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作 マルガリテ/純子

第九章
贖罪。そして裁き…



デリアの物語


 デリアはリヒターとサンチャゴ中央駅にいた。
 ひっつめの髪をさらにアップした上、革ジャンにジーンズというとりわけボーイッシュな出で立ち――人混みに溶け込むには、これが恰好の姿だった。
「とうとう出てきたね」
 2人分の荷物を軽々と手に、リヒターが振り返ると恋人はじっと手を見ていた。
「どうしたの?」
「この手が……」そう言いかけたものの、すぐに「なんでもないよ」と打ち消した。
 リヒターが微苦笑した。それへ、
「このまま一緒に行くつもりだったけど……」
 今度は大事な話だったのに騒音で伝わらなかった。マブがぽかんと口を開けたきりでいた。
 構内アナウンスが流れていた。
[次のプエルト・モント行き列車は……]
[コンセプシオン行き列車が間もなく出発します]
 せわしないアナウンスを縫って、駅の売り子が「ナランハ、ナランハ(オレンジ、オレンジ)」と黄色い声を張り上げている。『軍事政権万歳! ピノチェト万歳!』と赤で書かれた横断幕の前では、ホームの人波に厳しい監視の目を向けるチリ軍兵士たちの姿――。
「切符を買ってくる」
 そう言ってリヒターが足早に離れて行ったのにも気づかない。
「デリア様ですね」
 名前を呼ばれてハッとなった。見れば知的で繊細な感じ、物腰穏やかな美青年がそこにいた。
「ニーナ・ギーゼブレヒト様からのお言いつけでお迎えに参りました」
 5年ぶりに聞く名前に驚かされたが、青年はたった今見せたうやうやしさとは一転して厳しい目線になり、デリアが一瞬身がまえたほどだ。
「御母堂様は今は人目をはばかるたいへん難しいお立場。ですので貴女様以外は……」
 リヒターの方に一瞥をくれて耳打ちした。
 会いたい相手が向こうから使いを寄越した。“渡りに船”だが、恋人を同道できないと知って気持ちがぐらついた。
「君のママなら僕も会いたかったし、ずっと会えるのを楽しみにしてたのにな……」
 急な変更を訝しがりもせず、ただ寂しそうにうなだれた。
 デリアが慰めるのに苦労した。
「ママには一目会うだけ。それさえ済ませば飛んでくから。あとはずっと一緒だから……」
 走り書きしたメモを渡し、自分のバッグをマブから受け取った時、ベルがリーンと鳴った。トランクやバッグ、荷物を押した人たちがホームを足早やに通り過ぎた。
 キスを交わす間もなく手を振り合った。
 やがて列車はゆっくりと走り出した。それが永遠の見納めになるとも知らず見送るデリアの前から、リヒターを乗せた列車はホームを横切り、みるみる遠ざかって行った。
 バッグ1つの荷物をコインロッカーに預けて出ると、駅前に車が停めてあった。
「以前のお屋敷は、とっくにないんですよ」
 青年は早手回しに伝えて車を発進させた。
 サンチャゴ郊外の閑静な高級住宅街に建っていた屋敷はない。そのことが母の没落を意味するのか、それとも別の秘密に由来するのか。
 デリアは目を瞑った。助手席に深く身を沈めて回想に耽った。
 デリアが生まれた1950年――。
 敗戦から5年後のドイツは東西に分裂、ソ連を主軸とした共産主義体制とアメリカ主導の資本主義体制に分かれ、いわゆる冷戦構造に国ごと巻き込まれた分断国家の一つとなった。
 東側市民だった父ルトガーは、共産体制に馴染めず、というより機を見るに敏な性格からほどなく祖国を飛び出し、冷戦を逆手に取って武器商人となり、世界を股にかけて暗躍した。
 勝ち気な妻ニーナは“内助の功”など性に合わず、というより飽きたらず、天性の美貌と社交性を武器に危険がともなう武器売買に自らも身を投じ、重要な商談をいくつもこなした。
 商域は冷戦確立後の欧州から中南米へ。
 そこは“アメリカの箱庭”と呼ばれ、アメリカの意に沿わぬ国や政権には横ヤリを入れ、米ソの代理戦争としての内戦で、おなじ民族が血で血を洗う凄惨な情況が作り出されていた。
 夫妻は政権とゲリラ、対立する両者にまたがって武器を売り込む文字通りの“死の商人”だった。だが、その倫理善悪も理解できぬまま、デリアは物質的には何不自由なく成長した。
 そうしてデリアは8歳になった。
 その年1958年4月から5月にかけアメリカ副大統領ニクソンは南米8か国を訪問、反米攻撃にさらされた。ウルグァイでは「米帝国主義者を葬れ」とのアジビラ、アルゼンチンでは野次攻撃、ペルーでは石を投げられ、カラカスでは数千の群衆に取り囲まれて車のガラスを割られ、身体中にツバを吐きかけられた。
 ルトガー家に衝撃が走ったのはその頃だ。
 ニーナが南米某国の反政府運動に連座した廉で捕まったのだ。8か月間の拘留期間中、デリアはルトガーに連れられ拘置所を訪れた。
 面会時間が終わり、別れ際はいつだって「座ったままで見送らせて」と言って伏し目がちだった。接見窓を通して見た、終始座り姿勢のその姿がデリアのトラウマとして焼きついた。
〈あの時ママは立てなかったのよ!〉
 そう思うや、拷問されるニーナの姿が忌まわしい映像となって心を悩ませた。
 ゼーラを出て、チリとも南米とも別れるにあたってニーナとの再会を期したのも、それを確かめて心のもやもやを払拭したかったからだ。
 車窓を見慣れた海岸線が走り過ぎた。
 ここはバルパラ、チリ軍港もある港町バルパライソ。このあいだまで大統領だった男の生地でもあるが、そのアジェンデはクーデターで殺された後は墓も許されぬならず者同然の扱いだった。
 港町を抜け、花街に入ると車を降りた。
 花街。プータと呼ばれる女たちが春をひさぐ売娼街である。
「これ以上は徒歩でないと……」
 そう言って恐縮する青年から数歩遅れて歩いた。ごみごみした街の一角で一目でそれと分かるプータが、「ピス、ピス」と独特の擬声音を発して注意を引きつけた。
「ちょっと兄さん」
 2階のバルコニーから身を乗り出して投げキスで誘いかけた。
 青年が「気にしないで」と振り返った態度が相手の疳に障って罵声が飛んできた。
「このオカマ野郎!」
 デリアを男と勘違いしたらしい。
 やがて青年は一軒の店に入った。〈ここにママがいるのか〉と、意外な面持ちと同時に言いしれぬ緊張感でドキドキした。
 入口そばのバーカウンター。赤いスポットライトを浴びたカウンター。3段に仕切られた棚のところ狭しと並ぶウィスキーやジンやウォッカの後ろの化粧鏡がきらびやかに光る。
「ブエノス・ノーチェ(今晩は)」
 ソファや椅子から女の子たちが声かけた。
 デリアを男と見て媚びを売っているわけではない。間近で女と認めつつ、女が女を誘いかける蠱惑の視線。ここは特殊な志向をも受け入れる店であるようだ。
「やあ、デリア!」
 伝法な声に呼ばれ、見上げたところに、階段の陰から身を乗り出して、いかにも売春宿の女将といった風情の中年女が、
「なにをきょとんとしてんだい、あ・た・し・だ・よ」
 と指で手招きした。
 驚いた。姉御肌な性格は昔のまんまだが、女優のように綺麗だったママが別人に見えた。歳月が、生活がこのように荒ませたのか。
「こっちだよ」
 階段を上りきると廊下の奥の部屋に招じた。
 暗い中に間接照明が頼りなく灯り、それが次なる見せ場の演出効果とも知らず、デリアは挨拶代わりに近況を報告した。
「ママ。じつはわたし5年前からね……」
「知ってるよ。コロニアル・ゼーラだろ?」
「えっ!? なんでそれを……」
 だが、ニーナは答をはぐらかして小窓のカーテンを開いた。明るくなった一点はマジックミラーで、そこから中2階らしい隣り部屋が見渡せた。
 半身を起こした裸を汗で光らせた女。白人ではない。混血メスティソだ。ばらけたロープが手や足首に絡みついて残り、ベッド脇には四角い装置も見られた。
 こちら側の音は向こうに聞こえないらしく、ニーナは遠慮会釈のないダミ声で喋った。
「さっきまで悲鳴がさんざんだったよ」
 聞かなくとも分かる。だらんと延ばした脚にも乳房にも、ロープ跡を消そうと互いの手首を揉む手にも後遺痙攣が続いている。
 パートナーが戻ってきた。それまでは単なる過激プレイと思い込んでいた。特殊な売春宿らしいことは入ってきた当座の雰囲気でも予想できたが、これではまるで拷問ではないか。
 白衣の責め役に〈おや?〉と感じた。顔を見たとたん声に出して愕いた。
「あれはイルマ!?」
 ゼーラの、聖アントニウス病院の婦長がなぜこんなところにいるのか。
「ちょっとした知り合いでね」
 軽く答えたが、にわかには信じられない。これからゼーラを脱け出る以上、迂闊には振る舞えなくなった。
 イルマが、その手に余る豊満な乳房をむんずと掴んだ。
[責め甲斐のある乳房だこと]
 舌なめずりするほど顔を近づけて痩せた指を褐色の肌に深々と食い込ませた。
 [ひっ]という小さな悲鳴を上げさせた後、イルマは女を寝かせた。脚を大きく開いて膝を立てさせた。
 股間をのぞき込んで口元をゆがめた。五指の先が器用に淫部を開くと、中は早くも濡れていた。巧みな愛撫は愛液を濃厚にして、ぬーっと開いた膣口からとろりとしたたらせた。
[白いのばかりじゃ淡泊すぎて、たまには浅黒いのが食べたくなってね]
 露骨な戯れ言を吐いて陰唇をめくった。指が敏感な核を器用にもてあそんだ。女は早くも愉悦の吐息を洩らし始めた。
 ニーナが憑かれたように見とれている。
 ふだん華奢な白人体型を好んで責めてきたデリアとしても、グラマラスな混血女の悶えようは新鮮な刺激だった。
 イルマの巧みな快楽責めは相手を反応させた。シーツを握り締める両手が、膝を立てて開かれた脚がぶるぶると激しい痙攣を繰り返した。
 [ああっ]と叫んでのけぞる。
[ひん、ひーん]と泣くように首を振る。
[やめて]と言ったすぐあとに陶酔の極みの溜め息。
 激しい喘ぎに合わせ、指責めに蹂躙される秘貝はぴちゃぴちゃぴちゃと淫らな水音を立てはじめた。
「なあ、デリア……」
 ニーナがしんみりした口調でつぶやいた。
「ジャンヌの居場所を知らないかえ?」
 マジックミラーには首を振る女の苦悶顔。イルマが拳を突き出し、ハードなプレイに及ぼうとしていた。
「あたしも若くはないしね。いつ死んでも悔いがないようジャンヌにも会っておきたいのさ」
 殊勝にもそんなことを言う。
 50センチ幅ほどの小窓に映る、四つんばいにさせられ、尻を突き出させられているグラマラスな全裸全身。迫る白衣姿。
〈ママがジャンヌに?〉
 母ニーナは父ルトガーの仕事を手伝い、一度家を出たら1週間くらい留守にし、戻ると留守にした時と同等期間、家族とくつろぐ変則的な日常の繰り返しだった。
 そこへ8歳のジャンヌがやってきた。
 当初ジャンヌはネクラの極みで、まるで精神に異常をきたしたかのようだった。常に何かに怯え、夜中に叫びだしたりすることもたびたびだった。その薄気味悪さからか、ニーナがジャンヌと顔を合わすことなどついぞ見かけたことがなかった。
「ねえ、ママ……」とたまりかねて問いかけようとしたところ、先にニーナが口を開いた。
「実はジャンヌはわたしの友だちの子で、のっぴきならない事情であの子を手放さなければならなくなって家の子にしたんだ。わたしとパパとの不仲は知ってたよね。その不仲が決定的となり、家を出ることになったのが、ジャンヌが来る時期と偶然重なっただけだよ」
 悪びれもせず淡々と語った。
 それは知らなかった。だが、そんなことを今さら打ち明けられる者こそ、いい迷惑だった。
 と、その時[ぎゃっ!]という叫び声にびっくりした。
 好色陰険な大年増のイルマが若い混血女に挑みかかっている。四つんばいの下から突き上げた拳の先を性器に押しつけ、陰毛の割れ目を強引に開きかけている。
 やはり思い切って訊ねた。
「じゃあ、これだけは答えて。ママが8か月間の拘置所暮らしの時、パパとわたしで面会に行ったよね。ママはいつも座ったままだった。決められた面会時間が終わって、別れる時もママは立とうとしなかった……」
「いったい何を言わせたいんだい?」
 ニーナの顔が急に凄みをたたえた。
「ママはさ、ママは体調がすぐれないと言って事実辛そうだったけど、それってレジスタンス容疑と関係なくって? ママは頑として否定して罪には問われなかったけど。ほんとうは反逆罪か何かで関係していたとか……」
 そこまで一気にまくしたてたら、ニーナの眼がカッと見開かれた。
「とんだお門違いだよ。わたしがあんなテロリスト集団の仲間なはずないじゃないか!」
 凄い剣幕で否定した。
 一度は真剣に女優を志したというだけあって何かと芝居じみた所作のニーナだったが、今の凄みにはデリアがこれまで見たこともない真実の迫力が感じられた。
 こんどはニーナが皮肉な笑みで迫った。
「おまえ、ゼーラでは28歳で通してんだって? 5つもサバ読んでどうしようってのさ。突っ張っても、おまえという女の本質は、まだ子供なんだよ」
 また、ジャンヌと引き比べた。
「わたしが子供だって? よく言うわね。家が大変な時に逃げてったのは誰よ。病気のパパとジャンヌを抱え、わたしはサーカス一座にもぐり込んで食いつないだのよ。そこは未成年者じゃ雇ってもらえなかったからね」
 弾みで言ったものの後悔した。どんなママでも親は親。がんで逝った父亡き後の一人っ娘は、この世で唯一の身内はニーナ一人なのだ。
 ミラーの中では、さっきまで四つんばいにされてた女が責め役と対等以上に絡み合い、全裸のイルマと2匹の蛇のようにもつれ合っていた。その2つの全身は汗でぎとぎとに輝いていた。
 好色淫乱なイルマが日頃唾棄し、軽蔑対象のメティスソ混血のチリ女に熱情の全てをぶつけているのだ。過熟の痩躯を若いぴちぴちの肉体に絡ませ、呑みつ呑まれつの争闘を繰り広げているようにも見えた。
[おお、ドクドクと熱い鼓動で押し返してくれるわ。おまえのココは名器よ!]
 貧弱な胸の上体をむっちりとした太腿のあいだにもぐり込ませ、性器に熱い吐息を吹きかけながら強烈なフィスト抽送を繰り返しているのだった。
 ニーナがその後再び振り向くことはなく、この母娘はミラーを通した異常な痴態を凝視して眼を爛々と輝かせているのだった。


 翌朝、慰安部屋の小窓から見下ろす階下の路地をデリアが歩いて行く。
「さすがはあなたの娘、颯爽としたものだわ」
 イルマが褒めそやした。
 そこにはうって変わって別人のニーナが、昼間からナイトガウンに身を包み、円熟期のガルボもかくやと見まごうほどの美貌で突っ立っていた。
「あの娘、ほんとに妹の居場所知らないのかしら?」
 指がガウンに触れた。
「そんなこと、もうどうでもいいわよ」
 つっけんどんに言い捨た。
「それより、さあ」
 はだけたガウンから豊満な乳房を露出した。
 イルマの手が熟れきった肉の感触をゆっくりと賞味した。
「夜は店の子を取っ替え引っ替え、昼間はわたしがそのあなたを……」
「さあ、早くちょうだい。早く!」
 イルマにしても、目の前のご馳走には早く食いつきたい。だが、その前にこれだけは確かめねばならない。
「ねえ、わたしを売ったりしないわよね」
「あたりまえでしょ」
 寸刻も我慢できないというようにイルマにその身を押しつけてきた。
「分かったわ。で、今日のわたしの役割は何? お医者さん? それともサディスト警官?」
 乳房を揉みしだきながら訊いた。
「7年前のあれ、あれを再現して!」
 ねっとりと潤んだ目で見詰め、禁断症状におののく麻薬中毒者のそれのように声を震わせ、うわごとのように催促した。


