子供のためのババのお話

わかっている、わかっている



  一軒の家で夫と妻が眠っていました。真夜中に盗人が家の壁に穴をあけ始めました。物音を聞きつけた妻は夫を起こして言いました。「泥棒が壁に穴をあけています」夫は目も開けずに答えました。「わかっている。わかっている。泥棒が穴を開けているんだ。南の壁だよ」そう言うと夫はまた寝てしまいました。

  しばらくして盗人は家の什器をすべて部屋の隅に集めました。妻は再び言いました。「起きてください。食器がカチャカチャ音を立てています。家財をまとめて運び出そうとしていますよ」夫はすぐ答えました。「わかった。わかった。泥棒は荷物を全部ひとまとめにしただけではく、ぜんぶ壁際に寄せた」そう言うと夫は寝返りを打ちました。

  しばらくすると壁を飛び越える音がしました。再び妻は言いました。「さあ、起きてくださいよ。泥棒は壁を飛び越えて、うちの荷物を全部持っていってしまいますよ」夫は言いました。」「わかった。わかった。壁を飛び越えた音がしたって?」泥棒はもう遠くに行ってしまっただろう」それを聞いた妻はたいそう腹を立て、叫びました。泥棒が盗みにはいってなにもかも持っていったあとで、何もしないで、わかった、わかったと言っても何の役にも立ちません。それが英知のしるしですか?」

  たくさんの書物を読み、講話を聴いて一生を過ごすいわゆる求道者は大勢います。霊性の実践は読み聴いたことのすくなくともひとつか二つでも実践することです。多数の書物を読んだのちに、単に「わかった。わかった」と言う者はこの話の夫にたとえられます。

From Sanathana Sarathi Feb.2006 issue page 65