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作 マルガリテ/純子

第十一章
秘めたる連帯



淫 魔


 一面、白いタイル張りの部屋――手術室に違いない造り。見覚えがあるような……でも、どこなのか記憶がさっぱり定かではない。
 純子はその部屋の隅で椅子に座らされ、後ろ手錠で縛られていた。
 どこかで時計が鳴っていた。カチ、カチ、カチという時を刻む音がだんだんはっきりしてきた。朦朧とする意識も次第に覚醒していき、重い頭をもたげてみた。
 見渡してみると、そこはたしかに手術室。
 飾り気のないスチール製棚。ワゴンの上には銀色のステンレスの皿。メスや鉗子らしき器具も並んでいる。
 視線を巡らすと、部屋の中央には黒いビニール張りの手術台がドンと据えられていて、その上には全裸にされたマリア!
 どうしたの? ねえ、何かされた?
 純子の位置からでは、はっきりとは見えないはずだった。なのに……
 マリアは四肢を拡げられ、頑丈に拘束され、口には強制開口器がはめ込まれている。呻き声以外、言葉はおろか悲鳴すらあげられない状態にされていたのだ。
 見えないはずのマリアの状態が、まるで上から目線で見下ろしているように鮮明にイメージされる非現実感。
 突然、
「始めて……」
 女の声。女の影。あれは……
「いいの? やるわよ……教祖様に咎められないの?」
 今度はミランダの低い声。
 同時にマリアが「ウグー。ウグー」と呻きにもならない声を絞り出しながら手術台の上で硬直するのが分かった。
 なに? 何が始まるの?
「どこから解剖するの? すぐに死なせたり気絶させたりしたら面白くないよ、ミランダ」
「心得てるわ……」
 いつもの能面の言葉が今日は一層凶々しく響く。
「まず乳房から解剖するわ。乳首を切り落として、それから四方向に切れ目を入れて、皮膚を剥ぎ取るわ。皮を剥ぎ終わったら乳房を縦に割って乳腺を摘出する……
 この時は脂肪で手がヌルヌルになるからアルコールで洗いながらやらないと手が滑る……」
 能面がこんなに喋るのを見たことがない。
「ククク、面白いわね。それから?」
「次は性器よ。陰核をえぐり取って、そのあと膣鏡で拡げておいて鉤針を挿入し、子宮に刺して引きずり出す……ここで気絶しないように興奮剤を点滴しておかないとね」
 狂ったのか。正真正銘の異常者だったのか。
「むげー、むげげぇ!」
 恐ろしい解説に反応するマリアが声にならないもがき声を上げている。
 ああ……こんなことが! 恐れていた日がついに来てしまったの?
「この女が終わったら、続いてジュンコも同じように……」
 なんでこの2人だけなの? 教祖はいないの? あのレーヴェとかいう男は? この兇事に幕を下ろしてくれる誰かいないの?
 誰か……
 頭が真っ白になり、心臓が早鐘を打ち、何とか助かる方法はないものかと頭が空しく回転し、そして視界が暗くなっていった。
 なぜ? なぜこんなに暗くなったの?
 今まで手術室の煌々とした照明の中にいたのに……そうか、いつの間にか目隠しされていたんだ。
 また、カチ、カチという時計の音。その音に混じって、
〈来た!〉
 キコキコキコと車椅子をきしませ、あいつの近づくのを五感に感じて怖ぞ気がした。
 もう、すぐそこだ。
 車椅子の一部がベッドに触れたようだ。カチャッとストッパーを掛ける音。
 膝を開いて押さえつけた。陰唇を開いた。陰核をこすりあげ、尿道を露出させた。こんなに力強いあいつは初めてだ。そして……
〈見られている!〉
 あいつの息づかい、生唾を呑む音が聞こえた。
 当然、教祖だろうが、だとすればできないことなど何一つない中で、この行為はじれった過ぎた。
 腰が浮かされた。恥ずかしいオムツ当てポーズをとらされた。さらに露骨な角度となって肛門までさらされている。
 はあ、はあという視姦者の荒い喘ぎ。何をしようというのか。
 不意に身体が反転させられ、引っ張られ、腰から下がすとんと落ちて、裸足が床を着いて尻を突き出す格好にさせられた。
 ローブがめくられた。
〈また何かされる!〉
 その「何か」とは、拷問か異物凌辱以外の行為とは思いもつかなかった。
 一瞬よぎった「犯される」という連想。
 犬に姦られた経験から、シェパードが頭をよぎり、エルンスト、ゲットナーという発想も。だがしかし……
 ごつごつとした感触はローブを通してもよく感じ取れた。その生き物が後ろから覆い被さってきたが、まったく出し抜けに挿入された。
「いやっ、ひぎゃあーっ!」
 激しく首を振って拒んだ。
 前戯も何もなかった。両手を頭の上で組まされ、両膝はさっきから指が深く食い込むほどに掴まれている。その痛さに加えていきなり刺し貫かれる痛さ!
 犯されている。しかも張り型で。しかも腰を使って。腰を……?
 教祖ではないのか。男ではないのか。
 さっき近づいたのは車椅子ではないのか。別の医療台車か何かなのか。
 陰唇が摘まれた。開いて、割って、そこに異物があてがわれた。
 固い! ペニスのそれではなかった。最初、張り型かと思ったが、その侵入と平行して一人分の全体重がぐぐっと感じられた。
「やめてっ、やめてっ!」
 猛根は猛根でも人工猛根、義ペニスで、そこで考えられるのは一つだった。
 女? なら、デリア!
 そう考える根拠が最近あった。その時も、今とまったくおなじ情況だった。
 ただ、この際には、今ではゼーラにいるはずのないデリアの声で「待って」「わたしが」が加わった。行為の前ではなくレイプ途中の「待って」「わたし」だった。
 これは今、現実に起きてることなの? それとも過ぎた日のことなの? 頭が混乱の極にあり、とても正常とは思えなかった。
 挿入行為はきわめて洗練されたもので、年寄りが誰かの介助をともなっての気まぐれ行為などでは断じてなかった。
 ひひひひひ……
 不気味な笑い声を聞かせて異常なレイプ行為が延々と続けられた。
 変態! 悪魔! 鬼! 人でなしと、純子は思いつく限りの罵りをぶつけていた。ミランダかマルガに自分を犯させ、じっと見物して一人悦にいってるコロニアル・ゼーラの帝王、バルツァー・ジークベルトの嗤い顔に向かって……。




陰 謀


 うぉーん……
 どこかの工場か会社か、昼休みの終了を知らせるサイレンが遠く響き上げた。
 時計は1時。今日は12月21日。ちなみに南米チリの12月は日本では8月、夏にあたるが、無為に迎えるだけの日時を数え、パオラ・ロハスの気持ちは焦るばかりだった。
 そばで寝ているジェームス・リッチが呻き声をあげたので「ぎょっ」となった。
「やめろ……おい、やめてくれ……」
 何か悪い夢でも見ているのだろうか。
「マリアか! ジュンコか?」
 妹の名が出てびっくりした。名前を呼んでは、その都度首を振ったり、
「ディンの姉?……ナムだったのか……」
 また固有名詞が2つ。そして、
「やめろヒギンズ! 貴様それでも軍人か!」
 手が宙を掻いたり胸を掻きむしったり、それ以上は見ていられなくなり起こしにかかった。
「リッチさん、リッチ……」
 2度肩を揺すり、3度名を呼んだ時、ぱっちり目が開いて半身を起こした。
「やあ、君か」
 バツが悪そうに見上げて頭を掻いた。
 パオラも訳は問わない。最後に出てきたヒギンズ名が、ライアンのベトナム戦争時代の実名であることもとっくに知っていた。
「みんなには喋ってくれるなよ」
 照れ臭そうに伸びを一つ打って立ち上がった。
「何時だ?」と時間を訊き、
「お、いつの間にロレックスなんか……」
 黒い肌に巻き付いた金革に思わず目が止まった。
「安物よ。可笑しいでしょ、あのキンバリーが『クロには金が似合う』と言ってわざわざ自分の腕から外して呉れたんだもの。懐かしくなったわよ。それで久しぶり、はめたんだけど……」
「安物といっても、そりゃ相当なものだぜ」
 よほど可笑しいとみえて声に出して笑った。
 ヘブライ協会の、椅子だの机だのを取り払ってがらんとした講堂にワインローブ以下部下たち、そしてワインローブを迎えに出たモラレスらもぞろぞろと戻った。
 ところがモラレスのようすがおかしい。
「リッチにも説明しろ。そんな言い草が通ると思ってか、人の命がかかってんだぞ」
 冷静なモラリスがいつになく興奮している。ルイスやエレーナもいきり立っている。
「どうしたというんだ」
「24日の奇襲が延期になったというんだ」
「どういうことだ」
 モラレスの要領を得ない話しぶりに、リッチまでが苛ついた。代わりにエレーナが説明した。
「一昨日、ゼーラの軍事部門の男女を拉致して訊問したって。それで確かな情報を得たということなのよ」
 それはパオラもエレーナから聞いた。だがスナッフ・パーティーはともかく、ユダヤ人集団虐殺はイスラエル側の参加をうながすため、リッチが仕組んだガセ情報。それなのに、
「ユダヤ人に対する集団殺戮はイブにはやらずクリスマス当夜に行なうから、遅れて参加する見学者も含め一網打尽にできる25日に奇襲をかけることに変更した、そういうのよ。
 そうですよね? “司令官閣下殿”!」
 エレーナが代わりに報告する格好となったが、〈司令官閣下殿は挑発的だろう〉とパオラは眉をひそめた。
「おかしいなあー」
 リッチが首を傾げた。皮肉な視線を投げかけたら、ドビルという部下が「何だと!?」といきり立った。それをハメッド、ハンナがなだめた。
「何がおかしいのかね、リッチ君?」
 ワインローブがあくまで平静をよそおって訊ね返した。
「いやね。ゼーラはチリの政治犯の拷問や秘密処刑にも関わる、いわばピノチェト政権の支部的弾圧機関。そのゼーラの戦士がそう簡単に口を割るとは思いませんでしたのでね……」
 いちおう疑問理由を述べたらワインローブが「モサドの」と言いかけ慌てて訂正、「われらが」に言い替え、
「我らが訊問の“完璧さ”を識りもせず余計な口は叩くな。やる以上は効率良く、成果は大きい方がいい。また、ゼーラの“客たち”にはナチの戦犯もいるだろうしな。ま、利用できるものなら戦犯だろうが恩赦してでも活用したいあんたらアメリカ人の流儀とは違うだろうが」
 余裕たっぷりのしたり顔。
「ライアンはどうした。責任者は奴だろう」
「彼は俺に一任してどこかにシケ込んでるよ。今ごろは女でも抱いてんじゃないのか?」
「ならば直接ライアンに掛け合おう」
 そう言って出かけた時、イスラエル側の3人が銃を抜いた。撃鉄を引く音にぎょっとなった。
「反逆罪で撃ち殺そうか?」
 ワインローブも腰のホルスターに手をかけた。
「気でも違ったんですか? こんなことして誰が歓ぶんですか」
 パオラが勇を奮って抗議した。が、
「誰が喜ぶかと言うが、こうした時にでも決着をつけぬと、我が愛する部下の一人の魂が、今だ冥途に旅立てずそのあたりを彷徨ってるからな」
 謎めいた言葉をつぶやいていたずらに部下を刺激した。
「どういう意味ですか!? もしや……!」
 ハメッドが質した。ただ、ハンナだけは事情を熟知しているかのように平然としている。
 ワインローブが傲然と言い放った。
「今日以降作戦完了までの個人行動は許されない。いいか、途中からしゃしゃり出てきた君たちは知るまいが、これは共同作戦を行なう米軍との取り決めだ。それに従えぬならば作戦を降りてもらうだけだ」
 それだけ言って話を打ち切ると、講堂の自分たちのコーナーに戻った。
 それを見届けてリッチが彼らに背を向け、こっちも椅子を車座に組んで対応を協議することになった。
 リッチが彼本来の精悍な鷹の目になり、全員が面突き合わせたところに、各自宛て小さな紙片が配られた。
「絶対に無理しないという条件で聞いてくれよ。どんなきっかけでもいい。各自判断で、何かの隙にここを脱け出せる者がいたら、必ずグスマン氏と繋ぎを取って彼に託して欲しいんだ」
 紙片は手帳の切れ端でライアンの落ち着き先と電話番号のメモだった。それをポケットに仕舞いながらパオラは訊かずにはおれなかった。
「誰も脱け出せなかったら……」
「その時はしかたないさ。別の手を考える」
 鷹揚に答えたが、
「くれぐれも無理はしないこと。奴らが殺ると言うからには必ず殺る。この作戦の裏には相当な罠がありそうだ。罠というより陰謀がな」
 重ねて念を押して密議を終えた。
 後は雑談になった。リッチとモラレスが下手な冗談トークを始めた。
「今年のクリスマスは七面鳥もナシか?」
「そりゃあないぜ」
「だってそうだろ、女にしか目のないダラ幹大尉とお堅い司令官殿の下じゃさ」
「そうだそうだ」
 講堂中に響く大声ではしゃぎ合ったが、パオラはその輪に加われなかった。
 生死を共にする友軍同士のはずが警戒したり敵視し合ったり、この下劣、愚劣さは何だと思った。こうしてる間にもマリアは無事か、ジュンコはまだ生きているのだろうかと、そればかり思い煩い、パオラの心は滅入るばかりだった。


 おなじ日、サンチャゴ近郊――。
 窓際の席から向かいのレストランが見える。
 会社を早引けしたカルロス・ユベーロが、冷めた紅茶を啜りながら時間を気にしている。
〈3時15分を1分早くても遅くても彼は出てくるはずはないんだ〉
 そのために昨日、待ち合わせ相手と時計を見せ合い、時刻合わせしたくらいだ。
 ロレックスはアジェンデ政権で閑職となる前に買ったもので、たとえこの先ピノチェトの世が大盤石でも、こんな買い物は絶対にしない。それがアジェンデを支持してきた自分のせめてもの矜持であり、意地でもある。
 3時15分ジャスト! 向かいの店に顔を向けて目を凝らすと、その人は出てきた。
 Gパンは地味だが、上は水玉のTシャツに野球帽。人混みに紛れても、これだけの格好の者を見間違えるはずはない。マヌエル・グスマンが向こうから目顔を返した。
 歩き出す。それを確かめて席を立った。支払いを済ませて店の外へ。100メートルほど距離をおいて、こちらも同じ方角に歩き出した。
 花屋を過ぎた。グスマンの姿をそれとなく追いつつ、尾行者らしき影がないかも確かめた。
 大通りを右に曲がった。こちらも通りを渡ってグスマンが辿った道へ。大通りを曲がると向こうに彼が見えた。等距離を維持し、電気屋の店員を捕まえて道を訊ねている。いや、芝居の一環として尋ねている。
 そこでカルロスも立ち止まった。何食わぬ顔でタバコを食わえた。それが〈尾行はなさそうだ〉の合図だから。幸い警察の姿もなく、目当てのワゴン車が来かかってグスマンを拾った。
 そこまで確認して角をもどり直した。
 待つことわずか、一巡りしてきたワゴン車がみるみる近づく。すぐ横で停まる。後ろのドアが開いて、カルロスはそそくさと乗り込んだ。ドアを閉めると同時に車が急発進した。
 呆れて「おいおいおい」と微苦笑した。
「そんなに急ぐ必要はないよ。“ピノチェト時間”には、まだ間があるんだから」
 気を利かせた軽口のつもりがまずかったようだ。
「すみません、ペーパードライブ期間が長くて……」と、ただただ正直者のタマラを恐縮させるだけだった。
 おまけにグスマンには突っ込まれた。
「目立つといえば、わたしにはむしろ君のその口髭の方こそ心配だがね」
 気にしていたことを言われて「いやー」と頭を掻いた。
「今度のことで、いっそ剃っちゃおうかとも思ったんですけどね」
 それができない。この口髭もカルロスにとってはこだわりの一つだった。
「どの道ですか?」
 とタマラに訊かれ、グスマンが身を乗り出した。耳打ちにいちいち頷き、最後に大きく頷いてタマラはハンドルを持つ手に力を込めた。
「途中、検問がなければいいが」
「しっかり偽造してもらった身分証だからね。それより尾行が心配だったんで、それがなかったのは一安心だったよ」
 カルロスも大きく頷き返した。
「あなたほどの方が、よくこんな大それたことしてると僕は今でも信じられませんよ」
 その感慨へのグスマンの反応はにこにこするだけだったが、つと顔を横に向けると、
「忙しいって、勤めもお店も順調なの?」
「はあ、今は冬休みを前に落ち着いてますが」
 そう答えたら元チリ軍大尉が腕組みした。
「これもピノチェト様の御利益、かな」
「ひと頃の物不足、物価高が嘘みたいです」
「とはいえ外出禁止時間といい、こう、監視社会になったのには閉口するね」
「折り入っての相談って何です?」
 カルロスが本題に入るべく質問した。
「一昨日以来リッチ氏から連絡がなくてね。イヤな予感がして心配してるんです」
「イヤな予感って……ヘブライ協会なら電話一つで連絡できるじゃないですか?」
「イスラエル側の動きがおかしい。ひょっとして電話できないんじゃないかと疑ってる。というのもリッチ氏はかねてより、今度の奇襲作戦に陰謀のニオイを感じてたからね」
「そんなことってあるんですかぁ!?」
 タマラまで不安を口にした。作戦に支障をきたせば一般市民も巻き添えになりかねず、ゼーラにはタマラの友人もいるからだ。
「ヘブライ協会は、どういう関わりで軍に建物を貸しているんですか?」
 その辺もカルロスの疑問だったが、グスマンは軍関係のコネで調べた結果を語った。
「同胞意識は協会として強いのは当然だが、いざ建物を提供したものの軍の強引さには呆れてるようだ。企業主組織といえど一介の個人の集まり、罪のない一般市民まで巻き添えになるのではと、今ではこっちに……」
「おお! 味方してくれたんですね。それで僕に白羽の矢が?」
「できればタマラさんにもお願いしたいと思ってるんだが……」
 期せずしてタマラが「わおっ!」と歓声を上げた。
「それじゃスピードを上げますよ。作戦会議なんか生まれて初めて! わくわくします」
「ほらほら、それが危ないんだってば。落ち着いて落ち着いて。目立たないでよ」
 そう諫め、諭す自分自身何かしら妙に落ち着かず、かつてない高揚感に包まれて胸の動悸をひたすらなだめているカルロスだった。


 首都サンチャゴは夜を迎えた。
 ミゲル・ラモスは愛車カマロに乗って“金曜クラブ”の会場に向かっていた。クラブは名前どおり毎週金曜夜に集まり、政治談義を闘わす気の合った軍人同志の親睦組織。というより政治談義など口実、実態は呑み仲間の宴会に過ぎない。
 オメガの安物時計は8時。外出禁止時間はとっくに始まっており、この時間帯通る車とてなく、渋滞を気にせず走れるのは良かった。
 所々に軍の警備兵が監視の目を光らせ、右手にモネダ宮殿が見えた。
 元は造幣局でその名が付いたといわれる大統領府は、昼間なら9・11クーデターによる蜂起軍の攻撃で所々破壊され、無数の弾痕と焼け焦げで変わり果てた姿をさらしているはずだ。
 もうすぐマポーチョ川に架かる橋が見えるが、このあたりは警備兵の姿も皆無だった。
「おや?」
 と、前方に目を凝らす。
 どこかのホテルの前が妙にきらびやかに見えた。黒塗りの高級外車が停まるまわりで、要人の見送りに軍人も混じって別れの握手を交わしている。
 将校服の中に見覚えの顔を認めた!