 デリアはもう、かなりの時間列車に揺られていた。
〈せっかく出てきた町なのに、また……〉
 会える確証は薄いが、しかもその相手というのはこれまで憎悪にも似た感情を抱き続けてきた対象、いわば仇のような存在なのに……。
〈またか〉と思った。
 何者かの視線。尾行の気配。一瞬にはニーナの執事のあの美青年かと疑ったが、間もなくそれは違うと確信した。駅までの途次、うろんな気配は何も感じなかったはずだ。
 構内アナウンスがパレル到着を知らせた。
 デリアが電車を降りたのは予定の行動だった。当てもなく町を散策したのも尾行者をまくためだった。込み入った場所や路地を選んで、はた目にはウィンドショッピングと思わせた。
 小一時間ほどやりすごし、日頃リヒターとの待ち合わせや電話連絡の中継点にしている電器屋に入った。ちなみにこの年1973年時点のチリの車、テレビ、電話普及率は国民千人あたり車21台、テレビ54台、電話39台であった。
「来てますよ」
 相手が常の男でないといって損得ずくが信条の主はお愛想一つ言うでもなかった。黙ってチップを受け取ると奥の小部屋へ案内した。
 待ち人はゼーラの病院看護婦タマラだった。
「大人しいおまえがゼーラ脱出とはね……
 こうやって相対すればするほど信じられないよ。といってわたしもおまえと御同様。密告なんかしないから、それだけは信じろよ」
 安心のクギを刺したが、タマラにはそうは取れなかったようだ。
 昨日、パレル駅でこそこそ切符を買っているタマラを発見、追究して白状させた。それだけなら黙って見逃すところ、かねての思いから今日の待ち合わせとなった。
「おまえ、ジャンヌの居場所を知らないか?」
「え?」
 チリを離れるなら身内に別れを告げるのは当然。だが、それはふつう一般の意識。デリアとジャンヌの関係を知る以上、錯綜する思いの中に相手の真意を探ろうとするタマラの目。
 こういう時は矢継ぎ早に訊くことだ。デリアは間髪入れず、
「ゼーラで仲良しだったおまえなら知ってるはずだ。なあ、妹に一言詫びたいんだよ。そして心おきなくチリを離れたい。そうでもしないと胸のどこかにこう、しこりを残して、うずうずしてたまらないんだ」
 心情切々、相手の目に訴えかけた。
 一日おいたのにも意味がある。身より頼りもないタマラがゼーラを逃げるからには強力な後ろ盾が必要。それならジャンヌの脱出を手助けした、あの連中以外ないと判断、彼らとつなぎを取る時間が一日と踏んだからだ。
「わ、わたしは、わたしは何も知らされてません!」
 固い甲羅を見せてとぼけたが、「知らされてない」という言い方がすでにボロを出していた。だがすぐに、タマラのやさしさがタマラ自身の甲羅を溶かしかけた。
「ほ、ほんとうに会いたい気持ちになったの? だったらわたし……」
 固く閉じた貝の口を開きかけた。が、その口を、なんとデリア自身が指で蓋をしたのである。
「いい。やはり聞かないことにする。
 だめだよタマラさん。今ではあなた個人の責任で答えられる立場にないんでしょ。ぜったいに気を許してはダメだ。ましてや相手はこのわたしなんだからね」
 そう言って柔和に微笑みかけた。
「もしジャンヌに会うことがあったら伝えて欲しいの。いろいろあったけど、今では子供時代のことが懐かしい。元気で生きて欲しい、デリアがそう言っていたと」
 あとはサバサバした顔で立ち上がった。
「用は済んだ。もう、行っていいよ」
 手を振って追い払うしぐさをした。
「あ、待って。この奥の裏口から出て、家々の軒下をたどって反対側に出るんだ。さあ!」
 接客用小部屋の脇の狭い廊下の向こうを指差して教え、背中を叩いて乱暴に押しやった。あたふたとして出て行く背中を見送り、デリアがニヤリと笑った。
〈バカな女だ〉
 それから何食わぬ顔で電器屋を出ると、目当ての道をたどった。ここから駅へは裏道でも知っていない限り道は一つだった。愚鈍が方々訊ねた結果だろう。タマラにはすぐ追いついた。
 タマラはこれですっかり油断して、何の警戒もなく奴らの許に急ぎ、ジャンヌに行き着く。ママに頼まれたこともあるが、時に応じてこの手で始末したい気もあった。
 タマラを尾けて再びパレル駅に向かった。
 人混みの向こうに改札が見えた。
 チリ軍兵士が3、4人、改札のまえで人波に厳しい視線を向けていた。いつものことだと歯牙にもかけなかった。
「待て」
 兵士の一人に誰何された。
「何か?」
 悪びれもせず、臆することもなく応じた。
 上官らしい兵士はことのほか関心を表し、そこでも自身の美貌の所為と半ば慢心してそれ以外のことに気を配らなかった。
「通行証なら持ってますよ」
 チリ国内どこでもフリーパスのゼーラの住民証なら肌身離さず携帯していた。それを出そうとした手を阻まれた。
「向こうで見せてもらう。来い」
 横柄に、尊大に指図して連行した。
 このわずかの異変を偶然振り返ったタマラが目撃したが、自分の後ろについてまた同じ列車に乗るべく巡り合わせた“偶然”を不思議がるほか、特別の感慨はなかった。
 尾けてることを気取られないとは、尾けられてる対象にも気づけないということである。そうしてタマラは見過ごされ、デリアだけ殺戮者たちの手に絡め取られたのであった。
 気がついたらデリアは目隠しされてジープに乗せられていた。
 その耳に擬装チリ兵のやりとりが聞こえた。
「……“サンチャゴの獲物”と引き合わせて尋問した方がやりやすくはないですか?」
「バカめ。あっちが手こずってる間にこっちはこいつから情報を聞き出すんだ」
「なるほど。それで点数が稼げますね」
 あとは笑い声……
 どこかで死を予感してなかっただろうか。そう思ったのが最後だった。デリアの意識は混濁の闇に、絶望の淵に真っ逆さまにころがり落ちていった。




暗い波濤


 遠く連なるフィヨルドも、波間の向こうの島影も暗く靄って見える。空には重い雨雲がたれ込め、今しも嵐の到来を思わせて不安な感情を掻き立てた。
 バス停を見上げる海岸線の砂浜にセダンが1台停まり、このあいだまでチリ軍大尉だったガスパール・ルイスが海を見つめている。
 すぐ後ろに黒人女性。そのパオラに、レジスタンスに身を投じた今も腹心の部下として陰に日向に仕える、二十歳そこそこのイレーネがルイスの消沈を案じた。
「どうしたんですか? さっきから暗い顔をして。あなたに助けられたジャンヌだって、今日の日を楽しみしてるんですよ」
 ルイスが自嘲気味につぶやいた。
「また、病気が起きてね……」
「……!」
 イレーネが絶句した。
「ガスペド・ルイスの復活かも知れないよ」
 顔ばかりか声まで暗かった。
 ルイスには少年少女愛嗜好があり、これまで軍務にかこつけ、幼いレジスタンス容疑者やレジスタンスの子や孫にあたるティーンを尋問と称して陵辱したり犯したり――だが、ジャンヌとの出逢いで自身の罪の重さを悔い、再生を誓ったはずだ。
「考えすぎでは? ジャンヌやジュンコさんのことでもあんなに一所懸命なのに」
 そう言って同意を求めるべくパオラの表情をうかがったが、
「君はやさしいね。でも、パオラさんの目を見てごらん。『それみたことか』と殺気立っているよ」
 パオラが「よしてよ」と手で払った。
「人にとやかく言える立場じゃないわよ。わたしだって元はキンバリー付として彼女の所業に荷担する立場にあったんだから」
 そう反省したら、
「そう言われるとわたしだっても……」
 イレーネが体裁悪そうに頭を掻いた。
 彼女とてパオラに付く前は、キンバリーが独断専行独自に組織した私兵ギャル軍団の一員だった。
「でもパオラさんは事務職だけ一任され、キンバリーの所業には関知してない……」
 それもこれもパオラが黒人であることの、キンバリーの差別観によるものだが、それを言いかけてルイスは口をつぐんだ。
 遠くでエンジン音がした。
 重々しい気筒音を響かせて見上げる目の高さの臨海道路に鼻面を突き出したボンネットバスが通ったが、誰も降りる客がいないと見えて排気ガスを撒き散らしながらそのまま行き過ぎた。
 イレーネが海岸線の向こうを振り仰いだ。
「来た!」
 さっきとは明らかに違うエンジン音が近づいて、オンボロベンツが波打ち際を水を切ってみるみる迫った。
 勢いよくドアが開いて、ジェームス・リッチが、やや興奮の面持ちで降りてきた。
「ライアンが食いついてきたぞ」
 そう伝えたらパオラが混ぜっ返した。
「マイケル・ヒギンズでしょ」
「その名前にはヘドが出る。ルイスだってベンジャミン・ライアンで記憶してるんだ。ライアンはライアンだ」
 強引に決めつけて報告を続けた。
「奴め、さるルートを通じて俺に接触してきたということだ。お陰で、これからまたサンチャゴに戻らねばならない」
「えっ。遙か500キロをまたとんぼ返り?」
 パオラが遠く霞む廃船倉庫を見渡しながら溜め息をついた。ここはいつか来たビニヤ・デ・マルの近くの港町バルパライソだった。
 イレーネは別の心配をした。
「罠ということはないんですか?」
「ディスコの人混みに紛れてだから危険はないだろう。ただ、それにあたってはパートナーが必要で……」
 皆までいわせずパオラが応じた。
「相手がライアンなら、その彼に面が割れてるマリアを連れて行くということね」
「また借りるよ」
「あの子、元気にしてる?」
「“ジュンコ命”のご執心以外はね」
 パオラが苦笑した。
 それで切りをつけて手帳を一枚破いて走り書きした。
「今度のジャンヌの潜伏先はジュンコの逃亡を手伝ってくれたチリ軍大尉、マヌエル・グスマンさんの別宅よ」
「コンセプシオン……近いな。だが、信じられるのか?」
「モラレスさんの折り紙付きよ」
「それなら間違いないな……お、電話もあるのか。こりゃ好都合だ」
 紙片を背広の胸ポケットにしまいこんだリッチが、海の方を向いてしょげているルイスに喝を入れた。
「どうした、二枚目!」
 ルイスが暗い顔で振り向いた。
「俺という人間の罪深さを恥じてね……」
 リッチが舌打ち、「何を今さら」と一笑に付した。
「悔やんだからと言って死者が生き還るわけでもないだろう。俺だってベトナムで何の罪もない百姓や女子供をどれだけ殺(あや)めたことか。それを面白がるライアン如き鬼畜もいたが、結局は止めるでもなく見過ごしてきた罪の数々……」
「だけど……」
「よせよせ」と笑い飛ばした。
「俺が君を買ったのは天性の射撃の腕と神をも怖れぬ突撃敢行魂が欲しいからだ。よけいなことは考えるな。ゼーラを叩き潰すことだけに心を集中しろ。そして撃て。殺せ。弱気や迷いは味方をも危うくするぞ」
 呆然と聞き入るパオラ、イレーネを尻目に、リッチはルイスの背中をどーんと叩いて景気づけの仕上げにハッパかけた。
「相手はナチだぞ。だが、ゼーラには軍事部門とは別に市民が一般生活を営んでいる。敵を見誤るな。そのためにも沈着冷静な君の目と勘と射撃術がものをいうんだ」
 その瞬間ルイスから憑き物が落ちた。
「分かったよリッチさん」
 顔を上げたルイスが、いつもの精悍なハンターの眼にもどっていた。
 遠くで風が唸った。その後で横なぐりの突風が吹きつけた。島影をバックに、カモメがどれも低い位置を飛んでいる。
「嵐が近いのかな……」
 リッチが鉛色の空を見上げた。
「よし、行こう。ルイスはパオラと代わってこっちに乗れ。新しい仲間を紹介したい」
 4人はそれぞれ車に向かった。
 助手席のドアに手をかけてパオラが訊いた。
「コンセプシオンのあの界隈じゃ噂よ。『正直者のエルナンデスはどうした、週末には自宅に戻るのに、ここのところ姿を見ない、ゼーラの連中の神隠しにでも遭ったんじゃないか』って。あれも貴方たちね?」
「“敵を欺くにはまず味方から”というだろ。だが、お陰でエルには感謝されたよ。『僕は子供の頃から痛いのは苦手だ、モサドになんかに捕まったらすぐゲロを吐くに違いないから』って――」
 悪戯っぽくウインクして車に乗った。
 ドアを閉める音が立て続けに響いた。エンジン音が力強く唸り上げた。そうして2台の車はそれぞれの目的と場所に向けて走り出した。




ジャンヌの物語


 性器周辺を羽虫が這いずり回っている。おぞましい感触の羽虫は魔女キンバリーの指だった。陰唇を開き、陰核をつまんだ。別の指は肛門に挿入されている。
「拷問の前に可愛いがってやる」
 そうして魔女の肛門指姦は2本、3本と侵入の数を増すごとに酷くなる。4本目ではさすがに苦痛が声になって飛び出した。
「後ろはまるでドラム缶並じゃないか。いや、トラックだって通り抜けできるかもよ」
 嘲り言葉に、ジャンヌは屈辱を噛み締めた。
〈あの年寄りがこうしたんだ。あの醜いゲス野郎がわたしの青春を奪い、人殺しの怪物に、見せ物の奇形児に仕立てんだ!〉
 悪夢の中でさえ我が身を呪い殺したいほどだった。
「うげええーっ!」
 絞り出すような絶叫を吐いた。
 トラックの代わりに薪ざっぽうのようなキンバリーの腕がずぼっと入ってきた。
「クサイクサイ! こりゃ糞壷ドラム缶だ!」
 囃し立てながら腕を突き入れた。男顔負けの拳の先が固くすぼまったS字結腸を拡張、そこを通過するとどんどん入って腸の深奥部にまで達した。ぐちゃぐちゃという粘った水音を立てさせ、嬉々として責め苛んでいる。
〈なんなの、これって!?〉
 ジャンヌは混乱した。
 悪夢なら覚めなければならない。そう思って懸命に暗示をかけた。
〈わたしはルイスおじさんに助けられ、今はゼーラの連中の手の届かない安全な場所にいるはずよ〉
 それから〈夢よ醒めて!〉と念じた。
 だが、それでも魔女の手はどんどん突き入ってくる。貫通し、15歳の少女の直腸を突き抜け、胴体を串刺しにして内臓を引き裂いている。
「やめてぇーっ!!」
 泣き叫び、助けを求めた時、再び漆黒の闇に突き落とされた。これで夢から醒めたと、ほっとしたのも束の間――
 乳首に妖虫がかじり付いている。妖虫は徐々に熱を伴った歯で噛み付いた。毒虫と思ったそれは電気拷問用の金属クリップだった。
 「あっ」と目を見開いた時、ゼーラの教祖バルツァー・ジークベルトの皺だらけの顔が、目の前で毒臭い息を吐きかけた。
「ここは処女そのものだのぉー」
 ほほほ、と女みたく気味悪く嗤い、もう片方の乳房を摘んで乳首をひねり出した。
 皺だらけの顔が微乳にしゃぶりつき、乳首を黄色い歯の中に捉え込んだ。口で吸い、舌をこすらせ、汚い唾液でぐしゃぐしゃにした。
「うう、うっ、むう……」
 全身おぞましさに総毛立ち、ジャンヌは懸命にあらがった。それを面白がって教祖の乳房玩弄は続く。
 目一杯舌で転がしたと思えば唾液でぬるぬるにし、もう片方にも電極を噛まそうとする。滑りを良くした乳首に金属クリップを一こすりした後、乳首を千切れる痛みが刺し貫いた。
「歯を食いしばれぇー」
 口元をゆがませた皺だらけの顔。拷問装置にかかるガイコツの手。そして無機質なスイッチ音が耳に伝わった。
 乳首から入った電流が脳髄を、脊髄を直撃して四肢の先に発散した。
「うぎゃあーっ!! ぎゃ、ぎゃああっ!!」
 ガタガタガタッと揺らす拷問台。飛び散る汗。見開く目。のけぞり、てんでの方向に突っ張りながら痙攣を繰り返す少女の手と足。ぶち切れんばかりに筋を浮き立たせて痙攣する太腿。ふくらはぎがぷくぅーっと膨らんだ。
 ジャンヌが叫んだ。
「これはわたしじゃなぁーい!」
 第三者の目として見ているこの場面はいつかの出来事。それはいつ? そして誰?
 懸命に記憶の糸をたぐり寄せた。
「ぎええええーっ!!」
 当事者でない第三者から血を吐くような叫び。そして尋問――。
「さあ、ヴィッキー。組織のことを洗いざらい吐け。ボスは誰で、仲間は何人か言うんだ」
 夢の中でヴィッキーという名を聞いた瞬間、ジャンヌは雷鳴に打たれたような衝撃を受けた。
〈拷問されているのは母さん!〉
 そして拷問している者はジャンヌの生まれた国の、国家情報局に勤務する秘密警察職員オズワルド・モロー!
 そいつの手で可哀想な母さんは全裸にされ、全身縛られ、乳首と性器と肛門に電極をつながれ、身体中を回路にされて電流漬けにされているのだった。
「母さん喋って! 何もかも言うとおりにして! 母さんが苦しむの見てらんない!」
 夢の中で何度も何度も呼びかけた。
 だが、ヴィッキーは頑として口を割らない。どんなに尋問されても無言を貫いている。泣き叫び、全身をバラバラにされるような痙攣をくり返しながら自白を拒否し続けていた。
 そしてまた、真っ暗な闇。その闇も薄れていき、夢からは解放された。

