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第3章 ヴェラ・フェドビッチ (後篇_その2)



生体解剖


“ヴェラ脱走”に先だつ2時間ほどまえ――
 ここは七特から5キロほど離れた女性専用施設、ラーフェンスブリュック収容所である。
 その医療棟の一室で――
「ぎゃああああーっ!!」
 すざまじい悲鳴は絹を裂くように響いた。
 手術室の無影灯の下にさらされた生まれたまんまの姿は、四肢を大の字拘束されて烈しい痙攣をくり返した。股間から4本のコードがでて壁際の四角い配電機につながっている。
 スイッチが切られた。
 その瞬間から痙攣もピタリとおさまった。
「わしの妻を殺したな? あの拳銃はどこで手に入れた」
「ちがいます、わたしが奥様を殺すだなんて。なにも憶えてないんです。なにも……」
「まだ言うか。おのれ!」
 そう言ってセバスチャンがコントローラーのスイッチをひねる。
「ぎゃあーっ!」
 また、悲鳴と痙攣がくり返された。
 尋問にアンケがくわわった。
「質問を変えよう。おまえの仲良しのヴェラ、あの女との関係をぶちまけろ」
「ヴェラさんとはなにも……」
 セバスチャンがスイッチ操作しそうになるのを「ま……」と、アンケが制し、椅子を置いて座ると、股間からワニ口を2つはずし、別の手で無毛の割れ目を剥きあげた。ぬめったピンクの淫肉と鋸刃状の膣孔、それとは別の突起と孔(あな)を狙った。
「オーケー」
 横でスイッチを入れるのを確かめ、アンケが2つの部分にワニ口の先を押し当てた。
「ウギャアアアーッ!!」
 つぶらな瞳が飛び出すほど白目を大きくし、拘束寝台をガタガタ震わせて絶叫した。
「ほら、ほーら」
 なおも強く押し当てた。
「ヒギャアアーッ!!」
 手足の先が苦しまぎれに空を掻きむしった。
「ヴェラの素性は? あらいざらい吐けっ」
「ギャアアアーッ!!」
 耳をつんざく叫びはつづいた。その間、しょうたれ癇性女リリアンを含む男女4人が、薄笑いを浮かべつつ見入っていた。
 アンケが合図してやっとスイッチが切られた。汗で光るナージャの全身が烈しく喘いだ。
 電極を当てられた部分がただれていた。
 疲労もいちじるしい。
「かんじんの場面で保たなくてはつまらん」
 シュテファンがアンケに耳打ちし、セバスチャンも大きくうなずいた。
 アンケが立ってナージャの顔のそばに寄った。
「おまえを連行してきたオットー大尉、彼はゲシュタポ本部に呼ばれていまは不在だが、わたしは彼から全権を委任されている。おまえは死ぬのだ。ここで処刑されねばならぬ」
「え?」
 その瞬間、ナージャの顔から血が引いた。
「おまえがこの方の奥さんを銃撃したこと、これは多数の目が見ている事実。たとえ気が触れたにせよ、人一人殺(あや)めてすむことではない。ましてやおまえはロ助の淫売の身ぞ」
「わたしはほんとうになにがなんだか……」
「だまれっ! ウジ虫! 
 最愛の妻を奪われたこの方の怒りのほどを知れ。娑婆はどうあれ、収容所内で囚人が一般人を殺傷した場合は即死罪。それも被害者遺族が求めるどんな方法にても甘受せねばならぬ」
「………!!」
 ナージャに、間もなく訪れる自分の運命の苛烈さがやっと理解することができた。茫然自失。やがて狂ったように泣き叫んで命乞いする――誰もがそう信じた。
「分かりました」
 静かにうなずいた。4人が顔と顔を見合わせた。
「解剖刑だぞ」
「カイボー……?」
「そうだ。生きたまま切り刻まれ、ひとつひとつ臓器を取り出され、バラバラにされる。そういう残酷な死があたえられる復讐刑であり、収容所に於いてはそれが認められておるのだ」
 アンケが得意の弁舌で口からの出まかせを言った。
「………!!」
 ナージャの目が、みるみる見開かれた。ヴェラも好きだといったリンゴの頬っぺはすでに血の気を失っていたが、それがわなわな、ぶるぶる震えた。
「あ、あの……」
「なにか。命乞いは聞かんぞ」
「おねがいが……」
「だから命乞いは――」
「そうではありません! ベレスタの……いま、わたしが付けている髪留めをこの手に握らせて欲しいんです。それを持って死にたいんです」
 涙を浮かべて懇願した。
 アンケが許可した。そして、ヴェラの妹ニーナの形見でもあり、それゆえ使いこなされてくすみをたたえた、生まれ故郷の民芸品、白樺細工の髪留めをナージャの髪から手へと渡した。
「では、麻酔を――」
 言いかけたとき、「待て」とシュテファンが止めて手術室の隅に引っ張って行った。
「本気で言っとるのか?」
「は?」
「麻酔だ」とつづけ、あとの段取りを2人だけにしか聞こえぬ声で打ち合わせた。リリアンだけは終始“圏外の人”で、したり顔のセバスチャンの横でポカンと突っ立ってるだけだった。
 2人がもどって、シュテファンが告げた。
「目をつむって口を開けろ」
 しかたなくしたがったとき、麻酔ではない別のものが入れられた。
「ふがっ、あがっ……」
 目を開けたナージャの口は、救急用マウスピースで塞がれていた。どんなに閉じようとしても、歯が堅い異物にカタカタ当たるだけだった。
「むがっ、うがっ、ふががーっ!」
 ナージャが顔を真っ赤にし、なお口を閉じようと躍起になって首を振った。
「あれを見ろ」
 シュテファンが壁の高いところに顔を向けた。そこに時計があったなど知らなかったが、いま短針が8と9の中間、長針が6近くを差しているのをたしかに認めた。
「腹を裂いたから死ぬとはかぎらん。臓器をいくつか取られても生きてる例はいくらもある。子宮や卵巣がないくらいで死にはしない。分かるだろう?」
 ナージャが頼りなげにうなずいた。
「あの長い針が一回りするまで持ちこたえられたら無罪放免してやろう。できるかな」
 あとはアンケに執刀をうながした。
 白衣を取りに行くのをセバスチャンが止めた。
「“白”はいかん。まだ、コントロールが十分解けておらず、興奮するぞ」
「そんな……」
 一張羅の軍服が惜しくて躊躇するアンケを、シュテファンがなだめになだめ、4人は七特からの服装のまま解剖の場に立った。
「どこからはじめるかの?」とセバスチャン。
「そりゃあ、やっぱり」とシュテファン。
 4人が4人、つるりと剃られた剥き玉子の割れ目をのぞき込み、アンケがメスを当てた。
「むあー……!」
 恐怖にすくみあがり、手足をしっかり固定された全身の背中だけビクンと浮き上がった。
 メスが臍の下1センチを切り下げた。
「ムギャアアアアアーッ!!」
 耳をつんざく絶叫とともに白い肌の、縦にきれいに伸びた裂け目が開いて鮮血がほとばしった。

 戦後の1965年、「ラーフェンスブリュック抑留・拘留友の会」というグループが編集した卓抜な個別研究がある。そこには、女性拘留者たちの日常がこまやかに描写されているが、その編纂にあたっての途次、1943年1月の部分に不思議な記述があった。
 ――目が醒めると病室のベッドでした。
 たまたま労働中のケガ治療で医務棟へきたわたしは、そのまま忘れられたのです。
 突然、となりか、またそのとなりかで悲鳴が聞こえました。恐ろしい悲鳴です。悲鳴というより地獄の底から聞こえるような、ものすごい唸り声といったらいいかも知れません。
 人が倒れる音がしました。
 そのあと、誰かがひどく叱られてました。その人は間もなく部屋から出ていったようです。
 それからまた悲鳴。「ぎゃあっ」という悲鳴が、血を叫ぶような激しさで断続的に、ひっきりなしに、つづくのです。恐ろしくて恐ろしくて布団をかぶって耳をふさいでました。
 とっさにわたしは前年8月から行なわれていた、15歳から25歳までのポーランド人女性に対して行なわれた、SS医師ゲープハルトによる人体実験を思い出しました。
 全員が足に障害のある「ウサギ」で、彼女たちは健康な足の膝と踝(くるぶし)のあいだをへし折られ、切り刻まれ、主な筋肉、神経、骨の小片など採られ、その際の苦しみ方はひどいもので、だからその関連と疑ったのですが、それとはちがうようでした。
 絶叫は一晩中つづき、わたしはまんじりとも眠れぬ夜を明かしたのでした………
 この証言の半分は正しく、半分は悲鳴のすざまじさが消せない記憶となり、朝まで幻聴のようにつづいた結果であろう。
 ただ、その筆者が記憶にとどめた1月の期間、ラーフェンスブリュックで該当する手術や生体解剖はなかったとされており、裏づけのないまま“地獄の底から聞こえるような唸り声”の部分は公式記録から削除されたのである。

