子供のためのババのお話


捨てねばならぬものは捨てなさい


  あるとき王様が森に狩に行きました。王様はおつきのものとはぐれて道に迷ってしまいました。暗闇を歩いていた王様は足を滑らせて古井戸に落ちました。幸運にも近くに生えていたバンヤンの木の枝が井戸のなかに垂れていたので、王様は木の根をつかむことができました。<訳注:バンヤンは日本名ベンガルボダイジュで枝からたくさんの気根が出ています。>王様は木の根をしっかりつかんで、井戸の底まで落ちずにいることができました。

  しばらくして、ナマ サンキールタンをしつつ歩いていた男がたまたま井戸のそばを通りかかりました。人のうめき声を聞きつけた男はたれか困っている人がいると感じて井戸に近寄り覗き込みました。すると、井戸のなかでなにかにつかまっている者が見えました。かれは男を引き上げるために、苦心して近くでロープを手に入れました。井戸にロープを投げ込むと、かれは困っている男に呼びかけました。「ロープをしっかりにぎってください。わたしはゆっくりあなたを引き上げてみます」王様は疑いました。わたしはなにをつかめばよいだろう? バンヤンの木の根につかまればよいのだろうか、それともロープか?

  それと同様に、人はある状態に落ちたとき疑いにとりつかれて識別のこころを失います。 バンヤンの枝から生える気根は、最初は、王が助かるための方法でした。しかし、井戸から出るためには王は根から手を放してロープにつかまらねばなりませんでした。この場合の根は人々がにぎりつづける世の中を意味します。 しかし、いつの日か人は清めのみちにみちびく道を知らねばなりません。

  根から手を放しロープをつかむことは解脱の道にみちびく方法なのです。

From Sanathana Sarathi 2006 Jan. issue, page31