〈身体がやけに熱いわ。
 ここはどこ?
 ……そうだ、グスマンさんの家だった。
 昨日から風邪をひいて、高熱で頭が正常じゃないんだっけ。
 下着が汗でじくじくしてる。でも、汗がビールスを一緒に押し流してくれるから我慢してよう。
 早く治って元気になるんだ!
 わたしだって銃は撃てる。ジュネを護れる。ジュンコさん救出の力にもなって、ゼーラを叩き潰すんだ!
 もう眠るまでもないわ。記憶の断片をつなぎ合わせ、今まで分からなかった部分を別の角度から光りを当てて解き明かせないだろうか〉
 そうしてジャンヌは何か見えない力によって激しく突き動かされた。


 1958年、中南米に反米気運が盛り上がった年に、ジャンヌはエンリケ・バルトロメ、ヴィッキー夫妻の子として生まれた。
 物心ついてからのジャンヌは反政府運動にのめり込んだ父と、それを支える母と共に終始見えない敵にそなえ、何かにおびえ、緊張感ただよう毎日だった。
 いい思い出なんかなかった。母の思い出。父の思い出。いくら思い出そうと努めても、漠然とつかみ所のない記憶のみだった。
 唯一楽しかったはずピクニック気分も、その直後の惨劇で呪われた記憶と化してしまったのだった。
 その当時、国内はどうだったのか。
 カストロの成し遂げたキューバ革命に脅威を抱き、諜報機関を駆使した度重なる干渉と露骨な反革命扇動を繰り返してきた大国アメリカ。
 1962年、キューバはアメリカへの対抗措置として、国内にアメリカの鼻先に向けたソ連製核ミサイルの基地を建設。第三次世界大戦へ一触即発の事態を招いたキューバ危機が起きた。
 時のアメリカ大統領ケネディの大博打に対し、ソ連首相フルシチョフが折れて危機は回避された。だが、中南米を“箱庭”とみなすアメリカの破壊活動は繰り返され、アメリカの傀儡政権打倒をめざす真の愛国者たちの自由と独立を求める闘いで多くの人の血が流された。
 そしてジャンヌの生まれた国では……
 軍事独裁政権の過酷な弾圧に対抗して結成されたセント・ドミンゴ特命隊は、その国の親米売国の権力者たちにとって目の上の瘤だった。貧しい人々の信頼を一手に勝ち取った彼らは、その特異な組織形態からも軍や秘密警察の執拗な追究を交わし続けた。
 エンリケ同様ヴィッキーも闘う抵抗戦士だった。めったに家に帰ることなどなく、ジャンヌのお守りはたいてい祖母だった。
 1966年――。
 その年2月――南米の2月は夏だが、その時8歳のジャンヌは両親と、レジスタンス組織がアジトにしている山荘にいたが、この時も水入らずではなかった。周囲には父エンリケが同志と呼ぶセント・ドミンゴの精鋭10数人がいて、「細胞」だの「支部」だのといって組織作りを討議していた。
 合宿は3日目に入り、朝から机を囲んでの議論は煮詰まっていた。
 その夜のこと――。
「今度はパスカルおじさんが勉強を教えてあげるよ。何が分からないのかな?」
 リーダーのエンリケや給仕役ヴィッキーに代わって幼いジャンヌの相手をするのも、組織の仲間の役割分担の一つだった。
「お茶にしますよ」
「いやあー、今日はいつにも増して美しいね。エンリケに、嫉妬の神様のバチが当たらないように」
 と、そんなジョークも飛んだ。
 誰もがその日は、ヴィッキーの目も醒めるような真っ赤なドレス姿に心を和まされていた。
「いつも地味な服しか着させてもらえないから、たまにはこういう格好もいいかと思って」
 エンリケをいたずらっぽく睨み、身体を一回転してスカートをひるがえした。
「さあ、もう休みなさいね」
 母親に抱かれてジャンヌがベッドに入る時間がきた。ベッドに入っても、少女の耳に会議のようすが聞こえていた。
「それじゃあ、そろそろ方針の決を採ろうか」
 父さんが議事を締めくくろうとしたその時――
「待て。外のようすがおかしいぞ」
 山小屋に緊張が走った。
「しまった。取り囲まれてる!」
「そんな……ここは誰にも知られてないはずよ」
「カザルスの欠席はコレだったか!?」
「奴はそんな男じゃない!」
 仲間の疑心と猜疑が交錯する中、外からの一斉射撃で窓ガラスが砕け散った。
 それに対する応射でたちまち激しい銃撃戦となったが、暗視スコープを使った警察側の射撃は正確で、レジスタンスメンバーは一人減り、二人倒れ、またたく間にその数を減らした。
「ダメだ。すぐに踏み込まれる。エンリケ、君たちは大事な司令塔だ。落ち延びて革命の成功をめざしてくれ」
「何を言ってる」
 夫妻はうろたえたが、仲間は一刻を争って2人を部屋の奥に案内した。
「内緒にしていたが、実はこの山荘は下を秘密の抜け道が通っている。さ、早く!」
 まずエンリケが、次にヴィッキーがジャンヌを抱いて抜け穴をくぐろうとしたが、足を踏み外して捻挫してしまった。
「これじゃ無理よ。あなただけ逃げて!」
 渋るエンリケを急き立て、送り出した直後、催涙弾が投げ込まれ、濛々たる白煙の中にドアが蹴破られて特殊部隊がなだれ込んだ。そして武器を棄てて投降を試みたメンバーを銃撃、ヴィッキーを残し全員射殺したのだった。
 全てが終わった時、暗がりに飛び交う蛍のような索敵銃の暗視光とサーチライトに照らされた床に流れるおびただしい血の痕。さらには引き離され、引っ立てられていく母ヴィッキーが着ていたドレスの色のそれら赤が、ジャンヌのトラウマとしていつまでも心に染みついた。


 その時は8歳のジャンヌまで軍施設に囚われることになった。
 一人っきりにされ、泣き疲れて寝入ったその後で凄まじい悲鳴を聞いた。
 目の前にガラス戸があり、観葉植物が目を楽しませる猫の額ほどの中庭があり、絶叫はすぐ向こうの部屋から聞こえた。
「ぎええええーっ!!」
 こんどははっきり聞こえ、悲鳴と共にカタカタとベッドを揺らす音もした。
 いきなりカーテンが開けられてジャンヌが息を呑んだ。
 部屋のガラス戸を通して、脚をこちら向き加減にテーブルに寝かされ、電気拷問されているのは母ヴィッキーだった。周囲に覆面の男たち4、5人。それが皆、山荘になだれ込んできた特殊部隊とおなじ戦闘服を着ていた。
「実の娘にこんな姿を見られるようなことをして、それで人の親といえるのか?」
 素っ裸の全身傷だらけにされて、その股間にも、乳房にもコードが取り付けられていた。一瞬コードが震えたのは、ヴィッキーが激しく首を振っていたからだ。
「むあ、あっ、いいーっ!」
 目を見開き、しきりと何か喋るが、口に詰め込まれた猿ぐつわで言葉にならなかった。
「あれを見ろっ」
 司令官とおぼしき男にジャンヌは指差されたが、それが悪名高き性拷問エキスパート、オズワルド・モローだったのである。
「あの娘も成長すれば、反逆者になるのだろうな」
 モローは裸の腹をいやらしそうにさすって見せた。
「この腹がなあー……あの時エンリケ共々逃がしていたら、またサナダムシの二の舞だったのか」
「サナダムシとは、また何です?」
 モローは部下の質問に得意げに答えた。
「無限に増殖する生き物だ。何千という体節を持ち、殺しても頭がある限りまた再生する。抵抗運動で頭は参謀本部、すなわちエンリケとこのヴィッキーだが、この2人が夫婦であることには、頭の他にやっかいなモノを有している」
 察しのいい部下が口元をゆがめた。その口から下卑た笑いが洩れる。
 男たちの残虐の意図を感じ取ったヴィッキーが滅茶苦茶に首を振った。
 〈いやああーっ〉と叫んだのだろうが、これも猿ぐつわで言葉にならなかった。
「脚を開かせろ」
 部下に言いつけておいて、その間、自身は手術用の薄いゴム手袋を装着した。
 その時である。
 中の女が――特殊部隊員の一人が女であることは幼いジャンヌにも察しがついた。地味な戦闘服で、うっかりすれば見落としがちだが、胸の膨らみや腰つきで分かる。それが金属製の筒型医療器具を渡した。
 両脚の縄を解かれ、男2人に下半身を大きく観音開きされると、その間に司令官が上体を屈め、何か事に及んでいる。同時に部下たちは、開いた脚をなお無残にさらして組んで台に縛り付けた。
 作業の間、「ううっ」「むううっ」と押し殺した悲鳴に近い呻き声。それが高じて、「ひえーっ!」と悲鳴を突き上げた。
「堅いな」
「ひっ、ひぃーっ!」
 猿ぐつわの奥で金切り声を上げた。
「く、くっくくく……」
 ヴィッキーではない戦闘服の女から、さっきから不気味な笑いが洩れていた。底なしの悪意と殺意すら感じられる含み笑いが続いていた。
 モローが離れた時、そこにカエルの解剖図のようにテーブルにハリツケにされ、性器を全開されたヴィッキーの姿。女の秘所である性器がぽっかり大穴を空けていた。
 また例の女だ! 今度は取っ手からコードを垂らした棒状拷問具を司令官に渡していた。眼を凝らしたところ、兇具は先が尖って見えた。
「ひええーっ!」
 激しく拒否し、キチガイのように首を振ってあらがうヴィッキーを尻目に、冷酷な殺戮者は犠牲者の上に屈み込んだ。
「ひえ、ひえ、ひひぃー……」
 ヴィッキーの怯える瞳が点になり、白目部分がだんだん大きくなり、こちら側から見ていても怖いくらい見開いた目が、ほとんど飛び出すかと思えた。
「ぎえっ、ぎゃひいーっ!!」
 ガラス戸を震わせて絶叫が響き上げた。
 拷問官が腕組みして見下ろす前で、ヴィッキーを乗せた骨組みだけのベッドが持ち上がった気がした。脚を縛ったロープが激しく食い込み、下半身に汗が噴き出したその時――
 ジュウウッ……という音を聞いた。股間から立ち上る煙、半田ゴテが肉を焼く異臭がジャンヌのところまで届いた。
「母さん! 母ぁさーん!」
 ジャンヌは無意識に、本能的に泣き叫んでいた。ガラス戸をぶち破って飛び出そうとするのを誰かに押し止められた。
 また、あの女が笑っていた! のたうち回るヴィッキーを取り囲んで罵り、嘲笑う男たちと一緒になって不気味に笑い続けた。
「ぐえええっ、ぎひひいーっ!!」
 目を見開いて卒倒し、のけぞり、のたうちまわる全身汗みずくのヴィッキー……。


 わずか8歳の脳裡に、なぜそれらの場面が克明に刷り込まれたのだろう。
〈落ち着いてよく考えろ〉
 ジャンヌは我と我が心に必死に言い聞かせた。
 拷問を嬉々として眺め、笑っていた女。あれはデリアの母ニーナではないかといつか思い始め、その疑念はだんだんに確信にまで登り詰めた。
 母はよく自分を抱き締め、「あなたで良かった」「あなたは心の優しい子だもの」と誰かと引き比べる言い方をしていた。それはニーナと、ニーナの子デリアとも面識があったということではないだろうか。
 デリアもまたこう言っていた。
「ママの口癖は強い女、人を押しのけて生きて行けるたくましい女、その期待どおり育ったおまえはわたしの自慢だ。素直でやさしいだけの女など男に利用されるだけ。おまえはそんな子でなく良かった、とね」
 得意になってデリアが語ったデリアの母ニーナの娘自慢は、そのまま自分の母ヴィッキーの娘自慢との合わせ鏡のようなものだったのではなかろうか。
 そのうちニーナとヴィッキーが学生時代、一人の男子をめぐって恋のさや当てを演じたこと、それが高じて大人になってからはエンリケをめぐる両者の対立に発展したとの噂を、ジャンヌはどこからか耳にした。
 ニーナはヴィッキーを憎んでいた。その憎しみが殺したいほどなら、レジスタンス組織の最重要会議の場である山小屋を秘密警察に密告して襲わせたのも当然の所為といえた。あの場にニーナがいたのも、何らかのコネというより権力側から下された褒美だろう。
 秘密の抜け道を通って逃げたエンリケも、2年後再び秘密警察の追跡に遭って銃撃戦の末射殺され、組織は実質壊滅した。当局がいくら的を絞っても捕らえることができなかった大物反政府武装組織セント・ドミンゴ。その殲滅に寄与した褒美は、いくら与えても与えきれないほど価値あるものに違いない。
 最後にモローは、
「こいつを手術室に運べ。しぶといサナダムシだ。焼くだけでは安心できん。子種を宿す器官を根こそぎえぐり取れ」
 そう言って笑ったのである。
 部下たちも笑った。そしてあの女――おそらくはニーナである女も笑いながら虫の息のヴィッキーをベッドから起こして引きずり、運び去ったのである。
 あとには静寂――。
 カーテンの向こうも、廊下の奥のどこかに存在する手術室とやらも見えなかったが、それまでの十分すぎる残虐行為を脳裡に焼き付けた後では、悲鳴が聞こえなくとも、惨状を目撃せずとも、すでにジャンヌの心の中で母ヴィッキーは刻まれ、なぶり殺しにされて泣き叫んでいたのである。
 ただ、その母が……
 母の苦悶が今では十分に思い出すことができないでいた。顔は出てくる。だがそれは母ではない別々の顔たちだった。ゼーラで殺され、あるいは教祖に強制され、ジャンヌ自らが銃でその手にかけた女たちの死に際の表情が、殺戮される母ヴィッキーの顔となって浮かぶのだった。