 鬼畜の所業がいよいよ最終段階をむかえる時刻、手術室のアンケらのもとに、収容所につづく街道を張っていたゲシュタポから“ヴェラ逮捕”の一報がもたらされたのだった。




ヴェラ処刑


 そこは収容棟裏手の崖下にある地下の懲罰蔵でも、いちばん奥まった部分に位置する秘密部屋だった。60平米ほどの広さの3分の2は3、40の椅子で占められ、残り部分に開脚寝台が置かれ、そばの配電機から伸びる無数のコードは寝台の拘束ベルトと結ばれていた。
「今夜こそはこの部屋を用いますよ」
 電気処刑室はずっと“開かずの間”にしてきた。それをまたぞろと、ヘルガが顔を曇らせた。
「オットーらはこないのか?」
「発砲事件のあとベルリンに呼ばれ、わたしらとは別行動です。例の娘の“処刑”にも立ち会ってません。ほかも部外者なれば――」
「ナージャになにを!?」
 つかみかかるヴェラをヘルガが押しとどめた。
「どうしても処刑するのか?」
「脱走までさせて、お咎めなしはないでしょ」
 それこそ管理者責任だぞと目が威嚇していた。
「ヴェラに粗相のあったときは、処分をわたしに任せる。それが客を取らせぬ条件として、あんたがわたしに約束したことですよ」
 それ以上のかばい立ては無理と踏んで、つと同情の眼差しをヴェラに向けてきびすを返した。
「おや、見物しないんですかい? こいつのオマンコがジュウジュウ焼けて煙を発する“膣電流”を、とっておきの見世物なのに」
 アンケが去っていくヘルガの背中にえげつない戯れ口を投げかけた。そしてヴェラには、
「脱げ。素っ裸になれ」

 医務棟をでてほどなくヘルガは足音が2つに増えたのを知り、その足音が誰かも分かった。
「ロブ、いたのか」
 立ち止まって追いつくのを待った。
 怪異な容貌の元戦車兵が息を荒げて追いついた。
「奴め、ヴェラを殺しますぜ」
「すまぬが、すぐにラーフェンスブリュックへ走ってくれ。ナージャがどのように殺されたか証言者をつかまえてきて欲しい」
「だって、そんな――」
「いや、リリアンが処刑途中に肝を冷やして倒れたとのことだ。アンケめ、わたしに当てつけたつもりで、うっかり口を滑らしおった。“解体”なら一人ではできん。助手がいたはずだ」
「解体!?――まさかあの娘を解剖したと?」
「ロブ、いかな無神論者のおまえでも今夜だけは祈ってくれ。アンケといえど麻酔なしでやるような人でなしでなかったことを祈ってくれ」
 ヘルガがうわごとのようにつぶやいたが、その望みがむなしかったことはいうまでもない。

