗な身体が台無しになるぞ」 ルイスが目を爛々と輝かせ、手を血で真っ赤に染めながらゆっくりと慎重に鋭敏な部分の皮膚を削っていく。 初めたらたらと血を滴らせていたカルラの左乳首は、やがてドクンドクンと血を流し出す小さな深紅の粒のようになり果てた。 「いやー、ぎゃー!」 狂ったように泣きじゃくるカルラの股間では失禁が始まった。台の上には薄黄色の水溜まりができあがって、それが長く延びて床にポタポタポタと滴を垂らしていた。 あたりにただようアンモニア臭を、拷問に憑かれた誰一人として気にも留めなかった。 「ほら、見なよ。あんなになったよ」 純子の髪をチキータが鷲づかみにし、なおも見せつけさせようとグイグイ押しやった。 「可哀想……」 純子が涙目になってつぶやいた。 「次は少佐のオモチャかもな。だからどんなふうに料理されるか、よく見とけよ。電気好きのお前のこった、ああやって削ってもらった乳首の傷口に、電極ねじ込むってのもいいかもな」 そんなチキータの鬼畜な戯れ言も耳に入らない様子で、ルイスはルイスで正真正銘鬼畜な拷問実践に専念した。 片方の乳首を料理したあと、もう片方の乳首に取りかかるが、その前にカルラの口にはもう一度布が詰め込まれ、くぐもった苦悶の呻きが尾を引き始めていた。 「むぐっ、むぐぐっ……」 もがき苦しむ少女の肉体をじっと観察しつつ拷問を愉しむルイス。彼にとってカルラは生身の人間ではなく、物言わぬ彫刻材料の岩石くらいにしか思っていない様子であった。 「けひっ、きひひーっ!」 乳首から血を滴らせてカルラがのたうつ。 すでに両の乳首は削り取られてしまった。今やルイスの形相は血の通った人間のそれではない。悪鬼というものがこの世に現われたとしたら、こういうものだろう。 顔一面に血しぶきを点々と付け、両手を赤く染めて薄ら笑いを浮かべる悪魔。今、ここにいるガスパール・ルイスという男は、ふだんの優男の二枚目とはまったく別人に見えた。 「ウギャアアアーッ!!」 断末魔の叫びと飛び散る血しぶき。 カルラの乳房に対する破壊は更にエスカレートしていった。 乳首がなくなった後の真っ赤な丸い剃り跡を、ドリルの砥石が更に削り抉っていった。「ひゃっ、ぎゃっ」という悲鳴と共に、細かい肉片が混ざった血しぶきが飛び散り、乳房の先端に小さな窪みを作り上げた。 泉のように血を湧き上げる窪み――。 「ギャアアッ!」と、また絶叫。 美しく若い女性の断末魔の悲嘆が、まるで鏡の向こうに広がった別次元の世界の出来事であるかのように純子には感じられた。 さすがのチキータもすでに口をつぐんでいた。 と、だしぬけに聞き慣れたしゃがれ声が横で響いた。日々自分をいたぶるこの魔女の声すら、今は懐かしい姐御の子守唄のように聞こえた。 「ルイスよ、まったくお前の拷問は、センスがないのォ」 「こういう反乱分子には厳しくしませんと」 「もう良い。吐かないのだろう? もう、それくらいにしといてやれ。手当てして釈放してやれ。もっとも……もう、立直れんだろうがな」 無感動に、事務的に、ぞんざいにセリフを吐いて純子に向き直った。 「安心せよ。お前の身体はあんなふうに壊したりはせん。これからもたっぷりとな……くれてやる。私流の拷問をじゃ」 不気味な笑いを残して悠然とした足取りで部屋を出ていった。 立ちつくす純子の前を、兵士に付き添われたカルラが泣きじゃくりながら通り過ぎて行った。血を吹き出す両胸を、必死で自らの両手で抱えるようにして押さえながら――。 |
| ●●● 錯 綜 |
| あくる日、独房で出された夕食はいつもと違った。 たった今、目の前に運ばれた食事は、ここへ連れてこられて初めて口にする“まとも”な代物だった。食器こそ変わりばえしないが、肉料理にポテト、緑の野菜もきちんと並び、おまけに可愛いらしいブリキのマグカップで熱々のコンソメスープまで付いてきた。 死刑囚は執行前夜にご馳走を与えられる、そんな話を連想して無気味な予感に胸が締めつけられた。 〈いよいよ明日には処刑される!〉 その“最後の晩餐”というわけか。 キンバリーは私をオモチャにするのに飽きてしまったの? それとも何か状況が大きく変化したとか――あれこれ思い巡らしつつ半ば開きなおり、まずは食事をほおばった。 〈そういえばカルラとか呼ばれていた子……〉 ガス・ルイスからあんな惨たらしい責めを受け、それからどうなったんだろう? 「治療する」と言って連れて行かれたものの、もう身体は元には戻らないだろうし……。 あの若さ、あの美しさでこれから生きていく人生の辛苦を思うと胸が痛んだ。 