田上山で鉱物探し


11日(10:00)石山駅→(11:30)枝バス停→(13:20)鎧ダム入り口→(14:00)― (15:00)鎧ダム→(15:40)堂山→(16:45)天神川ダム→(17:00)アルプス登山口バ ス停→(17:30)石山駅

甲子園取材を終えて帰る途中に関西の鉱物産地を訪ねることにした。いろいろと 考えたが、今回は滋賀県大津市の田上山にいってみる。田上山といえば、黄玉 (トパーズ)で有名だが、有名な産地ゆえ採集は難しくなっている。しかし、今 回は台風の直後だからチャンス。鎧ダムの上流なら何かお宝が流れてきているか もしれない。淡い期待を抱いて石山に向かった。

石山駅から田上車庫前行のバスに乗り、枝で降りる。地形図を見ながら道路を長々 と歩いていくと「アルプス登山口」のバス停があった。バスの本数もこちらのほ うが多い。土地鑑がないからこんな失敗もある。家族連れが水遊びをしている。 汗水たらして林道を歩くのが馬鹿らしく思える。ザックの中には取材用の機材も 含めて出張の装備すべてが入ったままだ。石山駅に一部デポしようと考えていた のをすっかり忘れていた。9キロのザックがずっしり重い。歩荷トレーニングだ と前向きに考えよう。

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延々と川原が続く鎧ダム。勘弁してほしい

田上山というのは、この地方通称で特定のピークではない。登山者には「湖南ア ルプス」の方がなじみがある。今回の目的地・鎧ダムは土砂の流出を食い止める 砂防堰堤だ。林道から天神川をはさんだ反対側に、それらしい流れ込みがある。 橋がないので靴を脱いで裸足で川を渡る。水の冷たさと砂を踏む感触が心地よい。 枝沢右岸の急登にいきなり取り付くがすぐに行き詰まる。地形図に記載のない道な のでガイドブック(『滋賀県地学のガイド上』)を参照するがよく分からん。沢 沿いに行けばいいんだろうと巨岩の折り重なる沢筋の中央突破を図る。花崗岩は 本来フリクションがよく利くのだが、ウレタン底の軽量ランニングシューズでは ソールがボロボロと削げて極めて登りにくい。泣きが入りそうになりながら、巨 岩帯を越し、ヤブをこいで旧鎧ダムの右岸に出る。

しかし、その先に道はない。靴下を脱いで靴を履きなおし、堰堤の上を徒渉して 左岸につけられた立派な登山道に出る。出合でちゃんと確認しておけば、しなく てもいい苦労だった。道は標識もあり、よく整備されている。これならダムまで 楽勝。と思っていたらまた失敗。いつの間にか尾根道に上がっていた。滝のよう な汗を流しながらマサのガレ場を登ったときに気づけばよかったのだが、登りに なるとつい力が入って突っ込んでしまう。山ヤの悲しいところだ。

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堂山への登山道

30分ほどのアルバイトで沢沿いの登山道に戻る。道は何度も沢を横切り、そのた びに沢の中に足を入れる。冷たくて気持ちいい。ついでに石やキノコも物色する のでなかなか予定通りには進まない。やはり沢道は涼しくて、この季節のハイキ ングコースとしてぴったりだ。コンクリートの堰堤が現れ、やっと鎧ダムに到着。 しかし、ダムとは名ばかりで堰堤まで土砂ですっかり埋まり、広々とした川原が どこまでも続いている。エーっ、ここで石を探すの? 勘弁してほしいやって感 じだ。

ここまできて泣き言いっても始まらない。目を皿のようにして川原の石ころを見 回す。とはいっても、ほとんど砂浜状態なのでたいした大きさの石があるわけで はない。一歩進んでは石を拾い、立ち上がってまた進む。これを何度も繰り返す。 炎天下の日差しにも負けず、立ちくらみにも負けず、単調な作業を繰り返すが目 に見える成果はほとんどない。とりあえず、いくらでも落ちている緑色をした長 石を拾っておく。しかし、このままボウズという不安は消えない。

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堂山から湖南アルプスを振り返る

いよいよ川原も終わるという上流部で、正長石と黒雲母の結晶が付いたペグマタ イトのかけらを見つけた。何かぐちゃぐちゃした結晶が付いているなとは思って 握っていた緑っぽい石をルーペで観察すると水晶だった。もう少しさかのぼって みたが、あまり変わり映えしないので、ここまでの成果に納得して引き返す。さ て、これからどうしよう。そろそろ午後3時だが、きた道を戻るのもおもしろく ない。目の前に指導標もあることだし、堂山経由で帰ることにする。

やはり地形図に道はないが、緩やかな谷筋を詰めて稜線に出るコースのようだ。 湿地のような登山道をたどる。時間があれば横を流れる沢で石を探したいが、も うあまりそんな余裕のある時刻でもない。それでも、小さな水晶のかけらをゲッ トする。20分ほどで堂山手前の稜線に出る。指導標には「堂山」と「天神川ダム」 とある。下山路は天神川ダム方面だが、地形図には堂山方面に下った鞍部にも林 道が記されている。地形図の道はいいかげんだからあまり当てにはできないが、 とりあえず堂山を目指す。

この先は巨岩と潅木に覆われたマサの道だ。展望が開け、「湖南アルプス」の名 にふさわしい景観が広がる。ズルズル滑る靴をだましだまし下る。見た目より、 上り下りが激しい。やはり最低鞍部に林道などない。そのまま、堂山頂上を目指 す。ピークは三つあり最奥部が堂山頂上だが、急ぐので二つ目のピークまでとす る。堂山は湖南アルプスの前衛峰的な山なので、ピークからは広々とした平野部 が見渡せる。風が心地よいが、ゆっくりする間も惜しんで元きた道を戻る。

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掘り返された晶洞跡

分岐から先の道は地形図にもガイドブックにも記載がない。地形を読んで道を確 かめるしかない。主稜線をはずさないようにすればいいのだろうが、指導標はな いし、シダが道を覆っていたりするので少し心許なかった。途中で転がっている 石の結晶が異様に大きい場所があった。晶洞を掘り返したときに出たズリ石だっ た。少し時間をかけて晶洞を観察。掘ってみたが埋もれている石がどうなってい るのか分からず、要領を得なかった。

いくつものピークを過ぎると左手に天神川の堰堤が見えた。自信はあったが、ど れくらいで下れるかは全く分からなかったのでほっとした。堰堤が見えてから15 分ほどで天神川に着いた。若者たちがキャンプをしていた。ぼくもここで泊まり たかったが、立派なテントの隣で野宿ビバークするわけにもいかない。帰りは 「アルプス登山口」からバスに乗った。冷房がよく利いてありがたかった。

成果はそれほどでもなかったけれど、水遊びもできたし、土地鑑のない山域で地 形図だけを頼りにちょっとだけドキドキした山歩きもできたし、楽しい1日が過 ごせた。目標に向かって突き進む山登りもいいけれど、モチベーションが落ち気 味のこの季節には、ゆったりと自然の中で過ごす時間を作ることもいいかなと思っ た。