 全裸のヴェラが、文字どおり大の字に寝かされ、開脚寝台に縛りつけられていた。
 拘束ベルトにはコードがつながっている。
 それにしても毛深い! そう思ってアンケが陰毛が潤沢にひろがる陰部に指を沿え、割れ目を開いてぬめぬめとした赤身の秘肉を露出した。
「よせっ、汚らわしい!」
 羞恥から無意識に手足をばたつかせたが、力むことで鍛えられた四肢のあちこちに筋がくっきりと浮き立ち、嗜虐者の目をよけい愉しませることになった。
 寝台の腰部は尻が抜けない程度に切り込まれており、したがって性器の下に位置するアヌス穴までが無防備状態だった。
「ターニャらもきた第一日目の夜に、おまえ、たしかこいつのカマを掘ったんだよな」
 リリアンが口元をだらしなくさせてうなずく以外目立ったリアクションを示さないのは、いうまでもなく3時間ほどまえの失態を恥じてのことだ。
 ここにきてまで役に立たぬ奴と見切り、アンケは自分からダイヤルを回して電圧を設定した。
「楽には死なさんぞ」
 いうが早いか、
「ギャアアアーッ!」
 絶叫をあげて、ヴェラが全身の筋を浮き立てて烈しく痙攣した。
 スイッチがきられて、悲鳴も痙攣も止んだ。
 すると、また通電。
 すさまじい悲鳴。
 なんどかくりかえされ、悲鳴と悲鳴のあいだには肩で息をしながら苦しそうに喘いだ。
「パルチザン戦士さんよ、意外にもろいじゃないか。え? 収容所生活で体力が落ちたか。掃除夫の働き程度では筋肉が保てなかったか」
 その嘲りにはじっと耐えたが、
「ナージャはもっとおとなしかったぞ」
 その名が出たとたん「きっ」と顔を振り向けた。
「あの子をいったい……」
 即座にスイッチが入れられた。
「うっ、うぐうーっ!!」
 全身が、また激しく筋を浮き立たせた。
 こんどは耐えた。声を抑え、歯をくいしばるヴェラが、必死の形相を真っ赤にした。
 アンケが配電機のダイヤルを回して、なおも電圧盤の目盛りをはね上げた。
「ひげえーっ!!」
 ヴェラが、額に青筋を立ててのけぞった。
 その一瞬、部屋の照明が翳ったようにも感じられ、全身の痙攣が寝台を揺らすほどに強まった。同時にケダモノじみた悲鳴を発した。
「ギャァァァァーーッ!!」
 悲鳴は絶叫に変わった。
 耳をつんざく叫びの凄まじさに、リリアンが思わず知らず棒立ち姿勢をとっていた。
 手も足も、胸にも腰にもベルトが架けられ、自由といえば首からうえだけ。その首をキチガイのように暴れさせ、髪を振り乱して泣き叫ぶヴェラの苦悶はこの世のものとは思えなかった。
「ギャアアアッ! ウギャアアアーッ!!」
 激しい叫びの間中、ベルトを架けられた手足の筋肉がプルプル筋立ち、これも電気反応というのだろう、手指や足指が勝手な方向にひきつり、空を掻いて震えていた。
 変圧ダイヤルがようやく逆回転し、悲鳴も潮が引くようにおさまった。
 スイッチが切られ、あとには荒い喘ぎ声だけが「ぜいぜい」と残った。
 またダイヤルを昇圧側にまわした。
 こんどは役に立ってもらわねばと、
「リリアン!」
 呼ばれて棒立ち姿勢がびくついた。
 リリアンの手をスイッチに触れさせて命じた。
「言うまで押すんじゃないよ。電圧も勝手に変えるんじゃない、いいねっ」
 厳しくいいつけた。
 それからアンケは、汗でローションを塗ったようなヴェラの全身をゆっくりと見わたした。
「なかなか美味そうな身体だ。女の身でここまで鍛え、しかも、ほどよく女としての魅力を残している……焼きつぶすまえに味見してやる」
 そう言って手術用の手袋を両手にはめた。
「よ、よせっ」
 拷問には音を上げなかったヴェラが、凌辱の予兆には意外なほどびくついた。
 開かれた股間のまえに椅子を置いて座ると、アンケはさっそくヴェラの女を剥きあげた。
「くっ!」
 凌辱対象が口を結び、歯を噛みしめた。
 ぬめった赤身部分が口を開けさせられ、わずかに尿臭さもする。それをむしろ愉快とし、アンケの指は淫唇と淫唇の合わせにつんと突き出た肉の核を親指の腹に微細な動きをあたえて転がした。
「ひ……」
 ヴェラが腰をぶるっとさせた。
 これまで何十人となく無抵抗の女たちをなぶり、快楽の弱点もツボも極めた中年女の指にかかって、ヴェラは早くも感じていた。感じながら、その反応を必死にこらえた。
「さあ、よがれ。甘い声で泣いてみよ」
「く、変態めがっ!」
 唾でも吐きかけぬ勢いで拒否した。
「リリアン!」
 名前が呼ばれた瞬間、リリアンの手が反応し、
「ウギャッ、ギャアアアッ!!」
 耳をつんざく絶叫が叫ばれ、開脚寝台がガタガタと揺れた。ヴェラの全身には、いまにもブチ切れるかと思うほど筋が浮き立った。
 右手でクリットをなぶる一方、アンケの空いている左手が内腿をつまんだ。
「この固さ、筋の張りぐあい、いい感触だ」
 鍛えられた太腿の触り心地に満足した。
 と、アンケになぶられる性器の、膣とは別の口からたらたらとしたたるものが――それはたちまち勢いを増し、ぼたぼたと、次いで水道管が開いたようになってジャアジャアつづいた。
「ほっ」と言ってアンケが吹き出した。
 失禁したのだった。間もなくそのあたりに尿臭さがただよった。
「止めっ」と、手を挙げて制した。
 悲鳴が止んで、大の字の全身ががっくりと力を失った。
「くふふふ……おい、見てみい。こいつお漏らししよった。それもまた大量に。だらしない」
 アンケにいわれ、リリアンが水たまりになった床を見下ろしてにんまりした。
「それに、これだ」
 割れ目をひとすくいした手袋の指を、天井の明かりにかざして示した。
「あ、血っ!」と声にだして驚いた。
「拷問のショックが生理不順をきたしたのだ」
 その言葉を裏付けて、尿臭さとはちがう生臭さが確かにたちこめた。
「拷問途中にはよく見られる現象。女責めは、これだから面白くてやめられんのだ」
 さも愉快そうに笑った。
「そこのトランクを取れ……取ったら開けて、アンヌに試した道具を持ってこい」
 また指示を与えた。
「指でオマンコを開いて押さえてろ」
「ふっ、ああっ!」
 ヴェラが激しく暴れた。だが、身体の10箇所までベルトで固定され、背中を浮かすか首を振るのが精一杯だった。
 それをいいことに、アンケはドライバー状の電極を用い、一方をクリトリスに当て、残る片方を尿道孔へとゆっくり挿入した。
「ひいっ、ひぇーっ!」
 これまでは身体中を貫く電流の烈しい衝撃痛と痙攣に気も狂わんばかりだったが、こんどの苦痛は敏感の中心を突き刺すものだった。突き刺し、ジリジリ浸透して広がる超刺激だった。
「いやああーっ!」
 背中を戦慄が貫いた。ただの苦痛なら、いくらでも耐えよう。いや、むしろナージャや妹ニーナの地獄を思えば、この身に受ける苦痛は激しければ激しいほど、2人の運命の無惨さをわずかでも共有して気は休まるほどなのだ。
 だが、こんどの苦痛は――。
「ひひひひひ」
 アンケの口から、また薄気味悪い笑いが洩れた。それを聞きながら、ヴェラは肝が冷えた。戦慄じみた快感につらぬかれ、女の部分からほとばしるものを身内に感じていたからだ。
 こんな無様を、こんな奴らに――その呵責が、
「いや、いやあ、やめてぇ……」
 ヴェラの意外な反応に2人が目をみはった。
「男勝りのヴェラが乙女心に返ったような――」
 経血をしたたらせる陰部が今度はたしかに性臭をただよわせていた。
 細長い金属棒を差し込まれた小さな穴からしたたる愛液は淫肉を濡らし、アンケの手袋の手にもかかってぽたぽたと床にしたたり落ちた。
「う、ううーうー……」
 しっかりと目を閉じたヴェラの顔が、羞恥と憤怒でぶるぶる震えていた。やがてその目から涙が一筋ながれた。
 電極棒がクリトリスから離された。尿道からも抜かれ、たっぷりと濡れた電極の先を見つめるアンケが、また、なにごとか画策した。
「こいつはいま、苦しんで死ぬのを望んでる」
 リリアンが、一瞬ぽかんとした。
「こういう奴がもっとも堪(こた)える処刑法がなにか、リリアン、おまえに分かるか?」
 分かるまいなと目がそういったあと、
「明日は、こいつの同房者全員をこのまえに並ばせて見物させる。A級慰安囚のなかから、最高のエキスパート7、8人がかりで徹底的にこいつの性器をなぶらせ、よがり声をあげさせる。行け。いまからじっくり選別しておけ」
 その手配にリリアンが不満を顔であらわにした。
「まあよい。膣電流はそのうち誰ぞで試す機会がくるだろう。オルガかターニャか、それとも……」
 その想像がよほど愉快らしく、口元をゆがめるだけでは足らず声にだして笑った。そして、
「早く行けっ」とリリアンを急き立て、走らせた。
「さてと、まだ朝までは間がある……」
 手術用手袋の右手を拳に変えた。左手で膣の割れ目にすき間をつくり、右の拳を先を尖らせてぐりぐりとえぐり込んだ。
「うっうっ、いやっ、いやだぁーっ!」
 絶叫を響かせた。