〈でも、他人を心配できる立場じゃなかった〉 ガツガツと食べ終わり、もぞもぞと身体を動かした。今日も激しい拷問で乳首がヒリヒリ痛み、電極棒を挿しこまれた膣と肛門とが鈍痛を発している。 食事を終え、粗末なガウンに身を包んでうつらうつらし始めたとき、お呼びがかかった。 〈いつもの“夜伽”……まさか!?〉 錯乱する心、恐怖に取り憑かれた思い、冷静に思案する間もなく、気がついた時は忌まわしい空気に立ちこめられたいつもの部屋――。 「それでは」と頭を下げ、執務室兼寝室の扉を後ろ手に閉めて看守が下がった。 いつも通り尊大に腰掛けた魔女のキンバリーと向き合った純子の脚は小刻みに震えている。 「どうした? 何を怯えている?」 「食事が……豪華でしたから……」 キンバリーが突然、弾かれたように哄笑して立ち上がった。 「そんなことか! そんなことを考えておったのか」 茫然と立ちつくす純子の背後からノシノシと歩み寄った猛鳥は、薄気味悪いほど優しく純子の身体に手を回し、耳元で「可哀相にのぉー」と呟いた。 「残飯しか食ってない者とじゃれ合うと、こっちまでが惨めに思えてくるのでのぉー。だから少しマトモなメシにした。それだけのことじゃ。それだけのことじゃよぉー」 キンバリーの優しさを込めた物言いに驚きつつも、純子は身体の緊張のこわばりが氷解していくのを感じた。まるで滞っていた血流がドッと巡り始めたような感覚を覚えた。 突然、ザッ――と驟雨が窓ガラスを叩いた。雨は瞬時にザアザアと激しさを増した。 キンバリーの男のような手がガウンの紐を解き、胸のまえを大きく拡げ、ゆっくりと身体から脱がし取った。全裸になった純子の乳房を後ろから掌で掬い上げて愛撫する。 「あ、あぅ」 連日の拷問を受けた痛みが残っている。それを我慢しいしい訊いた。 「カルラはどうなったんですか?」 恐る恐るの質問に猛鳥の手の動きが止まる。 「釈放した」 声にいくらか憮然とした響きを込めて答えた。 「そんなことはお前が考える必要はない」 「それならどうしてあんな酷いことを?」 魔女の嗄れ声に不機嫌さが濃くなってきた。 「ああいうやり方はルイスの趣味じゃ。わたしがお前にしてることとは趣向が違う」 そう言って純子の両の乳首を指で摘み、力任せに捻りあげた。 「あうう!」 「痛いか?」 「は、い。針金を通されたので……」 「では、もうカルラの話題はやめよ」 「はい」 キンバリーは純子をベッドに行くように促し、自分も軍服を脱ぎ始めた。 いかめしい容姿に不似合いな白いレース編みのフリルがついたブラジャーを外す。ベッドに横たわって見ていた純子は、その不釣り合いさが可笑しくてしかたなかった。 全裸になったキンバリーが純子のベッドに上がってきた。巨大な乳房がゆらゆらと揺れる。純子の両腕を拡げて組み敷き、唇で乳首を咥え、舌の先端で愛撫を加えた。 昼間は金属クリップを挟み付け、情け容赦なく強烈な電流を流し込んで、絶叫してもがき苦しむ純子の姿を眺め楽しんでいる魔女が、夜のベッドでは異常な愛情を見せつけた。 雨音に雷鳴が加わった。初め遠くで聞こえたそれが、だんだん大きくなって迫った。 その間、左右の乳首をキンバリーから代わる代わる刺激され、純子は今夜も倒錯の深淵へと引き込まれていく。 猛鳥の指が胸から腹へと移動した。 臍のくぼみを転がし転がし、黒い茂みへとにじり下り、陰核部分に達すると包皮の上から鋭敏な肉芽に指圧を加えた。さらには閉じた陰唇を押し開いて身体の内奥へと侵入し始めた。 まだ充分潤っていない肉襞部分――。 そこを通過した指先が膣に達すると、やがて勢いよく滲み出した愛液のぬめりに乗った。滝壺におちる倒木のように、一気にするりと純子の奥深く、長い指が吸い込まれた。 「あう……ふぅ」 倒錯の快感が拷問の痛みと恐怖を凌駕する瞬間――。 雨音も雷鳴も純子の耳から遠ざかり始めた。キンバリーの指と舌とに肉体の鋭敏な核を責められ、いたぶり尽くされ、次第に思考も意識すらも定かでなくなっていった。 そうしてどれくらいの時間が経ったことだろう。その時には純子はまだベッドに横たわったままだった。耳を澄ますと外では雨脚が弱まり、遠雷も遠くなって間隔を空けたなかにわずか響くのみだった。 やおらキンバリーが立ち上がると、机の引き出しを開けてガチャガチャと物色した。 〈!……また、針?〉 純子の意識は瞬時に覚醒した。 見開いた目で見たものは見慣れた拷問用電気コード。先端にはおなじみのクリップが光っている。ただ、電源装置とおぼしき機械はいつものに較べ、遙かに小型のものだった。 〈ああ、ウソでしょう? こんな時にまで!〉 