 ――ゼーラに何事かある前に
   無事、キンバリーを脱出させよ

 その密命をミゲルに下したガロ少佐本人がこんなところにいた。
 金曜クラブへは少佐に会うためだった。アポなしでは不在か拒絶も考えられたが、「他ならぬ少佐」と高をくくって出て来た手前、予期せぬ出逢いに喜んだ。
 ホテル前のロータリー。そこにたむろするボディガードや軍人含め10人ほど。その彼らを刺激せぬよう、エンジン音を潜めた徐行運転で通り過ぎた。
 ドアを閉めて降り立った時、異変が生じた。どこからか車が猛スピードで迫ったと思うや、激しい急ブレーキ音。
 人々が通りに目を向けたその時、ちょうどそこへ通りかかった車の窓が火を噴いた。銃声が闇を切り裂いた。
 要人をかばってボディーガードの1人が肩を押さえて倒れ込み、残る1人が応射した。
「追え! 捕まえろっ!」
 撃たれた男を遮蔽物にでもするように支え、ターゲットにされた男が怒鳴った。「行け」「捕まえろ」と興奮して、もう1人のボディーガードを激しくけしかけた。
 黒塗りの要人専用車は急発進して銃撃グループを追いかけた。その間、ガロ少佐はじめ2、3人いる制服軍人は呆然とたたずむばかりで、銃を抜く者もおらず全くの無防備だった。
〈まずい!〉
 ミゲルの軍人精神は階段を駈け上って一目散にガロ少佐の許に突進した。
 本当の異変はその直後に起きた。
〈なんだ、あの子どもは……〉と誰もが呆っ気にとられた。
 銃撃の修羅場に、いまだ硝煙が色濃くただようロータリーに少女がさまよい込んできた。花柄のワンピースが場違い感を際立て、その者の童顔と相まって子どもに見せたのだった。
「君、何をしている。ここは危険だぞ」
 狙われた要人が我を忘れた。たった今狙われた立場も忘れ、撃たれた男を置き去りに立ち上がった。一歩踏み出して手を差し伸べた時――
 少女が豹変した。その瞬間をミゲルははっきりとこの目で捉えた。
 小柄な女テロリストが銃を抜き、轟音を発するのとミゲルが要人に体当たりするのと同時だった。
「やられた!」と誰か叫んだ。
 ミゲルが反射的に「いや」と否定した。もんどりうった姿勢を立ち直らせ、「その方(かた)を頼む!」と叫んで走り出した。
 走りながら銃を抜きかけた。連射を前提に一度は足のフルオートに手を伸ばしかけたが、それを振り切って背広の懐の45口径に切り替えた。
「おお、ミゲルか!」
 ガロ少佐の呼びかけを尻目に舌打ちしていた。
〈早い。何て早い女だ!〉
 この日のために生まれてきたような超人的な駿足でみるみる花柄の背中が遠ざかった。その間、背後では混乱――発砲を急ぐ者、誤射を不安がる者、その中で、
「彼に任せろ。射撃の腕なら天才肌だ」
 ガロ少佐の制止で後ろから撃たれる不名誉は避けられた。
〈50、60、70メートル……まだまだ……〉
 約100メートルの距離に遠ざかった時、次の四つ角の手前で2台目の車が迫る音がした。
〈これを待っていた。これで一石二鳥だ〉
 街灯の下に車の横っ腹。後ろのドアが開いて女が乗りかかる。リボルバーの照準を通して運転席に狙いを絞った。引き金に手をかけた。1秒、2秒……時間が止まったかに見えた。
「どうした?」
「撃たないのか!」
「何をしてるんだ!? ミゲル!」
 引き金を引いたとたん、車が走り出した。不発の銃口を遙か尻目に車は猛スピードを上げて遠ざかり、間もなく人々の視界から消えた。
 唖然、愕然。それが嘲笑に変わり、間もなく苛立ちと腹立ちと怒りのざわめきに変わった。
 ガロ少佐が「ミゲル」と呼んで肩を叩いた。
「故障のようです。未熟者ですみません」
 悄然として詫びた。
 が、故障は嘘だった。リボルバーの1発目は薬室を空にしておくのが常識で、それを知っててそのまま引き金を引いたのは、テロリストを逮捕する気も射殺する気もなかったからだ。
「まあ良い。そんなこともあるさ」
 そう言って今度は慰める意味で胸を軽く叩いて横に並んだ。
「撃たれた方(かた)は?」
「大丈夫。君の機転で突き飛ばされた拍子のかすり傷程度で済んだ」
 そう言って安心させた後で、
「それにしてもあの女、凄い腕だったなぁ。しっかりと弾道を見ていたが、君の体当たりがなければ1発であの男の胸を撃ち抜いてた」
 失態を慰める意味もあってか狙撃手を褒めた。その思いはミゲルも同感だった。恐るべき相手だったが、それより今は別のことが気がかりだ。
「どなただったんですか?」
「昨日までの大尉が、今日からは一階級特進の少佐サマだ。ピノチェト派グループの某将校会に属す栄誉に浴した幸せな男だよ」
 皮肉たっぷりに紹介した。
「では、あなたとおなじ……」
「いけ好かない奴さ。その少佐就任を祝うパーティーで浮かれまくった結果が、このザマだ。政変では相当酷いこともしたようだから、彼に怨みを持つテログループの仕業だろう」
 ピノチェト派ならガロ少佐とは対立するグループではないか。
「それはすみません。僕のしくじりで、あなたの立場がお悪くなるかも知れませんね」
 そうと分かってたら是が非でも捕獲していた。
 少佐からは絶大な信頼。軍隊内では仲間の賞讃。それを得る好機をみすみす逃した。“肉接待”に供されたユダヤの少女ヨナの話。マジックミラーから見たジュンコの“悲惨”を女テロリストに重ねたのが躊躇の元だった。
「それより何だ。何か話があったんだろう?」
 出し抜けに問われたが、申し訳なさで切り出せなくなった。
「夜風が気持ちいい。せっかくの機会だ、その辺をぶらぶらしながら話そう。今やチリはどこも秘密警察の監視で油断ならないからな」
 そう言って笑った。その我らでさえも監視される対象からは秘密警察同様恐れられる存在だが、それをまるで他人事のように言ってのけるのがガロ少佐らしかった。
「もしやまた、という怖さはありませんか?」
 今度は一分のスキなく、全神経を集中して道の左右に目を配りながら訊いた。
「もう間違いないだろ。そこにオートマチックを隠し持ってるのはちゃんと分かってるんだよ」
 足下に目を落としての言葉に、〈この人に隠し事なんか通用しないな〉と苦笑いするしかなかった。
「話はありません。偶然お見受けし、懐かしさから立ち寄っただけです。それなのにわたしの未熟からとんでもないご迷惑を……」
「それはいいから」
 少佐はまたも慰撫しておもむろに向き直った。
「なあミゲル。今度の労苦に報いてのわしのせめてもの志だ。これを受け取ってくれたまえ」
 そう言って手を取って四角い物を握らせた。
 恐る恐る拡げたら豪華な金属ケースだった。その高級感と重量感に戸惑いはしたものの、蓋を開けて見て二度驚いた。
 なんと、ロレックスの超高級品だった。
「これは! と、とんでもないです。このような高価なお品を……」
 平身低頭して突き返したことで、また笑われた。
「おいおい、もう10何年わしの腕にはまってた使い古しだよ。そんなに恐縮されたら、かえってこっちがこっぱずかしくなる。早く仕舞ってくれ」
 正直照れてるらしくそう言い、無理にでも握り直させ、ポケットに入れたのを確認すると満足顔でうなずいた。
 それから両手を後ろに組んで歩き出した。
「実はなミゲル君、アメリカでは今の大統領に反対する一派の巻き返しで、大変な暗闘状態らしい。わしはチリの正しい行く末を念じて反ニクソン派と気脈を通じておるんだ。君には今まで黙っていたが、そういうことなんだよ」
 呆然とした面持ちで、とりあえずは返す言葉もなく聞いていた。
「わしらの望みはな、彼の国の此の国に対する内政干渉などに終止符を打つことなんだ。暗殺されたシュナイダー将軍の意志、“軍は国の防人たるべし”だよ。民主的手段によって成し遂げた政権を何千という屍を築いての血の粛清などのない、元の平和なチリにもどすことだ」
 それはミゲルの思いでもあった。
 だが、その遠大な目的達成のために何をしようというのか。キンバリーが有効な弾の一つに成り得るのか。そのため、自分に下された密命がどの程度役に立つのか。
 ガロ少佐が、ロレックスを仕舞ったばかりのポケットを指差し、
「質屋に持ってけば、優に3か月や4か月食いつなげるくらいの値打ちはあるものだ。まあ、そんなこともなかろうが、金に困った時には、そんな役にも立ててくれたまえ」
 軽い調子で言って、あとは口笛を吹き吹き悠然ときびすを返して歩き出した。
 月明かりと街灯に映えて、ガロ少佐の影がミゲルの影の上に大きく重なった。





頭と体に訊け!


 朦朧とした意識がはっきりしていき、純子は現実世界に引き戻された。目の前にシルバー・ブロンドの髪を肩まで垂らした女の顔。ミランダでもキンバリーでもない。
 外から来たドイツ人だった。マルガ・ローエンシュタインという名前も思い出した。
「お目覚め?」
 と尋ねて微笑みかけた。
 ちょっと見には清楚な感じの40代だが、女は見た目では分からない。怜悧な表情からは聡明そうな印象と共に、ミランダともキンバリーとも異質の冷酷さが感じられた。
「丸一日、薬で眠っていたのよ」
 そう言われて反射的にはね起きた。心なしか頭がクラクラする。
「どうなったの!? マリアはどうなったの!? マリアに何かしたのっ!?」
 思わず相手の腕に取りすがった。
「おやまあ、本気に愛してるってわけ?」
 と、まずはその手を払いのけられた。
「心配ないわ。教祖は明後日からのパーティー準備で忙しく、昨日一日わたしらにお守を言いつけてジーク・ホイゼに入り浸ってたから」
「え……?」
 ではここはジーク・ホイゼではないのか。
 確かに教祖の寝所と並んだ監禁部屋なら小さいが窓もあり、着替えのロッカーもあったが、ここはざっと見わたしたところ窓も調度も何一つないという殺風景さ。
 そういえばずいぶん前にも同じ雰囲気の部屋に連れて来られた記憶があったが、それは病院裏の丘をくり抜いて作られた秘密要塞の中だった。
「さあ、来るのよ」
 さっさとうながされ、女とは思えぬ力で引きずられるようにしてその部屋を出た。
 案の定、記憶にある廊下が続いた。途中の壁にはハーケンクロイツの紋章も見られた。
 とある部屋のドアをノックする。戸が開いて初老の男――マルガの連れのレオナルト・レーヴェ男爵の顔が覗いた。
 一歩入ると胸の動機が高まった。
 そこは正に拷問室だった。天井から枷を付けたチェーンが垂れ下がり、その脇に拘束ベルトを備えた汚いマットの拷問ベッド。子供用といった感じに小さかった。
 他に椅子が何脚か、それと医療ワゴン。
 ワゴンは中間の棚にもいろいろあるが、上に載ったのは見慣れた装置。そこから太いコード、細いコードが垂れ下がり、その道具立てがこれから始まる情況を表して戦慄を掻き立てた。
 隣り合ったドアが勢いよく開いて、キンバリーに車椅子を押させた教祖。
「おー、ジュンコや! よく眠れたかな? 昨日は明後日のイブからのパーティ準備等で忙しかったが、その用も終わり、いよいよおまえらを2つに束ねて串刺しにする時がきたぞよ」
 いつにも増して上機嫌だった。
「もう一人の半クロはまだなのか」
 と見回した時、ノックの音。またレーヴェが出てミランダがマリアを連れて現われた。
 教祖が車椅子を近づけて見上げた。
「この半クロか」
 そう言って品定めする顔になった。
 純子が2日ぶりに、今度こそはじっくりと向き合うことになった。
 愛しい友は一昨日と同じ格好で、マルガの言葉どおりTシャツから出た肌のどこにも傷らしい傷は見あたらず、不敵なその面構えはむしろ全身闘志の塊のようでもあった。
 グリーンベレーの制服に身を固めた魔女キンバリーが簡単に紹介した。
「この者はブランカと名乗り、9・11クーデター以来、ピノチェト政権に反旗をひるがえし、首都の治安を乱してきたテロリストのマリア・ロハスです。ごりごりのアカでもあり、9・11以前は熱烈なアジェンデ・シンパとして政権を陰に日向に支えてきました」
 教祖がさっきの侮蔑口調とは裏腹に、嗜虐心と猟奇心に取り憑かれた目で服の上からでもマリアのグラマラス肢体を舐め回した。
「いくつだ?」
「28との情報です、な、そうだろ?」
 キンバリーの質問をマリアは無視してそっぽを向いた。
「いい覚悟だな」
 そう言って指をぽきぽき鳴らした後で、
「服を脱げ。全裸になれ」
 純子が何度も耳にした言葉が、今日、この時にはマリアに下された。
 Tシャツを脱ぎ、ブラジャーも外して豊かな乳房がぶるんと躍り出た。ぴちぴちにはじける若い健康美がこんな場面でさえ純子にはまぶしかった。
 左の乳房に一点。ヤケド痕のような赤いアザに目を留めさせられた。
 そういえば明日はチリを発つという前夜、目前に迫るクーデターを知る由もなく、旅の終わりの名残りに肌を寄せ合ったあの時、あの夜。
「これって、ヤケドじゃないの?」
「ううん。生まれつきのアザなのよ。可笑しいのはね、姉さんにもちょうどおんなじところにおんなじのがあるの。やはり姉妹なのね」
 “やはり姉妹”という物言いに引っかかったものの、別れを惜しんで遂に確かめ得ずしてそれきりとなった。あれから4か月、その姉とこの妹は再会することができたのだろうか。
 当然、キンバリーの目も他の連中の目もその痕を認めており、間近で見る魔女に限っては別の部分の痕跡にも気づいていたのだが、
「こいつにクロの姉がいるとか?」
 ちょうどマリアの姉のことを思い出していた時も時だけに、教祖の一言は純子を驚かせた。
「パオラ・ロハスという黒人で、ふだんは目立たぬ昼行灯のような奴が、まさかテロリストの妹を持つ身とは……パオラ・ロハスにマリア・ロハス。なるほど2人共ロハス姓で、それを知った時はびっくりしました」
 凝然とした。だが衝撃と同時に熱い感慨に満たされもした。
 虐殺のサンチャゴ・スタジアムからキンバリー要塞に、そこで夜毎日毎凌辱と拷問に明け暮れ、苛まれ、周囲がすべて敵である中、ただ一人純子を気遣ってくれた女性少尉だった。
〈あのやさしい黒人さんがマリアの実の姉だなんて……!?〉
 おぼろげに浮かべた顔と目の前の友の顔が肌の色の違いにもかかわらず、意外とすんなりと重なり合った。
「よし、脱いだな」
 全裸となったマリアに周囲の目が集まった。
 顔はそばかすで明らかに点数を下げていたものの、服を脱ぎ去り、豊かな美乳の瑞々しい小麦色の肌をしたグラマラスな全裸になったとたん、周りのマリアを見る目が一変した。
 レーヴェが椅子を持参してマリアを座らせ、後ろ手にした手首を背もたれの頑丈な桟に拘束ベルトで縛り付けた。
 それからマリアの身体に、一つ一つ確認するように電極を繋いでいった。
 最初は乳首。
 椅子に縛られたマリアの正面に立つマルガが薄ら笑いを浮かべた。そして色素の濃いマリアの乳首を左右同時に指で摘み、クリクリと転がし、捻り、引っ張っては放し、刺激を加えて勃起させた。
 やがて完全に尖った小さな乳首をもう一度片方ずつ指で引っ張りながら電極を挟み付けていった。
「うふふ……乳首からお乳に電気を流し込まれるのよ。どんな痛みがくるのか、想像できる? お前の愛するレズ友達は、もう充分知り尽くしてるみたいだけどね」
 陰唇を拡げられた性器に、膣口に棒状の電極が宛がわれ、ヌルリと挿し込まれた。抜けてしまわないように、さらに奥まで納められる。
 そして肛門。
 左右の脚をレーヴェとキンバリーが大きく拡げながら持ち上げ、マリアの肛門を正面に向けさせた。
「こっちは特に念入りにな。早くローションを塗り込んでねじ込んでやれ。さあ、早くしろ。重いんだから……」
 忌々しげにキンバリーの声が急き立てた。
 肛門用拷問電極は洋梨型をした金属塊だった。
「うぐぐ……くうっ。あぃぃぃ」
 呻き声を漏らすマリアの肛門に、ゆっくりと捻りながらねじ込まれた。やがてすっぽりと腸の中に納まってしまうと、抱えられた両脚が再び降ろされ、足首も椅子の脚に拘束が施された。
 肛門から腸の中に金属楕円球を納められ、座り姿勢では圧迫感があるのだろう。マリアが「ウクゥ」と小さなうめき声を上げて何とか腰を浮かそうとしたが、それもすぐに諦めた。
 教祖が2人の顔を見比べた。
「この半クロを痛めつける目的は、おまえから大事な情報を訊き出すためじゃ。分かるな?」
 ぎょっとした。この部屋に連れてこられた時からドキドキしていた不安が現実になった。
「そのことは何度も何度もお答えしているとおり……」
「黙れ! もう誤魔化しは通用せんっ!」
 一喝してマルガに目くばせした。
 マルガの手が伸びて着衣のボタンを外していった。器用に、瞬く間に外し終え、囚着が肩を外れて床に落ち、全裸にされた。
「あっ」
 と、思わず両手を前に交差させた自分に驚いた。マリアを前にして、とうに失くしたはずの羞恥心がよみがえったというのだろうか。
「後ろも見せてやれ」
 教祖の指図で背中が回された。反転させられ、くっきりと刻まれたミミズ腫れの背中をマリアの方に向けさせられた。
「よく見ろ半クロ。脱走した懲罰による電気鞭の痕じゃ。まず当分は消えることはあるまい」
 ますます小さくなるしかなかった。
 変わり果てた背中を見つめるマリアの瞳がみるみる涙を溜めていった。
「やれ」と命じた。
 キンバリーが装置に手をかけた。カチッとスイッチが入れられ、ビクンとマリアの上体がひくついて豊乳が揺れた。
 変圧ダイヤルを摘むキンバリーの手がゆっくりと回転していく。
「……!」
 マリアが顔をゆがめた。後ろ手拘束の肩を怒らせ、歯を食いしばるような表情で懸命に声を殺した。
 魔女がこちらに挑発視線を送りながらマリアの乳房を鷲掴みした。ぷくんと飛び出た乳首のクリップを摘んで、無理にねじったり押し込んだりして痛みを加えた。
「ううっ、あくうっ!」
 椅子に手を回された全裸全身がのけ反りながら必死に耐えている。
 別のスイッチがひねられた。
 腰がひくつき、今度は性器と肛門に通電されたと解った。昇圧にともない太腿がぶるぶるっと震えた。爪先がだんだん突っ張っていく。
 ダイヤルを摘む手が大きく動いた。
「むひゃぁぁーっ!」
 マリアが目を見開いた。太腿を開いた下半身が必死に閉じようとして硬直の筋を浮かべて激しい痙攣を生じさせた。