被虐の果て


 ポロネーズの調べに乗って、そこだけ見れば車椅子に乗った足の不自由な老人の穏やかな午後のコーヒータイムに過ぎなかった。
 だがここはゼーラの森のはずれに建つジーク・ホイゼである。
「やはり野に咲け蓮華草ということか。刈るのもいいが、後の手入れが大変だな」
 そうつぶやいて部下の仕事ぶりを観察した。
 エルンスト、ゲットナー、国家の中の国家コロニアル・ゼーラを掌握する軍事部門の最重要幹部2人が、ゼーラの盟主にして教祖であるバルツァー・ジークベルトの忠実な床屋のようなことをしていた。
 そして純子は……
 微かな、剃刀の当たる音と感触――。その時純子は、剥き身の淫肉からの生えかけヘアーを剃られていた。恥ずかしい部分を照らされ、じっと見つめられながら徹底した剃毛が時間をかけて行なわれていた。
 また開脚寝台――X(イクス)の磔台を内診台と合体した変形開脚寝台に乗せられていた。膝は曲げてなくとも、大股開きの恥ずかしい格好であるには変わりなかった。
 ドアが開いてミランダが報告に訪れた。
「なに? それはほんとうか」
 教祖が常にも増して不機嫌だった。能面女ミランダの報告に立腹している。
「デリアにリヒター、イルマにタマラまでそろってゼーラを脱けたということか?」
 口べたなミランダに代わってエルンストが推量した。
「4人いないことは事実ですが、4人が4人示し合わせてというのは妙です。デリアとリヒターはともかく、あとの2人は病院関係といっても上司と部下の関係……」
 皆までいわせず逆鱗が飛んだ。
「バカ者! そういうレベルの話じゃないだろう。4人も脱けたという事実だ」
 ミランダが風を食らって戻りかけたが教祖に引き止められた。
「他の奴らでは心許ない。調べに行け」
 エルンストがゲットナーをともなって出て行った。
 ミランダを残し、また「ほほほ……」と女みたく気味悪い笑いを響かせて純子の許にもどった。
「おお。綺麗になったの。まるで幼女のような。淫乱糜爛(びらん)の幼女マンコだ」
 からかい嗤いを響かせて陰唇をつまんだ。そして金属製の医療用嘴管がぬるりとして膣口に触れた。冷んやりとした感触が割れ目を押し開きながら確実に挿入されていくのを感じる。
 続いて膣が全開され、痛みはどんどん大きくなっていった。
〈ああ、アソコが拡げられてる……〉
 カチャンと音がして、ほどなく冷たい細い棒が子宮に当たるのを感じ取った。しばらく子宮口をまさぐっていたが、その後、女のさらなる内奥に侵入してくる。
「うっ、ううっ」
 時折感じる鋭い痛みに思わず声が漏れた。
 そうして子宮への準備がととのった。
「気がついたようだな。見せてやれ」
 ミランダによって目隠しが外された。
 照明を極度に落とした情況からは、ここがどこかは分からなかった。だが、目を上げた瞬間「あっ」と声に出すところだった。
 2階の高さの壁に掛かった大型モニターに、解剖台にXの字の磔になった自分の姿。それを見せつけられるおぞましさの極致の恥辱――
〈ああ……まだ、ここにいたんだわ〉
 意識を取り戻してからずっと、濃厚にただよう消毒用アルコール臭から、てっきり手術室だとばかり思っていたのに。
 お腹を通した向こうがぼんやりと明るい。
 開かれた脚と脚の間に車椅子の教祖が――今日に限っては白衣姿で、婦人科患者を診る医師の目でアノ部分にじっと目を凝らしていた。
 傍らの医療台車から細長い金属棒を取った。
「これはの、子宮ゾンデというのじゃ。
 子宮内に挿入可能なこの先端挿入部、並びに先端挿入部の後端に形成され、膣内に配置可能なこの中間挿入部と、それの中間挿入部の後端に形成され、把持するためのグリップ部とを有する子宮ゾンデにおいて……」
 純子を意識してのラテン語講釈だったが、専門的すぎて3分の1も理解できなかった。
 いきなり、持っていた医具が子宮に突っ込まれ、鋭い痛みに「ぎゃっ」とのけぞった。
「かなりの出血ですね」
 見えない恐怖は別の方に顔を向けさせた。コードが内股を伝って腰から垂れている。その先に椅子に置かれて装置が見えた。部分的にも全体が把握できる上手い位置の定点撮影だった。
〈ああ、また電気……〉
 カチャカチャと装置を設定する音がなぜか過敏に耳に伝わってくる。
 間もなく子宮が電流を感じて反応した。身体の奥をびりびりという刺激が生じて、それがどんどん高まって苦痛に変化していった。
「ぎゃああっ!」
 泣き叫びながらも目は2階部分の壁の、大型ビデオモニターに吸い寄せられた。
 びりびりびり……
「あひいーーっ、ひええーっ!」
 斜め上から向こうとこっちに重なり合う両脚がX(イクス)の半分にしっかりと固定されつつ、パルスと悲鳴に連動してあと半分の上体と一緒に奇妙にひきつりながら痙攣している。
「それを」
「はい」
 ミランダから先端の丸まった棒状の器具が渡された。それにもコードが、そう思うやいなや肛門に異様な衝撃痛を感じて身体がひときわ仰け反った。
 肛門の括約筋が拷問電流に反応してきつく収縮し、いつもの肛門挿入で感じる排便感は感じずに済むのと引き替えの熱く刺すような電流刺激。
「うわぁぁーん、痛いよぉーっ!」
 痛みの主は直腸壁を蹂躙し、鋭い痛みを撒き散らしながら、どんどん奥へ入ってくる。医具は医具の機能を発揮し、それほど太くないことからS字も難なく貫通して、さらにさらに奥へと侵攻した。
「それ、これならどうだ。今度はこうだぞ」
「いやああーっ! ぐるじいっ! ぐるじいっ! もうダメっ!……うわぁぁーん、ゆるじでぐだざぁーいぃぃ」
 責める手がめまぐるしく動き、衝撃と痛みが直腸を経て体内中を掻き回しているようだった。
 さらにむごく電圧が加わった。
 脚に伝わる痙攣も激しくなった。内腿にもふくらはぎにもぴくぴくという筋肉痙攣のテンポが速くなった。腸から膣道をくまなく経て子宮に至るまで電流の回路と化した。
「もうやめでーっ、し、死ぬうううーっ!」
「馬鹿め。これくらいで死ぬものか。人間はなかなか死なぬものだ。ユダヤであれジャップであれ下等な動物はすぐにはくたばらんのだ」
「教祖様、クロもですよ」
 能面がニタリと嗤った。
「アナの亭主か。
 そういえば奴め、ルーデン(ペニス)ばかりか、手足を切り落とされて、なお3日生きていたなあー」
 歯牙にもかけず言い放った。
 おぞましい会話を悪夢のように聞いていた。キンバリー要塞で、毛布の陰から覗き見た“縦裂きペニス”以上の大残虐が、このゼーラでは平然と行なわれているというのか。
 電圧がどんどん上げられる。体内を駆けめぐる電流の負荷は激しい随意反応である痙攣収縮だけでなく、関節を外すほどの過重な圧力を加えて、挙げ句骨が折れるのではとさえ思った。
「ヒギャアアアアーッ!!」
 死が目前に迫っている気がした。
 そして……
 どれくらい経ったのだろう。
 意識の闇がゆっくりと晴れていった。
 性器も肛門も圧迫痛からは解放され、いったん内視鏡が抜かれたことが分かった。
 いきなりイクス(X)が折れて上体が90度ほど持ち上がり、その格好でイクスごと反っくり返ると、肛門から性器にかけての恥ずかしい部分一杯が天井を向けさせられた。
「なあ、ミランダや。この肛門はどれくらい拡げることができるかのー?」
 そう言って傍らの医療台車に並べた、冷たく周囲を映すほどに磨かれた恐ろしい医具を子細に眺め渡していた。
〈まさか!〉
 おぞましい予感に怯えた次の瞬間、コードの付いた膣鏡が肛門に突き立てられ、まだ通電されてはいなかったが、冷静さを失った身は電気を受けたように悲鳴をあげた。
 先端部が肛門に侵入した膣鏡がゆっくりと左右に捻りながら回りながら腸の奥深くに向かって埋め込まれていき、続いて蝶ネジが回されて肛門と直腸とを引き伸ばし押し広げていく。まだ通電されてはいなかったが、冷静さを失った身は電気を受けたように悲鳴をあげた。
 それからキューレット、カテーテルといった棒状医具を角度を変えたりして次々と肛門に突き立てていった。
「良い眺めだのう、ジュンコよ。痛いか? 恥ずかしいか? さらには何をされると思う?」
「う、う、いやあー……」
  苦痛というより、直腸破壊の恐怖に顔をいっぱいにゆがめて涙声になった。
「い、痛ぁーっ」
 叫びつつ目は食い入るようにモニターを見た。
 異様な圧迫と苦痛。
 壁のモニターにはコードを垂らした膣鏡の後端が、尻の谷間から咲いた金属製の朝顔の花のように不思議な美しさで映し出されていた。
 さらに医具が突き立てられた肛門がローアングルで捉えられ、いまにも裂けるかのようだった。
 それから、教祖が自分で車椅子を漕いで腰の横に回ると、コードの先の電極クリップを純子の方に見せつけた。
 別の手が性器を剥き上げた。陰唇をひねり出そうと試みたがヌルリと滑る。何度かつまみあげ、ようやくそこにクリップをはさみつけた。
 拷問の再開……
「うう、うーうっ!」
 性器から直腸にかけて、ビリビリビリという独特の電気刺激に貫かれて、膝を折って左右に開かされた両脚が爪先立って暴れた。
「くふふふふ、可愛いいぞジュンコ。その苦痛顔とも見納めになるかと思うと惜しいぞよ」
 皺だらけの口から恐ろしい言葉が洩れた。
 純子は激しい生存本能に取り憑かれて身も世もあらずに口走った。
「ゆ、許してください。死にたくないです!」
「だったら訊かれたことを白状するのだ」
 また脱出の時の詳しい情況を、マヌエル・グスマンのことをほじくり出そうとした。
「名前なんか知りません。親切なドライバーに助けてもらったんです。それだけですぅー」
 必死に抗弁したが、ギロリとにらまれた。
「その手に乗るか」
 教祖の手がダイヤルをひねった。
「ぎゃあああっ! ギャアアアッ!! 痛いですッ。もう許して、もう許してー!」
 激しくのけぞってイクスの寝台がガタガタ音をたてた。
「ウギャギャアアーッ!」
 そうしてどれだけ泣き叫び続けさせられただろうか。
 電気責めは続行されたが、電圧は下げられた。が、耐えがたい苦痛であることには変わりなかった。
「新たな痛みによって、それまでの痛みを感じることがなくなる生理効果を知ってるか?」
 教祖の講釈を受けて、ミランダがシャーレに溜めた透明液に、ピンセットにつまんだ団子にした脱脂綿をたっぷり浸した。
 ピンセットが教祖の手に渡された。
 純子に見えない位置に、血のこびり付いた性器。割れ目の近くには固く勃起した突起――
〈そこは、いやっ!〉
 気がつけば泣き顔で必死に首を振っていた。
 やがて教祖の手は、ピンセットにアルコールとおぼしき液をたっぷり浸した脱脂綿を一つまみし、それを淫肉の割れ目に近づけた。
 陰核にくるかと思ったが、そこはそれた。焦らすようにしてすぐ近くの小孔に触れた。とたんに焼けるような激痛に見舞われた。
「ぎゃあーっ……」
「熱いか? 痛いだろう? これはアルコールなんかじゃないんだ。強度の揮発油だ。くくくくく、可愛いいぞよ、ジュンコの泣き顔は」
 そう言って劇薬刺激の激痛責めに専念した。
「ぎゃっ、ギャアアアッ!!」
「さあ、ここもな」
 ひとしきり尿道孔を舐めた後、矛先は最初に不安視した陰核を、そして器具に引き伸ばされ裂けそうになっている肛門の襞をも責めた。
「ぎゃああっ、ウギャアアッ!」
 焼けつく痛みに卒倒し、のたうちまわり、泣き喚き、叫び狂った。
 ミランダの能面の顔が嬉々として輝いた。
 教祖の皺だらけの顔からは不気味な笑い。
「沁みるだろうな。くくくくく……」
「いやァーっ! 焼けてるうーっ! 焼けてますぅーっ! ユルジデェーッ!」
 精一杯顔をゆがめて首を振った。
 医療台車の上の膿盆をピンセットの先がめまぐるしく行き来して、たちまち脱脂綿の山が築かれていった。
「ほほー、小便の孔がそんなに感じるとはの」
 そう言ってピンセットがぐいぐい押しつけられ、綿が潰れてぽたぽたとアルコール液を滴らせる付け根の太腿がぴくぴくと筋立った。
「これからここに実験を加えるじゃによって、黴菌(ばいきん)が器具に付着して体内に入らぬよう完璧に消毒せねばならんからな」
「な、何を!? 何をされるんですかー?」
「くふふふ、すぐに分かるぞよ」
 ミランダから今度は細い管状の金属カテーテルを渡された教祖が、肛門に突き刺した医具の一つから電極を外してそれに付け替えた。
 教祖の喜悦の顔を見て、純子は新たな緊張で身を固くした。
「今度は穴だけ、入口だけと思うなよ」
 教祖のそのセリフは戦慄的な予感を与えた。
 そして、また目隠しされた。
 見えないことで余計恐怖に取り憑かれることになった。
「ひいーっ! きゃあっ!!」
 鋭い痛みに背中をくねらせて暴れたが、ベルトがきつく食い込んだ腰部、大腿部はびくともせず、イクスの寝台をぎしぎし軋ませた。
「いぎひぃーっ、くくくっ……!」
 噛み締める歯の根の間からくぐもった呻きを発した。
 20センチほどもあるカテーテルの先が陰核のすぐそばの小孔に触れた瞬間――
「いやあーっ、あひいーっ!」
 純子は甲高い悲鳴をあげて寝台をガタガタと震わせた。
 この苦痛を何にたとえたらいいだろう。あのびりびりといった独特の刺激が陰核と尿道孔を突き刺し、尿道を経て膀胱まで貫通して、そこら中で暴れているといった感じだった。
「そら。そーら」
 教祖の慎重な手の動きは触れては離し、離してはまた触れるといった気まぐれ動作だった。それが3回に1回くらい強く押しつけられた。
「ひっ、あっ、ひええーっ!」
 悲鳴にも微妙なバリエーションが付いた。
 身体の中で何か変化していた。
 刺激の感じ方が違っていた。痛みに甘美な快感が混じっている。陰核と尿道孔の間の性感の通り道が刺激され、そこを突き抜けて言い知れぬ快感が走り回るのだった。
「うーう……い、いだいよぉ……いだいけどいいですゥ」
 のけぞる苦悶は凌辱苦悶となった。電気に犯されているのだった。しかも、パルスは性感の道を絶え間なく貫通し続けているのだった。
 熱いモノの発散を身内に感じた。
「あ、ふうーっ」
 溜め息をついて、のぼせたようになってのけぞった。
 快感にリズムが感じられた。潮のように満ちては引いて、3回に1回は高まる快感に目を剥いて、そして茫乎とした。
 ぽたぽたぽたと、膣からしたたる愛液を耳でも感じた。身内からもおびただしい発散を感じ、高まる興奮に動悸を速めた。
「きひひひひひ!」
「けへへへ……」
 下卑た笑いを聞きながら、純子自身の狂喜に火が点いた。
「ああっ、ああううーっ!」
「感じるか? そんなにいいのか?」
「いいっ、いいですぅ……こんなの初めてです! あひぃぃー! 身体が……溶ろけるぅーう。アアーッ! アアアーッッイイッ!」
 化粧の匂いと体重を上体に感じた。その手が肛門に挿した異物を抜き取ると、今度は性器を剥き上げた。
「行くぞよジュンコ」
 教祖がゾンデ進入を開始した。
「ひええーっ!」
 悲鳴をあげて卒倒した。
 尿道孔に少しずつ挿入されていく異物感。奇妙なことに、甘美な快感すらあるようだ。
「また1センチ入ったぞよ」
 教祖の手はおそろしく慎重に金属管であるカテーテルを挿入していった。
 倒錯した快感が脳髄をたたいた。びりびりびりと感じる独特刺激は性感の道を蹂躙して、否応なくなにかを発散し続けていた。
「おほっ、小便の穴からぴゅうぴゅう潮を撒き散らしとるぞ! なんという淫猥な! こ奴め、小便をちびりながら悶えとるのじゃよ!」
「ああーっ、いやー……」
 教祖の言葉責めに羞恥と屈辱が沸き上がった。
〈ウソよー、オシッコなんかじゃない!〉
 女の生理に賭けて首を振った。
 尿道に突き立った細長い金属管は半分以上も中に埋まってしまっていた。
「さあ、膀胱まで達したところで……」
 装置にガイコツの手がかかった。
 純子が、また恐怖をよみがえらせた。
 激しく首を振った。何度も何度も振った。
 変圧ダイヤルがゆっくりと昇圧された。
「いやっ。上げないで!」
 膀胱から発した電気刺激が熱をともなって腹部全体に充満した。ズシンと重く響くような電気刺激にバチバチバチという衝撃が加わった。ベルトで締め付けられた腰から上がのたうち回った。
「ぐぎゃああおおおぉぉぉぉ……」
 身内から出た苦悶の叫びが音響スピーカーから出る叫びにダブり、奇妙なエコーとなって悲痛に響きわたった。
 5分。10分。いや、実際はもっと短かったのかも知れない。
「止め」
 と教祖の指令で電気が遮断された。
 はあ、はあ、はあと純子は荒い息を吐いた。
 電気を止められた後もまだ、性器とその周りに後遺電流が走り回っている感じで、事実、教祖とミランダがうっとりして見守る前で左右に開かれた爪先がぴくぴく痙攣していた。
 目隠しが外された時、あたりは暗かった。
 クリスマスでもないのにあちこちでキャンドルが灯っていた。すぐ近くにある子供の背丈ほどの小物台車にも2つ。
 ミランダが例のアヒル口の医具。今回のは少し大きめだった。握りツマミの形状も変だ。
「どうした。不満か。電気を食い足りないか」
 戯れ言を吐きながら手は剥き身の中心にアヒル口の先をあてがった。すでに液でぬめらされていた医具は、純子が顔をしかめている間に性器を割り開いてどんどん埋まっていった。
「なぜ逃げた?」
 また尋問が始まった。今度は答を待たない。
「わしの情けに後ろ足で砂をかけおって」
 一方的に喋りながら、リクライニングを調整した。実は、医具を貫通した膣道と床とが直角になるよう尻を上げ気味にしたのだった。
 そうして車椅子から身を乗り出した。医具で開いた中を覗き込みながらキリキリとネジを回して局部拡張に専念した。
 純子が「あっ」と恐怖に駆られた。
 今度の内視鏡は縦にも横にも開く構造をしており、そのいつもと違う特別ぶりがこれからされることへのさらなる不安を掻き立てた。
 ミランダの手に極太棒器具、と見えたのは懐中電灯だった。
「おお、見える見える。ジュンコの子袋がもっこりして手に取るようじゃわ」
 ほほほ、と気味悪く笑った。
 小物台車に手が伸びた。長さはないが太さだけは極太のキャンドルを掴むと性器の上へ傾けた。
「ひええーっ!」
 純子が眼を剥いた。熱ロウをぽたぽた垂らされ卒倒した。蝋燭の火がゆらめきながら上下して、下になるたび熱ロウが医具で開かれた秘所に容赦なく注がれた。
「イヤアアーッ、ああっ、熱いいーっ!」
 純子の苦しみを愉快がっては、またほほほと笑う。それにミランダが輪をかけた。
 長さのないのは最初からで、太さは熱ロウをたっぷり溜め置くため、つまりそれ用に作られた蝋燭なのだ。
 蝋燭を傾けては垂らし、垂らしては蝋燭の首を起こしの繰り返し、そうしてひとしきり責めて溜まりがなくなると時間をおいてロウを溜めた別のキャンドルを取った。
「熱、あづいでず! ギャアアアーッ」
「熱いだと? おまえに熱さなどあったのか。それでなくとも熱いオナゴが。情けをかけたわしに逆らった熱さ、そうしてどんな男にでも脚を開き、たらし込んであやつる熱さ……」
 言葉で責めて、その自分が吐いた言葉に陶酔して、つい蝋燭を大きく傾げてしまった。
「ウギャアアアアーッ!!」
 背中が折れるほど弓なりに反り返った。
「や、焼げるぅーぅうっ!!」
「焼けろ焼けろ。燃えろ燃えろ」
 ぽたぽたぽたぽたと降り注ぎ、冷めて固まった白いロウが子宮の上に堆積していった。そうなると苦悶はおのずと弱くなる。
 教祖が蝋燭を少し上にした。
「こんどはここだぞ」
 狙いを変えた。拡張具に開かれてあんぐり口を開け、黒ずみをたたえる肉襞に集中した。熱いしずくがぽたぽた落ちるたび、「ひゃああーっ」「きゃああーっ」と悲鳴が叫ばれ、イクスの寝台を揺らせてのたうち回った。
「それ、そこが使い物にならなくなるぞ。まだ現役でいたくはないか? 男を誘惑する大事な部分が不感症ではつまらんぞ」
 そう言ってまた笑い、蝋燭責めに時間の経つのも忘れるほどだった。
 すでに膣道にもロウで塗り固めた壁ができ、パックリ口を開けた陰唇のぬめぬめぎとぎとの地肌が見えなくなると、再び陰唇を剥き上げ、指でロウをこそげ取って、また陰核や尿道孔を露出した。
「今度は酷いぞ」
 それと直感した純子が熱を帯びる前に卒倒した。
「ひえーっ、もう許してーっ!」
「わしに逆らった報いを思い知れー」
 そう言って蝋燭を傾げた。陰核を、尿道孔を熱ロウで焼いた。
「ぎゃああーっ! うぎっ、うぎゃああっ!!」
 狂ったように首を振り振りイクスの拷問台をぎしぎし軋ませ、揺らしてのけぞりまくった。今度の純子の悶えぶりは際だったが、今度の蝋燭責めはそう長くは続かなかった。
 すっかりロウで塞がり、形状を変えた陰部を教祖はつまらなそうに眺めた。
 キャンドルを置いて一時思案した。
「おお、そうだ」と車椅子の脇を叩いた。
「ミランダ。隅のテーブルからスプーンを取って来い。紅茶を掻き回すのに使った奴だ」
 能面の助手はすぐに飛んで帰った。
 匙を手に取って斜めに寝かせた。
「今、綺麗にしてやるからな」
 言うや否や見当をつけて、ロウだらけの陰部に突き刺した。
「いやああーっ! いやだああーっ!!」
 また激しく暴れた。
 暴れるごとに、泣き叫ぶごとに教祖の残虐性は増した。逆さに持ち替えたスプーンを振り上げ、突き立て、性器深く埋め込んでは冷めて固まったロウをえぐり取って弾き飛ばした。
「ぎゃっ、いだいいだいいだいーっ!」
 ザクザクと突き刺し、跳ね上げ、白いロウの欠片が方々に飛び散った。
「面白いぞジュンコよ。またこんな遊びができるとは……面白い面白い」
 子供のようにはしゃいだ。
「ぎゃっぎゃっ、ぎゃわわっ、ぎへえーっ!」
 涙を散らして喚き狂った。
 内臓がでんぐり返る痛さ、おぞましさに泣き喚いた。
 突き刺して跳ね上げ、割れ目周辺が露出されると、次はスコップで掘り込むように深々と突き刺し、ヘラの先で膣壁をこすりながらロウ片を高く跳ね上げた。
 刺してはえぐり、こすっては跳ね上げた。
 その間、酷い刺激と痛さと恐怖の連続から純子は狂ったように泣き叫んだ。それを歯牙にもかけず、教祖は飽くことなくヘラ責めを繰り返した。
「さあ、どうだ。まだ言わんか。へこたれんか。しぶとい女だ。熱い女だ。それなら、また一(いち)から熱くしてやるか」
 皺だらけの顔が嬉々とした。
 ガイコツの手が繰り返す穴掘り責めの、跳ね上げる白いロウの欠片が飛んで飛んで、暗がりの闇に溶け込んでは吸い込まれるように消えていった。




