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軍政下の人権弾圧を追求する各国の要請を受け,昨98年秋,ピノチェト元チリ大統領が入院先のロンドンの病院で逮捕された。その罪とは,73年にアジェンデ民主政権を武力で倒して以来,3000人もの人々を殺害したといわれていることである(実数はそんなものではない!)。
しかし,そのチリ・クーデターは,多国籍企業ITT(世界最大の電信電話会社)による自国の莫大な利益を守るため,時のニクソン政権とCIAが結託したものであることも今では周知の事実。映画「ミッシング」(82年米,コンスタンチン・コスタ・ガブラス監督)は,クーデターのさなか失踪した米青年の行方を追って,父と息子の妻による現地での必死の捜索活動を通して権力犯罪を描いたものだ。それまでは善良な一市民に過ぎなかった男が,真相を知る過程で変貌し,ついにはニクソン、キッシンジャー等,時の実力者を名指しで告発するまでになる。その父親像を演じたジャック・レモンの好演が映画に厚みを加えた(上左画像 ジャック・レモンとシシー・スペイセク)。
松本清張の作に「日本の黒い霧」がある。一大流行語まで生んだこの名著は,戦後の混沌とした時代に起きたドス黒い事件の数々にメスを入れたもので,「下山事件」「松川事件」など,豊富な資料と独特の推理で暴き出した犯罪の実相に触れたとき,そのあまりに巨大で醜悪な権力構造に粟立つ思いさえ感じたものだ。
「日本列島」(65年日活,熊井啓監督)は,丸ごと「日本の黒い霧」を映画にしたような作品,といったらいささか乱暴に過ぎるだろうか。監督熊井はこれの前作にあたるデビュー作が「帝銀事件・死刑囚」で,81年にも「謀殺・下山事件」を作っているから,清張ともども,日本の混乱期に起きた一連の事件への異常なこだわりぶりがうかがえる(下画像 証言を迫る宇野重吉と苦悩する芦川いづみ)。
1959年秋─キャンプ・CID(犯罪調査部)の通訳主任・秋山(宇野重吉)は,上司の米軍中尉からリミット曹長怪死事件の調査を命じられる。秋山は警視庁に黒崎警部(鈴木瑞穂)を訪ねて事件のあらましを聞き,リミットの愛人で,かつては秋山の教え子でもあった厚子を訪ねるが彼女は病の床にあった。さらに,昭和新報記者・原島(二谷英明)から,事件の背後に組織化された贋ドル製造グループの影があることを聞かされる。原島も事件の謎を追っていたのだ。再び訪ねたとき厚子は危篤状態で,いまわの際に「涸沢」という名と「ザンメル」の言葉を残し,死んだ。ザンメルが精巧なドイツ製印刷機だということも後に判る。その技術者で,謎の行方不明を遂げた伊集院少佐のことを黒崎から聞いた秋山は,伊集院の一人娘・和子(芦川いづみ)に会って事情を訊くが,なぜか和子の口は固い。
秋山は新婚1年で妻を米兵に犯され,殺害された過去を持つ。今の職についたのも真犯人を捜すためだったが,目星をつけていた米兵は朝鮮戦争に送られ全滅,事件はうやむやにされた。このまま闇に葬らせてなるものか!
理不尽な暴力で妻を奪われた秋山の痛恨の思いが,原島や黒崎と共にリミット事件の奥にうごめく巨大な権力犯罪の解明へと向かわせる。「精巧な機械も技術者なしでは役に立たない」と,父の生存をにおわされ和子も重い口を開く。だが,調査の過程で次々と重要証人が謎の死を遂げ,秋山にも刻々見えざる兇手が迫る…。
暗い映画である。だが,わずかな光は確実に次代に受け継がれている。薄暮に聳える国会議事堂のシルエットを背景に,和子が風にほつれる髪をかきあげながら力強く歩くラストシーンが胸に滲み入る。
●●●特報!!! 本作を含めた熊井啓監督作品4作品を収録したDVDボックスが12月に発売される。
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