絶体絶命


 ダイヤルがゆっくり元に戻された。
 痙攣も収まって潮が引くように爪先の引きつれもなくなった。またひねられる。硬直、突っ張り、そして痙攣と唸り声が繰り返された。
 また乳首だ。
 反対側のダイヤルが操作されてマリアの苦悶ジワがきわだった。それでも声はこらえた。ただ、後ろ手拘束の上体が苦しまぎれに身をよじる。乳房をぶるぶる揺らす。
「痛いか。熱いか。痺れるのか。辛いか」
 交互に、何度も、嬉々として昇圧、減圧が繰り返された。
「あうっ、あうぅぅっ、くふうーっ!」
 何も答えられない。苦痛を耐え忍ぶのがやっとのようだった。
「どんな感じだ、うん?」
 魔女の詰問。そして教祖も、
「なあジュンコ。まだ吐く気にならんか?」
「そ、そんな……」
 純子はただただ狼狽えるしかなかった。それでも無意識的にせよ何か言おうとした時は、マリアの声が引き止めた。
「言いたくないことは喋らないで! わたしのことなら……!」
 苦しい中から絞り出す言葉は半分も言い出せなかった。キンバリーの男のような手の強烈パンチが脇腹を見舞ったからだ。
 そのうち純子の脳裡に、ゼーラ脱出後のあれこれが走馬燈のようによみがえった。
 パレルからプエルトモンまでの長い道のり、晴れた日に見上げたオソルノ山や小雨に煙るナウエル・ウアピ湖、小船を繋留した湖畔食堂、そしてマヌエル・グスマンの面影……。
 あの人を裏切ることはできない。しかし目の前ではマリアが……!
「何度もお答えしましたように……」
「良い良い。おなじことを繰り返しておれ」
 教祖はもはや相手にもしなかった。告白以外は聞く耳持たなかった。
 キンバリーが両手を使っての操作に及んだ。
「うわわーっ!」
 後ろ手拘束の上体を揺すって苦しまぎれに暴れるマリア。残虐な拷問電圧により、下肢や腹部や二の腕にも硬直の筋が浮き立った。
「うぐぐっ……」
 肩を震わせて眉間の苦悶皺が深く刻まれた。
「マリアってばー」
「ダメっ、喋らないでっ」
 電圧がまた少し上げられた。
「きへぇっ!」
 喉の奥から絞り出す奇声を耳にしながら、純子は気が遠くなりそうな思いで途方に暮れた。どうすればいいの! と、思いあまったその瞬間でキンバリーの手が止まった。
「さすが、叩き上げの闘士だな」
 レーヴェも教祖と雁首並べて変圧計とマリアを見くらべ、目を丸くしている。
「こいつのマゾはおまえ以上かも知れんぞ」
「そ、そんなぁ。お許しください。わたしはほんとに助けてくれた人の素性なんか……」
 拷問が中断されるのかと思ったがヌカ喜びだった。キンバリーの仮借ない責めには限界がなかったがマリアの体力には限界がある。
「くくっ、くふうううーっ!」
 痙攣を繰り返す全身が汗でローションを塗りたくったように輝いた。紅潮し、苦悶でくしゃくしゃの顔には脂汗が噴き出した。
 キンバリーがワゴンから離れた。マリアの前に深く屈み、股間に手を伸ばした。
「肛門は入口ほど敏感だ。な、そうだろう?」
 挿入された金属球のコードをゆっくりと抜きにかかった。純子をちらちらと見やる。
「やめて、やめてよ将軍っ! 私にしてよォッ!」
「バカめ。勝手に吠えてろ」
 ゆっくりと引っぱり、引かれるごとにマリアの目が見開かれていく。への字の口を、さらに固くつぐんで精一杯歯を食いしばった。
「きひいぃぃぃー……ヒエエッ!」
 焼かれるほどに熱い。いや、火傷と衝撃を同時に受ける苦しさなのだ。
 悲鳴が高まってキンバリーの手がまた中断した。時おり小刻みに揺らしたり、ひねったりするたび、「きゃっ」とか「あつぅーっ」といって悲痛に叫びをきわだてた。
「良い良い。面白い面白い」
 教祖が手を叩いてはしゃいでいる。
 キンバリーが立って操作位置にもどった。嗜虐に憑かれ、電圧とは別のダイヤルをわずか回した時、床に踏ん張る爪先から太腿まで痙攣が突き抜けた。
「ぐえええーっ……」
 さっきまでは前のめりだった苦悶の形相が、肛門への通電が酷さを増してからは昇圧するごとに後ろにそり返っていった。
 ローションを塗ったように艶やかに光る額から喉から汗がたらたら滴った。そのうちには、後ろ手拘束の全身が汗みずくになってのたうち回った。
「ま、マリアっ!」
「まだよ、まだまだっ!」
 そのマリアの気丈を叩き潰すべくキンバリーの手が今度は大きく動いた。
 泣き叫ぶマリアが顔をくしゃくしゃに、飛び出るほどに目を大きく見開いた。
「ぐがああー……!」
 ケダモノじみた悶え声。
「マリアああああーっ!」
 純子が思いあまって駆け寄ろうとした。その手をマルガが引き止めた。女とは思えぬ力で引っ張り戻して両腕で抱きすくめ、乳房を掴んで乱暴に揉みしだいた。
「あんたはこっちよ。ほら、感じなさい」
「ま、マリアが……」
「ギャアアアアーッ!!」
 なぶられ純子の見ている前でマリアが絶叫を上げてのたうち回った。
 床を踏みしめた爪先を起点に開脚拘束の太腿の付け根までが、硬直の筋を浮き立たせながら電撃に反応して激しい痙攣を続けた。
「やめて、やめ……」
 純子は涙目になってうわごとのように赦しを乞うた。
「ギャアアアーアアーッ!!」
 全身が硬直して力み返る。椅子に縛り付けられた後ろ手拘束の全身が痙攣を続け、爪先を精一杯引きつれさせてのたうち回った。
 純子は気が狂いそうだった。
「やめて教祖サマっ!」
 必死の懇願に眉一つ動かさず車椅子の人になっている。みにくい年寄り。悪魔。この化け物に魂も何もかも売り渡したキンバリーがいる。
「性器よりも肛門がつらいだろう」
「むううーっ!」
 歯を食いしばって白目を剥いた。それを嬉々として眺めるキンバリー。
「殺してはつまらんぞ」
「分かっております」
 と頷きながらも魔女めが、電圧計でない別の数値をまた少し高めた。これが痛いのだ。つらいのだ。その純子の想像を裏づけて、マリアの絶叫には甲高い金切り声まで加わった。
「ギャアアッ……キヘエエエーッ!」
「どうだ? どんな気持ちだ?」
「あっ、あつ……ひいっ!」
 熱い、という言葉を必死で耐えているのは誰の耳にも明らかだった。
 喋らせてっ、という思い。その純子の目顔に対してマリアは言葉では伝えられず首を振って押し止めた。
「こいつめ」
「グギャアアアーッ!!」
 椅子に縛られた全裸全身が関節をきしませて硬直し、浮き立つ筋がぴくぴくと不随意痙攣を生じさせた。
「ギャアアアーッ!!」
 激しく首を振り、飛び散る汗のざんばら髪を狂い獅子のように振り立てた。
 教祖が首を振り向けた。口元をゆがめて、
「ジュンコ、良いのかな? 愛する者の肛門が内側から焼けただれることになっても」
 まさか。でも、確かに肉を焼く異臭がただよっているような――。
「ギヘエエエーッ!」
 叫びながら目を吊り上げるマリアの形相に純子はたじろぐばかりだった。向こうの電流地獄に対し、こちらは乳房を貪られるだけ。いっそこの身をマリアと置き替えたいくらいだった。
「さあ、どうするジュンコ」
 教祖が怒気を込めて自白を迫る。
 キンバリーの手がまたわずか動いた。甲高い断末魔の絶叫が密室の壁に陰惨に、凄惨に、絶望的に響きわたった。そして純子の耳元ではマルガの悪魔のささやき。
「あんな子、忘れなさい。そして我らが軍門に下れば、わたしがもっともっと悦しい陶酔地獄、悦楽境地に遊ばせてあげるわよ」
 その誘惑にぐらりときた。執拗な乳なぶりの快美感にうっとりきた。だが、マヌエルを裏切ることはできないし、マリアを見捨てることなど、なおできるわけがない。
 ただ、このままならマリアは性機能を破壊されるか、この場で死ぬことにもなりかねない。
 グスマンさん。もう、ダメ! マリアのために喋らせてください、その結果がどうなるか、生きて還れることがあれば、ご家族にもお子さんにもわたしの命を捧げてお詫びします――そう決心を付けた刹那にマリアが叫んだ。
「“パルパラ”よ。“初めて会った夜”のパルパラ!」
 苦しい息の中から振り絞るように発した。
 その声を聞いてハッとした。
〈マリア、あなた笑ってる?〉
 そう錯覚するくらい、今聞いたマリアの声には快活めいた響きがあった。それこそ地獄に仏を見た思いがした。
「バルパラとは何のことだ!?」
 キンバリーが激しく問うた。
 純子も訊きたかった。マリアと“初めて会った日”ならサンチャゴである。パルパラ――パル・パライソに何の意味があるんだ、と。
 純子の脳裡にサンチャゴ市場近くでの騒乱がよみがえった。反アジェンデ派デモ隊の怒号に対しガス弾を投擲する武装警察隊カラビネーロス。濛々たる白煙。逃げまどう市民の群れ。その中をマリアに助けられて避難したのだった。
「バルパラとは何だ?」
 キンバリーがなおも責め立てる。
「ウギャアアアーッ! ヒエエエーッ!」
 マリアの苦悶は最大限に達した。後ろ手拘束の全裸全身を苦しまぎれにのたうち回らせ、暴れる余りに椅子がガタガタと音を立てた。
「よーし。ここは時間をかけて料理しよう」
 教祖が一段落つけた。
 スイッチが切られ、マリアの身体がどうっと崩れた。嵐のような絶叫、足掻き回り、のたうち回りが嘘のように静まりかえった。そしてその後、嗜虐の興奮の余韻に浸り、水を打ったように静まりかえった中で、マリアの激しく喘ぐ喘鳴音だけが陰陰として続くのだった。