敵の敵


 風が窓を叩いている。夜になって、外では台風並みの嵐が吹き荒れているようだった。
 ぱっちり目を開けるとジュネがいた。
「付きっきりで看病してくれたの?」
 そう言ったら首を振った。
「汗が凄かったけど、あんまり気持ち良さそうに眠ってたので起こさなかった。はい、これ」
 下着とパジャマを差し出した。
 階下で人の気配がしていた。
「パオラさんとイレーネ姉さんが来てるよ」
 ぬーっと顔を伸ばし、ジャンヌが脱け出したばかりの布団のシーツに目を落として顔をしかめた。
「まるでオネショしたみたいだね」
「あんたに言われたくないよ」
 憮然と言い返してジュネの頭を指で突ついた。「まだ無理だよぉー」と止めるジュネを振り切ってさっさと階段を下りて行った。
「パオラねえさん!」
 ジャンヌを迎えてパオラの顔が華やいだ。後からついて行ったジュネにも微笑みを向けた。
「風邪ひいたって聞いたけど、大丈夫なの?」
「へっちゃらだよ。若いんだよ」
「若いって? 生意気に、まだ子供じゃない」
 バオラの混ぜっ返しで笑い声が湧いた。
 広いダイニングではナイトガウンを着たマヌエル・グスマンがパイプ煙草をふかしていた。
 チリ軍大尉である。だが、彼はまた“軍人は国の防人(さきもり)たるべし”といってアメリカを後ろ盾とする右派によって暗殺されたシュナイダー将軍の信奉者でもあり、それゆえピノチェトに批判的なリベラリストでもあった。
 偶然パレルを通りかかり、脱出した純子を助けて国境近くまで一緒したが、不運はまた純子を厚い壁の中に閉じ込めてしまったのである。
「うん、顔色も上々。この元気なら大丈夫」
 ジャンヌの額に手を当ててうなずいた。
 パオラがかねて知りたかったことを訊きにかかった。
「ピノチェトに反旗を翻す第二クーデターがあるとの噂はどこまで信憑性があるのですか?」
 グスマンはとたんに渋面を作った。
「いやー、大尉と言っても冷や飯食らい。そこまでは……」と頭を掻いたものの、
「ただわたしはこの件については、何らかの意図をもったガセ情報だと睨んでいる」
 大胆に勘ぐれば、モサドに連なるイスラエル特殊機関のゼーラ急襲と絡めての工作の一環だろうと見ていた。その考えはモラレスと一緒だった。結局パオラの質問はそのことを確認しただけに留まった。
「それとは別にいい動きもあってね」
 グスマンのその一言で、その場の全員が俄然色めき立った。
「マリアさんがブランカと名乗って世話になっていたクリーニング店、“アナベルの店”ね。あのカルロス夫妻も気を揉んで『何かの際にはお手伝いを』と協力を申し出てるんですよ」
「それってまさか……」
「前回はわたしの非力で申し訳ないことになったが、あの際知り合えたのを奇縁と、その後連絡を取り合って関係を密にしてきたんです。もちろん、お妹さんのことも心配してましたよ」
 パオラが丁重に頭を下げつつも、
「でも、わたしとちがってグスマンさんはれっきとした現役の大尉さん。このことでご迷惑があったりしませんか」
「実はわたしも教会にはコネがありましてね。いつの時代、どこの国でも教会は軍部からは一目置かれる存在。滅多なことでもない限りパクられないからご安心を」
 そう言って胸を叩いた。


 首都サンチャゴではリッチとマリアが、プラザ・ビクトリアから5分ほど離れたディスコの中の1軒にいた。そこがライアンと落ち合い、密議する場でもあった。
 約束の時間にはまだ間がある。
 軽快なボンゴのリズムに乗って、女の子たちの喚声が津波のようだった。ギターの旋律とパーカッションの響き――ピアノや小太鼓や笛の音色が彩なす音の嵐はいまや最高潮だった。
「わたしたちも踊らない?」
 マリアの誘いをジェームスは苦笑で固辞した。場違いなところに来たという感想が表情にありありと見て取れた。それより別のことに触れたくてむずむずしていた。
「え? 何よ。気持ち悪いなあー!」
「だったら訊くけど、君はどうしてそんなにジュンコのことが好きなのかなー」
 口には出したが、すぐに撤回した。
「やはり愚問だったな。ご免。忘れてくれ」
「いいわよ、そんなこと。教えてあげるわよ」
 マリアがいつになく親密な眼をした。その眼は何度も見ているはずだが、といっていざ思い出そうとすると、最後に見たのはいつだっけかと首をかしげて考えるほど遠い過去のことのようにも思えた。
「ジェームス。あなただって大切な人よ。その思いは今も変わらない。それが恋情だと思った時期も長くあった。でも、その時はジェームス、あなた振り向いてくれなかったじゃない」
「それは……」
 リッチはあわてたが、マリアの目は少しも責めたりはしていなかった。
「いいのよ、それは。ただ、ジュンコと会って、ジュンコの愛に触れて、会った当初は瞬時の激情でしかなかったのかも……」
 リッチの、何となく分かるという風にうなずいた顔を見た後でまた続けた。
「でもね、それがいつしか本物に思えた。収まるところにおさまった、そんな気が強くしたの。ジュンコの気持ちはまだ良く知らないけど。彼女はわたしほど思ってくれてないのかも……」
「いや、そんなことは……」
 気休めでなく言いかけたリッチの口にマリアが指を立てた。
「いいの。それでもいいのよ。この不安定で凶暴な時代にあって、くじけそうになるわたしの心を支えてくれる大切な芯棒の一つがジュンコ。今ではそれを失うことなど考えられないの」
 リッチが肯いた。それまで見せたこともないような慈愛のほほえみでうなずいた。
 腕時計に目を落とし、「そろそろ」という顔でディスコの人混みに目を転じた。赤と青の無数の小さなランプの明滅に幻惑されていると、
「おーい」
 ライアンが向こうから手を挙げ、声をかけてきた。同伴はとびきりの美人だ。
「一瞥以来だな」
「まったくな」
 煮え湯を呑まされたことなど意に介さぬ顔で気さくに応じた。
 フロアを中心に外側の椅子に女の子たちがぐるりと取り巻き、その内側のテーブルは2、30台もあるだろうか。大半は白い船員帽の水兵たちに占領されていた。
 テーブルは避けて、立ちんぼを決めた。
「俺に何の用だ」
「ベトナムで発揮した腕を借りたいと思ってな」
 やっぱりなと、ほくそ笑んだ。
「決行は近いのか」
「“お客さん”たちは急いでる」
 リッチはニヤリと笑った。こんな中でも言葉を選んで話すライアンを少しは見直した。
「おまえの主人が、なぜそんなに“お客さん”たちの機嫌を取る必要があるのか分からんな。共通の利害があるということか?」
「それは君たちだっておなじだろう」
「ゼーラはどうなってる? おまえなら、まだキンバリーとのパイプで知ってるだろう」
「教祖めが相当ムゴイことをやってるようだ」
 マリアが冷静さを欠いて激しく反応した。
「ジュンコは……捕まってる日本人の女性は!」
 ライアンの連れの女があわてるほどの取り乱しように、リッチが思わず止めに入ったほどだ。
 ホールが一段と明かりを落とした。
 スポットライトに照らされた中二階がより際だって、唐草模様をあしらったポンチョの楽団員が一斉に立ち上がった。
 あたりに春の風が吹き渡った。サンポーニャの自然に語りかける音色、長さの異なる何本もの竹を合わせたパンと呼ばれる笛の響き。憂いを秘めた音色が哀感を掻き立てた。
「近く教祖が、ナチス時代の旧友を招いて“スナッフ・パーティ”を開くそうだ」
 マリアが凝然とする中、ボーカルのバリトンが場違いに響き続けた。ディスコの華やいだ喧噪の中で、ライアンが淡々と口にした内容は、その話しっぷりに比してこの場の雰囲気にはそぐわなさ過ぎた。

 セニョリータ、アマンダ……

 手拍子に乗って、シースルーの踊り子が魅力的な腰さばきで出てきた。フロアをバレリーナのように華麗に踊り回った。
 ちょうどウエイターが通りかかったが、マリアのあまりの形相に驚き、たじろぎ、注文の酒とツマミを取り落としそうになりながら風のようにその場から立ち去った。