不屈


 2日目、おなじ電気処刑室――。
 ヴェラを載せた開脚寝台のまえに、アンケとリリアン以外、あらたに12人が狩り出された。
 ヴェラだけ裸だった。拷問時と変わっているのは、10箇所あったベルトの拘束が膝を曲げた下半身の太腿、腰の3箇所だけに減らされ、上半身は後ろ手に縛られていること。それと腰の下にはシーツが敷かれ、シーツは余分な部分がまえにだらんと垂れていた。
 そのまえにソフィー、ターニャ、アンヌ、フランソワ、オルガと、怪我療養のジャンヌ以外の同房者全員ならばされ、ヴェラの横には上級クラスであるC棟慰安囚の性戯テクニシャンから、選りすぐりの7人が呼ばれていた。
「おまえたちにはヴェラのよがり声を聞き、マン汁垂らして悶えるヴェラをじっくり見物してもらう。すこしでも目をそらしたら――」
 その言葉を受け、すぐうしろに立つリリアンが愛用の乗馬鞭を唸らせた。
「まず、おまえとおまえ」
 差された女2人が、水商売あがりといった腰つきで出てきてヴェラの横に屈んだ。
「舌など使う必要はないぞ。こんなウジ虫にというより、それじゃまえの奴らに見えぬからな」
 そう言って笑った。
「どちらから?」
「どちらでも」
 2人が顔を見合わせ、示し合わせて左右入れ替わった。
 ヴェラの左にきた女が手を添えようとしたとき、アンケから「待った」がかかった。
「おまえが補助役か」
「はい」
「だったら両手を使え。毛深い奴だから両手の指を医具のようにしてバックリ開き、クリも小便穴もよく見えるように補佐せよ」
 うなずいてそのとおりにしたが、「ほんとに毛深いオマンコ」と洩らした一言に「よけいなことをいうな!」と叱責が飛んだ。
 あとは黙々と指示にしたがった。
 ヴェラのその部分は陰毛のジャングルで、それを左右4本の指で開いて、艶やかな赤肉の複雑な襞や突起がまざまざとさらされた。
 そこを狙って、もう一人が指で攻めた。
「くっ……! ひっ!」
 ヴェラが激しくビクつき、全身をくねらせた。戒めを解かれた後ろ手縛りの上半身は、性戯に反応して蛇のようにのたうった。
「ほれ、オルガ。よく顔を近づけて見よ」
 アンケが肩をつかんで身体をかたむけさせたら、不自由な足がバランスをくずしてよろけた。それを必死にもちこたえ、
「ヴェ、ヴェラさん……」
 つい目をそむけた瞬間を逃さず、ビシーッとリリアンの鞭が飛んで尻に当たった。
「こんどは尻では済まさんぞ!」
 そう威嚇して目を吊り上げた。ゆうべの萎(しお)たれ無様が嘘のように。
 ヴェラは早くも反応している。
 陰核をつまむ指先は動きが微細すぎて愛撫と見えないが、ぱっくり開かされた陰唇の中心がじんわりと潤み、その潤みがみるみる膨らんで盛り上がっていくのがハッキリ見てとれた。
「うっ、くくくっ……」
 歯を食いしばって声をこらえる顔のすぐそばにアンケが近づいた。
「泣いてみろ。よがってみよ」という言葉に、そむけるヴェラの顎をつかんで見物のほうに向けさせた。それだけでは飽きたらない。
「おまえの目も閉じさせんっ!」
 両手で無理に開かせ、同房者に見られているという意識と羞恥をあおった。
 つつーっと愛蜜が溢れ出た。シーツの上でぽとりとシミになった。それが2滴、3滴つづけて落ちてシミはたちまち広がった。
 なお溢れんとする愛液をリリアンがすくった。
「よく見ろ」
 ターニャに、オルガに凌辱の証を見せつけた。
 ヴェラの反応が激しさを増した。声ではない、顔ではない、その部分である。2つの指にはさまって淫核は固くなり大きくなり、ぷっくらと膨らんできた。
 腿にもふくらはぎにも、感じていることが分かる筋がぴくぴく浮き立ち、長く伸びた足指にも筋が浮き立って、その爪先もひくひく震えているのだった。
 そして……
 シーツには絶え間なく落ちるしたたりがシミを広げ、その広がりがなお大きくなっていく。
「ああ、あーっ!」
 目を開けて声を荒げた。首を振った。
「そうだ。切り刻まれて殺されたナージャを思えば、自分だけ羞恥をまぬがれたり、誇りを胸に死をねがうなど贅沢はできぬはずだ」
 アンケにいわれるまでもなく、いまは自らを罰すべく凌辱を甘受していた。
「ああっ、むううー、ん……ああ、ん……」
 我が身よ狂え、地獄に落ちろと、自責の念深く目を見開いて喜悦の声をあげはじめた。
「あっあっ……」
 大きく開いた目が、なお大きく見開かれた。
 絶頂が近い。だが、アンケは動かない。ここにいてヴェラの頭頂を押さえつけ、顔の、声の変化を観察するつもりなのだ。
 クリトリスへの指なぶりに、微妙に速さと強さが加わった。ヴェラの声も高まり、性臭もきつくなった感じだ。
「ああ、いやっ!」
 押さえ込まれた顔をいっぱいに歪ます。
「むっ、はあうっ!」
 左右に開かれた足の先がぶるぶるっと痙攣した。2本ずつの指で開かれ、また別の手の指でなぶられる付近、ぱくぱく息をするかに見えた膣孔からだらーっと乳液状の液が流れ出た。
「きゃははは……!」
 リリアンが目をみはった。その部分を指差し、
「ヴェラの“潮吹き”だ、凄い凄い!」
 バカ丸だしに足を踏み鳴らしてはしゃいだ。
 からかわれ、嘲られ、なすすべもなく射精を強制され、堰を切って溢れさせたものを見られる恥辱。薄目を開けて茫乎として喘ぐヴェラのその顔をアンケがじっと見ている。
「よし、つぎはアンジェラ」
 こんどは名指しした。
「おまえは、どんな不感症女でも10分以内にはよがらせる“黄金の指”を持っていたよな」
 呼ばれて交代した女が、こんどは両手の指を使った。秘貝をなお剥き上げ、ぷくんと突き出た勃起したクリトリスを、トトトトトトトと機関銃のような速攻で、が、しかし微細な力加減で攻め立てた。
 アンケがストップウォッチを計るそばで、ヴェラが早くもあられもない声を発しはじめた。
「あーあ、あーあ……」
 上体側ではアンケに代わって、手の空いた3人が乳房をむさぼり、唇に吸いつき、鼻腔を、耳たぶを舌でもてあそぶ。女たちの唾液にまみれて、べとべとの顔が身悶えた。
「2分……2分30秒……」
 30秒ごとに知らせながら、
「アンジェラは元タイピストでな。指先速効はタイプで鍛えた淫技だそうだ……そーら、4分たった!」
 ヴェラが泣き顔でいやいやをした。
「あ、あああーっ!」
 そむけようとする顔を2人がかりではさんで真っ直ぐまえを向かせた。
 左右に開かれた脚がぴくぴく筋立たせて、爪先が狂ったように空を掻きむしった。
「ぎゃあああーっ!」
 目も口も大きくして叫んだとき、ぴゅうーっと、溜まりに溜まったものが失禁したように勢い良く白濁状の淫液を噴出させた。そして、びしゃあっと床に飛び散った。
 またリリアンが笑いこけた。
 呆けた顔のヴェラから、激しい喘ぎが聞かれはじめた。
「よし、つぎは“逝かせくらべ”と行こう!」
「なんですか? それ」
 ぽかんとして、恐る恐るといった顔で訊く女。
「何分で逝かせられるかの競争さ。もちろん1人目よりは2人目のほうがハンディがあるから2人目はその分割り引いたタイムとする。どうだ? トータルして1位になった者へは、2週間の特別休暇をあたえ、その間客は取らせぬ」
「わっ」と歓声が上がり、たちまち全員、ヴェラの股間のまえに群がった。
「よし、くじ引きだ。リリアン、用意――。
 1番くじを引いた者は、できるだけ短いタイムを出しておかないとたちまち抜かれるぞ。さあ、やったやった!」
 アンケまでが子どもに返ってはしゃいだ。