今しがたまでのキンバリーの優しさに裏切られた気持ちでベッドの上で身体を丸めた。 「心配するな。お前に使うのではない」 そう言ったキンバリーは、手際よく机の上で電気コードを装置の端子に接続し、ほどなく準備がすんだ。 「この電源装置は出力が小さいのだ。本格的な拷問には使えん。苦痛の見本を感じさせて脅すくらいにしか使えん物だ」 ぶつぶつといい訳がましく、チラリチラリと純子の方を見ながら説明をするキンバリー。 〈誰かほかの人を連れてくる気?〉 疑問に思った時、いきなりキンバリーがいかめしい造りの木製椅子を部屋の中央へ引きずり出した。どっかりと腰を下ろし、いつも純子がされる拘束ポーズで自分から両腕を後ろに回し、両脚も思い切り良く拡げた。そうして、 「電気を流してくれ」 〈は?〉 だが、純子を見据える猛禽の眼は哀れなほど潤み、必死で訴えかけていた。 〈よし!〉 とまどったのは一瞬だけで、決心は素早かった。この錯綜した関係、堕ちるところまで堕ちてやろう、そう思ってベッドから降りた。 その時キンバリーはしっかりと両腕を後ろに組んで、みえないロープで自分から自分を縛っているのだった。 不思議な動悸を感じた。 純子は背後に回り、まず両掌に溢れるほどの乳房を掬い上げて揉みしだいた。続いて乳首を摘み、指先で転がして刺激を与えた、ついさっきキンバリーが自分にしたように。 はあ、はあ…… 準備されたクリップを乳首に挟み付け、もう片方の乳首も同じように摘み上げた。その時になって初めて、 〈はあ、はあ……〉 自分の息が荒くなり、胸が響くほどに高鳴っているのをやっと感じ、鼻の奥までツンとなった。そうして気がついた時、キンバリーの乳首に2本の電極コードが繋がっていた。 パチリとスイッチを入れた。電圧計とおぼしき針がピクンと反応した。震えを抑えられない指でダイヤルをゆっくりと回し始めた。キンバリーの表情を恐る恐る窺い見ながら…… 「………」 最初は何も感じていない様子だった。ただ、それでも“何か”を恐れる表情が魔女の瞳に浮かんでいるのを純子は見て取った。 不思議な愛おしさが込みあげ、純子は自が倒錯性をも信じられなくなった。多くの人々を拷問死させ、純子自身にも激しい危害を加えてきた悪魔のような女。その相手を、今この時には憎めなくなっている不可解さの極み――。 ダイヤルをジリジリと回していった。 「う……ううう……ああ」 およそ似つかわしくない悶え声がキンバリーから漏れ始めた。乳首から流れ込む電流に反応し、苦痛を快楽に感じ始めている。 やがてキンバリーは電気コードを挟みつけられた乳房を突き出し、顎をのけぞらせて身体を痙攣させ始めた。大きく拡げた太股の真ん中の栗色の茂みはピンクの秘肉を覗かせ、ぬらぬらと輝くクレバスを電灯の明かりに反射させた。 「うひいー!」 キンバリーの悶絶が絶頂に達し、乳房をゆさゆさと揺らして先端に挟み付けたコードを激しく揺れ動かした。 「ジュンコ、ジュンコォッ!」 まるで遠雷が戻ってきたかのような叫び声に反応して、純子が身体をビクンと震わせた。 キンバリーが自分の名を呼ぶのさえ初めてのことだった。乳首を責める痛さに耐え、必死で両腕を後ろに組んだまま、汗が噴き出す身体をブルブル震わせながら名を呼んですがろうとするこの女に、純子の感情は激しく燃えさかった。 雨はすっかり上がって、室内は静けさに包み込まれていた。 さっきまではキンバリーと純子、お互いの身体をお互いの脚と脚の間に挟ませて、激しく両者の性器を擦り合わせていた。 〈もうどうなってもいい……〉 そんな思いが純子を狂おしく掻き立てた。 明日からはまた拷問が繰り返されるのだろう。でも、今はこのキンバリーが愛おしい。 倒錯の愛戯が終焉を迎えて性臭が濃厚に立ちこめる女将軍のベッド。そこに胎児のように身体を丸めて安らかな寝息を立てる猛鳥と、それを両腕に包み込んでやさしく見つめる純子の姿があった。 |
| ●●● 火 花 |