攻 防


 どれくらい経ったろう。3時間とも5時間とも感じられるとてつもなく長い間、マリアへの拷問は続けられていた。いや、マリアを囮にして自白を迫られているのは純子自身なのだ。
「さすがは叩き上げのレジスタンス戦士! しぶとさも筋金入りだな」
 レーヴェがマリアに感心する一方、逆に純子はマルガからおちょくられた。
「で、こっちは愛する人が責められるのを見せつけられ、またまた感じちゃってたりして」
 恥辱でカッと熱くなり、同時にむっとなって反発した。が、この姿では……。
 マリアは後ろ手錠のままベッドに移され、観音開きの格好で縛り付けにされ、一方純子はさっきまでのマリアとおなじ姿を椅子の上でさらしていた。
 隣り合った部屋の扉がばーんと開いて、白衣姿に見違えた教祖がミランダに車椅子を押させて現われた。
「あいにく内診用はパーティー会場で、こんな子供が使うようなボロベッドしか無くてな」
 そう言って車椅子をぴったりと着けた。ベッドの端すれすれに、カエルの解剖ポーズで股間をさらしたマリアがいる。
 乳房や性器のところどころを見た。
「確かに電気で責められとるわい」
 手術用手袋の手が陰毛の性器を摘んだり、めくったりした。
「あのウジ虫野郎の仕業ですよ」
 キンバリーが憎しみを込めて暴き立てた。
「では、貴女にこの者を貢ぎ物として差し出した張本人が行きがけの駄賃に拷問したと?」
 マルガの問いに猛禽の眼をぎょろりとさせたのが答えだった。
「ベンジャミン・ライアン――いや本名はマイケル・ヒギンズといって、とにかく、とんでもない食わせ者です」
 ライアンといえば純子自身酷い目に遭わされた怨みつらみはともかく、キンバリーにしても煮え湯を呑まされた憎い相手のはずだ。
 それというのもクーデター後の巨大収容所と化したサンチャゴ・スタジアムで女性逮捕者を何人も拷問し、惨殺し、その罪をこの魔女に被せたうえ抹殺まで謀った米軍大尉である。
「マリアとやら」
 教祖が初めて名前で呼んだ。
「ミランダの“解剖”を受けてみるか?」
 マリアと一緒にぎょっとなった。だが、
「このミランダはの、アメリカ留学中、男漁りばかりか同性にも目がなかったそうじゃ……」
 出し抜けの“暴露話”。能面女が〈むっ〉となった。
「そう睨むな。おまえに睨まれると震えがくるわ」
 おどけた顔で混ぜっ返してレーヴェとマルガを吹かせた。
「仲間の間じゃ“黄金の指”と呼ばれていたそうな。その指戯のほどを見せてもらおう」
 そう言って席を譲った。「解剖とはそういうことじゃ」と続けて、自分で車椅子を漕いで後ろに下がった。
 レーヴェが持参した椅子にミランダが座る。
 能面女の手術用手袋の指が陰毛の中に覗く割れ目に挿入された瞬間、マリアの顔がぴくっと反応した。唇を震わせた。
 片方で陰核を摘み、もう片方がぬうーっと陰唇を開いた。一時、電流斑を凝視したが、それを無視して他の部分に指をうごめかせた。
 周囲が固唾を呑んで見守る中、シーンと静まりかえった密室に時計の音だけがコチコチと鳴り響いた。
 1分、2分と経って、それまで微動だにしなかったマリアの表情に変化が兆した。眉間に苦悩をきざんで口元を痙攣させた。
「う……うう……」
 後ろ手拘束の上体がのけ反り、観音開きの爪先をひきつらせた。股間を全開された中心は早くも愛液を滲ませ、じくじくと水音を立てはじめていた。
「はうっ!」
 とマリアが喉を反らせた。指を食わえた性器から、つぅ、つつーっと愛液が流れた。1滴、2滴、滴りは間もなく勢いを増してぽたぽたと落ちて、床に点々と痕を付けた。
 背中が大きくのけ反った。豊満な乳房がぶるんと揺れた。指なぶりは激しさをともない、淫らな水音もぴちゃぴちゃという音を大きくし、マリアは茫乎として身悶えた。
「あ、ああううー……はあ、はああうー……」
 甘美に響き上げるマリアの悶え声。
 純子に耐え難い時がおとずれた。マリアの喜悦の声を聞きながら身が縮む思いがした。手が自由なら耳をふさいでいた。穴があったら椅子ごとそこへ飛び込んだであろう。
〈ああ、マリア! なんてこと。こんな連中の前で恥ずかしくないの?〉
 我が身ならなりふりかまわず悶え、狂い、慄え、歓喜に泣き叫ぶだろうに、誇り高いマリアにそれは許されない姿だった。
 おびただしい水音をたててミランダの指ファックが絶え間なく続いた。
 のけぞり、身をよじるマリアの腰は、愛撫を求めてミランダに向かってせり出そうとしているかに見えた。観音開きの下肢が自分から開こうとして縄目を酷くしているようにも見えた。
「ああっ、ううああっああっ……!」
 教祖が車椅子から身を乗り出した。
「良い良い。可愛いいぞマリア」
「ひいひいひい、ああっ。うきゃああっ!」
 目を見開き、狂ったようになってマリアが叫んだ。その壮絶たる恍惚に周囲は生唾を呑んで見とれた。
 絶頂は近い、と思うや否や、腰から下をカエルの解剖ポーズにしたマリアのあられもない全裸全身に快感電流が貫通したようだ。
「ひえーっ!」
 と叫んでのけ反った時、ぱっくりと開いた陰毛の性器が白い泡を吹いた。まず白濁愛液を吐き出し、それがどろっとヨーグルト状の愛液となり、一部は糸を引いて床に落ちていった。
 紅潮して呆けたマリアの顔。
「良くやった。またわしが拷問しよう」
 白衣の教祖がミランダを下がらせた。
 椅子が取り払われたところに再び車椅子をくっ着けて、ストッパーを掛けた。
 白っぽい愛液まみれにべっとりと陰毛を濡らして、あんぐり口を開けた性器。やおら先を尖らせたガイコツの右手が突っ込まれた。
「ううむぅーっ」
 のぼせたような顔が一変、静止していた上体も一転、苦痛にのけ反った。手刀にした右手は愛液の滑りに助けられて一気貫通、びっくりしたようなマリアの顔。
 すかさず左手も入れにかかる。
「ひえっ。いやああっ!」
 マリアが動転した。飛び出るほどに目を開けて滅茶苦茶に首を振った。それもまた見物者の凌辱心を刺激した。
「“バルパラの夜”とは何じゃ?」
 ドクターハンドの手が掻き回す。左手で性器を開き、右手が拳の形になり、何度か手こずって突いたり引いたりを繰り返した。
 のけぞるマリア。
 左手を添え木にして拳にした右手をひねったり回転したり、やがてゆっくりと性器に収まっていった。半開きの陰毛の性器に、とうとう教祖の手首が突き立った。
「さあ、もう1本行こうかの」
 痩せたガイコツの手では拷問フィストには物足りぬと思ってか、最初の手首に角度を付けて隙間を作り、もう片手を入れにかかった。
 マリアが顔だけでなく身体でも狼狽えた。
「ジュンコとは何度くらいヤったんだ?」
 卑猥に質問しながら左手が半分まで入りかかる。マリアが「痛い」「やめて」と顔をしかめて身をよじる。
「指は何本使うんだ? 2本か、3本か? こうしてゲンコツを使うこともあるのか?」
 そう言ってる間にも左手がずるっと入りかけてマリアの苦痛が際だった。
「ま、待って! だったら言うわよ」
 とうとうというか、意外にあっさりと観念した。
「わたしたちの誓いなのよ。こういう、お互い苦境に陥った時、初めて会った夜のことを思い出して自分を励まそうって約束したのよ」
 しどろもどろといった様子で、はにかみを見せて告白した。
 すかさず純子も続けた。
「そうよそうよ。2人の“愛の誓い”だわ」
 さすがの臭いセリフに教祖はじめ、その場の全員呆っ気にとられた。
「まあ良いわ。すっとぼけておるが良い」
 呆れた顔をしたままミランダに次の拷問準備をさせた。
 キャスター音をさせてケースワゴンが運ばれた。
 愛液でぬるぬるの性器。その性器を剥き上げて、まず陰核に電極クリップをはさみつけた。そうして陰唇の一方をひねり上げた。
 マリアが首を振った。観音開きの中心にクリップを繋いだドライバーが近づけられた。
「ここかの」
 クリトリスに近い陰唇の狙い目部分に、電気の流れている先を触れさせた。
「うっ、うっ……痛い。痛いです」
「ここではないのか。では、この筋か?」
 微妙に触れる位置を違えてドライバーの先を押し付けた。コントローラーに指を触れる。
「ううっ、あーあ……」
 今度も明らかに苦痛と分かる声をあげた。
「では、ここか」
 しばらくあちこちドライバーの先で触れ回ったが、ある一点で「ひゃっ」と大口開けてマリアがのけ反った。
「よし、ここだな。分かったぞ」
 その一点をとらえてドライバーの先を押しつけたまま、またわずかダイヤルをひねった。
「うわああーっ!」
 悲鳴が響き上がってのけ反った。
 そのまま悲鳴を上げさせながら時間を経過させたが、「見ろ」という声に皆が注目した。
 指で開いた陰唇と陰唇の間に覗く膣孔からも尿道孔からも愛液がたらたらと滴っていた。
「動くなっ」と恫喝。次には脅しつける。
「暴れると尿道を傷つけるぞっ」
 マリアがハッとなって静止したところへ、尿道に棒器具の先が入った。
「ひいっ。ひいひいひい……!」
 素っ頓狂な悲鳴を発して卒倒した。緊縛を徹底した観音開きは足掻こうとしてびくともせず、代わりの反動が後ろ手拘束の上体だけを空しく暴れさせた。
「動くなよ。動くと思わぬ怪我をする」
 言い聞かせながら、なおも尿道の中へ中へとドライバーの先がゆっくりと、慎重に挿入されていく。
「きへぇーっ」
 とまた奇声。大きく喉を反らして観音開きの爪先を固く握り締めた。
 純子がハッとして、そしてゾッとなった。
 マリアの苦悶がもう一人の魔女の嗜虐心に火を点けたようだ。足がこちらに向いた。息がかかるくらいそばまで来て囁いた。
「これまでニグロやヒスパニック、インディアンやモンゴリアンまでさまざまな人種の女を手にかけたけど、日本人はおまえが初めてよ」
 そう言って「くくく」と笑った。
 左手に電気棒――と思いつつ、とっさには2とおりのことを考えた。
〈どこにもコードが出てないからただの張り型。いえ、違うわ! この道具は電池式で、スイッチ一つで拷問電流を発するはず〉
 やはり電気棒に違いない。それがいったん床に置かれた。
 その両手は手術用手袋をはめていたが、ローションを塗りこめたもう片方を手刀にして、ゆっくりと性器を押し割った。
 ぬるっと入りかけて、2度3度反転しただけで、拳にした腕が剥き身の淫肉を貫通してどんどん挿入された。
「ううーっうっ……!」
 激しく呻かせて拳を子宮にめり込ませた。あの部屋からこの部屋まで自分を引きずるようにして連れてきた男勝りの腕力が、今、拳の先を子宮にめり込ませて内臓を突き上げた。
「ぐへえっ」と呻いた。それを冷然と見やって、
「あったかいわ」
 うっとりと口元を歪め、体内深く突き入れた拳をゆっくり引き抜き、拳が出かかったところでまた奥へと突き込んできた。
「あーあ、ううああ……!」
 戦慄的なフィスト姦は苦痛刺激と快感刺激が微妙に混ざり合って倒錯的な陶酔感にとらわれる。突いては引かれ、引かれては突き上げられる内臓蹂躙に目を剥いた。
 激しくフィストされるたび、ピストン連打に突き上げられる腹部に、マルガの拳が恐ろしくもおぞましいレリーフとなって出たり引っ込んだりを繰り返している。
「ああ、いやっ、やめてっ」
 と激しく首を振り、許し乞いする純子の姿はマルガの嗜虐心を煽り、フィスト抽送は速さに強さを加えてますます盛んに繰り返された。
「うげっ、ぐふっ」というくぐもった呻き声。
 続けて「あ、あひいいーっ!」という悲鳴。
 悲痛なリアクションにほだされて執拗なフィストレイプが飽くことなく続けられた。
 憑かれたようにフィスト姦に精出すマルガの口元が妖しくゆがんでいた。想像を絶する行為はその直後になされた。
 純子の視線は床の電気棒に止まっていた。あれをいつ、どう使うのか、と。そして左手が床に伸びた。電気棒が握られた。その瞬間、純子の胸に正体の解らぬ不安が首をもたげた。
 拳が不自然にひねられ、痛みが倍加した。そのわけは、マルガの拳が膣の中で形を変えたからだ。そうしておいて膣の外に出しかけた。
「ひゃっ、や、やめて。何をするのっ!?」
 と焦った際にも、それがどうなっているのか皆目見当がつかなかった。そこに電気棒の先が通されることによってやっと呑み込めた。
「ひええーっ、そんな、そんなひどいこと!」
 見開く目の中で電気棒が体内に挿入されていく。膣を強制拡張の痛みが襲った。輪にした拳の間に電気棒が通されたのだ。身体の中心は拳に電気棒の太さを加えた痛みに貫かれた。
「痛いーっ、いやっ、いやだーっ」
 顔を振って泣き叫んだ。後ろ手拘束の上体を揺すって暴れに暴れた。股間を開かれた腰から下が激しく足掻いた。縄目が痛く食い込んだ。
「な、何を!? ウソよ!」
 と、棒器具の先が子宮のところで止まった。そこからがさらに酷かった。膣の中に収まった右手が器具棒を握り、握ったままの状態でフィスト姦を開始したのである。
「ああーあ、そんなひどいことっ。イダイ! やめてよー、ううーっうっ……!」
 想像を絶する強制拡張、常軌を逸した異物挿入によるフィストレイプが繰り返された。そして、その棒器具は……
 また悪魔が笑った。
〈まさか……!?〉
 そのまさかであった。
 カチッとスイッチを押す音。股間を襲うショックは出し抜けにきた。後ろ手拘束の全身をのけ反らせて純子は泣き叫んだ。
「わっ、ギャアアアーッ!」
 容赦ない痛撃に髪を振り乱して身をよじった。
 それを見ているマルガが、嗜虐の興奮に声を荒げて笑った。
「思ったとおり。凄い攣(ふる)え……!」
 電撃に反応して膣が痙攣している、それを指が感じている、挿入した棒器具を通しても指に伝わっていると言っているのだ。
「ああっ、ああっ、うわわあーっ!」
 目を見開き、髪を暴れ狂わせて全身を揺すってのたうち回った。ただ、腰から下の戒めは頑として、上体だけが暴れ回り、椅子の背をきしぎしと軋ませた。
 膣を、子宮を叩く電撃が暴風のようだ。
 拷問電圧が膣を侵蝕している。内臓全体に分散してハラワタを破壊しそうだった。
 バリバリ、ビリビリという痛撃に叩かれながら2分、3分……5分、6分くらいか、だんだん麻痺し、快感じみた痺れに襲われはじめた。
 そこがいちばん奥だと思ったのに、ぬるっとさらに奥へ入り込んで、「ひえっ」と純子ではない、マルガが大げさに驚いた。
「締め付けてる締め付けてる!」
 賛嘆して子供じみてはしゃいだりもした。と、
「わーん!」
 という声に目を向けた。
 マリアが縄を解かれている。束の間の自由は、次なる残虐の序幕に過ぎなかった。縄は使わずに、両脇からレーヴェとミランダによって再び観音開きで性器をさらされた。
 そしてキンバリーがその前に屈んで右手を素手のまま握って拳を作った。
「ひええーっ、そんなのイヤーっ!!」
 目を見開いて卒倒するマリアを尻目に、教祖がローション容器を傾け、魔女の手に、陰毛の股間に、割れ目に振りかけた。その拳を内股にこすらせて拳も割れ目もぬるぬるにして、
「覚悟するんだな」
 言うや否や拳の先が割れ目に押し入った。ぐいぐい押し付け、割れ目がひしゃげて開いて無理矢理拳を食わえさせられた。
「ぎゃああーっ」とのけぞるマリア。
「痛いか。さもあろう。だが、キンバリー、あっさり壊すなよ」
 教祖の警告。うなずくキンバリーだが、割れ目をえぐって押し入る拳の勢いは、とても手加減している風には見えなかった。
 憎しみに取り憑かれたようなキンバリーが、男並みの大きな手を握って容赦ないフィスト姦に及ぶべく挑みかかる。目を覆う光景とは今のマリアの惨憺を差す形容であろう。
「ま、マリア」
「大丈夫よ。だ……!」
 懸命に耐えて答えようとするマリアを、さらなる激痛が襲って後の言葉をさえぎった。
「マリアー!」
「バカ。他人に同情している場合か」
 マルガにそう言われた直後、内側から膣を襲う電圧が一気に高まった。
「ギャアアアーッ」
 と泣き叫んで後ろ手拘束の上体をのけ反らせた。
 卒倒し、泣き叫ぶ純子。目の前ではキンバリーの強引なフィスト姦――いや、とても貫通は無理そうだが、手こずる拳挿入の激痛地獄にマリアが必死に耐えていた。
 互いに目と目で見つめ合った。
〈ああ、今こそマリアと一緒なんだわ!〉
 その時、純子は不思議な連帯感に満たされた。
 股間を震わし、下半身を震わし、全身回路になりながら、気持ちを別に振り向けるべくマリアの謎の言葉を反芻した。全神経を思考に集中してマリアの真意を探ることに努めた。
 「バルパラ」「初めての夜」……痺れるような痛みの中、電流に膣粘膜を焼かれながら必死に頭を働かせた。
 マリア……その名前にも憶えがある。
 戒厳令下、巨大な収容所と化した国立競技場と、その中にあって拷問室と化したロッカー室の一つ。そこで絶叫をあげてのたうち回っていた女性レジスタンスの名がマリアだった。
 汗で光る裸の上半身をくねらせ、手首や足首にベルトを食い込ませていた。手が握られ、足の先が内向きに反り返ってひきつっていた。
 悲鳴を上げながら切なそうに首を振った。
 悶絶を続けるマリアのベルトで締め付けられた腹部が小刻みな痙攣をくり返した。
 その時の拷問官がライアン大尉だった。
「もう一度裏切ってもらうぞ。アジトは何処だ。生き残った仲間、それにトップの名を言え!」
 そういえば……
 監禁目的の別のロッカー室で一緒になった時、自分は一度は拷問に屈して仲間を裏切ったのだと告白してくれた。だから、あの時は死を決して地獄の拷問と必死に闘っていたんだった。
 ダイヤルが大きく回され、スイッチが入れられ、凄まじい絶叫と共に、拘束された全身が跳ね上がったかに見えた。身体のそこかしこに硬直の筋が浮き出て、コードを巻かれた爪先や指の先がてんでの方向にひきつれた。
 また通電して絶叫が響いた。
「どうだ、言わんか!」
 泣き叫ぶ耳元に怒声が飛んだ。首を振って必死に拒否する目の前のマリアとは別のマリア。
「今度はしぶといな」
 ライアンが業を煮やした時、ノックの音がした。猛禽の眼をした大柄な女将校が入ってきた。敬礼。そして全員畏怖の面持ちで迎え、
「将軍!」
 あれがキンバリーとの出逢いだった。
 思い出した。そこはサンチャゴ・スタジアムであり、とするとバル・パライソ――バルパラではないのか。
 そう納得した時、やっとここにいるマリアとのことを思い浮かべた。だが、その時のマリアはブランカと名乗っていた。
「だったらバルパラに行けばぁー」
 ブランカ名のマリアにすげなくされた夜のことが思い出された。
 貧しさと豊かさ、混乱のチリと平和な日本、しょせん相容れないものと些細ないさかいから垣根ができ、その時にマリアの口から出た「バルパラ」。思い出したくない記憶だった。
 追い立てられるようにバスに乗った。そして訪ねた港町がパルパラ。ただ、そこにも安息はなく、たまたま通りかかった日本の若者から懐かしい母国語の会話を聞いてしまった。
「バルディビアは魚釣りにもってこいだ」
「サン・アントニアは乗馬ができるぞ」
「だったらカジノに繰り出すか。ビニヤ・デ・マルならここから2キロ」
 リッチな予感に誘われタクシーを拾った。
 夜空に浮かぶ古城のような宮殿風の建物。一歩足を踏み入れたら、そこがチリであることが信じられない映画のような世界だった。
 上流階級の男女がきらびやかに着飾り、ミラーボールの光と軽快な曲が流れる中で行なわれるルーレットの回転音。賭博に興じる人々の喧噪。タバコの煙と高価な洋酒の琥珀の匂い。
 そこで、このマルガほどではないものの、豪華なナイトドレスに身を包んだ銀髪の妙齢な貴婦人に声をかけられた。
「“刺激的なゲーム”をご一緒しない?」
 喧噪を離れ、カジノの奥まった一角に足を踏み入れ、妖しげな小部屋を訪ねた。
 浅黒い顔と無様に腹を突き出した小男。ゴブリンのように醜い執事に棒で小突かれていたのは20代と10代の全裸に剥かれた姉妹。
 女の夫君が大事大に見栄を切った。
「おお、なんという不幸で哀れな姉妹か。貧しさ故にこうして春をひさぐしか道がない悲劇。神の慈悲はこの者たちには届かなかったのか」
 芝居っ気たっぷりにのたもう、その偽善の極みの醜悪。なんのことはない、貧しさに付け入って金で買った姉妹に、倒錯の姉妹相姦を強制してほくそ笑んでいるのだった。
「あらら、どうしたの? ただ、見ているのはお嫌い、自分で試すならお望みということね」
 そうけしかけられたものの、〈少女虐待の共犯などゴメン!〉とばかり、勇躍飛び出たところに苦み走った二枚目のアメリカ人が、
「邪魔するか。この女の知り合いか!」
「別の部屋の客だが、この女性の悲鳴が聞こえたから出て見たんだ」
 口から出まかせて言い逃れ、あとは2人して脱兎の如く駆け出したのだった。階段を下り、ルーレット賭博の前を横切り、一気に外へ飛び出し、ポンコツベンツに飛び乗ってカジノを後にした。あの折りのあの男性が、
〈ジェームス・リッチさん……?〉
 そうだ。思い出した。
 あの後、あの姉妹を助け、やがて当局のお尋ね者となったのだが、彼こそはマリアが兄とも恩人とも慕う、固いきずなで結ばれた同志だった。
 サンチャゴで酒場を経営しているが、あの“夜”が彼との“初めて”の出逢いだった。
 そこまで考えてハッとなった。
〈分かったわ、マリア。バルパラの意味が!〉
 リッチさんが救出に来るんだ。あの姉妹を助けたように。
 だから時間かせぎに、屈辱的な指なぶりにも快楽電気責めにも、サディスト共を歓ばす反応と分かって、むしろ意識的に悶え、泣き、叫んでたってこと!?
〈いつなの? マリア。いつまで頑張ればリッチさんたちが救出に訪れるの?〉
 純子はマリアの顔を穴の空くほど見た。何らかのサインを読み取るべくマリアの表情を、2つの眼(まなこ)に全神経を集中して見つめたのだった。
 そしてこの時から、純子とマリアの秘めたる連帯、ゼーラへの闘いが――固い決意と信念、不撓不屈の闘志に貫かれた果敢な攻防戦として開始されたのである。