 こうして5、6時間は、あっという間に経っていた。
「あうぅー……う、うう……あっ!」
 悲痛に呻くヴェラは、全身汗みどろだった。
 後ろ手に縛られた上体は3人の女にはさまれ、顔をそむけることもできず、乳房を揉まれ、耳たぶや喉元にむさぼりつかれている。
 逆に下半身はベルトを外し、あるいはゆるめ、1人が自由になった脚を肩にかつぎ、もう1人は戒めがゆるんだ脚を観音開きし、より淫らな格好にして残る2人が淫具をつかう。
 茫々のジャングルから顔をのぞかす2穴――べとべとの淫裂にも、アヌス穴にも張り型が突き立って激しく出し入れされた。
 腰に敷いたシーツの垂れた部分は、ほとんど渇いた箇所がないほどだ。黄ばんだ部分も見られ、いまでは汚臭もただよっていた。
「ムゴイのう、あたら若い女子(おなご)が、こんなにされてもまだ生きとるとは――」
 アンケが嘲り笑った。
「どうだ? 仲間のこんな姿を見るのは」
 そう尋ねてまわり、やにわにオルガの顎を取って顔を自分に向けさせた。
「おいウサギ、感想を聞いてやる。言ってみい」
「あの、わ、わ、わ、わたしは……」
 どもったとたんにリリアンがうしろから蹴りあげ、ビッコの脚でやっと立っていたオルガはどっとその場に倒れた。
 ごろんと半回転したとき、狂ったようなリリアンの鞭が襲った。
 尻といわず、腹といわず、もちろん不自由な脚も膝も鈍い音を立てた。オルガが思わず手でかばうが、囚着のすそが大きく乱れて小枝のような脚がなおいっそう痛々しく映った。
「醜い! 見苦しい! 隣りに連れてって鞭打て!」
 顔をしかめて追い払い、リリアンがオルガの髪をひっ掴んだ。
 凄い力だ。オルガはその手に掴まってすこしでも髪を守る以外抗するすべがない。そうしてずるずると床をひきずられて行った。
 間もなく隣室から壁をとおして鞭の音が響いた。リリアンの癇性な声も聞こえた。
「こら、ウサギっ、その役立たずの脚も広げろ。閉じられぬよう、手でしっかり持ってろ」
 そして、
「ぎゃあっ! ぎゃあああっ!」
 悲鳴と鞭の音がセットで響きわたった。
 それを聞きながらアンケがニンマリした。そしてまた、ヴェラのほうに関心を向けた。
「あとはわたしが」と引き継いだ。
 まず、膣のを抜いた。ずるっと抜けて、すぐには閉じずにだらしなく開いたままのヴァギナから、白い淫汁がたらーっと垂れてシーツに落ちた。
 抜かれた淫具をそばの小机に置いた。そこには大小さまざまの張り型、棒器具のたぐいがびっしりならび、そのほとんどが使用済みで先をぎとぎとに濡らしていた。
 アヌスのもゆっくり抜きはじめたとき、「あ、あー……」とヴェラが声をあげた。
 まだあるか、どこまであるかと思うほどで、すっかり抜いて出されたべとべとの糞便混じりの棒具は、50センチをゆうに超えていた。
「クサイっ。臭いのお、ヴェラの腹のなかは」
 アンケが鼻をつまんで道化た。
「カトリーヌ」
 また指名されて女が飛んできた。
「おまえはフィストが得意だったな?」
 訊かれた女はニッコリしたが、反対にヴェラは首を振ってうろたえた。
 アンケが残る太腿と腰のベルトを外した。
「反転させろ」
 命じられてヴェラをうつ伏せ姿勢にした。
 その足を取って足載せにもどしたが、その際には無理な姿勢で尻が山のようになって、その分頭は突っ伏した形に落ち込んだ。
 見習って女たちが残る片方を拘束し、ヴェラはカエルがひっ潰れたような姿で、恥ずかしい部分をこれ以上ないほど恥ずかしくさらされることになった。
「いやっ」と言って足掻く縛られた後ろ手を、女が掴んでねじりあげた。「ううっ」と呻いて、ヴェラが突っ伏した顔をのけぞらせた。
 オルガがもどった。
 ビッコの片足をよけい不自由にひきずり、床には点々と血の痕を付けながら帰ってきた。すそからのぞく足にも血の筋が垣間見えた。
「だいじょうぶ?」
 目はまえを向いたままターニャが訊いた。
「うん」
 つくり笑いで、だがしかし気丈にうなずいた。
 その間にはヴェラが大変だった。手術用手袋の手でアンケが、ヴァギナに両手で6本まで指を入れ、左右に引き裂きにかかった。
「う、いやーっ!」
 悲鳴があがった。
「リリアン、内視鏡だ。2つ取ってこい」
 急いで持ってくると、それぞれこちらを向いて淫液でぬるぬるの2つの穴の、まず膣からずぶりとアヒル口を突き立てた。
「ひっ!」
 突っ伏した首からうえが呻いて静止した。そのまま必死に耐える覚悟のようだった。ぎりぎりと歯を食いしばった。
 キリキリキリと、ねじが音を立てて巻かれ、まず、膣からどんどん拡げていった。淫液をぽたぽた垂らしながら、局部が金属製の冷たい光を放つ医具により大口開けさせられた。
「どうだ。ターニャ、のぞいて見よ」
 後ろ頭をつかんで無理に顔を持ってった。
「アンケ、剥離鉗子!」
 命じてすぐ手渡された。はさみに似た医具の先を、先に拡張医具で開いた膣道深く挿入し、奥へ奥へと進めて深奥部に達すると、湾曲した尖端をぽってりとした肉輪の中心の孔に挿した。深く挿入してえぐった。
「うぎゃあっ!」
 突っ伏した頭部がわずかに暴れた。
「こいつのここも切り刻んでやりたかったが、もはや死ぬ身ではその機会もないか」
 うそぶいて抜き出した。
「ナージャを、よくもぉ……」
 口惜しがってまだなにか言おうとするのへ、いきなりこんどは下になった後ろの口に2つ目のアヒル口をズブリと立てて、これもキリキリ音をいわせて開いていった。
 すっかり開ききって、どぎつい赤身の秘粘膜と、その奥の肉の洞穴が底なしの闇のように無気味に見えた。
「どうだ、ケツの奥などはめったに拝めんぞ、よく見ろ」
 そう言って5人の顔をいちいち見回したが、そのなかにあってアンヌが顔をそむけた。
「こいつ!」と、リリアンが元にもどさせる、が、それに逆らって、また横を向く。何度も繰り返し、あくまで抵抗するかまえだった。
「き、さ、まぁーっ!」
 リリアンが真っ赤になった。「きっ」と顔を向いて指示を仰ぐのへ、
「いいとも。今夜は所長もなにもいえん。それこそ無礼講だ。好きにやるがいい」
 許可をあたえた。
 リリアンに髪をつかんで引っ立てられ、わずかの間があって狂ったような鞭の響きと叫びが連続した。
「リリアンめ、あのアンヌをよほど気に入ったと見えてな。毎晩ほじくってるのに、まだほじくり足りぬようなのじゃ」
 訊かれもしないことを言って悦に入った。だが、2つの穴からアヒル口を抜き取ると、一転厳しい顔になって命令した。
「ヴァギナでは甘い。徹底したアナルフィストで責めろ。いいか、手加減はいっさい無用。その右腕が全部入りきるまで抜こうと思うなよ」
 同房者の抵抗、ヴェラへの静かな連帯行動に遭って、アンケの神経はいまにも切れるところだった。
「やれ」と命令し、カトリーヌと呼ばれた女が手術用の手袋の手を拳にして先を尖らせた。淫汁でべとべとのアヌス穴に押しつけてひねった。
「くくっ」
 頭を低くした後ろ手縛りの背中が震えた。
 拳が入りかけて、アヌスが口を開けさせられていく。くわーっと開いて、ヴェラの呻きが大きくなった。背中をよじって苦しがった。
 拳のいちばん太いところの、関節の部分で止まった。それでも呻きは苦しそうにつづいていた。呻きが大きくなったとき、拳の関節部分が入りかけた。
 女が「ニヤッ」と笑った。
 拳を右に左に回転させながら、押し込んだ。
「ああっ、ううっ……」
 呻きに怯えが感じられて、女はそれに煽られるようにして、フィストにおよぶ右手に左手を添え木にするや、体重をかけて一気突入を試みた。
「ギャアアッ!」
 凄い悲鳴。
 まだ入らない。
 それでも、突っ伏した頭部が、背中が暴れ、上体を受け持つ女たちがその身体をしっかり押さえつけた。
 押さえつけている一人が耳元でささやいた。
「力まないの。深呼吸する要領でふかーく息を吐いたり、吸ったりをゆっくりしてみて」
「いや、いやだ、怖い!」
 ヴェラが弱々しく首を振った。
「裂けるわよ。さ、言われたようにして!」
 きつく言いきかせられ、ヴェラが「すうー、はあー」と大きく深呼吸をした。と、そのとき――。
 開脚寝台にうつ伏せにくくりつけられ、カエルがひっ潰れた格好のヴェラの、陰毛の茂れるアヌスがくわっと口を開けて、拳がそのなかに吸い込まれるようにして入っていったのである。
 その際には、
「ウゲェーッ!」
「ヤアアーッ!」とありったけの汚辱にまみれた叫びをあげて身を震わせた。
「よし、もっと突っ込め」とアンケが煽り立て、フィスト役の女が嬉々とした顔でなおもぐいぐい突っ込んだ。
「ギャアッ」とまた悲鳴が甲高く叫ばれた。
 第二の穴に拳が阻まれたのだった。女はいったん力を抜き、アヌスに食わえられた腕が右に左にひねられた。
「ああ、ううっ」とヴェラが呻いて、また「ぎゃっ」と一瞬、叫びが際だったとき、ずるずるっと一気に20センチも入って、肘まであとわずかというところまで収まった。
 あとは楽だった。どんどん挿入されて、いったい中でどうなっているかと思うほど深く挿入されて、女が姿勢を奇妙に傾げたときには腕はすっぽり入って肩を残すのみとなっていた。
「凄いぞ。どうだ、おまえたち。ヴェラに見せてやれぬのが残念でならぬわ」
 アンケが勝ち誇って、はしゃぎまくった。
「こ、殺せ! ひと思いに殺してっ!」
「まだまだだ。もっと引き回してやらねば肚の虫がおさまらぬ」
 女は信じられないほど奥まで押し込んだ拳を、ゆっくりもどし、もどしては勢い込めて一気に突っ込み、またもどしを繰り返した。
「よし、おまえにも褒美に休暇をやろう!」
 アンケが女の肩をたたいて壁に耳を押し当てたとき、鞭の音も聞こえず悲鳴も止んで――
「あ、ああうっ……」
 隣りでは別のなぶりがはじまったようだった。