| 足音がしたと思うや、執務室のドアがノックもなしに開けられた。 米軍大尉ライアンだった。 「将軍殿に代わって、俺が例のジャップ女を締め上げてやる。しかと立ち会え」 〈偉そうに……!〉 軍務ならともかく私服の身でなんだと、さすがにむっとしてパオラが椅子を立った。 「聞いてません。それに、奥の部屋は何者かによって攻撃され、破壊されてます」 それを口実に振り切るつもりだった。 「当局の裁可は得ている。それに、例の部屋の壁なら、ちゃんと修復されているはずだぞ」 なにもかも承知で来ていた。 「閣下の不在に部外者の勝手は困ります!」 ここは一番、あの魔女にというよりジュンコのためにもと食い下がったが、ニタリと笑ったライアンの目は不敵だった。 〈妄念のような……この殺気はなんなの?〉 廊下に出ると、隣りから純子がチキータに引かれて行くところだった。 突き当たりを抜け、取調室も過ぎ、拷問室の戸を開けると勢いよく放水の音が響き、傾斜が付けられた左奥の床に水が張られていた。 「この“水場”の本領を見せてやる」 勝手知ったる他人の庭といわんばかりに吐いた。 2人並べて1人を射殺、別の1人に自白を強要するという修羅場に際しての流血処理構造だが、このところ捕虜など回してもらえず、せっかくの造作が全て用をなさないでいた。 今日はミランダも准将に同道してここにはいない。ゴム長靴になった兵たちは皆、軽い乗りの連中ばかり。そいつらが水を張った床に立って無邪気な笑いを浮かべていた。 7人に減ったギャル兵の1人から、純子以外の3人にゴム長が配られた。 〈いったい何を!?〉 ライアンの真意が掴めぬまま、パオラは不承不承、軍靴をゴム長に履き替えた。純子だけ不安な面持ちでたたずむばかりだった。 sal(サル=塩)と書かれた大袋に手を突っ込んだ若い兵が鷲づかみした塩をどんどん水面にぶちまけていった。 「水道水では効果を発揮しないのだ」 たまりかねてパオラが質問した。 「なんなんです?」 「軍艦エスメラルダ号の甲板で過激派の水兵を拷問した時のことを思い出してな」 「………?」 この時点でその場の誰も“水責め”以外のどんな想像も浮かばなかった。 ライアンが手に電気コードを持った。コードからはチェーンが垂れ下がり、垂れた部分をじゃらじゃらいわせて「脱げ」と命じた。 震える手でボタンを外す純子。その目はコードの延長をたどり、椅子の上の装置をたどり、水を張った床へと至った。 〈あっ〉と思い当たった時、チキータの手が囚着を剥ぎ取って全裸にされた。 「で、電気はやめて!」 なんとなく分かりかけた想像に、全身防御モードとなって両手を肩に交差させた。 首を振りながら後ずさった時、ライアンが装置のスイッチをひねり、下に垂れた2本のチェーンを触れ合わせてバチッと火花が散った。 「いやぁーっ!」 「ほれっ、ほれほれっ」と、チキータが手を叩いて囃したてた。 黒い肌の両手が伸びて抱え上げられた。数歩歩いて手を放され、純子の身体はしぶきを撥ね上げて冷たい水に落ち込んだ。 ライアンが電流の通じたコードを持って迫った。すぐ後ろをギャル兵が1人、これは余分なコードを下に垂れないよう補佐する役だった。 「やめて……やめ……」 水から出ようと立ちかけるが、その前を兵隊たちが立ちはだかった。 チェーンの先が、ぽちゃんと水に沈んだ。 と、激しい電撃――。 「ひええーっ!」 水に浸かった部分が電気ショックに貫かれた。 「ひえっ、ギヒイイーッ!」 強烈な痛撃に、水の中でのたうち回った。自分が跳ね上げるしぶきの中で、バチバチと音を立てて弾け飛ぶショートの火花を見た。 「それ、そーれ……」 ライアンはコードを上げたり下げたりして面白がる。チェーンが沈むたび腰から下が凄まじい電撃に噛みつかれた。激しいショックのバリアーがビリビリと素肌を掻きむしった。 「ぎゃっ! ぎひいっ!」 電気ショックに飛び退き、狂ったように水の中を逃げまどった。しぶきを上げる全裸の濡れネズミをゴム長の脚の壁が頑として阻んだ。 後ろからはライアン――。 「まだ死ぬなよ。しぶとく生きてろよ」 そう言いつつも、また、手からすーっと降りてチェーン部分が水に浸かった。 「ギャッ、ギャアアッ!」 絶叫を上げて逃げまどう。と、軍隊靴が蹴る、突く、そうして追い返された腰から下に、今度は鞭となったチェーンが迫った。 パチパチパチッと火花を発したチェーンが、まるで蛇がカマ首をもたげて襲いかかるようにふくらはぎに、太腿に当たった。 「ギャッギャッ! ギャアアッ!!」 電気鞭から水の中へ逃げれば、次には水が電気となって襲い、びっくりして飛び上がる。ひっきりなしのショック攻撃に息は絶え絶え、精神はブチ切れそうだった。 「ヤアアーッ!」 電撃に追われ、蹴りに見舞われ、兵隊たちの脚と脚のあいだを縫って逃げ回り、いつの間にか水溜まりを過ぎ、渇いた床にたどりついた。 「はあはあはあ……」 濡れ鼠の丸裸が尻餅着いて喘ぎまくった。 だが、ライアンの執拗な攻撃は容赦もなく追い迫る。チェーンをじゃらじゃら揺らし、バチバチと火花を散らせた。 「ああっ、もう、やめて……」 やっとの思いで手を着いて立ちかけるその手を払って蹴倒すギャル兵。 