反 転


 あたり一面、広大なブドウ畑――それがどこまでも続いている。
 ここへ来た当座は鼻を衝くワインの香りにくらくらし、胸焼けすら起こしそうだったが、今では不思議となんでもなくなった。
 それよりこの缶詰状態だ。柄にもなく義侠心に駆られ、ゼーラ奇襲作戦――いや、米軍としてはキンバリー抹殺を兼ねた暗殺作戦に加わったものの、イスラエル側に牛耳られ、このヘブライ協会に監禁同然の身ではないか。
「おい、あれを見ろよ」
 リッチにうながされ、ガスパール・ルイスがもう一度遠くに目を向けなおした。
 ブドウ畑の中心を突っ切って一直線に伸びる道の向こうからやってくるワゴン車が、なるほど滑稽なほどのノロノロ運転だった。
「まるで“若葉マーク”だな」
 耳慣れぬジョークに耳を傾けなおした。
「いつかジュンコが言ってたんだよ。ニホンの交通規則で規定されたとか、初心運転者の車に付けるマークがそう呼ばれてるらしい」
 だが、そのスロー運転も実は“時間調節”のためだということを、その時には知らない。
「おや?」
 リッチが摘んだタバコを箱にもどして、緊張に顔をこわばらせた。ルイスも目を凝らした。助手席の口髭男はカルロス、ハンドルを握ってるのはなんとタマラではないか!
「連絡がないのを心配して乗り込んできたとは、さすが……」
 そうして車が入ってきて、横を通った。
 案の定、2列目にはグスマンとイレーネが、カルロス、タマラとおなじ青いつなぎのユニフォームを着て澄まし顔で並んでいた。
 メモを! と、ポットに手を伸ばしたものの……
 しまった! あれは証拠を残さぬため呑み込んだのだ。悔やむそばでリッチがタバコを仕舞うふりして手帳を取り出し素早くメモ、グスマンがその仕草を見ていた。
〈上手く渡せるか、渡せないか……!〉
 気にしてるところへ、窓から見てたであろう彼らが出てきた。ワインローブが車体の社名ロゴから、4人の乗員の姿から顔からすべてに不審の目を向け、じろじろ見ている。
 遅れてパオラたちも出てきた。
 助手席のドアが開いてカルロスが飛び降りた。
「協会から聞いてますね? 運びますよ」
「俺が手伝おう」
 さっそくリッチが出かかったが、その手をワインローブが掴んだ。
「余計なことはするな。責任者は俺だぞ」
 ヤクザのように凄んで頑として接触させないようすだった。
「役員の緊急例会が明日の予定で入ったんだと?」
「そのとおりでございます」
「妙だな。電話してきたのは事務員だったぞ。直接会長の話を聞かなければ信じるわけにはいかないが、まあいいだろう。その辺に降ろしてとっとと失せろ」
 ぞんざいに言い捨ててハメッドとドビルに指図したが、グスマンと車を降りたイレーネがもじもじしだした。
「あの、トイレ使わせてもらえませんか?」
「なら、わたしが案内するわ」
 今度はパオラが、しかし、その手もハンナに阻まれた。
「女ならここにもいるよ。さあ、ついて来な」
 有無を言わさず手を引いた。女2人が建物の中に歩いていき、入れ替わりにもう一人、協会宿泊組としては昨日加わったばかりのイスラエル兵が急ぎやってきた。
「協会長から電話です。司令官直々にと……」
 ワインローブが舌打ちしてそこを離れた。
 リッチがほくそ笑み、ルイスも合点した。協会に裏から手を回して会長直々に電話をかけさせたのは、おそらくグスマンだろう。
 荷物は残りの男2人でてきぱきこなし、段ボール箱4つほどの食材を玄関先に運び終えた。
「サインを」
 とカルロスから伝票を受け取り、チェックを入れるハメッド。他にはドビルしかいない。
 リッチが例のジョークを仕掛けた。
「七面鳥はないのか?」
 質問に相手がきょとんとした。
「せっかくのクリスマスに厄介な仕事で腐ってたんだが、ウチじゃ昨日から去年のカレンダーに付け替えてるんだ。なぜだか分かるか?」
 そう言って無理に参加させるべく話しかけた。
「そりゃまたどうして」
 カルロスが緊張の面持ちで訊き返す。それに対し待ってましたとばかり、
「だってそうだろ。去年のカレンダーは曜日が1日早いんだぜ。それに従えば“イブだけでも祝える”って計算になるだろう。な。だから七面鳥があれば分けてくんないかと思ってな」
 いけしゃあしゃあと言ってのけたから単細胞頭のドビルが目を吊り上げた。
「余計なことを言うな!」
 いきり立つのをハメッドが〈挑発に乗るな〉との意味で懸命になだめたが、無理に見立てたジョークの続きをモラレスが引き継いだ。
「おいおい。そうじゃなかっただろ。“こんな調子だとリアルにはクリスマスも無理”! だから一晩分の七面鳥じゃ物足りないわけサ。あるならたっぷり分けてもらわなくちゃあな」
 困り果てて苦笑するカルロスの横でドビルが怒り心頭。
「このヤロー!」
 掴みかからんばかりのドビルを、またハメッドが押し止めた。
「さあ、帰った帰った」
 うるさそうに追い返そうとするハメッド。
「まだ一人いるんだぜ」とリッチ。
 そして、それまでは影のように存在感を消していたグスマンが動いた。
「タバコを切らした。もらえませんか?」
 リッチの手にあるのに目を付けてねだった。
「ああ、いいよ」と応じ、「いくらもないから全部やるよ」
 と言って握らせた。
 と、2人のようすを嗅ぎ取って罠に転じたハメッドが素早くひったくった。
「小細工したな?」
「何のことだ」
「舐めたな。俺はドビルとは違う」
 自信たっぷり、取り上げたタバコの中身を取り出したり、透かし見たり、挙げ句縦にも横にも振ったが何も出なかった。
「どうした若いの」
 からかわれ、というより当てが外れて凄い顔になった。
 間もなくイレーネをともなったハンナとワインローブが建物から戻って全員そろった。
「行ってよし」
 イレーネを最後に全員ワゴン車に乗り込んだが、その時になってハメッドが思い出した。
「これを忘れてた」
 いったんはリッチから取り上げたタバコだったが、それをグスマンは窓越しに辞退した。
「ご不審なものならお返しくださらなくとも。ただし“お気持ちだけはたっぷり頂戴”しましたよ、リッチさんとおっしゃる兵隊さん……」
 ハメッドには精一杯の皮肉を、リッチにはすべて心得たという暗黙の返答を置き土産に車は走り出した。
「そういうわけだ。そんなタバコは俺もいらん。あんたにやるから一晩でも眺めてろ」
 そう吐き捨てて背中を向けた。
 事情を知らないワインローブとハンナが何のことかという顔をしたが、ハメッドはそれをも無視した。
「上手く逃げ切ったな、と今回は褒めておくが、あんまり調子に乗るとヤケドするぞ」
 負け惜しみの捨て台詞を残すと、ドビルに半分の荷物を持たせ、ワインローブ、ハンナに続いて建物の中に消えていった。
 それを見送るモラレスが厳しい顔をした。
「奴ら、君がリアッドとかいう若僧を倒したのを知ってる面だな」
 リッチが渋面の口元をゆがめて頷いた。
「で、どうだったの?」
 パオラもメモ受け渡しの詳細を知りたがったが、間近で見ていたルイスは今もその瞬間を頭の中で思い返していたのだった。
 ハメッドが虎視眈々見ている、と、グスマンが手の中でタバコを転がし、それに飛びついた刹那だった。
 グスマンが最初ハサミにしていた中指と人差し指を合わせ、ハメッドがタバコを取り上げると同時に透明ケースの隙間に忍ばせた紙片を抜き取る。そして素早く手の中に丸め取った早ワザを。


 ベッド脇の小卓の上にスタンド式カレンダー。それを見ていた。もう、今日は12月22日の土曜日――。
 ゼーラ奇襲が予定通りだとすれば、決行日のクリスマス・イブ24日・月曜日まで残すところわずか2日! 間近に迫ったその日にジャンヌ・バルトロメの胸は大きく騒いだ。
 ふと気づくと、8つ離れた歳の違いの姉が起きていた。
「目が覚めたのね」
 うっすらと汗ばむ頬に貼り付いたほつれ毛を手櫛で梳き上げた。その15歳の妹を冷ややかに見返し、横に並ぶ男の子も冷然と見やるデリア。
 個室病室備え付けの椅子にちょこなんと座ったものの、足が床に着かないことから落ち着かずもじもじしている10歳のジュネ。
「今日はあの子も一緒よ。実はね……」
 うっかり言いかけ、さすがに本人を前に言い淀んだ。〈この子みなし子で、でも今は、いろいろな経緯からある人の世話になって〉と言おうとしたのだが、
「名前はジュネ。ジャンヌとジュネ。ね。語呂がいいでしょ? わたしたち2人、何か前世からの因縁でもあるのかしらね」
 結局は、らちもない名前の話に振り向けた。ただ、そのせっかくの気遣いも怪我の快癒に伏せるデリアの無聊の慰めにはならなかったようだ。
「あのガキにも頭下げて見舞いの礼言えってか?」
 ひねくれた返事のしようで愛想もクソもなかった。
「誰もそんなこと言ってないじゃない」
 ジャンヌもカッとなって言い返した。2人の対立をジュネは黙って見ているだけだった。
 デリアが苦笑いした。
「しかし変わってるよな。わたしはおまえにとって“可愛いい親友”を奪った憎い仇。なのに遠路はるばるの見舞いはこれで3度目だぞ。そんなヒマに我が娘をユダヤのクソ共に売った鬼ママを仕留めろよ。居場所は教えたただろ」
 さも憎らしそうに吐き捨てた。
「あいにくだけどね、もう、どうでもいいのよ」
 水に流したとまではいわないが、ニーナが欲得づくで二役演じたにしても、嘘であれジャンヌは偽ヴィッキーとの思い出を大事にし続けたい、今はその気持ちだった。
 心底水に流したいとすれば、目の前にいるこの姉だった。鬼畜だ、鬼娘だと恐れられた頃の猛々しさは見る影もなく、こうして病院ベッドに横たわる身となったデリアとの恩讐である。
「“友だち”のモニカのことだけど」
 言いにくそうに言いかけて2人して可笑しがった。
 最愛の恋人モニカを、ジュネの手前「親友」と言ったり「友だち」と呼んだり、互いに言葉入れ替えする気遣いなどゼーラでのジャンヌ、デリアにはおよそ考えられないことだった。
 と、その子が椅子を降りた。部屋を出かけるジュネの肩をジャンヌが掴み留めた。
「ダメよ。変な奴がいてさらわれでもしたら大変。いい子だから少しの間ガマンしなさいね」
 しつけというより作戦を控えた今が大事な時で、一度はゼーラの刺客によりジャンヌ自身九死に一生を得て少しの油断も禁物だった。
「だったらよけいな気をつかわず、なんでも話してよ。“もう10才”なんだからサ、いつまでも子どもあつかいじゃたまんないよ」
 ジュネがふて腐れて大人びた。「もう10才」の物言いが愉快すぎて高らかに笑い合った。そして2人はふたたびモニカの話にもどった。
「タマラさんから聞いたのよ」
「何を」
「モニカの亡骸(なきがら)確認の時のことよ。『“せっかくのわたしの制裁(しおき)”が無駄になった』、そう言って涙ぐんでたって言うじゃない。それこそ信じられなかったわよ」
「ふん、そんなことか」と自嘲した。ジュネを一瞥し、それから言葉を選んだ。
「亡骸を見たからさ。決まってるじゃないか。誰だってあんなの見たら……いくら鬼娘、鬼畜と恐れられようと、実の妹の幸せを奪って喜ぶほどの悪魔じゃないよ」
 ジャンヌが即「嘘」と言い切った。
「なにがだよ」
「ミニカのことよ。それじゃ『せっかく……』の説明にも何にもなってないじゃないの。ちゃんと答えてよ」
 ぷりぷりして、さらに追及したら「うるさいなあ」と面倒臭がり、ぷいと背中を向けた。
「だったらわたしから言うわよ」
 そう断ってジュネの主張する「10才の大人」を尊重して後を続けた。
「わたしはずっとモニカは姉さんの残虐癖の犠牲で殺されたんだとばかり思い、姉さんを恨んできた。でもタマラさんから聞いて、もしかしたら教祖からモニカを護るため、自分で酷い刑を科して処刑をくい止めようとしたのかと……」
「………」
 デリアは黙っていた。その背中を見つめながら、ジャンヌはパジャマの下にある姉の背中を思い出していた。もはや到底消すことのできない無残な焼き印。ダビデの刻印――。
 その背中が震えた。泣いているのではない、笑っているのだ。「くくくっ」と、哀しい自嘲を込めて含み笑いしているのだった。
「その伝で言ったらわたしはジュンコの命だって助けたことになるかも知れないね」
「ええっ!?」
 その時、ジュネも顔だけで一緒に驚いた。あの子もジュンコを少なからず知っているということだった。
 そしてデリアが背中から胸へと向き直った。パジャマの胸を息づかせ、怖ろしいほどに顔を強ばらせて話し始めた。
「ゼーラを出る直前、ある女が言ってたんだ。教祖バルツァー・ジークベルトは……」
 つと言葉を切ったところ、ジュネは自分から両手で耳を押さえた。そこで続きが話せたが、それでも顔を近づけた密談調で、
「教祖はアソコが使えないのよ」
「えっ!? インポってこと?」
 そんなはずはない。自分だって姦られたし、そう思って反論を試みたら「ううん」とデリアが首を振る。では何だというのだ? 
 首を傾げ、訝り、「あっ!」と思い当たった。
「分かっただろ?」
 デリアの怖いほどの目つきと向き合い、機能ばかりか外形そのものを喪った教祖の真実の一端を知らされた。その秘密のためにモニカは殺され、ジュンコは殺されかけたということか。
「気持ち悪いわね」
「あいつは悪魔というより淫魔だよ!」
 語気を荒げ、呪いを込めて吐き捨てた。
 さまざまな思いに取り憑かれ、知らぬ間に2人押し黙っていたところ、後ろから間延びした声が聞こえた。
「ねえー、もういいー?」
 呆っ気に取られた。今の話の内容とは余りにかけ離れたジュネの声に拍子抜けした。
 ジャンヌがにっこり、「いいよ」と首を頷かせた。
 デリアが何事か思いついたようだった。
「ジャンヌ、鏡」と言いつけ、
「はいよ」
 すぐに応じた。顔色がどう、気色がどうと女心で気になるのか、そう思ったが違った。
 あらためて向き直ったデリアがとんでもないことを言い出した。
「考えてみたら直接には何とも言わず出て来たんだから、まだゼーラでは“デリア様の威光”が通用するだろう。ねえ、わたしを使ってくれるよう司令官に進言してみてくれないか?」
「何バカなこと! そんな体で……!」
 正気の沙汰ではない申し出に聞く耳持たず鏡をひったくった。
「やはり足手まといかなあー。
 わたしのことだから殊勝な理由なんかじゃなく、過去の自分を葬りたい思いからだよ。むしろ罪滅ぼしというならわたしが酷く傷つけ、責め呵んだモニカの仇討ちのためにもゼーラ殲滅に一役買いたい。それなら分かるだろ?」
「でも……」
 ジャンヌはデリアの手から取り上げた鏡を一時自分の顔に当ててじっと見ていた。
 1分、2分と沈黙の時が続いて……突然、天啓に打たれたようにジャンヌの心に強烈なイメージが閃いた。いつか自分に言った魔女キンバリーの驚嘆まじりの言葉をも思い出した。
〈やはり、許さない!〉
 切々と募るモニカへの思慕が火花となって飛び散った。導火線となって火を点け、ジャンヌの中にモニカを殺した本当の敵(かたき)への怒りが茫々と燃えさかり、真っ赤な劫火となって心の闇に照り映えた。


 波の音が心地よい。ここはビニヤ・デ・マル。高級避暑地にもめぐまれた港町。
 こんな時はとてつもなく怖いはずなのに、イレーネの心は充実感で満たされていた。何かを成し遂げる、その一端を担っているという高揚感で恐怖心など吹っ飛んだ。
 時計を見たら午後6時を回っている。外出禁止時間を過ぎて、もう後へは引けない。
 6時15分ジャスト。
 猿ぐつわを噛まされ、手足を縛られた本物のホテルマンと厨房職員が合わせて3人。それを足下に見届けながら、がらがらと配膳車を押して廊下に出て行った。
 すぐ横をコピー写真でも記憶した恰幅のいい米軍下士官、私服のライアン大尉が通り過ぎた。
 叩き込まれた言葉が頭の中で反響した。
〈エルナンデスさんが電話で引き留めておけるのは5分程度。いいか、その5分が勝負だぞ〉
 背後に足音。仲間と信じて振り返ることはない。
 足音の主――ライアンが電話に出るため、1階管理室に降りたことを確かに見届けてきたホテルマンの服装のグスマンが追いつき追い越した。ほっと安堵の溜め息をついた。
 ドア1枚分隔てて向かい合わせたところにその彼が、不測の事態に備えスーツの胸に手を延べて貼り付いていた。イレーネの心に、緊張の糸がこれ以上ないほど張り詰めた。
 ノックした。
 中から「誰?」と女の声が尋ねた。
「お連れ様から特にとのご注文です……」
 そう切り返したものの、疑られて愚図愚図されたら計画はおじゃんだった。
「何か今日は“特別なお日”とか……」
 その良き日が幸いした。イレーネの機転の一言で女は気を好くして鍵を開け、やはりホテル衣裳で化けたイレーネと“お祝い品”を載せた配膳ワゴンを迎え入れた。
「あの人、今日が誕生日っての知ってたのね」
 妙齢な銀髪の貴婦人。男好きする顔。その顔を嬉しそうに輝かせて信じ切った。
「ほんとは内緒でといわれてんですけどね」
 いけしゃあしゃあと嘘八百ならべて回り込んだら、台車の進行に合わせて女が廊下を背にする格好になった。
「何なの? 今、見てもいいのかしら」
「もちろん! すぐお見せしますわ」
 そう言ってドームカバーを外しつつ、同時に皿の上のブツを手に取ってかまえた。
「!!」
 女の驚愕。目が点になり、しかし声もなくイレーネがかまえる拳銃を見つめたまま、しどけないネグリジェ姿が石のように制止した。
 叫び上げる刹那、グスマンに背後から口をふさがれ、羽交い締めされた。
 それからの1分、2分、3分くらいはイレーネにとって嵐のような時間であり、また永遠に止まるかとも思える時間だった。
 ノックする音。それが頻繁になり、声をかけたり。それも諦めて鍵をこじる音。ドアが開いてライアンが入ってきた。
「まったく! とんでもないイタズラ電話だった。しかし、いったい何の目的で……」
 ぷりぷりしながら不平をつぶやいていたが、
「どうして出なかったんだ。それに、何だ、この皿は。何か頼んだのか。いつまでもふざけてそんなのかぶってないで出てきたらどうだ」
 女への小言も忘れなかった。そうしてソファーに座り込んだ気配。
 イレーネが、少し気の早いクリスマスプレゼントを“見せて”やった。
 タオルケットを外し、素顔ばかりか全裸をさらし、陶然と微笑みかけたらライアンが腰を抜かした。呆然として身がまえもしないのは、いまだ愛人が仕組んだ余興か何かと勘違いしているに違いない。
「もういいよ」とグスマン。
 その時にはぴったり後ろに付かれ、拳銃でも脅され、人質まで取られたライアンに抵抗するすべは塵一つ分も残されてはいなかった。
 イレーネはそそくさと服を着た。ただし、今度はライアンの愛人が脱いだよそ行き衣裳をしっかり身に付けねばならなかった。
「俺を人質にここを出たいということは分かった。しかし、いったい何が目的で……」
 そう言いながら、いまだイレーネの着衣をイヤらしそうに見つめるライアンが「あっ」と驚いた。
「やっと思い出した? きっと他の部分ばかり夢中に見ていて気がつかなかったのね」
 こっちはちゃんと憶えてるんだ、このクソ野郎という悪態を枕に、やんわりと皮肉った。
 イレーネは元々パオラの腹心。キンバリー要塞にいたこともある。その際ライアンが訪ねて顔を合わせてもいる。しかもその時、こいつは自らジュンコを酷く責め苛んでいたのだった。
「キンバリーでもゼーラでもないわよ」
 最後は思い切りざま睨みつけた。豪華なサマードレスを着にくそうに着終えると、裾をひるがえしてライアンの前を悠然と横切った。
「わたしらはジェームス・リッチの使いだよ」
「なに!?」
 ライアンがグスマンに向かって目を剥いた。
「24日のゼーラ奇襲がなくなったことに驚いている。その理由。また、日程を元にもどすべく手を打つことを要求する。手荒なことはしたくないが、味方の命には代えらないからな」
 そう言って猿ぐつわを噛まされ、床に転がる女は一瞥しただけで、銃口はライアン本人に向けて撃鉄を引いた。
「ま、待て」
「あんた、ほんとにケツの穴の小さい奴だな。こんななら、君の貴重なヌードを披露して油断させることもなかったかも。ま、お陰でわたしまで目の保養をさせてもらったのは嬉しいが」
 そう言ってウインクした。
 思えばこのライアンはリッチの、というよりリッチの意志で煮え湯を呑まされたのはこれで2度目。しかも舞台がホテルという間抜けな場であることも前回と一緒だった。
「彼女とホテルを出て車を回せ。分かっているだろうがおかしな真似はするなよ」
 必殺の眼(まなこ)で睨んでクギを刺し、あらかじめ持参した衣装ケースに女を詰め込みにかかった。
「少しガマンしてくれよな。
 あんたに聞かれないようにと電話を部屋に回さず、直接出たことで極秘事項を洩らす関係でないことは分かったが、とはいってもあんたを介して困ることはゴマンとあるはずだ。大事の成就まではしっかり生きててもらわねばな」
 言い終わる時には“荷造り”し終え、「静かでいてくれよ」と言ってケースを2つ叩いた。
「わたしはこの“荷物”と非常階段を降りる。廊下を出たところの右奥だよ。その下に車を回してくれたまえ。それに乗って4人でトンズラだ。後のことは車の中で。な、ライアン君よ」
 そうしてイレーネは拳銃を渡された。
「万一の場合にはためらわず撃て」
 重量だけでなく、ずっしりと重い役目をサマードレスのポッケに忍ばせ、衣裳ケースを担ぎ上げて去るグスマンを見送り、ライアン共々廊下を通り、階段を降りた。
 無事チェックアウトを済ませて出ると、波の音が耳に強く響き、吹く風がたまらなく心地良かった。遠くで霧笛も聞こえた。
 ホテル前のロータリー。車止め。車種名は分からないが高級そうな車。ドアが開いて助手席に招じられた。その時も全然怖くなかった。もう、どうなっても悔いはないという開き直り、かつて経験したことのない高揚感。
 不意に声をかけられ、ドキッとした。
「なあ、君……」
 心なしか声が震えてる。これが殺気というものかとポッケの中の拳銃を握りしめた。
 恐る恐るその方を見た。
「いい身体だったな。どうだ。一度でいいから抱かせてくれないか」
 唖然とした。それでつい訊いてしまった。
「あなた、今日が何の日か知ってました?」
「はて、クリスマスにはまだ間があるが」
 マジ顔で首をかしげるライアンという男に呆れた。
 こういう男でもいないと人類は死に絶えてしまうのだろうが、こんな男ばかりならレズ社会の方がずっといいや、そう思ったら可笑しさが込み上げて吹き出したくなった。
「やあ、その気になってくれたのか?」
 緊張の顔がほぐれてやに下がり、そして車を出した。
 ヘッドライトの明かりにグスマンの頼もしい姿と不敵な面構えが照らし出され、あたりにようやく真夏の夜のとばりが降りはじめているのをイレーネはしっとりと感じていた。