約束


 3日目の午後。すなわちヴェラ逮捕から時間にして42時間ほど後、ここはラーフェンスブリュック収容所医務棟の一室――。
(はて、ナージャはどこで殺されたのか……)
 ロブと2人待つことしばし、やがて若いSS少尉が女を1人連れてきた。
 少尉を下がらせ、女と向き合った。彫りの深い顔立ち。美貌ではヘルガに負けていない。
 囚人でありながらカポを示す腕章がよけいだった。それが立場を逆転させ、きのうまでの仲間を半殺しにするのも厭わない。凶暴さの強調がナチに取り入る処世と思うヤカラが多い。
「デボラとやら、話す気になったか?」
 ロブが椅子をすすめて座らせた。
「手術室での経過をできるだけくわしく話せ」
 そのため、きのうから何度も足を運んだのだ。
「あんな恐ろしいこと!」と首を振りつつ、だが、やっと重いその口を開きはじめた。

 七特、ふたたび懲罰蔵奥の電気処刑室――。
 喘ぎ、呻きに混じって、ぬちゃぬちゃと淫靡な音がひっきりなしにつづいていた。
 ローションと淫水でベトベトの膣だった。潤沢な陰毛が粘液で張りつき、そのなかから赤肉がはみ出ている。その媚肉を指がひねったり、つまんだり、なかにもぐり込んだり、ヴェラの女の部分はアンケのなぶるままだった。
「この触感、生温かさ――思い出すよ、きひひひひ……」
「ナ、ナージャになにをーぉ……!」
 腹のなかから絞り出すように問い詰めた。
「聞かせてやろう」
 アンケが得意になって話しはじめた。
 絶え間なくつづく獣じみた呻き声を聞きながら、そのときアンケも男たちも断ち割られたナージャの腹の、ひくひく息づく内臓を見ていた。
「若いだけあって、きれいだのー」とセバスチャン。
「血の色もみずみずしい」とシュテファン。
 両手両脚を広げてベルト固定されたナージャが激痛に耐え、口をふさがれたマウスピースのうえから虚ろな目を天井に向けていた。
 アンケの手が動くたびに、
「ぎゃあっ!」
 すでに意識も遠のき、か弱くなっていた悲鳴を絶叫にまで高めさせて上体をのけぞらせた。
 股間からも血が溢れかえり、水を張った床にぴちゃぴちゃと流れ落ちていた。
 抜き出された鉗子の先には、細かな肉片がつままれていた。それを真っ赤な脱脂綿の山となった膿盆に載せて、また、鉗子を突っ込む。
「ひえーっ、ぎゃあーっ!」
 こんどはしつようにこねくりまわされ、ナージャの苦悶と叫びがきわだった。
 その光景をありありと思い出しながら、
「『パルチザンの出という噂はほんとか。腕利きのスナイパーがなぜ掃除夫に化けてる。〈仲良し〉のおまえなら聞いてるだろ、言えっ』とまあ、このように尋問しながら手術したわけだ」
 面白くてたまらんといった顔をした。
 徹夜をはさんで1日半以上、上級慰安婦7人のうち4人は観覧席側のいくつかならべた椅子に長くなって寝ており、完全徹夜の同房者など目を真っ赤に腫らし、そのなかのオルガが、
「酷い! なんてことを!」
 アンケの話にたまりかねて顔を覆った。
 ターニャは無言のままだが、顔は怒りをあらわに奥歯をカチカチいわせていた。
「ふざけたことを!」とヴェラが吐き出した。
「みんな承知のくせに。それに、なぜわたしとナージャのことを仲良しと言い切れる。ずっと警戒し、第三者のまえではそんなそぶり見せたことなかった。どんな現場を見たというのか」
 ヴェラが反撃した。
「そ、それは」とアンケが一瞬返答に窮した。
 その際、辱めを見物させられる同房者のなかで反応した者がいた。もちろん、よそ見は許されず誰かと気づく者はいなかったが、ただ、ソフィーはそれを予想できる一人だった。
 一瞬には焦ったアンケだったが、
「拷問に屈してナージャが吐いたのさ。
 なんにしたっておまえが招いたことではないか、おまえが近づかねばナージャにはなにも起きる必要はなかった。悪いのは皆おまえだ!」
 すべての責をヴェラに押しつけて罵った。
 ヴェラが「うっ」と呻いた。
「そうだ、わたしがすべての元凶だ。わたしさえいなければ……わたしさえナージャに……」
 あとは言葉にならなかった。
 ターニャがそのヴェラを勇気づけた。
「ヴェラさん、負けてはだめよ。あの言葉を思い出してっ、『屈んではいるけど、押さえつけられちゃいない』のロシアのことわざっ!」
 アンケが目を剥いて猛り狂った。
「こんどは貴様か! リリアンっ、こいつにもヤキを入れろっ!」
 そうしてターニャも別室に連れ込まれ、間もなく鞭の音と悲鳴が聞こえた。
「つぎはどいつだっ!」
 勢いでそう怒鳴ったが、
「芝居でなきゃ、あとはわたしだけでしょ?」
 ソフィーが皮肉っぽく切り返し、その際ちらっとフランソワのほうに目をくれた。