そこを狙ってライアンの電撃鞭打ち攻撃。火花を散らしたコードの先が膝や腿を打ちすえ、それを除けてうっかり脚を開いた隙を逃さず、こんどはチェーンが股間に飛び込んだ。 「ギャアアッ! いやっ、ギャアアッ!!」 あわてて身体を丸めた。 と、次には耳たぶや顔の周りにまでチェーンがバチバチバチと襲いかかった。 「いやあああーっ!!」 顔を両手で押さえて小さくなった。ミノムシのように身を縮めたところ、尻に強烈な電撃。またびっくりして身体が飛び跳ねた。 「さあ、どうだ。どうだ」 「うぬううーっ!」 振り返った時、純子は反撃に転じた。 〈もう、頭に来た!〉 殺すなら殺せと覚悟した時、マリアの死に様が思い浮かんだ。たちまち全身は怒りの火の玉となり、脱兎となって身を軽くした。 悪鬼の形相は瞬時ライアンをひるませた。その間隙を狙って相手の喉笛を強襲した。が、間一髪、横合いから誰かに張り飛ばされた。 「この野郎!」 床に転がった純子をライアンが見据えた。 「台に乗せろ!」 開脚寝台が運ばれた。脚載せが組まれ、そこへ純子が寝かされた。しっかり取り付けられた脚載せ台に膝がベルト拘束され、手は頭の上で組まされた。 無影灯の下、たった今できた擦り傷や電流斑をとどめる全裸の全身が、明かりに照らされ観音開きされた股間を無惨にご開帳されていた。 「東洋人にしてはいい女だ」 黒々とした茂みを覗き込んだ時、パオラが横から割り込んだ。 「性器はやめてください」 「なぜだ」 問われて困った。若い兵隊たちは訊かれるのを怖れ、視線を外してそっぽを向いた。 ライアンが「ふん」と鼻を鳴らした。 台車上に内視鏡だけは認め、背広を脱ぐとワイシャツの袖をまくった。 「手術用手袋と中を掻き回す器具を持ってこい」 その間に内視鏡の取っ手にコードを結んで、陰毛の中に覗くピンクの肉唇を凝視した。 〈こいつはわたしを殺すのではないか!〉 妄念じみた男の視線から受けた直感だった。 「付けろ」 ライアンが手刀にした掌を上向け、それへチキータが手袋をはめさせた。手術に先だつ医者と看護婦がし交わす執刀前の儀式のようだ。 手袋の両手が反対合わせに甲と甲を突き合わせ、先が医具代わりに割れ目に突き立った。 「ひっ!」 高まる苦痛。2本まで入った手の先が性器をカギ裂きにして行った。 「むううぅー……!」 めぬめぬと潤み輝く肉の秘裂が口を開けさせられ、くわぁーっと秘奥を覗かせる過程で開脚台の上体が呻き声をあげながらのけぞった。 「見ろ、奥まで丸見えだ」 手でしっかり開き止めて周囲の関心を惹きつけた。 「どうだ、どう責める?」 チキータが訊かれ、もごもごと呟き返した。 「さもあろう、このきつさでは無理だ」 性器を裂かれる痛さをこらえながら、純子はフィストを連想して恐怖した。こんな男の拳を突っ込まれたら確実に破壊される。 「どうする? おまえならどうだ」 2人目の黒人、パオラにまで質問のお鉢が回ってきた。 その瞬間、表向き従順で卑屈なキンバリー付き下っ端下士官が、持てる直感力と計算力を総動員して“ライアンの目論見”を思量し、それへの良策として唯一無二の知恵を導き出した。 あとに続く〈しかし……〉はねじ伏せた。まずは1分1秒でも“ライアンの目論見”を阻止することが先決だった。 「わたしなら……」と提案すると、この小ずる賢いサディストがニンマリと口元をゆがめた。 「さすが准将の“付き人”だけあるな」 2人のやりとりを見ながら、なにも知らない純子は唖然とした。 〈なんなんだ、この黒人女は……!?〉 今まで抱いていたパオラ観がいっぺんに吹っ飛び、愕然と失望し、猛然と憤慨した。 一方パオラは責めの主導権が自分に移ってきたことで〈やった!〉と快哉を博した。 内視鏡や鉗子が手渡されが、それをトレイに返すと、これも上着を脱ぎ、ただし、手は利き腕ではない左側を腕まくりした。チキータが差し出す手袋は押し返した。 ライアンが興味津々となった。 「お、やるのか? 誰もが無理だったのに」 ローションの入った広口瓶に左手を入れ、拳にして出した手は潤滑液で黒光りしていた。 〈うそっ!?〉と純子も目を見開いた。 右手が陰毛を掻き上げ、左手の拳が割れ目を突いた。器用に尖らせた拳の先が割れ目を開いてどんどん押し入った。純子の悲痛な呻き、同時に周囲はどよめき立った。 「う……う、う。くくっ!」 ひきつった呻き。 拳はいったん入りかけ、すぐまた引っ込み、その間割れ目がぱくぱく開いたりすぼんだりを繰り返した。 やがて一気に押し入った。 「あ、あうっ、ううーっ!」 のけぞる上体。揺れる乳房。