 ふたたびマヌエル・グスマン邸。
 びゅうびゅうと暴風が吹き荒れ、窓ばかりか屋敷全体を震わせる大嵐の中――
「車の音! あれは確か……」
 耳ざといイレーネがエンジン音でそれと聞き当てた。
 間もなく来客を知らせるブザーが鳴ってグスマンが客を迎え入れた。
 モラレスが、めずらしく女性連れで現われた。
「タマラさん!」
 ジャンヌが欣喜雀躍とした。
 居間はたちまち歓迎ムード一色となったが、パオラやイレーネにとってはタマラが誰やら見当もつかなかった。
「ゼーラの病院看護婦だった人だよ。“だった”と過去形なのは、昨日ゼーラから逃げてきたからだ」
 ジャンヌが「わーっ」と喜びひとしおだった。
「タマラさん、やったね! 凄い凄い!」
 いつも控え目でいるかいないか分からないくらいの存在だった。すでにエルナンデスも出ており、その後の気がかりはジュンコと、この“仲良しタマラ”以外いなかったからだ。
「同じ日にデリアさんもゼーラを出たんですよ」
 ジャンヌが口をぽかんと開けた。タマラの顔を穴が空くほど見つめていた。
「お姉さんは、もしあなたに会ったら、『こう伝えて欲しい、いろいろあったけど姉妹は姉妹。今では昔を振り返って懐かしくも思っている。いつまでも強く元気で生きて欲しい』って」
 ジャンヌは即座に否定した。
「ウソだウソだウソだ! 人間がそんなに簡単に変われるもんか。現に、この……」
 恐ろしく表情を強ばらせ、何かを告げたそうだった。グスマンがそれを訊きたそうにしたがタマラの続きが質問の腰を折った。
「デリアさんは変わったのよ。ただ……」
「ただ、何だね?」
 モラレスが洞察眼を働かせて訊き咎めた。
 タマラには最後に見たパレルの駅での一コマが今ごろになって妙に気になった。ここに来るまでは偶然と思い、いつもの戒厳令下チリでの日常と思い込んできたチリ兵との一件が。
「そりゃタマラさん、デリアに騙されたんだ」
 明晰なモラレスの頭は、別の偶然でデリアが招いた不運までも想定して指摘したのだった。
「え?」
 タマラは呆っ気にとられた。この女性は飽くまで善意の人だった。ゼーラ発行の天下無敵の通行証を信じてきた者の一人としては何がなんだか分からなくなった。
「デリアが捕まったか」
 モラレスは顔を強ばらせて腕組みし、グスマンも深刻な表情でうなずいた。
「切迫してますな。ゼーラが風雲急を告げるまえに何とか手を打たなきゃなりませんな」
 そうして彼も渋面をつくって腕組みした。
 パオラが“いざその時”の混乱を想定した。
「ゼーラには一般市民も大勢いるわけですよね。奇襲に際しては、その人たちに銃弾が飛ぶようなことだけは何としても避けたいけど……」
 モラレスが「そこだよ」と拳で掌を打った。
「ルイスがベトナム戦争時のことを振り返ってこんな冗談を言っていた。彼(か)の地では米軍に敵対する解放戦線ゲリラの影響力は南北ベトナム全土に及び、農民といえど敵味方の区別ができない」
 ふむふむと、皆、真面目に耳をかたむけていた。
「リッチの話じゃGIの間で次のような会話が交わされたそうだ。『俺たちは奴らを“赤”と呼ぶが、コミュニストだといって肌の色や着ているものが赤いわけではない。どうせならほんとに“赤い目印”でも付けていて欲しかった。それなら無益な殺生をしないですむ』とね」
 とたんに場が白けた。モラレスにしてみれば退屈しのぎの気の利いたジョークのつもりが、とんだ失笑モノに終わるところだった。
 その中で、シラケを通り越して怒気を含んだジャンヌの表情に一同息を呑んだ。
「どうした、そんな怖い顔して……」
 グスマンがさっき浮かべた疑問も頭に入れて少女の眼の中の暗い光りの意味を探った。
〈まさか!? まさかそんな……!〉
 ジャンヌには何も聞こえず、何も見えず頭は真っ白だった。その白に滲んで、記憶の片隅に沈潜していたトラウマが色を成して鮮烈によみがえって疑惑は確信に――歳月を隔てた謎がおぞましい真実として結実しようとしていた。
 その時、電話がけたたましく鳴った。


「なに、ゼーラの鬼娘が?」
 受話器を握るリッチが激しく反応した。
「……ああ……そうだな。デリアは捕まったと見るべきだな」
 モラレスの報告を受けながら頭の中はめまぐるしく回転し、短い時間に全神経を集中して戦略を張り巡らせていた。
 事務所の入口では、たんまりチップをもらってほくほく顔の職員が、他の誰も入れないようにとの言いつけを守って見張り役に徹していた。
 数分か10数分後――
 騒々しいディスコ会場にもどったリッチは、険しい顔つきでライアンの話を聞いているマリアを見て、ここが正念場と覚悟を固めた。
「“パーティー”とやらは近いのか?」
「そんなに間はないはずだ」と答えた後で、マリアの手前「だが、逆に考えればそれまでは無事ということだ」と付け足した
 リッチが決心を伝えた。
「手を貸そう。他にもう一人、俺以上に腕の立つ男も加えよう。ただし条件がある」
「なんだと!?」
 愛想良く受けていたライアンが、「条件」の一言で顔色を一変した。
「それを聞いてもらわねば手は貸せない。しかも、早急に実行してもらいたい」
 テコでも動かぬという顔で迫った。
 ステージではガウチョ(牛追い)に扮した3人娘がギターを掻き鳴らし、腰をくねらせ、オモチャの拳銃を振り回しながら歌い出した。ガウチョパンツの割れた裾からは、豊かな白い太腿が覗いて観衆はやんやの喝采だった。
 その喧噪も耳に入らず、踊りからも歌からも取り残され、リッチに耳打ちされるライアンの顔がみるみる強ばっていった。