拳を突っ込め!


 目と前でマリアが犯されている。拳によるフィスト・レイプが延々と続いている。手袋を付けたミランダの拳が、マルガの拳が、そして今はレーヴェの拳が入れられようとしている。
 目をそらしたいのに教祖が無理強いする。
「ほれ、よく見ろジュンコ。目を大きく見開いて、しかとよく見るがよい」
 と。それに対して少しでも目をそむけようものなら、ガイコツの手が腹を小突いたり後ろ頭を掴んだり、さもなくば耳をひっぱったりして強引にその方に顔を向けさせる。
 この痩せた体のどこにそんな力が……!?
 すでに2人の女の濃厚なフィスト姦でぐちょぐちょに濡れそぼち、そればかりか糸を引くほどの濃度、粘度の白濁愛液をからませた半開きの性器に先を尖らせた男の掌が押しこまれた。
「むひいーっ!」
 マリアが苦悶に上体をのけぞらせた。観音開きの羞恥ポーズを課せられ、せめて苦しまぎれにマットの縁を固く握り締めた。
「やああーっ!」と叫んで首を振った。
 キンバリーが「やはり男だな。あんたのでもダメなようだ」と微苦笑したが、その際の“あんた”部分を皮肉たっぷりに強調した。
 コケにされたレーヴェにすれば悔しさ百倍。手刀にした右手を挿入半ばに、手こずりながらも初志貫徹諦めるつもりは毛頭なさそうだ。
 マルガが横から助言した。
「お腹の力を抜くのよ。息を吸って、吐いて」
 そんなやりとりを見せつけられつつ純子の気は急く。マリアの謎かけから推測したゼーラ攻撃がほんとうなら“Xデー”はいつかと。
 明日かパーティー初日の明後日クリスマス・イブか。宴たけなわ、虐殺当日25日は考えにくく、だとすれば明日か明後日のどちらか。それを何らかの方法でもマリアから訊けない焦り。
 お産授業よろしく「吐いて」「吸って」を繰り返させられていたマリアが白目を剥いた。
「う、ううっうーっ……!」
 と呻いて首を横に向けた時、陰毛の割れ目を開いて入りかけたレーヴェの手刀がずるっとすっぽ抜けた。後には手首が生えた性器。
「よし!」
「入った!」
 能面以外の女2人がふざけたガッツポーズ。
 マリアが激しく身をよじる。レーヴェの手首がひねられる。中で拳になったのは明らかで、その拳になった手をゆっくり抜きにかかった。
「うひぃーっ!」
 顔をいちじるしくゆがませてマリアが叫ぶ。ある者は拳が出かかってぱっくり口を開けた愛液まみれの性器を凝視し、別のある者はマリアの苦悶顔を舌なめずりしながら注視した。
 この間隙にとマリアの目が何か訴えかけた。
〈今よ、読み取って!〉
 と、そう言ってるように。純子にだけは直感できる目の光り。
〈顔と性器、それ以外の身体の一部で何か伝えることができる部分はといえば……〉
 とっさに判断、そして見た!
 うす汚れたベッドの縁を握り締めるマリアの手――その手が親指を中に入れた4本になったり、人差し指と中指の2本になったり、それを2、3回繰り返したのをはっきり見た。
〈「4」と「2」、いや「2」と「4」で24日。奇襲はパーティー初日のイブということ!?〉
 マリアの目が頷いた。やった! これで救援の手が差し伸べられること必定。
 小躍りしたい気分と、ただ、その間にも自分たちがどんなに酷く拷問され、それに耐え得るかどうかという不安。2つの思いが交錯した。ヌカ喜びは禁物だ。
 周囲が、わっと湧きたった。
「やれやれ!」
「いいわよレーヴェ!」
 2人の女がしきりと煽りたてている。
 フィスト姦開始からかなりの時間が経ち、今突っ込まれているレーヴェの拳は、容れモノの小ささから動きをにぶくし、しかも性器が一杯に開かれる際には悲鳴が悲痛に響きあげた。
「ああっ……ひいっひいっひいっ……」
 汗で輝いて身悶えるグラマラスな肢体。そうしてさらに30分くらいは経過しただろうか。
 レーヴェが満足顔で、ゆっくりと拳を抜いた。ぐっしょり濡れて、ふやけたような拳の後から白い泡状液が堰を切って流れ出した。
「あーあ、おおぉおおぉ……」
 マリアが顔をくしゃくしゃにして咽び泣いた。純子は目を覆いたかった。
 いよいよ魔女だ。が、なぜかあっさりパスしてミランダからもう一巡することになった。
 能面が微かに笑った。泡を吹いたまま口を開けている淫らな秘貝を一瞥、次の瞬間、前戯も何もなく一気貫通してマリアを呻らせた。
 男の拳で馴らされた膣道はたやすくミランダの拳を受け入れ、呑み込み、突いては引いてのピストン連打が繰り返されるたびに加速した。
「あううー、ああ、はあうーっ……!」
 薄目を開いたマリアの口から甘美なよがり声が洩れて純子は耳を塞ぎたい思いに苛まれた。
 たらたらと愛液を滴らせる褐色の性器を女の拳がせわしなく、機械的にリズミカルに、淫らな水音を聞かせながら小突き回した。
 再びマルガにフィストのバトンが渡された。
「さあ、こんども半端じゃないわよ」
 脅しておいて拳を回転、小突き回して悲鳴を高めた。時折ひねりも利かせて、テクニカルな連打で汗で光る体が蛇のようにしなやかにくねる。量感のある乳房がぶるんぶるんと躍る。
 女たちのフィスト姦は、まるでスポーツでも愉しむように嬉々として行なわれた。
 またレーヴェの拳が割れ目を酷く拡げた。
「むうーっ」と顔をしかめてのけぞった。
「ひいーっ」と身をよじって叫びあげた。
 観音開きの両脚が一瞬閉じかけたものの、それがゆっくり元に戻る時、陰毛に縁取られた性器を全開させて、また男の拳が呑み込まれ、
「ふうーっ」と嘆息のような喘ぎ声。
「あ、ああ……」
 と、今また違う喘ぎ声。苦痛とは別の反応に見ている方もドキドキする。レーヴェのフィスト姦を受ける下半身が硬直の筋をぴくぴく浮き立てた。のけぞるマリアの顔が恍惚とした。
 倒錯のエロスと称すべきか、はたまた残虐のニンフと呼ぶべきか、凄惨な中にも異様な美しさをその時のマリアに感じた。
 純子とおなじものを見ていたのだろうか、今度のレーヴェの拳は憑かれたようにスピーディーに、リズミカルにフィスト姦を行使した。
 結局果たせなかったキンバリーから数えて何十分、いや何時間経っただろう。それくらい長く感じるフィストレイプの延長だった。
 ようやくにしてレーヴェの腕が抜かれた。
 ぐったりとした表情のマリア。肉感的グラマラスな全身を喘がせ、豊満な乳房を息づかせ、陶然とした視線を天井に向けたままでいた。
「それじゃ」
 と、キンバリーがおもむろに椅子を立ち上がって純子の緊張感は一気に高まった。姦られる当人のマリアはなおのことだろう。
「壊してもかまわん。突っ込め!」
 醜い年寄りめが冷酷に、鬼畜に言い放った。
 十重二十重、押して包んでという風にレーヴェが、マルガが、ミランダが覆いかぶさり、キンバリーがマリアの前に屈んだ。左手に持つローション液の瓶を右手に向けて傾げた。
 パックリと口を開け、陰毛に渕どられた淫靡な赤貝をキンバリーはためつすがめつ眺めた。
「手袋じゃなく素手で子宮を感じたいのね」
「いやいや、その手に合うサイズがなかったんじゃろ」
 マルガと教祖が突っ込みの応酬を演じ、魔女が猛禽の眼をぎょろりとさせた。
「ただでさえ入らないのに、そのうえ手袋したんじゃ壊れちまいますよ」
 顔にも似合わず、お世辞にも面白くないジョークをかまして手刀にした手をマリアの中心部に押し込んだ。
「むわーん。い、いた……!」
 痛い、という言葉を必死で噛み殺した。マットを掻きむしり、観音開きの爪先を内向きに足掻かせてキリキリと歯ぎしりした。
「うんむっ!」と目を剥いた。
 魔女の手が半分のかなり手前で止まっていた。力まかせに押し込む。響き上げる悲鳴。
「わうわうわう、あ、あああ……!」
 ぐいぐい押し込むたび悲鳴が呼応した。
 魔女が再度諦めた。入れかけた手を出したので今度もパスしたのかと思った。
「この姿勢がいけないのよ」
 そう言ってレーヴェとマルガをうながした。
 協力を求められた2人が、魔女の右と左に横並びして両手で片方ずつ脚を受け持った。膝をいっぱいに折った両脚を肛門が上向くくらい抱え上げた。
「この形この形」
 数ある経験からか――こんなグローブ並の手が入る女が幾人いたか知らないが、自信たっぷりに言っていよいよ貫通を目ざした。
「歯を食いしばれ。だが、お腹の力は抜いて」
 厄介な注文を付けつつ精一杯手刀にした右手を挿し入れた。ゆっくり突いた。
 陰毛の割れ目が開いて開いて、
「う、ううー、あ、あわわっ、わああーっ!」
 手が入るほどに、性器が拡がるほどに悲鳴も高まった。何が作用したのか、さっきのきつさが嘘のように、ゆっくりだがキンバリーの男並みの手がマリアの性器に呑み込まれていった。
「ここからがつらいぞ」
 魔女が口元を嗜虐の笑みでゆがませた。
 すっぽりと入った手刀をぐるっと回転させた。豊乳を躍らせて上体が激しくくねった。背中が大きく弓なりに反って、耐え難い苦痛の呻きが洩らされた。
「くううーっ」
 呻きは悲鳴に転化した。
「うう、あああーっ! ひいっ、ひえっ!」
 悲鳴に合わせてのけぞり、身をよじらせた。その間、性器から生えた手首が右になったり左に返ったり半回転を繰り返し、何度か繰り返した末に、割れ目に沿って角度を付けた。
「い、痛いーっ!」
 思わず耐えきれず叫んでいた。どうやらキンバリーの手は中で拳になったようで、またニヤリと口元をゆがめた魔女が拳にした右手を抜きにかかった。
「あ、あわわわ……ひえっ、ひっ……!」
 戦慄に目を見開いた。その痛さはレーヴェの時の比ではないのだろう。手首だけだった性器の口が、拳の一端を覗かせ、それが少しずつ出てくる段に及ぶや、
「いやっ、いやいやいやああああーっ!」
 たまりかねて「マリアっ」と呼びかけた。
 首を振り返すマリア。
「まだ。まだまだよ、まだーっ!」
 気丈に耐え抜いていて、しかし純子には今にもマリアの性器が裂けて血を吹き出しそうに感じた。あの子のは小さいのだから、と。
 またのけ反った。レーヴェとマルガに抱えられた足の先をばたばた喘がせ、キンバリーの空いている左手がマルガを手伝ってぐいっと太腿を押さえつけた。
 泣いた。叫んだ。
 叫びが尾を引いたその時、キンバリーのグローブ拳のいちばん太いところが出てきた。
 マリアの性器が風船玉を思わせてぷくーっと膨れあがった。陰唇がぱんぱんに伸びきった。マリアにしては信じられない正円を描いて、
「うぎゃあああーっ!」
 絶叫をあげて滅茶苦茶に首を振った。
 くくくくく、と含み笑いが洩れた。笑っているのは誰だ、キンバリーか、マルガか。そのまま拳を止めて、マリアの性器は開ききった。
 思わず知らず「教祖サマっ!」と叫んでいた。
「おお、ジュンコや」と車椅子から身を乗り出す教祖。
「やっと喋る気になったか」
 と、マリアが鬼のような顔になった。
「だめーっ! グス……」と言いかけてあわてて口をつぐんだ。
「なにっ!?」
 と、今度は教祖が鬼瓦の形相。
 ぬかったかマリア。策か、機転か、それとも、これも何かのサインなんだろうか。
「貴様、脱走に手を貸した者を知っとるのか。そいつと外で通じているのか。それで今まで死に者狂いでジュンコの口を封じて耐えてきたのか。そういうことだったのか」
 キンバリーもレーヴェもマルガもミランダも色めき立った。いや、純子ですら呆っ気にとられた。グスマンさんと会ったの?
「むううーっ、ううーっ!」
 獣の咆哮を思わせる呻きを発してぶるぶるぶると頬を震わした。まなじりを吊り上げて歯を食いしばった。
 さっきの言葉が何かを真剣に考えた。
 なぜ、その名を知ってるの? 考えられる可能性の一つは、グスマンさん自らがマリアたちと接触した。そうなの!?
「キンバリー、突け。ブチかませっ!」
 教祖が嗜虐心と拷問心に取り憑かれて狂った顔で煽った。
 ずぼっと拳が入った。「げふっ」とくぐもった呻き。突いて、引いて、突いて引いて、そのピストン抽送が鋼鉄のマシーンのように力強く機械的に繰り出された。
「あっ、ひっ、げっ、ぎゃっ……!」
 目を見開いておののいた。
 のけぞり、身をよじり、のたうち回った。
 マリアがこっちを見た。
 必死で純子も見返した。
 励まし合い、頷き合い、秘めたる連帯のエールを送りつつ、己れをも鼓舞してひたすら過酷な時間の流れと格闘するマリアと純子だった。