胸の下のあばらが大きく浮き立った。 拳は純子の中にすっぽりと収まり、ぬめぬめとした割れ目から手首が生えた。ピストン運動が開始され、割れ目はまた口を開け、拳の一部と手首がめまぐるしく出し入れを開始した。 抽送に合わせて上体が弱々しくのたうった。左右に開かれた脚の筋がぴくびくしている。 身体の中を熱い固い異物が往き来した。 犯されている。突かれている。今、女の拳が、腕が自分の中に入り込んで蹂躙されている。 「あーっ!」 声を荒げてのけぞった。 黒い肌の拳がゆっくり引き出された。ぐっしょりと濡れたそれは匂うほどに艶やかに光った。 愛液混じりの手の濡れをタオルで拭き取ると、その手がトレイに伸びた。コードを付けた内視鏡を取ってアヒル口の先を、粘液を垂らしかけた割れ目に挿入した。 口を閉じきれずにいるフィスト後の性器にアヒル口は楽々挿入され、無影灯の明かりに照らされた膣道の奥に、もっこりとした肉輪の中心の子宮口までが見えた。 長目の鉗子の取っ手部分にコードを付け、その上から絶縁テープで覆った。そして膣の深奥部に向けてハサミ部分を挿入、小さく湾曲した鉗子の先を中心に突き立てた。 「うー……」 痛みというより恐怖に身をよじった。 発電装置の数種のダイヤルを調整し、電圧を上げた時、純子の上体が弓なりに反った。 「うーうっ……ひええーっ……」 左右に突っ張った爪先をぴくぴくと震わせ、腰から上が蛇のようにのたくった。 純子が初めて被虐の快感に酔いしれた。パチパチ襲うパルス電圧は、場所が女の急所だけに恐怖をともなったが、相手がパオラであるせいか不思議な安心感で受け入れられた。 「ああ……ああうー……」 発する声に甘美さが交わった。 パオラはライアンの反応が気になったが、一瞥した男の顔は満足そうだった。黒が黄色を責める図が白ブタの猟奇の目には気に入られたか。 また、電圧を調整した。 視線を一所に集中し、背中を低くして膣奥を凝視する面々が「おお!」とどよめいた。 複雑な皺を刻むピンクの膣道。それが蠕動運動に大きくうねった。すべてが錯覚でない証拠には純子の上体も声を荒げてうねり、ハサミの先を食わえた子宮はぴくぴくとひくついた。 「うーう……ううぅー……!」 薄目を開けて喜悦の声を発する純子。 これ以上開きようのない陰唇をなおも剥き上げた時、愛液がつつーっと内視鏡の縁を伝った。 勃起して艶光りする陰核が、愛液をじっとり浮かべている。その卑猥さは匂うばかりだ。親指の腹で触れると、そこにも愛液が滲んだ。 「うーむ」とライアン。 「正真正銘のマゾ女だ!」と囃し立てる周囲。 内視鏡で開かれた真円からはみ出た鉗子の取っ手部分をパオラの手が逆手に握ってひねった。 「ううーっ!」と、強烈な電気刺激に純子が反応した。 翼のように広げた下肢の先が突っ張る。パオラの手が前後に動いて子宮を突き、鉗子をピストン運動させるたび刺激も前後運動し、純子は子宮を電気で犯される被虐快感にむせた。 「ひいっ。ひ、ひーん!」 目を見開き、呆けたように首を振った。 金属器具の縁をまた愛液が伝った。たらたらと流れ、コードを付けた取っ手にも降りかかる。ぽたぽたと寝台の縁に垂れる。 またパオラの手が鉗子をひねった。 「ううっ!」 開脚台の全身が大きくのたうった。 「う、うああーあーっ!」 失神しそうな被虐快感。全身から精気が放出される快感に酔いしれた。おびただしい愛液の噴出と共に、あたりに濃い性臭がただよった。 もう一度陰唇を剥き上げようとした時、勢い良くドアが開いた。 イレーネというギャル兵が「電話が」と言いかけたのをパオラが目顔で制した。 とっさの機転でハッタリを利かせた。 「なんですって!?」 部下へはウインクで〈これはお芝居よ〉ということを伝えた。 「しょうがないわね、本館の連中。自分で呼びに行けと叱らねばダメじゃない、忙しいのよ!」 ぷりぷりぶつぶつ見せかけの不平をこぼし、ライアンらを煙に巻いて拷問室を後にした。 廊下に出ると軽薄なギャル兵――そう見せかけて実はパオラの腹心の部下から耳打ちされた。 「バルパラから、キンバリーの電話です」 「パレルに行ってたのじゃなかったの?」 バルパラなら車で1時間、それくらいならジュンコの命も保ちこたえられるかも。 「予定では、まだパレル滞在のはずが、情況が変わったとかで途中から電話してきたんです」 胸騒ぎに急かされた。 イレーネに張り番させて受話器を取った。 「なにかありまして?」 [今日10月1日付で、日本政府が公式にピノチェト政権承認の声明を出すそうだ。ラジオなどでは、もう報じてると思うが……] パオラが「あっ」と声に出して驚いた。 [どうした。なにがあった?] 問われて手短にライアン訪問と、その後の狼藉を報告した。 [よし、すぐ戻るから、なんとか保たせろ!」 キンバリーにもライアンの目論見がピンときたようだ。 〈保たせろと言ったって、そんな……〉 パオラが怖れたことはこうだ。 情報部の意向を無視してチリ人を拷問してきたキンバリーは、クーデター関与を隠したいアメリカ本国にとっては目の上のコブだった。国に帰っても、いつボロを出すか知れない。 そこでキンバリー共々、関係者は全て始末したい。第三国人としての純子は抹殺候補上位者であり、同盟国である日本の政権党が新政権承認といっしょに、邪魔な同胞抹殺をも承認した。 〈さすればライアンはジュンコ抹殺の刺客!〉 パオラはあわてて拷問室へ取って返した。 だが、拷問室では情況が一変していた。 純子は口にボロ布を詰め込まれ、全身を貫く拷問電流に泣き叫び、のたうち回っていた。 スイッチが切られ、それまで弓なりにのけぞっていた身体がどっと寝台に沈み込んだ。合間を見てパオラが必死に割って入った。 「困ります、やめてください!」 「うるさい」 黒い肌の手を汚らわしそうに振り切った。 「この者は重要事件の鍵を握る証人、殺されては困ります!」 「誰が殺すと言った」 ギロリと睨まれ、パオラが〈しまった!〉と焦った。 しーんと一時、水を打ったような静寂。 「いいか、喋る気になったら握った拳を開け」 ライアンが尋問を繰り返し、内視鏡で開口させられた性器を覗き込んだ。静まり返った中に生唾を呑む音が聴こえた。そして、 「くっ、ひいいいーっ!」 腹部から腰が電気ショックに襲われた。激しい痙攣反応と脚の筋の収縮。爪先がそれぞれ勝手な方向にひきつれ、筋肉の突っ張りも際だった。 電気ショックは最初一瞬だった。 それが気まぐれに繰り返された。 カチャッ、カチャッとスイッチ操作の音が頻繁に繰り返され、そのたびに全身を衝撃が突き抜け、すぐまた止んで、また通電の繰り返し。 「ふがあああーっ……!」 「さあ、言うことはないか。話す気になったら手を広げろ。それ以外は駄目だ」 ショックが増した。 「ウガアアアーッ!」 顔をくしゃくしゃにして絶叫し、すぐまた嘘のように電撃の暴風が止むとぐったり。だが、数秒あとには腰から下が飛び上がって痙攣と絶叫を再開、寝台がガタガタ音を立てた。 「うあああーっ! あああーっ!」 きつく拘束された手首、膝部分を定点に、それ以外が暴れる。定点を離れるほどに悶絶の度合いは大きく、背中を反らせた上体が乳房を揺すり、これ以上はないほど大きくうねった。 〈1時間、いや、50分……〉 パオラの頭は目まぐるしく回転していた。 絶叫と痙攣の通電時間がだんだん長くなり、硬直の筋を浮き立たせる太腿やふくらはぎ、腕にも腹部にもじっとりと汗が浮かんだ。 「ギエエエー……………!!」 泣き喚く純子の中では、腰から下の身体が内側からバラバラに砕け散りそうだった。そうして泣き叫び、激しく痙攣する汗で光る全身。 電流が体内を駆け抜けるあいだ、ひきつれ、収縮した筋が行き場を失い、関節に猛烈な付加をかけてギシギシと軋んだ。 〈こ、壊れる!〉 内臓が吹き飛ぶか、骨が折れるか、関節が外れるかと恐怖した時、苦悶の嵐が去った。だが、数秒か、10数秒の間があって、またライアンの手がガチャガチャと装置を叩いた。 「ヒゲェエエエーッ!!……」 「まだ言う気にならないか? マリアのことで知っていることを洗いざらい話せ」 拷問は名ばかり、主目的は虐殺処刑だった。そのため変圧ダイヤルをさらにひねり上げた。 「グギャアアアー……………!!」 汗まみれの全身が奇妙にひしゃげた。 怒髪天を衝く――その場の純子が正にそれで、惨たらしい責め苦でざんばらとなった髪は、電気に反応して逆立った。当然、陰毛も静電気を起こして一斉に上向いている。 手を握り合わせたパオラの焦りは頂点に達した。 〈ダメ、とても保たない!〉 ライアンが悪鬼の形相で迫った。 「さあ言え。手を開け」 「ウーウ、イアアッ! オ、オ、エェー!」 硬直の筋を浮き立ててぷるぷる震える全身が、汗を吹き出しながら奇妙にひしゃげ返り、ギシ、ギシギシッと軋み音を立て始めた。 純子の運命は風前の灯火だった。 |
| ●●● 再び、移送 |
