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『嵐のなかで…』第一創作の記
純子さん


チリでピノチェトが主導する軍事クーデターが起き、それまで平和で民主的な政治を主導していた大統領サルバドール・アジェンデ・ゴセンスが殺され、人民連合政権が倒された年は、わたしが東京都世田谷にある障害者施設で職業訓練指導を受けていた20代の頃でもあった。
 クーデターは「ピノチェト主導」と最初に書いたが、そもそもこの血の粛正に時のニクソン政権とCIAが深く関与し、莫大な金と人を動員したアメリカの援助なくしてあれほど周到に迅速に政権転覆がなされたかは疑わしい。しかるにアメリカ主導の政変と曰く所以でもある。

『嵐のなかで…』が今回三章前篇までで合計4回更新し、いよいよ佳境となった。その総括としての雑感は「第二創作の記」にゆずるとして、ここではコラボの相方である純子さんを紹介し、彼女なくして本作がここまで完成度を高くすることはなかった点を強調したい。
 わたしにとってチリ・クーデターの再現は宿願だった。その実現を仮にもSMなどという形を用いることは史実上も、また今も捜索途上にある幾万という政治的失踪者(被拉致被害者)と、拷問被害・犠牲者に対する冒涜とのそしりを免れない危険を承知の上でもである。

わたしは『嵐のなかで…』を被虐者=犠牲者の観点に従って書くことにした。ここではサディズム=サディストは悪である。わたしの狙いは、マゾヒズムに対置させるサドを人間のマゾ性に付け込んだ悪=非情な政治的メカニズムとみなし、それと二重写しにしたのである。
 しかるにサド=悪、マゾ=善ということでは決してない。しばしばSMは政治や戦争目的に利用され、悪用され、権力をもたない庶民はその中で翻弄された。それをチリ・クーデターという素材に寄りかかった“わたし流のSM”として読んでもらいたかったに他ならない。

そんなことをつらつら考えていた去年12月、暮れも押し詰まって純子と名乗る女性からメールをもらった。純子はもちろんハンドルネームだが、その自己紹介に驚いた。「日本ではまだめずらしい電気責めプレイを受けている30代女性」という部分が雷となってわたしを打った。
 創作初期の『綾乃』でも、わたしが書く電気責めは妄想などではなくリアルとして再現してきた。実践に基づく強みで経験者からはそれなりの評価も得た。ただ、それら経験者はMだった自分も含め男ばかりで、いつか女性の被験者が現われないものかと待ってきた。

そこへ純子さんからのメールであるから、正に青天の霹靂! 驚天動地!
――わたしをモデルに
 “電気責め小説”を書いてください
 こう見えても作家のはしくれ。そう懇願されて嬉しくないわけがない。
 こうしてメールのやりとりが始まった。「どんなプレイの、どんな責めがお望みか」「たとえばこんなことを、こんな風にと書いてください」「純子さんの希望をわたし流に咀嚼します」そうお願いし、返ってきた文面は……
 上手い。そのまま小説に使えるとさえ思った。

共同プロデュースという冗談提案は、即創作コラボへと発展した。
 そうして8か月もの時が経った。
 純子さんは、それこそ過剰と思えるほど素直にわたしの指示に従ってくれた。その間にはわたしの我が儘から対立することもあったはずだが、純子さんの“大人”で折れてくれた。純子さんでなければ保たなかったに違いない。
 純子さんからは頻繁なメールのほか写真も戴いた。そうしたことでリアルな人としての純子さんへの思い入れも高まり、それは当然、創作に対する刺激にも糧にもなった。

やっとゴールが見えてきた。しかし、それは単に『嵐のなかで…』一作のゴールであって、コラボ作家純子さんとのゴール=終点はまだまだ先のことだ。純子さんとはこの先、別の企画も着々構築、起動、進行を控えているからだ。
 今回、画像使用の許可をありがたく頂戴しました。
 とびらの壁、一章途中、三章前篇の壁に使用した3枚全て純子さんご本人であることをお断りします。また、読者の方には純子さんの素敵な画像をご覧戴き、小説『嵐のなかで…』をよりいっそう身近に感じて戴く――それは被写体純子としても望外の喜びであります。

最期の最期にもう一つだけ――。
 本作の大部分はSM小説の体を成しておりますが、二章に限ってはとことんチリ・クーデターの歴史的再現にこだわりました。それを可能にしたのが[街角の旅日記]サイトにある「チリ軍事クーデター前後の旅日記」ページです。
 1973・9・11(クーデター勃発)をはさむ7月13〜10月8日の体験記は生々しく精緻を極め、現地の気候や風土、言語や通貨などを知るうえで貴重な資料になり、これが本作執筆を底上げした貢献度は計り知れません。紀行文執筆者の方には謹んで深謝申し上げます。


“チリ富士”の異名もあるオソルノ山を望む

(2007年9月5日更新)  



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チリ軍事クーデター前後の旅日記
〈街角の旅日記〉コンテンツの一、小説『嵐のなかで…』を底支えした最重要資料サイト


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