汚辱の時


「こいつらを天井から吊せ!」
 教祖の命令。
 マルガとミランダが丸めて長くしたビニールシートを2人がかりで運んできて、それを広げるそばで、上から垂れているチェーンの位置を調整するレーヴェとキンバリー。
 チェーンは天井に備わる移動式クレーンの滑車を通って垂れている。その2つの滑車の位置を壁の操作盤を使って調整した。
「2人とも床にうつ伏せに寝ろ。ジュンコはそっちに、おまえはこっちだ」
 呆然としたままのマリアをキンバリーがベッドから引きずり降ろすと、その彼女と顔を見合わせ、思い思い床に寝そべった。
 ぎごちなさにレーヴェが目を吊り上げた。
「バカやろう! ただ寝そべるだけでいいと思ってるのか! 手脚をおっぴろげるんだよッ。ホラホラァ、思いっきり大の字に!」
 さっきまでの紳士ヅラが一変した。
 何か大きな物が運び込まれた。
 純子は不安な思いで、うつ伏せのまま首をもたげてハッとなった。
〈あれはX(イクス)の……〉
 忘れもしない、性器に電気を流されたり、出るわけもない乳を真空カップで搾り摂る拷問に掛けられたり。その寝台を除いた上の部分。
 そのイクスが2人の上に、手脚を拡げた背中の上で調整されて鎮座した。経験したことのない不安にただただ怯えるしかなかった。
 純子をレーヴェが、マリアをキンバリーが受け持って縛りにかかった。
 腕は肘の上と手首、脚は膝上と足首とを丈夫な拘束ベルトで締め上げ、仕上げはイクスの四方に伸びる細いワイヤをうんと引っ張り、磔架の留め金にしっかりと蝶ネジで留め付けた。
「うふふ……」
「ヒヒヒ……」
 見られている。気味の悪い笑い声の中で、思い切り脚を拡げてむき出しにされた自分たちの肛門に視線が注がれているのを感じた。
〈浣腸されるんだわ〉
 そこまでは何となく解る。ただそれ以外の趣向が違った。それが純子のどんな想像をも超えていたことを、間もなく文字どおり“骨の髄”まで知らされることになる。
 がらがらと滑車が音を立てて、イクスの磔架が上に吊られていく。ゆっくりと地面を離れて空中へと昇架していく。
 グウッと体重の重みがかかって拘束帯を締めつけたが、イクスを介して各部を均等に拘束されているお陰で苦痛はそれほどでもなかった。
 床がだんだん遠のいていき、大人の背丈をやや超えたあたりでガクンと停まった。
「ジュンコ!」「マリア」と呼び合った。
 それ以外はいつか経験した時と同じだった。あの時はこの後で2つのお乳に金属カップを被せられ、真空責めを受け、そうして乳首と、お乳全体を無数の串で刺し貫かれたのだった。
 ところで何をしているの……!?
 気を抜けばだらんとする頸に神経を集中、下に目を凝らした。
 マルガとミランダが敷いた黒いビニールシートの上に、キンバリー、レーヴェがそれぞれ2本の電線を置いた。先が剥かれているのを確認すると電線と電線の間をわずかに離した。
 何のまじない? と吹き出したくなった。接点を離したら電気は通じないじゃない、と。
 だがしかし、2組のコードは実は意味をもって、手足をバンザイさせられた腹這い姿勢の、お尻より後ろに位置しているのに気づいた。
「ええっ!?」
 思わず声に出していた。が、マリアには何のことか分からないらしい。
「よく気づいたなジュンコ!」と教祖。感心して「さすがじゃの」と続け、例によって女みたく「ほほほ」と笑った。
「仕組みはこうじゃ。
 今からおまえたちの性器に電線を繋ぎ、浣腸によってそれぞれに体内に同量の浣腸液を注入する。くれぐれも断っとくが、下に並べた2本の電線は繋ぎ合わせたら100ボルトの電流が通じることになっとる」
 そこで言葉を区切った。恐怖にすくみ上がっているマリアを愉しむ顔で見つめながら説明を続けた。
「100ボルト電流を仕掛けとくわけじゃが、さあ、ここからが大事じゃ。
 我慢できず最初に便を噴射した者は、その水溶便を介して2本の電流が通じ、その際には自分ではなく相手の身体に100ボルト電流が流れる。そしてこれの厄介なことは一人目に流れた段階で回路は遮断、その一人目だけが拷問執行者――つまりわしじゃな。わしがスイッチを切らぬ限り100ボルト電撃に苦しみ、のたうち回るということじゃ」
 諄々と説明し終え、その説明の長さくらいに大笑を響かせた。
 性器への電極取り付け作業が始まった。
 純子はマルガの指で、横ではマリアがミランダの繊細な外科医の指で陰唇をパックリ拡げられ、陰核を探って包皮を剥きあげられ、なされるままにもてあそばれ、勃起強制の刺激を加えられている。
 こんな時でさえ漏れる吐息を押し殺しながら、純子は恐怖にこわばりつつも、なされるままになっているしかないマリアの横顔を呪わしい思いでチラリとのぞき見ていた。
「まあ、プックリ膨れあがった紅真珠のよう!」
 完全勃起を強いられた純子の陰核を爪の先で弾きながらマルガが嬉々とした。
 いつ持ち出したのか、能面女が電線の繋がれた鉤針を手に。もう片方の手の親指と人差し指でマリアの陰核を摘み、引きちぎらんばかりに引っ張ってプツリと突き刺した。
「ひいっ」と悲鳴。
 突き刺した後は貫通させ、力を込めて捻ねったりもする。湾曲した鉤針をこれ以上ないほど鋭敏な陰核の肉の中を通される残酷。
「うひィッ、あぃぃぃ……」
 耐えがたい苦痛の嗚咽、それが「あくゥゥゥーッ。ひきィッ!」という悲鳴に。
「ふふん、まだよ」
 その手にラバー製らしき張り型も。先端と側面にいくつもの金属電極が埋め込まれて、後端から例によって電気コードが伸びている。
 あんなのがわたしのにも……。
 そう思った時、陰唇に痛みがきた。ミランダの手の中に見た鉤針とおなじ兇針が自分の性器にも縫い込まれたのだった。
 そしてマリアの性器に、さっきの張り型があてがわれてズブリと押し込まれた。その長さ、深度から先端部の電極が子宮に届いたであろうことは確実だった。
 こっちは針で貫かれた局部に異物感、拡張感、挿入感。左右から抱くようにヒタリと張り付いた2枚の小陰唇。その間に挿入されたラバー張り型を畳針ほどの鉄串で器具ともども刺し貫かれて純子が悲鳴を発した。
「うひいいっ!」
 と、耐えきれず泣き叫んでいた。
「ククク。これでいくら濡れても抜けないよぉー」
「ひいいー、いだいよぉぉ」
 とぐずり泣いた。
「いちいちヒイヒイ言うんじゃないよ! ほらッ」
 マルガがいよいよ冷酷さを発揮して、純子の膣に埋め込まれた電極棒を少しばかり引き抜こうとした。傷口が開いて、ぽたぽたぽたと下に敷いたシートに血が垂れる音をはっきり耳にした。
「このまま引きちぎってやろうか? ふん、あんなドスケベ日記を書いたマゾ女のくせして、『もっとして下さぁい』くらいのこと言ってみなッ! ほら……」
 この女にも読まれていたのか! でも、マリアの前では言わないでッ!
 そのマリアはと見ればミランダがローションを塗り込み、ゴムホースの先端を取り付けた。ペニスほどの大きさの金属製ノズルをゆっくりと回しながらマリアの腸内へ挿入していく。
 おなじ処置が同時に純子にも行なわれ、ノズル全体が直腸の中に納まるようズブリズブリと押し込まれていく。
 マリアが膣と陰核から電線を、肛門からはゴムホースを生やした股間を晒して、「うう、うう」呻き声をあげている。
「なあジュンコ。浣腸はもう慣れっ子じゃよな」
「はい……ぁぁ、い、イヤぁぁ」
 汚辱の連続で培われた被虐本能。それによって今、マリアの前で思わず「はい」と応えてしまった自分にひどい羞恥心と屈辱心に苛まれた。あわてて「イヤ」と言い直しはしたが、その刹那にマリアがちらりと自分を見たような……
「どちらかといえば好きな拷問の一つじゃろう? ほれ、一生懸命書いた手記にも書いておったではないか」
「イヤッ、ヤメテッ! 手記のことは言わないでっ!」
 キンバリーが追い討ちをかけた。
「お前、『肛門栓を装着してもらえて、所有物にされて嬉しいですう! お乳に電気を流されて悦びを感じるようになりましたぁ』なんて書いてただろうが」
 そう言ってゲラゲラ笑った。
 今度こそ、はっきりとマリアの視線を感じた。そればかりか、マリアが苦しい息の底から遠慮がちに頭をもたげ、ちらちらと視線を送るのを見たのだった。
「うぐぅぅー、うぐぅぅぅーっ、はあぁぁ」
 マリアの苦悶に煽られるようにミランダの作業は黙々と進み、腸の中にノズルがぐいぐいと機械的に納められていく。
「これで準備完了じゃ。感動の見せ物の始まりじゃあ! 異民族の女同士、年齢差を越えた愛の証じゃあ! さあ、漏らしたが最後、最愛の相手の性器に……きひっ。
 のぉジュンコ! 考えてもみれ! 陰核を貫いた針と子宮まで届く膣穴を100ボルトが襲うんじゃぞ。マリアとやらをそんな目には絶対に遭わせたくはないよのォ。ふひょひょ。
 だったら、せいぜい我慢するんじゃな」
 勝手な口上をたっぷりと述べて合図した。
「では、1、2の3で……」
 マルガとミランダが調子を合わせ、優に1リットルはあろうかと思われる巨大浣腸器がそれぞれの肛門穴から生えたゴムホースに繋がれ、目配せしながら同じタイミングでググゥーッ、っとピストンを押し始めた。
「ひゃっ!」と思わず叫んだ。
 この冷たさは何なの!? と下に目を凝らした。
「きひひッ。腹痛(はらいた)がより酷くなるように、一晩冷蔵庫でキンキンに冷やしておいたのじゃよ! おおッ。入っとる入っとるのぉ」
 氷のシャーベットがお腹の中を、内臓を侵食して重苦しい痛みが襲ってきた。
 マリア! と、また横を向いた。
 浣腸なんか初めて経験するだろうマリアが、いつもの気丈さに似つかわしくなく「グヘェ、グエエ」と惨めな呻き声を上げはじめた。
「おお、もう1本くらい入りそうじゃの。もう1本、もう1本じゃあ!」
 教祖の上ずった耳障りな声が響く。
 酔狂や冗談ではなかった。満々として用意されていたスペアの浣腸器に取り替えられ、仮借のない拷問注入が繰り返されようとした。
「そっちも挿し込んで、せーの」
「入れるぞ入れるぞ、ほれ!」
 また大量の冷水浣腸液が注入を開始した。それが程なく大腸を満たして小腸への侵攻を始めた。横で見ていると、うつ伏せ宙づりのマリアのお腹がポッコリと膨らんで妊婦のようだ。
 苦しい地獄のような膨満感。
 続いて、同時に急激に冷やされたことによる恐ろしい激腹痛。
「あぐ、あひぃぃ、い、痛いよぉ……」
「痛いじゃろう痛いじゃろう。さあ、これで2本分全部入ったの。いよいよじゃあ! いよいよ栓抜きじゃあ!」
 肛門から金属ノズルがゆっくりと引き抜かれていった。最後の先端がスルリと肛門を抜け出る時、一緒に浣腸液を噴き出してしまいそうになった。
 何度も浣腸拷問に掛けられてきたせいだろうか、肛門の締まりが緩くなってきているのだろうか、自分の尻からポタポタッと液が滴るのが純子には音で分かった。
 大変だっ!
「ウヒィィッ」っと渾身の力を振り絞って肛門を締めつけた。これでもか、まだかと締めつけた。
 不細工に膨れた下腹がその重みで床に向かって垂れ下がり、我慢する意志とは裏腹に、内臓は氷河の海水を思わせる低温薬液を吐き出してしまおうと猛然と抵抗を開始した。生き物として備わった肉体本能が「出せ! 早く吐き出せ!」とばかりに、恐ろしいほどの勢いで迫ってくる。
 でも、それをしてしまったら……
 これを吐き出したが最後、すぐ横で同じ苦しみを受けているマリアは死んでしまうかも知れない。人生の最期をそんな形で締めくくってほしくはない。
 わたしが身代わりに? でも、自分ではどうにもできない。
 マリア、と呼びかけようと思った時、
「くううーッッッ! くひい。くひいッ。ジュ、ジュンゴォォ。出しでぇ。いいがらぁ。出しでええ。早ぐう。クックムゥゥゥーッ」
 マリアが必死で叫んでいる。
 どうして? と訝るすぐ後から、マリアの心の声が聞こえてきた。
〈自分が犠牲になろう。
 純子をこんな苦悶から解放して、恐ろしい拷問電流をこの身に受けよう〉
 そうなの? いや、そうじゃないだろう。
 そうじゃないと思うそばから違うマリアの叫びが心で反響した。
〈もうイヤ!
 こんな苦しさよりは高圧電流に叩かれ、灼かれた方がマシよーーーっ!〉
 そういっている叫びが聞こえてきた。
 そうなの? そんなにつらいの?
 だったら、もう喋ってもいいのよ。グスマンさんだって許してくれるわ。
「マリ、アァ。いい、のよぉ……クキュゥゥゥーッ。あなた、出して……うむぐぐぅぅぅ、出し、ギィィィー……!」
 それ以上はしゃべれない。肛門を締める集中力の糸がぷつんと切れ、堰を切って排泄してしまいそうだった。
 マリアの顔が、腕が真っ青になった。
 苦悶の声すらか細くなってきた。
 同じように純子も噴き出していた脂汗が乾きはじめ、ブルブルブルと高熱を発した病人のように震え始めた。
 排便を我慢する者の誰もがそうするように四肢を縮め、蓑虫のように身体を丸めようとする反射運動が起こったが、肘・膝上拘束と開脚開腕拘束される身ではそれすら許されない。
「おひょひょー。見ろ見ろ、苦しそうじゃのお」
 おぞましいクソ年寄りの声が耳障りなエコーとなって猛々しく響いてくる。
「クク。まだだぞ。そんなに早くショーを終わらせるなよ。ホラッ、もっと我慢しろ我慢を」
 今度のは誰の声だろう。
「くうっ、くひっ!」
 マリアがひときわ声を張り上げ、一瞬ビクンとなって宙づり全身を痙攣させた。次の瞬間、純子は純子で自分の肛門の襞が膨れあがったようにも感じた。
 ププウ……
 いやっ! いきなり肛門からウンチが。
〈ああ、ダメよぉぉぉーぉ!〉
 まるで壊れて元気がなくなった噴水のように間欠的にガスが噴き出し始めた。
 無意識の意識が狙いを外そうと尻を振っていた。身体を揺すった。神よ、仏よと祈りもすれば拝みもした。
 だが、それ以上はこらえようもなく、最初チュルチュルチュルと、やがて細い水流となって溢れ出ているのが体でも感じられた。そして瞬く間に水流は濁流となって勢いを増した。
「ダメっ。ダメダメダメぇーっ。ダメだってばぁぁぁっ!」
 泣き叫んだ瞬間、まるで火山が大噴火でも起こしたように肛門が開いて、「ブババッ!」という響きを発して下利便を大量噴出した。
 強烈な、陶酔的な排便快感に貫かれる中、もはや意志とは関係なく猛烈な噴便、激射糞がぼたぼたぼたとビニールシートの上に華々しい音をたてて降りかかっていた。
 で、電気が!……だが、まだ来ない!
 ブビー、ブッバババーッ! という異様な爆音。
「ヒギャーッ」という断末魔の悲鳴がマリアから発せられた。
 その時である。
 純子の性器から下腹部全体、子宮から膣から肛門から、その周辺の内臓全般にわたって強烈な卒倒電流、爆発電圧によるショック痙攣が暴風のように襲った。
「ギャアアアアーアアーアアー……!!」
 2つの断末魔が、大音量のエコーとなってその場の空気を震わせ、部屋全体を揺さぶって響きわたった。
 叫んでいるのは一人ではない。自分だけではない。マリアの中心にもおなじ電流が走り抜けているはずだ。それが意志も肉体も木っ端微塵に打ち砕き、狂った絶叫を発しているのだった。
 絶叫のシンフォニー。
 そして下から湧き上がる嘲りのハーモニー。
「ああ、臭い臭い!」
「悪臭のしぶきがシートの外にも飛び散ってやがる!」
「ううー、吐きそう! このニオイ、たまらない!」
「まったくじゃ。わたしはもう帰ってシャワーでも浴びるとするぞ」
 ケタケタ笑いながらはしゃぎ回っている。
 それより電気を! 電気を止めて!
「マッ、マリアァーッ!
 お願い! 教祖サマーッ。ヤメテェェェーッ。
 た、助けてマリアっ……!」
 何がなんだか分からなくなり、狂ったように泣き叫んでいた。
「ヒャ、百ボルト、止メテ止メテ止メテー!!」
 思いあまって日本語での泣き喚きに教祖が、マルガがレーヴェが、ミランダがキンバリーが笑い転げている。
 教祖の信じられない言葉が聞こえた。
「ヒョヒョヒョヒョ、嘘じゃよォォ、100ボルトは嘘じゃぁぁ……」
「ウソぉぉ??」
 冗談じゃない。こんなに強烈に叩きつけられ、こんなに激しく不随意痙攣を起こされ……だが、教祖は面白くて面白くてたまらないという顔をさらにほくほくさせて答えた。
「そんなに早々とダメにしたりはせんぞお! とっておきのお前たちをな、やっと2人そろえたんじゃあ。心配せんでも死なせんわ」
「そ、それじゃこれはぁ……!」
 猛烈に全身をひきつらせ、凄絶な痙攣にのたうち回りながら顔をくしゃくしゃにゆがませて、なお襲いくる猛波と闘っていた。
「マリア!」
 と、顔を起こした。おなじようにイクスに縛りつけられた全身を揺すって苦痛と格闘しているマリアの様子を見定めようと、苦しい中から精一杯顔を起こして見た。
 チョロチョロ、ブリブリと強烈な臭気の液体を肛門から湧き出させながらも、性器を直撃する電流にマリアの肉体はまだまだ耐えているように見える。
「ウギィィー、アハッ、アハッ!」
 悲鳴を上げつつ苦しまぎれに首を振ったり、身体をくねらせたりしている。
 がしかし、そういえば……
 衝撃のパルスに叩かれ、内臓を突き上げる強烈電撃と闘ってはいるが、その苦しみようは致命的ダメージとまではいってないようだった。
 教祖がしたり顔でタネ明かしした。
「50ボルトじゃ50ボルトじゃ。しかも、浣腸ベテランのジュンコと、そうでないマリアとではハンディが違いすぎるではないか。だから、いったん電流が通じれば、どちらの身体にも同電圧が流れる仕組みだったんじゃ」
 愉快そうにのたまう口上を、純子はガックリと首を垂れて聞いた。ちょうどその時、コントローラーが操作されて、強烈な50ボルト電圧がすーっと弱まっていった。
 マリアがのびたようになっていた。首は死んだようになって垂れたが、背中合わせにイクスに貼り付けられた四肢の先には、後遺電流による不随意痙攣が休むことなく続いていた。
 イクスがゆっくりと降ろされ、鬼畜どもが踏みしめる拷問室の床が、純子の目の中にどんどん迫ってきた。