| 勢い良くドアが開かれた。精悍な体躯のチリ軍大尉が颯爽とその姿を見せた。 「やめろ!」 一喝しただけでなく、つかつかと歩み寄って自分から発電装置のスイッチを切った。 のけぞり、ひきつり、精一杯突っぱらかっていた四肢の先をどっと寝台に沈め、あとはぜいぜい、はあはあ激しい喘ぎ声をあげる純子。 「お、あんたか」と振り返ったものの、米軍の威光を傘に居直る矛がにぶった。いつものにやけ顔が鷲か鷹を思わせる精悍な貌(かお)となっていた。 「階級はおなじでも、こっちは軍務だぞ。私服できてなんの真似だ」 機先を制したガスパール・ルイスの迫力にたじたじとなった。 「いや、俺は“特殊”の……」 と言いかけ、ヤブを突ついてすんでのところで蛇を出しかけた。 「ここはチリだぞ。いつまでも米軍の勝手は困る――と、これは貴国のさるお方のお言葉ではなかったか? しかもスタジアムロッカー室でのあんたの虐殺罪まで押しつけて……」 ライアンがすっかり面目を失った。 「出て行け。二度と来るな!」 激しい恫喝を浴び、背広を羽織りながらさっさと退散した。 その間に純子はパオラ、チキータ、イレーネによって拘束を解かれ、介抱されていた。 ほどなくキンバリーもミランダと戻った。 「おお、生きておったか」 さっそく純子の容態を気にした。毛布をめくり、まっすぐ伸びた全身に点々と赤く刻まれた電流斑に目を留めて顔をしかめた。 「ルイス大尉のおかげです」 「途中まではわたしと一緒だったが、たまたまこの近くにヤボ用が生じてな。運が良かった」 そう言いながら、また毛布を掛けなおした。 「おまえたちは自室に戻れ」 いつもの猛禽の目になって、チキータ、イレーネを含む若い連中を拷問室から下がらせた。 あとにはミランダ、パオラ、ガス、それに純子も一緒にキンバリーの話を聞くことになった。 「ライアンめ、好かん奴だ」とガス。 「閣下は米軍筋からも命を狙われているのではありませんか」 パオラの推量を今では否定することなく、キンバリーが身体ごと大きく頷いた。 「あの娘も“特殊”にハメられた口だろう。あれだけ責めても吐かないどころか、まったく意外といった顔だ。いくらしぶとくとも、ああまで空とぼけられるとは思えんからな」 先日のバズーカ砲での襲撃が特殊機関の自作自演だとしたら――米軍ならやりかねない。 単刀直入にキンバリーが防御策を講じた。 「ついては一時“コロニア・ゼーラ”に匿われることにした。ガスとミランダを同道させた今日の用事がそこと繋ぎを付けることだった」 「えっ!?」とパオラが驚いた。 コロニア・ゼーラ――直訳すれば“魂のコロニー”だが、チリにあってチリでない独自の自治を成す集落で、しかも、そこを構成するのはナチの残党とその身内連中だった。 パオラは忌まわしい思いに取り憑かれ、自分が同道させられなかったわけも腑に落ちた。 「なあ、パオラ」 そう言ってキンバリーから手招きされ、純子から見えないところで耳打ちされた。 〈え?〉 パオラが驚愕したが、決して純子にけどられないよう、その身は微動だにできなかった。 数日後は晴れた日の午後であった。 高台に車を停め、並んで下を見わたした。 ここがチリであることが信じられなかった。ヨーロッパのチロルかどこかの風景を切り取ったようで、幅広い道路はすべてきれいに舗装され、集落に建つ建物はどれも豪壮だった。 そこには学校、病院、レストラン、ガソリンスタンドも完備し、また、航空機の離発着を可能にする滑走路まで付いていた。そうした自治は、同時に異常な孤立趣味とも見て取れる。 なぜなら、その周囲は鉄条網で囲われ、赤外線センサー、暗視用監視カメラ、サーチライトや見張り塔までが備えられ、陸の要塞よろしく厳重に、堅固に防備されていたからだった。 「人の気配というものが全くない」 ガスが同意を求めるべくミランダを見たが、能面の顔はいつにも増して無口だった。 「今日だけは何を言われても黙って忍べよ」 黒人であるパオラに、キンバリーがあらかじめきつく念押しした。 〈これが問題の“コロニアル・ゼーラ”!〉 その身は、おぞましい戦慄に取り憑かれた。 コロニアル・ゼーラはアジェンデ政権時でさえインディオやユダヤ人を使った人体実験が噂され、ピノチェト軍事政権となった今ではDINA(秘密警察)の拷問センターとしての役割も担っていた。 そこへ一人の女が貢ぎ物として差し出される。祖国からも見捨てられた日本人が、ただ、キンバリー一派の一時の延命のためだけに――。 〈今度はあそこがわたしの……!〉 その時、じっと見つめる純子の全身が、瘧(おこり)のような不安で激しく打ち震えているのだった。
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*以下資料を参考とした。 [スペイン語のお勉強](みんなで楽しくスペイン語) |