子供のためのババのお話

生き物への憐れみ


  一匹の動物が穴に落ちました。片足を穴の外に出してはいあがろうとすると、もう片方の足がより深く穴のなかにめりこみました。穴からはいあがる方法のない動物はたいそう苦しみました。このようにして二日が過ぎました。通りかかった人もたれひとり助けようとしませんでした。動物を引き上げようとするならば自分自身が穴にひきずりこまれると恐れる者もいました。それゆえ、助けようとせずに行ってしましました。そばに立っていたいたずら小僧は動物が這い上がろうとしてはふたたび穴にすべり落ちるのを面白がって見物しました。

 

  そのとき、ひとりの聖者が通りかかりました。かれは苦しみもがく動物を見てたいそうこころを痛めました。聖者はすぐさま穴に飛び込みました。それを見た人々は嘲笑の言葉を発しました。大勢の屈強な若者が見物していました。かれらが動物を穴から引き上げることができないのに、やせた貧弱な体の隠遁者に困難な仕事ができるだろうか、と。

  聖者はしかし見物人の言葉に取り合わず、神の御名を唱えつつ神の助けを祈り力をあたえたまえと祈りました。神の恩寵を祈りつつ聖者はゆっくりしっかりと動物を穴から引き上げました。引っ張りあげたり、自分の肩にかついだりして。聖者は引き上げた動物に水を飲ませました。腕白小僧たちはあざけって言いました。ご立派なセヴァ(奉仕)だね! そんなことをしてくれなければ、俺たちはもっと楽しむことができたのだ。

  聖者は言いました。子供たち! わしのしたことはセヴァではない。慈善でもない。わしは動物が苦しむのを見て苦悩するわしの苦しみをなくするために動物を助けたのだ。自分の苦しみをなくすためにしたことだ。ああ、これで苦しみはなくなった。そういうと聖者はその場を立ち去りました。

From Sanathana Sarathi May 2006 issue, page