鬼女絶叫


 パレルの町近くのどこか倉庫の一室――。
 雑多な荷物の間に上半身裸のデリアが椅子に後ろ手で縛られていた。シルバーブロンドのざんばら髪が降りかかって、その間から鼻血を流す目隠しの顔。
 たわわな美乳も引き締まった腹も今は無数の擦り傷とアザで無残に変わり果てている。
 やにわに後ろから屈強な腕で抱きつかれた。ゴム手袋の男の手が両の乳房を鷲掴みした。物凄い力で指が深々と食い込んだ。
「ううっ、むぎぎぃーっ!」
 歯を食いしばって痛みに耐えた。
 ひとしきり揉みこまれ、美乳がみにくく様々に形を変えさせられた。
 キィーン、と癇に障る電子音が耳に付いた。
〈また来る!〉と覚悟を決めた。
 乳首がひねり出され、冷んやりと尖った触感を受けた瞬間、焼けつく痛みに飛び上がった。
「ぎゃあああーっ!」
 根こそぎ焼き尽くされ、弾け飛ぶような電気拷問の衝撃が時間をかけて継続された。その間、絶叫も途絶えることがなかった。
「ゼーラで我が同胞に何をした?」
「これまでに何人殺し、今後何人殺す予定だ」
「150人集団虐殺の噂はほんとうか?」
「ユダヤ人をどんな方法で殺してきたんだ」
「拷問に用いる方法は?」
 矢継ぎ早な尋問にいちいちそっぽを向き、しまいには唾まで吐いた。
 返礼はすこぶるつきの激しさだった。痛撃は乳首から貫通して全身痙攣を生じさせた。椅子の支柱に縛り付けられたGパンの脚にも電気は走り抜けて裸足の爪先をひきつらせた。
 三たび、四たび繰り返され、デリアは激しく息を荒げた。じっとりと汗を吹き出す全身がローションを塗ったようだ。
「白状しないか」
「うううう……み、見損なわないでよ」
 覚悟を決めて歯を食いしばった。
 また乳房が掴まれ、乳首をひねり出された。
「せっかくの美形が台無しになるぞ」
「大きなお世話よ」
 だが、吐いた言葉とは裏腹に声が震えを帯びている。
 次の痛みは数層倍酷かった。瞬間、乳首にチクリとした痛みを感じたかと思うと、万力で挟みつぶされるような激痛が続きにやってきた。針が乳首を貫通していた。
「ううーっ!」
 かつて自分の手にかかって乳首を太針で貫通された犠牲者の姿を思い浮かべた。
〈ザマぁないよな、“ゼーラのデリア様”が〉
 我が身の運命を、油断を呪って耐えたが、1本、2本と十字に刺し貫かれ、もう片方へと及んだ際には不覚にも悲鳴を洩らした。
「観念しろ。命までは取らぬ」
「這いつくばって足の裏でも舐めやがれっ!」
 精一杯の悪態は今度も猛烈な痛撃で報復された。2秒、3秒、乳首が千切れ、灼熱で焼かれているのかとすら思った。
 スイッチが切られ、ガックリと首を垂れた。上体を揺すって喘ぎに喘いだ。
 カチャカチャッと別の操作音。通電。不随意運動が四肢に生じた。手が、脚が奇妙にひしゃげた。関節という関節に過重な負荷がかかった。
「ぎええええぇぇぇぇぇーっ!!」
 乳房を揺すって泣き叫んで椅子ごと卒倒した。
 手足を縛った縄が酷く食い込んだ。椅子が軋み音をたてた。10秒、15秒、20秒、25秒……1分経っても肉の中に直接流し込まれる乳首電流は中断されることがなかった。
 そして男たちの嘲り笑い――。
 椅子ごと床に転がっていた。デリアの股間を、腰を生温かい汚辱がじゅくじゅくと浸していった。排泄臭が鼻を突いた。
「くせぇくせぇ」
「ナチ女のションベンはとりわけ臭ぇや」
 屈辱の嘲り笑いが追い打ちをかけた。
 その直後、ドアが開いてまた1人入ってきた。
「ハンナか」
 男の声。
 その声を無視したまま足音が近づいてきて、いきなり目隠しが乱暴にひっぺがされた。
 見上げたところに覆面男が2人。縄が解かれ、3人目に引っ立てられたが、そいつが女だった。胸から腰から何から一瞬で解った。
 ハンナと呼ばれた女が汚れたGパンに手をかけ、ベルトを外し、小水で汚れた部分も気にせず下着ごとまたたく間に脱がせきった。
 その時に、また一人入ってきた。
「司令官が呼んでるぞ!」
「朝からサイレン音が激しかったからな」
「ここはハンナに任せて、行こう」
 男たちは全員部屋を出た。
 そのドアを閉め、鍵をかけ、ハンナは口では伝えずメモした紙を提示し、そぶりで見るよう命じた。
[コロニアル・ゼーラでは、
 1.ユダヤ人にどんな残虐行為をしたか……]
 それだけで解る。初めに男共から口で訊かれたことを文字にしただけだ。しかし、
〈こいつ、もしや……!?〉
 そう直感し、するといかにも不釣り合いなその場の情況を可笑しがった。
 隅に立てかけてある骨組みだけのベッドを「どーん」と床に、置いて裸のデリアを抱き上げ、ベッドに落とし込んだ。
〈今だ! それに“こいつ”は……〉
 とっさにデリアが反撃を試みたが血ヘドを吐く結果になった。ハンナの手にはいつの間にかナックルが握られていたのだった。
〈この女のどこにそんなパワーが……!?〉
 後はなすがままだった。
 そこから遙か彼方の空の下……
 リヒターが筋肉ボディーを傷だらけにされ、水から這い上がった捨て猫のようにぶるぶる震えていた。そばには先端を黄色くぬめらせた、形も太さも違う各種張り型……。
 周囲の壁と、立った者の頭が付くくらい低い天井とを埋め尽くした写真の異常さ! すべて己が恋人デリアの顔、顔、顔の海。
 よくよく見れば角度を違えて撮った何種類かをサイズを変えて焼いて乱雑に貼っただけだが、一人の女の顔だけで埋まった密室は妖しい威圧感があった。
「本物でなくて悪かったな」
 リーダー格のハメッドが、素っ裸の筋肉男を冷然と見下ろしてうそぶいた。横でリアットがズボンのベルトを外しかけた。
「や、やめて……やめてくれ」
 蓑虫のように身を縮め、ぶるぶる震えながら両手で防御姿勢をとった。
「ドビル、押さえつけろっ」
 そう言って自身も手伝った。
「助けてくれっ!」
 たちまちうつ伏せにされた。上体を突っ伏され、膝を着かされ、尻を高々と突き出された。
 そうやって晒された筋肉男の股間の醜態は、萎びたペニスが使い古しのコンドームのように情けなく垂れ下がり、陰毛が尻まで延びていた。
 それに反してこれからリヒターを犯すべく一物の偉容さ。股間に屹立する大砲のような猛根は、男でも惚れぼれする美男の、優男ぶりとは余りに不釣り合いな猛々しさだった。
「リアット、遠慮するな」
 ハメッドが煽り、リヒターが臆病に吠えた。
「おーっ。うおおぉぉぉー……!」
 細かな陰毛が密生した双臀の谷間の菊皺の肛穴に巨根の先があてがわれた。すでにローション液で湿らされたであろうぬめりをたたえた一物はリヒターのアヌス穴を一気に押し割った。
「ぎゃああっ!」
 菊門が兇根によって全開させられ、筋肉全裸の背中をのけ反らせた。リヒターが裂かれる痛みに子供のようにぴいぴい泣き叫んだ。
 リアットの腰が深々と沈んでリヒターの肛門から血がしたたった。それを歯牙にもかけずリアットの腰が機械的に律動を開始した。犯されるケダモノの咆哮が悲痛に響きわたった。
 そしてデリアも……
「ぎええええーっ!! ぎゃあああーっ!!」
 耐え難い電気ショックに、デリアは絶叫をあげて全身の筋肉を激しく痙攣させた。
 そのくせ、ベッドの上の大の字全裸の総体は貼り付いたようになっており、手足、爪先が奇妙にひしゃげ、全身の筋だけが異常に浮き立って不随意痙攣を繰り返しているのであった。
 悶絶する全裸の全身は汗で光り、ローションオイルを塗ったくったようだった。
「く、くっくくく……」
 片手をズボンのポケットに入れて見物するハンナの覆面の口から含み笑いが漏れる。
 息を荒げる全裸の全身を身じろぎなく見入っている。真っ直ぐ延びた四肢に不規則な後遺痙攣、と、また悲鳴を叫んで跳ね上がった。
「ぎゃっ……ひぎゃっ、あ、うわわぁっ!」
 ハンナのもう片方の手がコントローラーをめまぐるしく操作し始めた。通電と停止を気まぐれに切り替えてデリアの肉体破壊、精神破壊めざしてのショック操作に精出した。
 またスイッチが切られた。
 全身をぴくぴくさせて続く不随意後遺痙攣。
 汗と体臭。そして気取り屋デリアとしてはもう一つ別の異臭にこそ悩まされていたのだった。
「お、お願い、だから、アソコを、拭いて……」
 ハンナが、「ふん」と鼻を鳴らした。また1枚目の紙片を向けて、強くうながす意味を込めて上下に揺すった。
「てめー、何か、しゃ、べ、れ、よおおおー!」
 聴覚障害でも口話が通じるはずだと、この際にはすこぶるつきに口をはっきり動かして伝えたらスイッチ操作で応えられた。
 強烈な電流がお見舞いがえしされた。
「ぎえええええーっ!! ぎゃっ、ぎゃああっ!!」
 目を見開いて泣き叫んだ。しなやかに伸びた全身をくねらせ、のけぞり、シルバーブロンドのざんばら髪を汗と一緒に振り乱した。
 スイッチが切られた。
「てめー、それでも身障者かよ」
 今度は一人ごちた。やっとそれだけ吐くとぜいぜい喘いだ。
 ハンナが靴音をたててそばに来た。今度は雰囲気が違っていた。イヤな予感だ。
 呼吸器疾患者のように息を荒げるデリアを冷たく見下し、腹の上に腰を落とした。覆面の口が膨らんで、
「泣かせてあ・げ・る」
 ハンナから初めて出た言葉。デリアがぎょっとなってまじまじ見返したところ、男勝りに逞しい手が伸びて指が陰毛の性器にかかった。
「ひっ」
 デリアが処女のように顎をひくつかせた。頬を、唇をぶるぶる震わした。
 指が陰核をつまんで包皮を剥いた。触れるか触れないかといった微細な力を加えて指が肉芽を愛撫した。
「はぅっ! あ、はああーあ……」
 電気でない衝撃刺激にのけ反った。
 ハンナの洗練された愛撫はサーモンピンクの陰唇を溶ろかし、愛液を湧き立て、あふれさせ、それが割れ目を伝ってつーっと流れた。
「厭っ」
 と首を振る。
 が、次にはよがり声になって喉を反らせた。シルバーブロンドの乱れ髪を揺らしてのけ反るデリアがあられもない声を発し始めた。
 愛液はとめどもなく溢れて流れた。ベッドの骨組みを濡らしてぽたぽたと床にまで滴ちた。汗まみれの爪先が、くっと内向きにくねった。
「はうっっ!」
 茫乎とした目が潤む。
 唇をいっぱいに湿らせ、喜悦の声をあげる口がよだれを垂らした。ざんばら髪の間に覗く眉間の青筋がぴくぴくした。汗と涙と涎がデリアの顔をぐちゃぐちゃにした。
 陰核を犯す指が1本から2本になった。反転して割れ目を開いて挿し込まれた。巧みに愛撫する2本の指にもう1本加わった。
 デリアの性感をおびやかす指ファックは速さと強さを増した。そして淫らな水音を立てはじめている。
 4本目が挿入された。男並みの手刀がゆっくり割れ目を押し割って埋め込まれていく。
 デリアの喘ぎが恐怖をともなって激しさを増した。
「や、やめてよっ!」
 まるで少女のようにあらがった。ロープで縛られた両手を固く握り締めて苦悶する。内向きの足も足掻いて、手首足首を縛ったロープがぎりぎりと肌に食い込んだ。
 ベッドが軋み音を立てた。
「ひいっ、うーっ!」
 顔をいっぱいにしかめた時、最後の親指が膣に没入した。いっぱいに開かされ、手刀を食わえた性器。それがゆっくりと閉じ、淡紅色の肉唇から逞しい手首が生えている。
 その時、デリアは倒錯的な感情に取り憑かれていた。
「姉さん。気持ちいいかい、姉さん?」
 ハンナの覆面の顔が、いつしかジャンヌと重なった。
「もっとだよ。もっと深く突くんだ。ああっ、気持ちいいよジャンヌっ!」
 ハンナの拳はジャンヌとは較べようもなかったが、この異常な情況下ではそれも甘受できた。狂った感情は妄想快楽の虜となっていた。
「ああっ! おおっ!」
 デリアがのけ反った。
 シルバーブロンドの乱れ髪を振り立てて牝のケダモノがいなないた。
 性器が口を開けている。ハンナの拳が出てくるたびに陰唇を開いて快楽のよだれを垂らした。
「ひいーっ!」
 と叫ぶ悲鳴の大きさが拷問ではない快楽苦痛の酷さを表した。
 脱落寸前まで抜いた拳を、次にはまた深々と押し入れる。奥まで突っ込む。それでも飽きたらず、さらに突いて突いて子宮を小突き上げる。
 抜く。押す。回転させて突く。えぐって突き上げる。そしてまたゆっくり膣壁を掻きこすりながら引き戻す。
 速さを加えてリズミカルなピストン抽送が開始された。出し入れされる拳が、ヨーグルト状の淫液をともなった。
 性臭が鼻を衝く。そのなかでハンナの覆面の目は狂気じみた光りを宿し始めた。デリアは歓喜とも苦痛ともつかぬ絶叫を発し続けた。
 そして……
 リヒターに終わりの時が迫っていた。
 骨組みだけのベッドにチェーンで縛り付けられ、リヒターは己(おの)が目を疑った。
 ハメッドの手にはデリアの写真が握られ、それを取っ替え引っ替え見せつけていた。それが最期なら、リヒターにとってせめてものしあわせといえるのだろうか。
 ドビルが脇から目を細めた。
「ナチの女にしとくのはもったいねえぜ」
「なんでこんなものを!?」
 リヒターの頭は混乱の極致だった。
 それはシャワーを浴びるデリアの3態の秘密めかした盗撮写真だ。固定シャワーに尻を向け、あるいは大股開きに脚を開き、最後は目を細めた忘我の境地で浴室タイルに尻餅着いてのオナニー場面ばかりの3枚だった。
 いつ、どこで盗み撮りされたにせよ昨日今日のものでないのは確かだ。だとするとゼーラだが、誰が何故、どんな手蔓でこいつらに――。
 冷静に頭を働かす暇(いとま)もなく次の衝撃が襲った。
「それを見て貴様の粗チンを奮い立てろ。おっと、逆らっても無駄だぞ。勃(た)たねば貴様の命を断(た)つまでだ。その際には楽に死ねると思うなよ」
 優男が一変した。生殺与奪の権利の下に哀れな筋肉男の運命をもてあそんだ。
 そしてもう一人の優男、リアットの手の中で筋肉男リヒターの分身はしごかれ、せっせと励まされていた。それでもダメなら、相変わらず役にも立たぬ粗チンをつまみあげ、あろうことか口に含んだ。
「おーっ!! おい!……」
 リヒターが驚愕した。だが、巧みな舌戯に、今はうっとりする他はない。勃起せねばなぶり殺されるのだ。
 その間ハメッドは写真を素早く抜き差し、ぺらぺら漫画効果でデリアが動いているようだ。
〈デリアぁー……デリアぁー……〉
 心で呪文のように唱えて名を呼んだ。
 ドビルが狂喜した。
「おーっ!」
 ハメッドも目をみはった。
 リヒターのペニスがみるみる膨張している。リアットのフェラチオの甲斐あってか、デリアのテレパシーが通じたのか、猛根は血管を浮き立てて艶光り、筋肉男にふさわしい威容を誇った。
 ハメッドがドビルを目顔でうながした。
「凄いよ、こんなの見たことない」
 はしゃいで見せるドビルが、いつの間にかその手に金串を握っていた。
「げっ、何をっ!?」
「いいか、その立派さを何があっても保っていろよ。それでおまえの命は保証する」
 リアットの手からドビルにバトンされた隆々と血管を浮き立てて屹立するリヒターの猛根、それにゆっくりと金串を刺しに行った。
「うおっ、おおぉぉぉぉーっ!!」
 半身を起こし、顔を上げ、飛び出るほどに眼を見開いてリヒターが叫びあげた。
「痛さに耐えきれず小さくなったらチョン。ハイ、それまーでーよ!」
 そう言って首に手刀を当てた。
「おおーっ、おおっおーっ、おおおおーっ!!」
 巨根ペニスに極太金串が貫通された。
 ドビルが「凄いや凄いや」と欣喜雀躍飛び上がった。
「ナチスハム特製フランクフルトソーセージの完成だーっ」
「うおおーっ!」
 リヒターがケダモノの咆哮を叫んで首を振った。手足を縛ったチェーンをがちゃがちゃいわせ、ベッドをきしませて足掻きに足掻いた。
 そしてドビルの賞讃は長くは続かなかった。
「ダメだ、こりゃ……」
「傷み物フランクフルトなら焼いて出すしかないな」
 ハメッドが目も顔も冷酷にした時、ドビルの手にはガスバーナーが握られており、それがボッと炎を噴いた。
 リヒターが仰天した。しかし、許し乞いする間も叫ぶ間もなかった。
 青白い炎の芯がたちまち暴炎となって兇根を舐めた。
「ぎえっ、ぐぎゃああああーっ!!……」
 全身真っ赤になって汗を噴き出した。
 串刺しにされた猛根が炎の中でジュウジュウ焼け爛れていく。
 耳をつんざく絶叫。鼻を突く異臭。
「くせぇくせぇ、うす汚いナチのブタは、クソチンポを焼くニオイまで強烈だぜ」
「時間をかけて焦んがり焼こうぜ」
 ゲームに興じるワルガキ連のような軽い乗りで悪魔の狂宴は続いた。その間、拘束チェーンをガチャガチャいわせ、ベッドをギシギシ揺すって泣き叫び、のたうち回る筋肉男の絶望地獄。
〈で、デリア……〉
 人工地獄の劫火に焼かれるリヒターが最期にすがったものは――
 見上げる天井に、壁に貼られた愛しい女の顔写真の海。それが涙で霞み、涙でゆがみ、薄れ行く意識の中に消えていった。
 だが……
 デリアはまだ生きていた。
「何のまじないだ!」と吐き捨てた。
 壁にユダヤの象徴でもあるダビデの星の旗が貼り出された。正三角形と逆正三角形を重ね合わせた六芒星(ヘキサグラム)である。
 中座からもどったハンナは奇妙な棒器具を握っていた。警棒に鉄条網を巻いたお手製拷問具――遠い日の記憶は、しかし即座に「あっ」と叫ばせた。
「こ、これは……!?」
 責め棒の握り部分を凝視した。親指の位置に確かにあった。そこだけいくらこすっても消えず、最後まで残った血のこびりつき。そして、
〈こいつの名もハンナ!〉
 数奇な偶然にぞっとした。
 ジュンコがゼーラに来たての頃、教祖やキンバリーと共に自分が手にかけたハンナというユダヤ女。命と引き替えに地獄のトイオナニーを強要した、その際の小道具がこれだった。
「ううっ」
 拘束の身も忘れて思わず後ずさった。
 今は膝を折り曲げて観音開きさせられ、それを縛った縄の延長を反対側のベッドの手すりに結んだ効果で持ち上げ加減にした尻の中心の肛穴。菊皺が密生する淫靡な穴に男並みの手の親指が押し込まれた。
「くふうーっ……!」
 とデリアはおののいた。アナルフィストを連想して恐怖した。
 が、ほどなく指は出された。その後でコードが垂れ下がった。親指挿入は電極の一方を直腸に結ぶためだった。
 くくっ、と覆面が笑って股間を見下ろした。
 快楽を与えたその後で破壊する。性器拷問、性器破壊の常道だ。ゼーラの鬼娘が、そのコピーのような鬼娘の企みを見通せぬわけがない。
 だが、まずは違った。
「うーっ」
 とデリアがのけ反った。
 トゲ棒は乳首を巻き込んで白い乳房に引っ掻き傷を走らせた。真っ赤な血を滲ませ、それがみるみる膨らんで傷口が鮮血を沸き立てた。
 ハンナの手がめまぐるしく動いた。回転させながら力を込めて引きずり、次には強く押しつけたままこすり上げる。
「ひっ、ひええーっ」
 デリアが身をよじって悶絶した。
 串刺し電気拷問を続けられた傷も癒えない乳首を通る時にはひときわ悲痛をきわだて、乳房はたちまち真っ赤な刷毛で掃いたように変わり果てた。
「ぎゃっ、ひいっ、あううーっ!」
 暴れれば暴れるほど傷を増やすのが分かっていながら苦し紛れにそうしてしまう。柔肌をトゲ砥石にかけているようなものだった。
 乳房の片側を血まみれに変え、次にはもう片方の乳房にも攻撃の矛を向けた。
「ぎえええーっ! あひいいーっ!」
 拳を握り、爪先を力ませてのたうち回った。
 徹底的に傷だらけにすべく嬉々として拷問に興じ、拷問を愉しむ恐るべき女――。
 やがてトゲ棒は血の雑巾のように変わっていった。
「あ、はあ、はあ……」
 デリアはすっかり憔悴しきった。出血による貧血ダメージで失神寸前だった。
 ハンナがまた腰の方にきた。血まみれのトゲ棒にもう一方の電線の先を結んだ。
 デリアが覚悟を決めた。
 性器の割れ目に平行してトゲ棒が降りて、まず下腹部に先端が当たり、それがゆっくりと寝かされた。
「ひいーっ!」と叫んでのけ反った。
 今度の陰核、尿道孔電流責めは辛い。なにせ尖ったトゲから電気が発しているのである。それに力が加わり、電撃は鋭い刺激となって襲いかかった。
「きひぃぃーっ!」
 割り開かれた観音開きの下半身を暴れさせた。
 ごりっとクリトリスが掻き裂かれ、頭のてっぺんから突き抜ける信じ難い激痛刺激。陰毛の秘部から血を流しながら泣き叫んだ。
 トゲ電流でこすっての性器虐めが執拗に続けられる。尿道孔にも傷を生じ、腕を左右に開かれ、胸を朱に染めた上体が弓なりに大きく反り帰って激しく身悶えた。
「ああぁっ! あああぁぁぁっ!!……」
 耐え難い苦悶がベッドを軋ませ、揺すった。
 割れ目に沿って寝かされた真っ赤なバラ線の電気棒が前後に動かされ、鮮血が陰毛をべっとりさせながら左右に赤い糸をいくつも作った。
「きゃっ、ひいっ、ひやゃーっ!」
 腰から下はぎちぎちに拘束され、自由の利く上体が不自由な下半身の分まで引き受けて激しく悶えた。蛇のように身をくねらせ、背中を大きく浮かせてのけぞりまくった。
 恐るべき電気棒が恐るべき目的に向かっていったん動きを止めた。いっぱい血を吸った先端部分が割れ目を押した。開かせかけた。ゆっくり入ってトゲ部分が触れた。
「ひゃっ、ひぎゃぎゃっ!!」
 目を見開いて卒倒するデリア。
 トゲ棒が侵入を開始した。悲鳴をあげさせ、膣壁を掻き裂きながらどんどん入っていった。トゲ棒を食わえる性器からも血が流れた。
「やめてっ、やめてっ。やめてえーぇぇっ!」
 デリアの性器の中でトゲ棒が暴れ狂った。膣壁を切り裂きながら行ったり来たりを繰り返した。回転されたり、えぐり込んだり、その他思いつく限りのなぶり責めに興じた。
 棒を膣にぶち込んだまま、割れ目から血がしたたるのを見届けてハンナが立っ。椅子を置いて座り直した。
 それから床のコントローラーを手に取って、いったんスイッチを切った。
「うわっ、ウソッ!」
 変圧ダイヤルがどんどん回される。そして恐るべき電気ショック拷問が開始された。
 スイッチが入れられた。
「ギャ! グギャアアアアァァァァァー!!」
 ガタガタガタと骨組みベッドが大地震に襲われたように激しい音をたてた。悲鳴が耳をつんざいて叫ばれた。膝を折って開かれた脚の内向きの爪先が、指をてんでばらばらにしながらひきつった。
「ギエエエーツ!!」
 目の玉が飛び出るかと思うほど見開かれた。
 いきなりスイッチが切られ、しなりにしなり、のけ反りにのけ反っていた全身がどっと崩れた。
 が、すぐまたスイッチ・オン!
 ケダモノじみた絶叫とのたうち回る傷だらけの全裸全身。またベッドが音をたてて、デリアの膣と直腸は致死的電気ショックの暴風に見舞われ、破壊的電撃に貫かれた。
「し、し、死ぬぅーっ!」
 目を剥いてのけぞる鬼娘の苦悶に拷問者は覆面の目を嗜虐にたぎらせながら嬉々とし、狂ったように憑かれたように電気ショック操作を繰り返した。