自 白


 一夜明けた朝である。
 開け放たれたドアからキンバリーが、リヤカーでも引くようにマリアの両脚を後ろ手に持ち上げ、床の上をずるずる引きずってきた。
 魂を無くした抜け殻のようなマリアの顔!
 その後レーヴェが生あくびしながら、はだけたシャツのだらしない姿で現われ、3人目、4人目は車椅子の教祖とその車椅子を押すミランダと続き、
「マリアをどうしたのよ!?」
 高ぶる心で問わずにはおれなかった。
「決まってるでしょ、わたしがあんたにしたようなことよ」
 そばからマルガが答えた。答えたものの、
「ちょっと違うわね。わたしにペニスは付いてないから」
 露骨に付け加えて「くくく」と笑った。
 レーヴェの生あくびの正体もそれか。女2人も目の下に隈を作って眠そうな顔をしている。こいつらレーヴェとグルになって集団レイプでマリアを苛んだのかと純子は怒りに怒った。
 どさっと床にうっちゃられたマリア。
 次には腰を抱えて膝を着かされ、椅子から見る純子の目の高さに肛門から陰毛の性器まで、恥ずかしい部分がいっぱいさらされた。
「どうだった? 半クロの味は」
「しぶといアマでしたよ。呻き声一つもあげずにされるままになってました」
 予想した反応とは違ったようだが、それはそれとしてまんざらでもないようすだった。
 すでにマリアは正気に返っていた。小刻みに震える肩と肘。その肩を通したマリアの顔は嘲りに反応して憤怒の感情をよみがえらせていた。
 吊るされ、大量の冷水浣腸による腹痛地獄。そしてほんの一時とはいえ凄まじい電流地獄まで経験させられ、そのうえ男たち、女たちの好色猟奇の餌食となって一夜を明かしたのか。
 涙を止めることができなかった。この涙が今のマリアの目にはどう映っているのだろう。
「いよいよ明日だの」
 教祖がその日を前に表情を活き活きさせた。
「昨日、喋りかけたことの真偽はいかがいたしますか」
「喋りたくなれば自分から話すじゃろうさ」
 レーヴェの申し出に鷹揚に応えたようでいて何のことはない。〈酷くしぼって脂と一緒に自白を搾り取る〉という手法違いであり、冷酷の本質はいささかも違えていないのだ。
 それより次のキンバリーの一言には驚いた。
「もう、この辺で勘弁してやりますか?」
 その“温情”に誰もが唖然とした。たちまちじろりと睨まれ、
「いえ! パーティー前にくたばっちまったら元も子もない。そういう意味ですよ」
 あわてて言い添えて笑いで誤魔化し、その後にはふだんのキンバリーにもどった。
「それじゃ浣腸も済ませたことだし、バージン・アヌスのフィスト破瓜を覚悟するんだな」
 そう言って膝を着いて突き出させた尻をぴしゃんと一発、肉付きのいい音をさせた。嗜虐モードにチェンジして顔を振り向ける。
「ところで、誰がこいつを“掘る”?」
 男のレーヴェは最初から無視してミランダを、マルガの顔を順繰りに見ていった。生半可なアナル・フィストではない。この際にはS字結腸貫通を経てのディープ・フィストなのだ。
 ミランダがドクターハンドの右手をローションでぬるぬるにしてマリアのそばに膝を着いた。教祖の方を向いて指図を待った。
「マリアとやら。分かっておろうが、もしも逆らってミランダのフィスト完遂をやりにくくしようものならジュンコがどうなるか」
 そう脅しておいて「やれ」と命令した。
 能面女の手刀の手が衆目に披露された後、先を槍の穂先のよう尖らせた。ローション液がぬるっと滴って糸を引いた。
 先が双臀の中心に宛われる、そして肛穴を広げて少しずつ入っていく。「むうっ」という呻き。後ろを向かされたマリアの顔が痛々しいばかりに歯をくいしばって必死に耐えている。
「ひぎゃあ」
 と悲鳴が突き上げた。床を踏みしめる膝以外の脚の太腿、ふくらはぎが力んで筋をぴくぴく浮き立てた。その悲痛を愉しみ愉しみローション液に助けられた手刀がさらに押し入った。
「うあっうあっう、ああーっ!」
 逃げるな動くなといわれ、苦しまぎれに首を振った。突っ伏して下に垂れ、床を舐めている豊かな乳房がぶるぶる揺れた。
 肛穴は手がすっかり埋め込まれて手首だけになっている。そこまでだった。
「きゃああっ!」と甲高い悲鳴。
 S字結腸に阻まれ、それでもS字の関門を無理にくぐるべくしてぐいぐい押し込むミランダの残虐加虐。絶叫が絶え間なく響いた。
「やめて、やめてよ教祖サマ」
 と、今度は純子の悲鳴。こちらは懇願の悲鳴。
「馬鹿者っ! 黙って見ておれっ!」
 必死の嘆願を一蹴して恫喝で蹴散らした。よぼよぼの年寄りのどこをどう怒らせたらあんな大声が出てくるのかと思うほどだ。
 尻の穴に突き立ったミランダの手首が、またすこし入ったかに見えた。無理な刺突敢行に呻吟するマリアの涙目がかっと見開かれた時、
「いだだだぁぁぁーっ!」
 足の裏を見せる爪先が力んで丸まった。
 悲鳴の間中、ミランダの手はS字貫通をめざして手首がひねられたり回転したり、だがテコでもそれ以上は入る気配がない。
「えーい。女学生でもあるまいし……!」
 教祖が焦れた。急いた。短気で怒鳴った。
 いったん片付けたベッドが教祖のヒステリックな気まぐれからまた出されることに、そこへマリアをうつ伏せに寝かせ、はみ出た手と足をレーヴェとキンバリーに押さえさせて命じた。
「あれを使え」
 教祖の目がこっちを向いた。
「あれですね」
 鸚鵡返しに頷くマルガ。
 さっそく、ゆうべ自分に使った電気棒を持参した。微弱電レイプだけでなく、その前にはそれを握った拳でフィスト姦、拷問した兇具をマリアの肛門貫通に使おうというのだ。
 マリアの四肢に拘束ベルトが架けられ、足はいっぱいに開かれベッドの支柱に、手の先はだらんとベッドの外に垂らされ、これも支柱に。
「さあ、マリア。こいつを見るがいい」
 キンバリーが彼女の鼻っ先に太さ4、5センチの棒器具を突きつけた。
「こいつはおまえが愛するジュンコの腹に通したとおなじものだ。こいつをケツから挿し込み、直腸から小腸にかけて痺れさせてやる」
 顔をしかめて激しく首を振るほどに、それはマリアにとっておぞましい兇具だった。
「まずはS字を貫通させねばな」
 いつもの、というよりいつも以上に鬼畜な魔女となったキンバリーがレーヴェとマルガに尻を押さえつけさせた。
 ミランダにローション瓶を傾けさせた。3、40センチもある棒器具全体に液を滴らせると空いてる左手で手早く塗り込み、指がぬるんだのをいいことにそれで肛穴をほじくった。
「痛いっ!」
 素手が肛門の感触を愉しみ愉しみ、間髪入れず棒の先を突き入れる。
「ひやああーっ!」
 押さえ込まれた尻、腰以外の上体をのけぞらせ、足をばたつかせて暴れた。
 ずんずんと挿入していき、「きゃっ」という悲鳴と共に挿入が阻まれた。ミランダのフィスト貫通を阻んだとおなじ、S字結腸といわれるすぼまった部分が邪魔してるのだ。
「どれ、入りそうか?」
 教祖が目をぬめらせて訊いた。
 正確な太さは分からなくても、アナルフィスト未体験者にとっては、たとえ2センチ、3センチでもS字を超えるのは至難の痛さだ。
 それからしばらくの間、キンバリーとマリアの葛藤が始まった。魔女が棒を突き動かすたびに悲鳴があがった。
 ローション液でぬるぬるの手振り身振りで指図する。
 腰や尻を押さえていたレーヴェ、マルガが押さえる位置を変えたり、腰をわずか浮かしたり、そのたびにキンバリーが貫通を目ざして微妙に角度を変えたり、ひねったり、回したり。
「ぐふっ……きひいーっ……あ、あっあっ……」
 キンバリーの手の動きにあわせてマリアの呻吟が呼応する。
 20分か30分。いや、それ以上も試みていただろうか。あらかた外に出ていた棒器具が、一瞬ずるっと入りかけた。ずるっ、ずるずるっとわずかずつだが挿入されている。
「ううっうーっ……」
 くぐもった呻き。汗ばんだ顔のそこここに深い苦痛皺が刻まれ、ほつれ毛が頬や額に貼り付いて、苦悶顔の凄惨さがよりきわだった。
「入った!」と誰か叫んだ。
 そのあとはどんどん挿入されて、キンバリーは握っている取っ手部分も押し込んで、手袋をしてない指で摘める程度まで入れ尽くした。
「うーっ」
 顔をしかめての唸り声がさながら獣の咆哮を思わせた。
「ずいぶん入るもんじゃのおー」
 教祖が感心した。が、その後首をひねった。
「スイッチ部分まで埋め込んでどうする」
 指摘を他の者は可笑しがったが、それを歯牙にもかけないで棒器具のほとんどを使っての入れたり出したりをしばらく繰り返した。こんな細かい仕草にも手袋を通さない指は最適だ。
「う……うー……ひいっ。きゃあうっ!」
 3、40センチの出し入れの途中、S字のところで素っ頓狂な悲鳴が発せられてうつ伏せ姿勢をはね上がらせた。だが、それも繰り返すうちに通過がスムーズになった。
 出し入れに合わせて「うーうー」という単純な呻き声が、異物感、通過感に苛まれて怯え、震える複雑な喘ぎ声に転調し、それが哀切をともなって長々と繰り返された。
 見ている純子にもつらい時間が流れた。
 やがて棒器具を挿された肛穴が濡れているようすが目でも確認でき、出し入れに合わせたじゅくじゅくという水音で耳でも感じ取れた。
 そのうちにはS字の通過で悲鳴も呻き声も小さくなり、代わりに苦しいほどの喘ぎ声が聞かれるようになった。
 はあはあ、ぜいぜい……
 不安と恐怖の喘ぎ声。それがまた別の声に変化する時が、今、そこにあるマリアの絶体絶命の危機であり、純子の心の苦悩でもあった。
「ジュンコぉーお……」
 妙に間延びした声が聞こえて魔女の顔がこっちに向いた。
「ジュンコ。いいんだな、ジュンコ」
 あらためて何度も念を押した。その時には電気棒は取っ手の部分が出され、回転部分が操作されて電圧調整を終えていた。
「しょ、将軍! 許してっ、やめてっ!」
 カチッとスイッチの音が聞こえた。ビクンっとマリアの全身がひくついた。が、まだそれ以上の変化はなかった。
 ぴちぴちとした美尻の中心からはみ出た取っ手のダイヤル部分をゆっくり回転させていくにつれて、「わーん」という悶え声と共に、スルメが炙られるように上体が反っていった。
「うわわっ、わっ、ワアアアーッ!」
 目が見開かれていき、下になった手と、大股開きされてベッドから余って出た足の先を、チェーンの擦れ合う音でがちゃがちゃいわせて苦悶が大きくなった。
「ギャアアッ」
 という悲鳴と共に全身が激しい痙攣を開始した。ぶるぶるぶるぶる、身体全体が発動機にでもなったかのように小刻みに震えて、そして悲鳴を絶え間なく響かせているのだった。
「マリアっ。マリアーっ!」
 無意識的に反射的に駆け寄ろうとしてまたマルガに取り押さえられた。
 キンバリーのダイヤルを摘む手が大きく動いた。
「ギャッ、グギャアアウウウーッ!!」
 凄まじい悲鳴。壮絶な痙攣反応。小刻みな痙攣のほかに、手足をガクガクさせて瘧(おこり)にでも罹ったかのように絶叫をあげる顔までがぶるぶるぶるぶる震えているのだった。
 卒倒電圧を維持したまま、キンバリーが電気棒を右手に握った。ゆっくりと引き抜きにかかった。と、瘧の顔も、ガクガクという震えを含めた全身痙攣もだんだん弱まっていく。
 悲鳴も変化した。
「ぎゃああ……」と泣き叫んでいたのが「ああ……」になり、電気棒が半分くらいも出てしまうと「ふううー……」という溜め息。表情もさっきまでの断末魔が嘘のように和らぐ。
 どうやら体内の深みで発する酷たらしいほどの電流は、そこから放射状に分かれて内臓全体、身体全体を感電させているようだった。
「どうだ、うん? どんな気分だ」
 キンバリーがマリアにささやきかけている。
「言ってみろ。ジュンコに教えてやれ」
「うーう。人でなし!」
 目を吊り上げて吐き捨てた。
 また、棒を押し込んでいく。「ぐええー……っ」という呻きとも喘ぎともつかぬ声。汗で光る上体が炙られていき、反り返っていき、ガクガクガクッという卒倒痙攣。声は叫びに転化した。目を見開いて泣き叫んだ。
「どうだ。さあ、言ってみろ、このっ!」
 肩を押さえ、どやしつけるつもりで後ろ髪を掴んだキンバリーがビクッと驚いて手を離した。そればかりか飛び退くように後ずさった。
 思わず洩れる失笑。ただ、他は誰も呆っ気にとられ、笑っているのは教祖だけだった。
「キンバリー、お主ほどの者が……」
 教祖が腹を抱えるほどに大笑した。
 純子はぞっとしていた。あの大女が驚いて飛び跳ねるほどの電流が、今、マリアの体内の奥で駆け巡り、内臓器官を酷たらしく蹂躙し尽くしてるということなのだ。
「ワワワアアアアアアーーーーー……!!」
 激しい電撃痙攣反応と共に、マリアが上体をせいいっぱいのけ反らせながら断末魔の叫びを響き上げているのだった。
「きょ、教祖様っ! 言います、喋ります!」
 純子が叫んだ。その叫びはいったんはマリアの絶叫に掻き消されたが、純子は2度目はそれに負けずに声を張り上げた。
「教祖さまぁぁーっ!!」
 手を大きく振り挙げ、感情を顔いっぱいに大声をあげた。
「む? ジュンコか」
 目が向いた。
 ガイコツの手がキンバリーを制した。
 即、マリアの痙攣も叫びも、教祖の手の動きと共に弱まった。
「やっと言う気になったか」
 全身汗みずくになってガックリ、死んだような身体からはあはあ、ぜいぜい異様とも思える喘鳴音をあげつづけるマリアを横目に、純子はゼーラ脱出後のすべてを、チリ軍大尉マヌエル・グスマンとの逃避行を包み隠さず自白することになった。




砲 声


 その日の夕方である。
 遠くで砲声が鳴り響いていた。
 それを最初は誰もが雷鳴と聞き違えた。丘をくり抜いたトンネル要塞の中は半地下状態で、外界の音とも疎遠だったから砲声を雷の音と聞き違えたとしても無理からぬことだった。
「何だ、今のは?」
 教祖の疑問にマルガが答えた。
「嵐でしょうか、こんな時だというのに……」
 こんな時というのはもちろん、明日からのパーティーを前提としており、すでに1日を切っており、今から18時間後には来宴者を迎えるという時も時だった。
 もっともゼーラ奇襲を知らせたマリア、知らされた純子にしてみれば、別の意味での明日の今日ということでは、ゼーラに嵐が近づいているというのもまぎれのない事実だった。
 純子は小躍りしたい気持ちを一心になだめていた。マリアも同様だろう。それとなく見ると、憔悴の極みの彼女の目にも確かに精気がよみがえり、生きていく気力を盛り返していた。
 その変化をマルガも見ていたようだ。
「24日……」
 と独白めいてつぶやいた。
 教祖もそれを耳にしたが、さすがにぶっ続け2日間の加虐プレイ――こっちにしてみれば被虐地獄だが、それが年寄りの身にはこたえか、マルガの独白など右の耳から左の耳で、
「さすがに疲れた。今日はもう寝んといかんかな。大事な日を前に、この体調では……」
 そう言って車椅子の介助を言いつけようとミランダを振り返った時だ。
 マルガが首を振ってあくまでこだわった。
「いえ、そうじゃないんです」
 氷の美貌が蛍光灯のせいではなく青ざめて見えた。
「なんじゃ、何か気になることでもあるのか? だったら遠慮せず言ってみい」
「よくよく考えて変とはお思いになりませんか? 拷問やフィスト姦に耐えているあの2人、どこか示し合わせているような雰囲気があるのを感じませんでしたか?」
 マルガの淡々とした指摘に、純子は文字どおり凍り付いて足が床に釘付けとなった。
 知られていたのか!? 疑っていたのか!
 この女、一目見た時からただならぬ不気味さをただよわせていたが、やはりただ者ではなかったのだ。キンバリーやミランダとは異質の人種だという直感は的を得ていたのか。
 教祖が「ぬぬぬ」と歯ぎしりしながら目を吊り上げていた。
「24日……」
 冷血女が、これで2度繰り返した。
 がしかし、マルガの疑念はある一点でストップしていて助かった。
「わたし、ふっとそうじゃないかと思ったんですけど、あまりに突飛なことだったのでそのままに。で、今は思い出せないんですけど……」
 懸命に思案し、首を傾げたりこめかみを指でつまんだり。と、

 ドーン……

 こんどは明らかに砲声と分かるそれが純子の耳にも聞き取れた。
「雷ではないぞ。今のは砲声だぞ」
「はっ」
 とキンバリーが畏まってあらたまった。
 キコキコと無意識に自分から車椅子を漕ぎだしたものの、我に返ってミランダに押させようと振り返ったその時――
 廊下に足音が迫って、軍事部門最高責任者ゲットナーがノックし、ドアを開けて姿を見せた。「どうした!?」
 訊ねる教祖の慌てぶりに比してゲットナーは意外に落ち着いて報告した。
「電話が通じなくなってご心配かと駆けつけましたが……」
「今の砲声は何か!?」
 余りのその場の狼狽えようにかえって報告を躊躇している風だった。純子らへの不審と連動させての砲声だなど、ずっとこの場とは無縁のゲットナーに分かるはずもなく、
「はあ」と、間の抜けた返事をさせて教祖を怒らせた。
「砲声は何かと訊いておる。バカ者!」
「は、はい。砲声はタルカの第16歩兵連隊のようです!」
 ゲットナーが冷や汗を掻いて答えた。
「あそこは山岳歩兵大隊。それがどこで?」
「パレルの近くで緊急の治安訓練の模様です」
「今ごろ何の訓練で……」
「クーデターです」
「クーデターだと!?」
 教祖も他の連中も、純子もマリアもみんな唖然として呆っ気にとられた。
 これまで何度かおなじような噂や臆測は乱れ飛んだが、すべてデマ情報、根拠のない伝聞として雲散霧消したが、ここへきてにわかな信憑性に満ち溢れた。
 そして3度目の砲声――
 コロニアル・ゼーラに風雲が急を告げた。



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以下『文献』「映像」[サイト]を参照とした

[「黒い九月」と「モサド」の報復合戦](ヘブライの館2)
『サンチャゴに降る雨』(大石直紀著、光文社文庫)
[白バラの心 No.17](若林ひとみ__白バラが紅く散るとき)
「失踪・チリ政治犯 20年目の追跡調査」(1993年イギリスBBC制作、NHK-BS「世界のドキュメンタリー」)
[1000kmの旅](写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”/20090405)
[チリ軍事クーデター前後の旅日記](街角の旅日記)
『南京の真実』(ジョン・ラーベ著、平野卿子訳、講談社文庫)
[南米チリに築かれた“ドイツ人帝国”の実態](ヘブライの館2)
『20世紀最後の真実』(落合信彦著、集英社)
[ユダヤ難民に冷淡だった欧米諸国](ヘブライの館2)

*なお、ブラウザによっては壁が固定せず、スクロール移動してしまいます。
 その場合、インターネット・エクスプローラーなどにブラウザ変更してお試しくださるようおすすめします。


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●マルガリテ/純子__嵐のなかで…●

カット写真 純 子
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