 ラーフェンスブリュックの医務棟奥では、デボラの証言がやっと終わったところだった。
「いったいあの子は、なぜあのように酷い目に……『ヴェラのことをいえ』『ヴェラの出自を知らないか』とそればかりしつこく――」
 デボラの慨嘆にヘルガが応えた。
「知っていたのだ、少なくともあの軍医は。
 そしてヴェラとナージャの関係もヴェラが極力注意してきたにも拘わらず筒抜けだった。そのことにさえ早く気づいていれば……」
 拳を握って口惜しがった。
「ナージャ……」と、デボラが反芻した。
「そう。名前はナージャ、記憶にとどめてやっておくれ。ロシア語でナジェージダ、“希望”という意味だそうだよ。ふっ、可笑しいじゃないか、ナージャが“希望”だなんて…… !」
 吐き出すように言った。
「なぜそんな……分かりませんよ!」
 デボラが不条理感をつのらせた。
「ヴェラを密告させるということは、ヴェラを葬ると同時にヴェラをかばうわたしをも陥れることなんだ。あの軍医はなにもかも知っていながら、自分ではわたしが怖くて告発できない。
 それと今回は鬼畜性癖の男らが輪をかけることになった。ヴェラを姉とも慕うナージャは吐くまい。さすれば気力を奮って頑張る。頑張ることによって生命力も保たれる。分かるな?」
「そんな、酷い!」
 デボラが絶句し、それからすこし間をおいて半信半疑といった顔で訊いた。
「あなた様は、ほんとうにナチですか?」
「貴様、なにをいうか!?」
 いきりたつロブをヘルガがなだめた。
「良い良い。で、なにが言いたいのか?」
「だったら思い切ってお話しします」
 もはや、その表情は決然としていた。
 あの深夜、帰り際――
 シュテファンはデボラにこう言ったのだ。
「慣れないのに、ご苦労。疲れたろう、なにしろ〈2時間もの長丁場〉だったからなあ」
 びちゃっと最後に取り出した臓器を、血まみれの残骸でしかなくなったナージャの足元に無雑作に放って、いっぱしにねぎらいの言葉でもかけたつもりのようだった。
「1時間ではないので? 時計だってまだ……」
 それを一笑に付した。
「バカめ。だいいち、おまえだって途中言ったろう、『ずいぶん長く感じます』と。あの時計は針の進み具合を倍に遅らせてあるのだよ」
 デボラが愕然とした。
「そうとも知らず、この娘、針がちょうど一周回るあいだ良く保ちこたえたものだ」
 セバスチャンまで感心して笑った。
「だが、こんな身体で生きてたとて役には立たん。どうせガス室送りの身、これで良いのだ」
 シュテファンが侮蔑を込めて言い放った。
 もはや一秒たりと居られぬ思いにかられた。
「このこと他言無用、きっとだぞ!」
 きつく念押しされ役目を解かれたが、それからあとのセリフは遠ざかる背中で聞いた。
「娘よ、天国に行ったら神様にあらいざらい話すが良い、今夜のことをな。だが信じまいよ。このようなこと、誰も信じるまい」
 静まりかえった医務棟の壁に反響する笑い声に、耳をふさいで逃げ帰ったのだった。
「うーむ……」とヘルガが憤怒の形相で唸った。
「シュテファンめ、ナージャの身体でイリーナの兇行を再現したつもりか!?」
 声をふるわせて吐き出した。
 やがてストレッチャーに乗せられ、ナージャの遺体が別のカポの手で引かれてきた。
 シーツから出た顔を見てデボラが言った。
「ゆうべは辛そうだったのに。いまはこんなに……やっと解放されたのね」
 そう言って額のほつれ毛を手で梳き上げた。
「なにか握っているな」
 ヘルガが、やはりシーツからはみ出た手に気づき、固く握り締めた拳を開いて、原型をとどめず折れたり、砕けたりした小物を発見した。
「これがヴェラの言っていた髪留めか」
 それと気づいてハンケチにくるみ、大事そうに制服のポケットにしまい込んだ。
 外へでたとき、すでに夜だった。
 見わたせば、他の建物群もサーチライトの明かりの陰に黒く沈んでいた。
「困りますよ、その女を連れて行かれては」
 さっきの若い少尉が追いかけてきて、デボラを取り返そうとした。それを振り切って、
「あの建物はジーメンス工場であろう?」
 指差す彼方を見て兵士がぽかんとした。
「あそこで働かされる囚人が今年は6000人に増え、労働時間も12時間から14時間へと延長されたとか。そうして搾り取った金は国益と称し、一部はあそこに入って重役どもを潤わせ、贅沢三昧を許してる。ジーメンスへの賃貸しが良くて七特への賃貸しが悪いという法はなかろう」
 言い終わると、シトロエンに乗り込んだ。
「ハイル!」
 憮然と敬礼する兵士にヘルガはつづけた。
「その挙手は誰へのものか? 上官に伝えるが良い。言上するなら、その敬礼を捧げるべき相手のお方に直接するほうが通りは早いとな。さすれば総統閣下は目を細めて懐かしがるだろう、『おお、ヘルガのことか』と――」
 そう言ってドアを閉め、車を走らせた。
 あとは瞑目して思案にふけった。
 10分以上もして、ぼそりとつぶやいた。
「あの髪留め、なんとかならんかのー……」
 すぐにロブが答えた。
「渡り大工だったミゲルなら復元も可能かと。細かい細工なども“発明家ハダシ”ですよ」
「そうか! ならばこれでヴェラの処刑もギロチン刑に決まりだ!」
 ロブがハンドルを切りそこねそうになった。
「あれなら派手好みのアンケも満足するにちがいない。なに、ギロチン台なら映画の小道具を探せばすぐ見つかる。それを土台にホンモノをつくる。レニに連絡してみてくれ!」
 そう勢い込んだとき収容所前に着き、ゲートが開いてヘルガだけそこで降りた。
「やはりレニには、わたしから直接頼もう」
 そして手帳を取り出すと、走り書きした紙片をロブに渡して、また耳打ちした。
「女をメモの場所へ送り届けてくれ。相手にはこれから電話できちんと説明しておく。
 そのあとミゲルだ。処刑はあさってとし、その日は朝から突貫で夕方までに仕上げるよう頼むことになろう。その間、工事場は天幕で覆う。兵隊どもには女囚を恐がらせぬためとでも説明するさ。ギロチン台は明日中になんとかする」
「なんですか、いったい……?」
 ヘルガのようすに、ただならぬ事態を感じた。

 地下の処刑室には2人以外誰もおらず、アンケが一人嬉々としてヴェラをもてあそんでいた。
「こんどはこれだぞ」と迫ったとき、
「もう、よさんか」
 ヘルガの声で中断させられた。ぐっしょり濡れた手袋を引きちぎるようにしてはずし、自分から廊下に出ていった。
「ヴェラはあさって処刑と決めた。いや、12時を過ぎたから正確には明日だが……」
「ヴェラ一人で済ますは甘いかと――」
 アンケのしたり顔を冷然と見くだした。
「調子に乗るな、ナージャをどうしたかはすべて知っておるのだぞ。貴様それでも人間か!」
「なに!」
「良いかアンケ。ドイツ人は、うぬら如き鬼畜外道ばかりではないぞ。そちは己れのやった所業を街の辻々にでて吹聴する自信があるか!」
 アンケがぎろっとにらんだが、その視線をものともせず厳しく告げた。
「所長のわたしの許可なく収容者を殺害した罪は重いが、とりあえずはいまから24時間の謹慎を命じ、その間医務棟への立ち入りを禁ず!」
「……!」
 アンケが燃えるような怒りを顔にあらわし、だが、その形相を保ったまま足音を響かせてその場からいなくなった。
 汗と血と汚臭にまみれた部屋に入った。
 ヘルガが、床に落ちているシーツを拾いあげて裸の胸から腰にかけて覆い、そのあと後ろ手に縛ったベルトを解き、腰の戒めも解いた。
 辱められ、ボロボロにされたヴェラがうわごとのようにつぶやいた。
「わたしが殺したようなものだ。ニーナだけでなく、こんどはナージャまでも……」
 その悔恨を打ち消した。
「それはちがうぞ、ヴェラ。ナージャはそちに会えて良かった。そちのやさしい真心がナージャのここでの最後のしあわせだったのだ」
 だが、ヴェラは自由になった腕を顔に当てて泣くばかりだった。
 そこにいるヴェラは、あの誇り高いパルチザン戦士でも、腕利きスナイパーでもなかった。道に落ちて潰れた葦でさえなかった。潰された葦なら土に還ってふたたび芽葺くこともあろうが、いまのヴェラは生きた屍だった。
「ヴェラ」とヘルガがやさしく呼びかけた。
「おまえに約束しよう。奴らを殺す。決してわたしが生かしてはおかん。いや、おまえのその手でかならず仇を討たしてやろうぞ」
「………!」
 ゆっくりと起きあがって宙をにらんだヴェラの顔に、そのときむくむくと精気が吹き返したのをヘルガは目と心で感じ取った。
 最後に足のベルトも外して自由の身にした。
「ヴェラ、ナージャは決しておまえを嫌ってはいなかったぞ。それどころか、おまえを守って死んだのだ。それだけは憶えておけよ。
 ターニャを寄越す。しばし待っておれよ」
 そう言い置いて部屋をでた。
 足早に廊下を抜け、階段を上って出たら暗闇からロブが出てきた。その影に向かって、
「ラーフェンスブリュックからナージャの遺体が還る。それを医務棟に安置し、なかには誰も入れるな。特にアンケには本日いっぱい、一歩たりとも医務棟の廊下を踏ませてはならんぞ」
 凛然と下知(げじ)をあたえたあと、なにげなくといった風に問うた。
「ロブ、いまのドイツが戦時か? いや、戦時にはちがいないが戦闘下ではないだろうが、それこそ東部戦線で戦っている将兵たちから見れば、いまのドイツ国内はかぎりなく平時だ」
「は?」
 ゆうべ、わたしが、戦争が狂気を生むのではないといいかけたことの意味だが。そう口にしかけて、こんどもまた言わずにおいた。
「ちょっとミゲルに会ってくる」
 ポケットにしまったベレスタを渡しそびれていたのだった。
 このベレスタだけはなんとしても元どおりにして、ナージャの髪に挿して送ってやりたい――神など信じぬヘルガが、祈る思いで清掃員小屋へと足を向けた。




