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野田半三油彩画作品修復処置例


 
「裸婦」額装
 
作者名 :   野田半三
題名(主題) :   「裸婦」(人物画)
制作年 :   1920年頃(大正9)        
種類 :   油彩画 / キャンバス(木枠)
サイズ(修復後) :   日本寸P15号
    (たて)502×(よこ)653×(厚)24 (mm)
修復実施年    1989年7月〜10月
修復実施     岡崎純生
 


修復写真をご覧下さい!

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岡崎絵画修復工房ロゴ



修復前の作品状態概要

木枠・キャンバス共に、当時の市販一般品を使用している。キャンバスは中目の平織り麻
布で織間は少し緩いものである。織り糸玉、織りむらが多く、質的にはそれ程上質のもの
ではない。市販キャンバスの白色地塗り層は、典型的なセリュ−ズ地で、主成分は鉛白
である。(当時、最もよく使用されたタイプのキャンバスである。)               

制作にあたり、元々は F20号 として描き始められたが、途中で構図変更の為、現状 
の P15号 に、張り替えられたものと推測される。従って、上辺と右辺に描きかけの描
画層が廻っている。既に、張り釘によってこの部分の絵の具層は多く剥落している。この
制作途中での構図変更は、野田半三の作品にしばしば見受けられるものである。作風 
は、「印象派」を意識した明るい色調のものながら、堅実なデッサンによる写実傾向のも
のとなっている。絵の具層は中厚〜厚塗りで平均している。ホワイト色の使用が多い割
 に、最終のグレーズ的透明層がしっかりしている為、深みのある色調が確保されている。
人物形態に沿った柔らかい筆タッチがあり、堅牢なマチエールとなってrいる。後年、タブ
ロー二スが塗られたようで、その際のニス染みが現状でキャンバス裏面に亀裂線として
見られる。                                              

 この作品は、戦禍を免れるために、一時疎開されたとのことで、当時の状況がかなり厳し
 いものであったことが、充分に想像される。どうやらこの疎開の際に、キャンバスは木枠か
 ら取り外され、巻かれた可能性が高いと思われる。現状で縦方向に多く見られる亀裂は 
 この時に発生した可能性が高いと考えられる。その後も作品の保管状況は良くなかった 
 ようで、長年の滞湿により画面、裏面ともに黴害が激しく、特に画面の暗色部に発生した 
 白色結晶物は、著しく作品の見栄えを損ねている。現状の木枠に張り戻された時期は不 
明であるが、亀裂部分の剥落、張り角部分の剥落等が、多く認められる。裏面には、長
年のホコリが多量に堆積している。                               

既に、制作後50年以上が経過し、支持体及び絵の具層の老化・劣化が顕著で、裏打ち
を含めた修復保存処置が、望まれる状況である。                       
  
修復処置内容

   1. 作品の調査・写真撮影、修復方針の検討
   2. 絵の具層の亀裂、浮き上がり、剥落部分の固着作業及び点検
   3. 画面の第1次洗浄
   4. 絵の具層を保護する為の「表打ち」作業…薄和紙使用
   5. 木枠からキャンバスを外し、張り代を平らに伸ばし、裏面のクリーニング
   6. 画面、裏面の黴殺菌
   7. 裏打ち布を準備し、(※)蜜蝋樹脂混合接着材によるホット・メルト接着(裏打ち)
   8. 新しい木枠を準備する(楔加工、防湿ニス)
   9. 裏打ちの終了した作品上の「表打ち」和紙の除去作業、及び固着点検
  10. 新しい木枠に裏打ちの完了した作品の張り戻し、楔装着
  11. 第2次画面洗浄及び、黴点検
  12. 剥落部分へ充填・整形
  13. 第1層目のニス塗布(天然系・及び合成樹脂系)
  14. 補彩復元(樹脂絵の具)
  15. 最終の保護二ス塗布(合成樹脂系)
  16. 修復作業完了及び全体点検
  17. 修復後の写真撮影
  18. 額縁加工、装着


  ここで実施した「蜜蝋・樹脂混合接着材」による裏打ちは、1989年時点のもの
   であり、最近ではかなり重症の作品の裏打ちにのみ限定使用されています。
   しかし、この処置は、日本の一般家庭における作品の保存処置としては、利点
   も多く耐湿度性においては、優れています。しかし最近では、急速に進歩した
   修復材料の登場により、また将来の再修復の可能性を残すべく…比較的軽い
   処置が一般的になっています。


                                           (文責:岡崎純生

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