ダビデの星の下に


 車のエンジン音の後、外がにわかに騒がしくなった。
 デリアは失神から醒め、縄は解かれていて、骨組みベッドの縁にはハンナが腰かけていた。
 戸は開いたままのようで、外の足音がそのままどやどやと中まで入ってきた。その中にはサンチャゴから帰った人数も含まれた。
「覆面はそのままに。ここはパレルの近くだ。ナチの奴らがいないとも限らないからな」
 司令官ワインローブ少佐が部下に念押しして、ハンナとデリアの許に来た。
「なんだ、これは」
 壁のダビデの旗を見て質したが、ハンナは無視して司令官の前を素通りした。
 裸のデリアが、その羞恥に怯むことなく起きあがった。
「リヒターは!?」
 司令官が顎をしゃくり、サンチャゴ班の1人が歩み出た。
「彼氏のしぶとさにはほとほと感心したよ」
「おまえらごときウジ虫とは違う」
 デリアがズタズタにされた乳房から血をしたたらせながら、なお気丈に不敵に喚き返した。
「しかしキチガイで死んだんじゃカッコ悪いぜ」
「……え!?」
 ドビルは覆面で顔を隠しながらも得々と、オーバーリアクションの形態模写入りで伝えた。
「『おれはゼーラのブルータスだ、かかって来い!』、そう言って向かってきたから銃床でボカン。オシマイ。天国いっちまっただー」
 精一杯お茶らけて、けらけらと笑った。
 デリアがガックリと肩を落とした。
「そうだ!」と思い出して続けた。
「チンチンをガスバーナーで炙られたのがよほど堪えたんだろうな。バカな筋肉男の黒焦げフランクフルトを写真に撮っておけば良かったよ」
 そう言ってまた笑い転げた。
 デリアの完膚無きまでに絶望した姿を尻目に、ワインローブが調子に乗ってのたもうた。
「それはエンリケ・パリス博士を気取ったのさ」
「誰ですか、それ?」
「アジェンデ大統領の主治医だった男だ。9・11のクーデターで鎮圧されたモネダ宮殿で捕らえられ、サンチャゴの留置所で、『俺は雄牛のキノネスだ!』と何度も叫んで看守に突撃、棍棒で殴り殺された哀れな奴だよ」
「なんでまた……」
「国防省での拷問の酷さの所為だろう。リヒターとかいう奴もそれと一緒で、狂った奴は皆そんなことを口走るといういい見本だろうな」
「しかし博士の件は……よくご存じでしたね」
「うむ。まあな……」
 我が身の迂闊さに気づいてあわてて口を濁した。
 政変後の詳細事項はまだ秘中の秘。それを知るからにはさる筋とツーカーだと認めているようなもの。この場合のさる筋がゼーラを庇護するチリ当局でなければ米軍以外考えられない。
 この場にリッチがいたなら、笑いを堪えて顔をゆがめているに違いない。
 外からハンナが戻ってきた。手袋をした両手に、重そうにドラム缶を抱えていた。
「なんだ、これは?」
 またワインローブが怪訝な顔になって中を覗いた。炭が煌々と熾されており、その火の中に1本、2本と火箸が突っ込んであった。
 その1本を取って先端に目をくれた。それが三角の焼き印だと分かり、壁に貼ってある旗から想像した意匠とは違って司令官は少しガッカリした。
 デリアにしてみれば犠牲者当人として深刻だが、それでもリヒターの無念を弔ってあくまで気丈に振る舞った。。
〈焼かれるのは尻か、胸か、それとも……〉
 電気拷問の後遺痙攣でぴくぴくする股間に思わず手を当てて思った。
 だがしかし、このハンナという女の鬼畜をデリアも、他の誰もがはなはだしく見くびっていたことになるとは……。
 それがすぐに分かる。
 ハンナがポケットから紙片を取り出した。もちろん筆談用などではなく、正六角形を描いたものでもなく、正六角形に切り抜いた型紙だった。
「ますます分からんな」
 ワインローブが今度も首をかしげ、もう一度旗を振り返った。
 正六角形の型紙と、祖国イスラエルの国旗。その意匠にもある六芒星(ヘキサグラム)とは2つの正三角形の配合。そこまで考え、
「あっ」
 と思った。一同呆然、愕然としたのはデリアとて同じだった。しかし、デリアにしてみれば戦慄すべき一瞬だった。
「や、やめろ。くそっ!」
 暴れるデリアを男たちが四方八方から取り押さえた。掻き裂かれた傷と打ち身と電気拷問による電流斑などで変わり果てたデリアの上体の前半分を下にしてベッドに押し倒した時、
「待て」
 ワインローブが部下たちに命じた。
「ベッドに括り付けろ。縛るのは4箇所、手足の付け根付近に限ってぎちぎちに固定しろ」
 2人が腕と脚を、続く2人がそこへロープを巻きつけ、骨組みベッドは格子状の間(ま)に間(ま)に無数の隙間があるからどこにも縄を通せる。そうしてたちまち腕と脚の付け根が緊縛された。
「見ろ、この無様を」
 自由の利く縄の先の2本の手と2本の足が、裏返しにされて進退窮まった亀か甲虫のように一時弱々しく足掻いた。
「焼き印を押した後でダルマにしてもいいな」
 そんなことをほざく者まで現われた。
「司令官。4箇所だけでいいんですね」
「うむ」
 この手足が苦し紛れにどう暴れるか、それが愉しみだった。その目論みを胸に秘めての所為だった。そうして皆を下がらせた。
 ベッドに貼り付けた背面を上にした全裸全身。それを見つめて一同息を呑んだ。
 シミ一つない、透き通るような肌の背中が白磁のビーナス像を思わせた。ハンナがこれ以前の拷問箇所に背中や尻を選ばず、ひたすら前半分だけにこだわった真意がうなずけた。
「許し乞いしないのか? ねーちゃん」
「まだ間に合うよ。ねえ司令官?」
「いや、ここまで来たらハンナの好きに、というより俺も肌に焼き付けたダビデが見たい」
 デリアは歯を食いしばった。
〈命乞いなどするか!〉
 気持ちを鋼(はがね)に変えた。
 仲間が手伝い、デリアの背中と肩胛骨にまたがって型紙を押し当てた。
 ハンナが型紙の正六角形の周囲をサインペンで慎重になぞって行った。そうして描き終えると立ち上がった。
「よし、しっかり押さえつけろ。暴れて肩胛骨が飛び出てはきれいに焼けんからな」
 一通り指示し終えたつもりだったが、
「待て、ダビデの星以外は傷一つ付けてはいかん。手形が付かぬよう何かあてがえ」
 デリアが脱ぎ捨てたジャンパーがあった。それを下にして1人ずつ肩の上にのしかかった。
「よし、やれ」
 ハンナが真っ赤に熾きた炭の中から、2つある火箸の1本を掴み上げると、灼熱の正三角の焼き印を一同の前にかざした。
 その先がすーっと移動し、ペン描きされた正六角形の一角に真っ直ぐ下りてきた。
 ジュウウッ、という音。
「ぎえっ、ぐうううーっ!!」
 デリアの赤鬼のような顔が醜くゆがんで牝獣の凄まじい咆哮。焼かれた肌から黒煙が立ち上った。左右に伸びた四肢は一杯に突っ張り、汗を噴き出した。
 暴れると思ったデリアはまだ必死に耐え、気丈に拳を握って悲鳴を殺した。
 肉を焼く異臭が鼻を衝いて充満した。
〈リヒター、リヒター……〉
 涙と汗で顔をくしゃくしゃにして愛する男の名前を繰り返した。
 背中の一角に煙をあげて血を滲ませる鮮やかな三角形の焼き痕。
 今使った1本目に代えて別の1本が抜き出された。
 脱ぎ捨てのジャンパーを隔てて男2人が乗りなおし、また潰されたような声。直後に絶叫。こんどは耐え難く響き上げた。
「ひええええー、ひいひいひい、ひぎゃあああーっっっ!!」
 シルバーブロンドの髪が汗を撒き散らして狂ったように振り乱された。
 ワインローブがびしょびしょの後ろ髪を掴んで顔を上げさせた。
 いっぱいに顔をしかめ、拳を握り締め、その全身はすでに汗みずくだった。
 白い膚の肩胛骨と背中の正中線にまたがり、煙をくゆらせながら描き込まれた赤い2つの三角の角度を違えた連なり。
 その心の中で、藁にもすがる思いでデリアが繰り返した。
〈ママ……ママ……〉
 十分に焼き上がったさっきの1本目が取り出された。
「ひぎゃ、ひぎゃ、ひぎぎ……」
 焼かれる前からデリアがうろたえた。目がだんだんに見開かれていく。
 肉を焼く音。吹き上げる黒煙。ダビデの星が半分まで完成しようというその刹那、
「ウギャアアアーッ!!」
 苦し紛れの断末魔。苦し紛れの悶絶。自由の利く手は拳になって骨組みベッドの格子を握り締め、両脚は暴れに暴れてベッドの鋼鉄をばたばた叩いた。固い金属部分に打ちつけられる足の先が爪を砕き、皮膚を切らせて血が飛んだ。
 4つ目の三角が焼き付けられて、デリアがまた頸を大きくそっくり返らせた。
 汗が飛んだ。血が床にもその辺の荷物にも壁にも飛び散った。
 凄惨な悶絶地獄と焦熱地獄のなかに煙を上げる焼けた赤身の刻印ダビデの星は、完成まで2辺を残すのみとなった。
「ううっ、ううっ、ふうーう……」
 灼熱地獄の背中一面自分のものと思えなかった。灼けたトタン板を貼り付けられたような、肉ごと焼けたナイフでこそげ取られたような気の遠くなる激痛に囚われながら、いつしかデリアは朦朧の中にあった。
「くたばるのは早いぞ」
「まだ星は2つ残ってるんだからな」
「同胞虐殺の償いがこの程度で済むと思うなよ」
 デリアの耳にはクソ連中の声など聞こえなかった。
 自己暗示の中に我が身を置いて、その中になぜかジャンヌの顔が思い浮かんだ。血の繋がらない憎しみだけで繋がり合った姉妹。それがなぜに懐かしさをともなって思い出されるのか。
〈ザマぁないよ!〉
 全身力んで歯を食いしばった。
 また焼かれた。
「グギャアアアアーッ、ヒギャアアアーッ!!」
 背中が焼き潰された。口から血を流した。苦し紛れに誤って唇を噛んだか、口の裏を酷く切り裂いたか、それとも歯を食いしばったあまり歯を折ったのか。
 いっそ舌を噛み切らなかった自分が呪わしい!
 そして最期の1本――
「げっ、ギャアアアーッッッッ!!」
 断末魔の叫びと共に意識は遠のいた。
 血と汗と涙と異臭に充満された拷問密室の骨組みだけのベッド。そこに寝かされたうつ伏せの全裸全身――。
 すでに精神もずたぼろのデリアの肢体。その白い背中に目も醒めるダビデの六芒星がくっきりと刻まれていた。人間の肉の生焼きの毒々しい赤を際だて、およそこの世のものとは思えぬおぞましさをたたえて。




闇にささやく


 混乱も怒号も薄れ行く意識の彼方に――
 そして……
「クーデターだ!」
「まさか!? ここはパレルの片田舎だぞ」
「確かめろ。俺はサンチャゴのアジトと無線連絡を取る」
 足音が乱れて遠ざかった。


 まだデリアはうつ伏せのままだった。
 背中が燃えるように熱痛かった。それが自分の身体のようには思えず、別の皮が貼り付いているかのように錯覚した。
 いや、すでに自分の身体も心も根こそぎ奪い取られているのかも知れなかった。
 人っ子一人誰もいない闇。
 その闇が動いた気がした。
 足音もなく何かがそばに近づいて、
「デリア。まだ生きているかい?」
 涼やかな響きを持った人声。この数日間で初めて聞く人間の声。
〈リヒターなの? ああ、愛しいリヒター。あなた、やっぱり生きてたのね。そうよね。あなたのような男が死ぬなんて考えられなかったもの〉
 そうしてまた心に呼びかけた。せめて幽霊でもいい、帰ってきてと希(こいねが)った。
 また声が返る。
「デリア、生きているなら聴いて欲しい。黙って呼びかけだけ聴いて欲しい」
 デリアはぎょっとなった。
 誰かいる。生きているリヒターでも幽霊でもない、ハンナやワインローブとも違う別の人種が1人か2人いるようだった。
 やはり正気を失っているのだと思った。




銃 声


「吐いたのか?……バカめ、今ごろ吐いてどうする。あんな躯で生きて還れると思ってか」
「では、始末しましょう。あいつの男を始末したリアットが、それなら女もと願ってます」
「待て。冥途への土産に聴かせることがある」
 そう言って足音が近づいた。
 虫の息で俯せてるデリアのシルバーブロンドの後ろ髪を掴んで顔を起こさせた。
「おまえを俺たちに売ったのは誰だと思う?」
 憔悴の底に沈んでいたデリアが俄然息を吹き返した。思い当たるフシがないではない。
「おまえの母、ニーナだ」
「やっぱり!? でもなぜママが……!」
 それには答えず司令官は別の話から始めた。
「おまえが父ルトガーと暮らしてた頃、その国の政権が、武装抵抗組織セント・ドミンゴ特命隊に手を焼いていたことは知ってるよな?」
 デリアはうなずいた。他でもない、その組織のリーダーこそがジャンヌのパパだった。
「あの国でセント・ドミンゴ壊滅を宿願にしていた男、性的拷問のエキスパート、悪名高きオズワルド・モローの別の顔を知ってるか? おまえも知っている某政治犯拘置所の所長だよ」
「?」
「しかもそ奴はニーナが当時付き合ってた愛人で、ニーナに子ができ拘置所は妊娠を誤魔化す絶好の隠れミノになり、出産までの8か月間を囚人の身として偽り、そこで暮らしてたんだ」
「まさか!?」
 では、「反体制運動連座の廉で逮捕」というのは真っ赤な嘘かと、デリアが驚愕の色を濃くした。
「ことはニーナ妊娠の1年前に始まる。秘密警察職員も兼ねるオズワルド・モローはセント・ドミンゴにスパイを送るべく、準備を進めた。
 ニーナが悪知恵を働かしてヴィッキーなる女に白羽の矢を立てた。成功の暁には多額な賞金を与えるべく誘ったが拒否され、しかたなく拷問で洗脳を図った。だが、ヴィッキーは負けない。だったら手っ取り早くヴィッキーのコピー、つまりは替え玉を使えば早道だと考えた」
 ワインローブの話はますます熱を帯びた。
「ここにヴィッキーと瓜二つの替え玉がいた。女はエンリケに接近、エンリケと関係を結んでエンリケの子を妊娠し、その子はすくすくと成長。その間、ヴィッキーの替え玉は着々セント・ドミンゴにも浸透、8年後、待ちに待った宿怨、組織壊滅、千載一遇の好機がおとずれた」
 「8年後」という具体的数字に、聞いているデリアのこめかみがぴくぴくした。
「秘密の山荘アジトに、主だった幹部一同がそろう日がきた。ヴィッキーに手引きされた秘密警察の特殊部隊は銃撃戦の末、見事セント・ドミンゴの幹部全員を討ち取ることに成功したが、秘密の抜け穴までは知らされず、リーダーのエンリケ一人には逃げられる失態を演じた」
 全部、ジャンヌに聞いて知っている話だ、ヴィッキーが替え玉であること以外は。
「エンリケは逃がしたが、偽ヴィッキーは別の復讐を果たすことができた。憎い恋敵、反目する妹――姉妹だから似ているのは当然。8年間収監してきた本物ヴィッキーを自らの手で惨殺すること。しかも妹の子と偽ってきた実の我が子、8歳のジャンヌの見ている前で……」
 恐ろしい話の成り行きにデリアは頭を抱え、ぶるぶると震えていた。
「なぜ、なぜママはわたしまでを……」
 それすら信じられないとは余りに惨め過ぎた。
「おまえがジャンヌに会った時、俺たちにジャンヌ共々おまえを始末させるためだ。エンリケ亡き後、復讐心に憑かれたセント・ドミンゴの生き残りがヴィッキーを、いや、ニーナを仇と捜し求めている。それを知って子供の時から勘のいいジャンヌが真相に迫るのを怖れたからだ」
「じゃあ、ジャンヌもいずれ……」
「いや、俺たちの役目はゼーラのユダヤ人の運命を知ることと、その運命をもてあそんだ者たちに裁きを与え、罰を施行することだ」
 きっぱりと断言した。
「今がその時だ。死ぬ覚悟をしておけ」
 最後にそう宣告してワインローブはその場を去った。
 ワインローブがデリアから離れた所で部下たちに指図を与え、リアットにはデリア処刑を命じた。それからお開きになった。
 銃を携えたりカバンを持ったりいそいそと帰りじたく、最後に二言三言交わし、そぞろ足音が部屋を出て行った。
 明かりが消えた。自分を殺すべく残った一人の足音がゆっくりデリアに向かって迫った。近づくごとに足音は大きく響き、それが間近で止まった時、拳銃の劇鉄音が静まりかえった部屋に響いた。
 そして――
 ドーンと耳をつんざいて轟き渡る銃声音。
 ガタッと人がくずおれる音の後、足音がゆっくりと部屋を出て行った。
 ぽた、ぽた、ぽたと、血のしたたる音が最初規則的に、ほどなく間隔を小さくして頻々と降りかかる雨だれのように変わっていった。
 ひっ、ううっ……
 嗚咽のような、すすり泣くような、だがそれもすぐに消えた。
 闇はそれ以上の何も語ってくれはしなかった。


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以下『文献』「映像」[サイト]を参照とした

「アルジェの戦い」(ジッロ・ポンテコルヴォ監督、1965年イタリア=アルジェリア作品)
『戒厳令下チリ潜入記――ある映画監督の冒険』(G. ガルシア=マルケス著、後藤政子訳、岩波書店)
[「黒い九月」と「モサド」の報復合戦](ヘブライの館2)
『拷問・処刑・虐殺全書』(柳内伸作著、KKベストセラーズ)
『サンチャゴに降る雨』(大石直紀著、光文社文庫)
「失踪・チリ政治犯 20年目の追跡調査」(1993年イギリスBBC制作、NHK-BS「世界のドキュメンタリー」)
[チリ軍事クーデター前後の旅日記](街角の旅日記)
[中南米年表 その3]
[発明者・宮脇誠氏による「子宮ゾンデ」の説明](J-tokkyo)
[『パラダイス・ナウ』と『ミュンヘン』――映画に見るイスラエル−パレスチナ](ナブルス通信)
「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(ケヴィン・マクドナルド監督、1999年スイス・ドイツ・イギリス作品)
『ミッシング』(トマス・ハウザー著、古藤晃訳、ダイナミックセラーズ)
『私は全裸にされ、体中に電気を通された!』(週刊女性自身1976年2月12日号、光文社)(以上50音順)

*ガスパール・ルイスの階級を少佐から大尉に変更しました。
*「デリアの物語」のサンチャゴ駅頭描写。同、花街とその周辺描写、「敵の敵」のディスコ描写は[チリ軍事クーデター前後の旅日記]を参考にさせていただきました。街角の旅日記サイト主宰者・筆者様には心から感謝します。
*ブラウザによって壁紙仕様が固定せず、スクロール移動する対策として、インターネットエクスプローラーなどブラウザ変更をおすすめします。


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●マルガリテ/純子__嵐のなかで…●

カット写真 純 子
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