かがり火


 夜のとばりを紅蓮の炎が染め縫いていた。
 いつもなら高くそびえる石塀のところどころに設けた監視塔からサーチライトが照らされる時刻、それに代えての篝火(かがりび)だった。
「なんでまた、こんな日に停電など……」とアンケが、つくづく合点がいかぬという顔を横のヘルガに向けた。
「抵抗グループの妨害工作だろう」
「そんなヤカラがいますかね、いまの体制下に――」
「どんな時代にも不心得者はおる」
 ヘルガが澄まし顔で言い切った。
 薪を櫓(やぐら)に組んだ巨大な篝火は数か所、そこだけ大地が火を噴いているような明かりに映えて、整然と並ばされた総勢500人もの女囚たち。
「こんなにもいたのね」と驚くターニャ。
 すぐ横にならぶオルガも動揺を隠せなかった。
 こうして全員が一堂にそろうことなどめったになく、去年10月にここへきたロシア囚にとってもこれが初めての経験だった。
 女たちの周囲は小銃をかまえたSSや警備兵が厳重に固め、全員が見わたせる前方中央、石塀のまえにギロチン台がそびえる。刃を見上げて横たわるヴェラは囚着ではなく、最後の身分たる清掃員の服装を身につけていた。
「おまえもこれで年貢の納めどきか」
 アンケが悦に入って見下ろした。
 それにしても堅牢な造りの台座で、棺桶2つ分の大きさはある。その上に手足をしっかりベルト固定されたヴェラが寝ているのだ。
「用意!」
 ヘルガの命で2人の兵が台座の位置を微調整して、断頭用の木枠にヴェラの首を固定した。
「よし。あとはロブに任せ!」
 衛兵を下がらせ、代わりにロブが歩みでた。
「では」と、形だけで一礼したアンケが、石塀のてっぺんに上るべく監視塔内に入った。
 ヘルガが歩みでた。
「おまえの望みどおりにしたぞ。ナージャはニーナといっしょだ。もう寂しくはない」
 ヴェラが無言でうなずいた。泣いているのかどうか、篝火の明かりでは定かではない。
「そこからも見えよう。2人はあの火の下だ。あの刃が落ちてきてそちの首が胴を離れ、視界が閉じる瞬間まで見守っててやるがよい」
 そう言って元の位置に下がったとき、監視塔のスピーカーから大音声(だいおんじょう)が響きわたった。
「いまからウジ虫を一匹処刑するっ」
「待てっ、だまれっ!!」と、「ウジ虫」と聞いたとたんにヘルガの一喝が飛んだ。
「囚人といえど命を絶たれる身、口を慎め!」
 烈火のごとき恫喝にアンケがすくみ上がった。
 ひと呼吸おいて仕切りなおした。
「皆の者、よっく聞け! これからBブロック第3監房囚、ヴェラ・フェドビッチの処刑をとりおこなう。粛々と見とどけるように!」
 上からの処刑宣言をよそに、下ではターニャを先頭に同房者5人がヴェラの周囲を囲んでの“献花”が行なわれるところだった。
 アンケが、それに気づいた。
「なんだっ、おまえたち! なにをしてる!?」
 あわてて階段をとって返した。
 その間、献花に先だってしんがりのオルガがよろめき、その辺に手を着くと同時にフランソワをも巻き添えに倒れこむ一幕もあったが、それ以外は何事もなく皆がバラを1輪ずつ手向け、全員元の位置に整列していた。
「なんです、この真似は!」
 アンケが目を剥いたが、その抗議を無視した。
「処刑執行!」
 声と同時にロブがレバーを倒し、ギロチン刃が凄い音を立てて落ち、首を刎ねた。
 どこからともなく湧く歓声――。笑い顔の兵たちと茫然たる面持ちの女囚たち。ただ、その視線の行き着くところ、地面に転がった首と大量の血を噴き出す首のない胴体があった。
「こいつはちがう!」と、アンケが叫んだ。
 やにわに遺体の衣服を剥がそうとするのへ、
「花を散らすか! 死者を冒涜するのか!?」
 凛然とヘルガが制し、腰のホルスターに手をかけた。長靴を鳴らして歩み寄り、血まみれの首をつかみ上げた。
「さあ見ろ。さんざなぶられ、首まで取られたヴェラの無念の形相が貴様には見えぬのか!?」
 血だるまになって血をしたたらせる首を突き出し、アンケが凝視しかけた刹那、
「成仏しろよ」
 そういって、ポーンと火中に投じた。
 突然、アンケが笑い出した。
「わかったぞ!」
 狂ったように笑って屍骸を指さした。
「おい、衛兵2人、いや、4人だ。この死体と、死体を載せてある台座も火にくべろ! くべろくべろっ!」
 兵隊4人は笑い転げるアンケの狂気に逆らうべくもなく、棺桶2つ分の台座を首のない屍骸ごと抱えあげ、運びはじめた。
 アンケが椅子の上に乗るなり訓辞を垂れた。
「よいか、皆の者、よっく聞け。
 この七特こと第七種特別女子収容所の住人となったからには、我が総統閣下と祖国ドイツに身を捧げ、友軍将兵を慰労する性欲処理要員を勤めとして日夜刻苦奮励……」
 演説するアンケのかたわら台座が篝火に投じられ、ぱあーっと一瞬、大量の火の粉が舞い上がり、薪を燃やすのとは別の黒煙といっしょに、人を焼く独特の異臭も立ちこめた。
(ナージャ!)
 リンゴの頬っぺとあふれる笑顔が脳裏をよぎったときヘルガが目頭を熱くした。そしてロブがまた、その目に光るものをそっと見ていた。
「あの2人、けっして生かしてはおくまいぞ」
「オットー、アンケは?」
「あ奴らとは刺し違えることになるやも知れぬ。それこそ殺(や)るか、殺られるかだ!」
 所長をさしおいてのアンケの大音声に見切りをつけ、塔だけのギロチン台へと清掃員がぞろぞろ繰りだす。何人かは大袋を持ち、すでに血だまりに灰をぶちまけて空になった石灰袋が、2つ3つカーテンのように揺れていた。
 その数、15、6人といったところだろうか。それが16、17人に増えたとて誰が気にするものか。虫けら同然の女囚同様、掃除夫なども、ここ七特ではものの数に入ってないのだから――。
 その一人と目と目があった。
 そっと指敬礼を送るヘルガ。清掃員はそれに答える代わりに、そばの篝火に向かって腰に真っ直ぐ手を伸ばした直立姿勢をとった。
(ヴェラ……)と呼びかけたとき、一時弱まっていた目のまえの篝火が、火勢を盛り返して烈しく炎を噴き上げた。
 おなじころ――
 はるか東方、凍てつくロシアの地ではドイツ軍がスターリングラードの戦いで大敗を喫し、パウルス大将麾下(きか)6個師団33万の兵は10万弱にまで損耗して孤立、頼みの空輸も途絶え、飢えと寒さのなか降伏を待つばかりだった。
 時に1943年1月――春はまだ遠く、暗い時代の雪解けはそれよりなお遠かった。

第一部・


 本作執筆にあたっては、
 著書として:『スターリングラード―運命の攻囲戦 1942・1943』(アントニー・ビーヴァー著、堀たほ子訳、朝日文庫)/『ナチズムと強制売春』(クリスタ・パウル著、イエミン恵子・池永記代美ほか共訳、明石書店)/『心の日記―十四歳のナチス収容所』(タニヤ=タチアーナ・ワシリエワ著、高野享子訳、講談社)/『ナチ強制・絶滅収容所―18施設内の生と死』(マルセル・リュビー著、菅野賢治訳、筑摩書房)/『ヒトラー暗殺計画と抵抗運動』(山下公子著、講談社選書メチエ)/『ヒトラーを狙った男たち』(ヴィル・ベルトルト著、小川真一訳、講談社)/『戦争と人間 17−裁かれる魂 第五部』(五味川純平著、三一書房)/『拷問・処刑・虐殺全書』(柳井伸作著、KKベストセラーズ)
 映画パンフレットとして:『ナージャの村』
 インターネット文献として:『パルチザン・ウォルコフ』(黒島伝治著)/『波濤2』(野口光明著)など
 映像資料として:『民族の祭典』(1938年ドイツ作品、レニ・リーフェンシュタール監督、IVC)/『レニングラード攻防戦』(1974年・1977年ソ連作品、ミハイル・エルショフ監督、IVC)を参考資料としました。




プロローグ  第1章 スラヴ・スレイブ
第2章 アンケ・リュッカー
第3章 ヴェラ・フェドビッチ (前篇)  同 (後篇・1)  同 (後篇・2)

主な登場人物一覧   "美しき野獣" イルマ