海で山師


26日(23:30)練馬→27日(5:40)富山駅→(6:40-13:15)宮崎海岸→(13:40)糸魚川 駅→(14:10-15:30)姫川中流→(15:50)糸魚川駅→(20:00)大泉学園

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宮崎海岸での採集風景

「ヒスイ輝石を採集しよう」と思い立ち、深夜の高速バスに乗る。途中激しく雨 が降ってきて心配したが、日本海側は収まったようだ。富山駅で5:50発の直江津 行きに飛び乗り、越中宮崎で下車。駅前は閑散としていてお店も何もない。でも、 すぐ前が海岸だから便利でいい。さっそく石拾いだ。

ヒスイはここらへんの海岸ならどこでも拾えるらしい。しかし、ヒスイの産地は 姫川と青海川の上流にあるから当然その河口付近で拾える確率が高い。ここは少 し離れているが、なぜかヒスイを拾える確立が高い場所だという。今回は駅のす ぐ目の前が海岸という地理的条件からここを選んだ。どんより曇って風が強い怪 しい天気だが、これくらいの気象条件は問題ない。

さすがにこの天気で午前7時前からヒスイを拾いにくる物好きはいない。短パン にサンダル履き、手には小型ツルハシを握り締め、勇んで波打ち際に飛び出す... が、分からん。目に付く石はすべてヒスイに見えるし、ヒスイでないようにも見 える。一応の知識は仕入れてきたのだが、しょせん机上の理論は実践には役立た ないのか。形、透明度、硬さを目安にいくつかポケットに突っ込む。ぬれている 時はそれなりの輝きがあるのだが、乾くと安っぽくなってしまい、「こりゃ外れ」 とハンマーでたたいて砕く。この繰り返しで手元にはなにも残らない。

海水浴場の東端まで行ったが、ここまでの成果は忍石1、めのう1のみ。引き返 してもう一度じっくり波打ち際を探す。雨と風が冷たい。丸っこい石が多い中、 狙いを波間に転がる角ばった石に絞る。怪しい石を拾ってはレーザーポインタを 当てて透明度を試し、乾かして様子を見る。これを丹念に繰り返す。たいていは 石英だったが、海水浴場の真ん中辺りで透明度高い真っ白な石を拾う。石英っぽ かったが、もんもんがあり、平面も出ているのでちょっと雰囲気が違う。石英か もしれないけれど、ヒスイかもしれない。ハンマーでたたくのはとりあえずやめ ておく。

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糸魚川駅前にあるヒスイの原石

気がつくといつの間にか青空が広がり、日が差していた。ヒスイを探しているよ うな人も、どこからかわいてきた。「ヒスイってどんな石ですか」と何人からも 声をかけられた。どうして素人のぼくに聞くんだと思いながらも、「白っぽくて、 透き通っていて、重くて硬い石」と当り障りのない答える。「エー、緑じゃない の」「石英質じゃないんですか」と驚く。ほとんどの人がヒスイがどんなものか 知らないまま「熱心」に探しているのだ。

少しあきれたが、多くの人は「でも、きれいだからいいわよね」と気にせず、適 当な石を思い思いに拾っている。いわれてみれば、この海岸には実に多様な種類 の石がある。花崗岩、石灰岩、石英片、蛇紋岩のほかにも透閃石やメノウ、コラ ンダムなどの鉱物までもあるという。ぼくも、途中から半ばあきらめて忍石探し に熱中していた。せっかく日本海のきれいな海岸にきたんだから、血眼になって ヒスイを探さなくても、たくさんある種類の石を楽しむのもひとつの遊び方だ。

で、気がつくと6時間もたっていた。電車を2本も乗り過ごしてしまった。電車に 乗りながら次はどこで何をしようか考える。姫川が茶色い濁流になっているのを みて、とりあえず姫川下流にいってみる。糸魚川で降り、商店街をうろうろして いると青海駅行きのバスがきた。これに乗って姫川大橋のたもとで降りる。川原 には濁流の跡が残っている。水量はまだ多く、濁流なので川原で探すしかない。 一生懸命に物色するが、めぼしい石はない。

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濁流の姫川下流

岸近くできらきらと輝く石片を見つける。ツルハシの先でゴリゴリやると簡単に 傷がつく。これは大理石だ。辺りを見回すと白っぽい石が散乱している。ツルハ シで傷がつかないものをより分ける。白い中に緑色の筋が入ってヒスイっぽいし、 光も透過する。岸近くにごろごろしているのが怪しいが、ヒスイかもしれないの でとりあえずザックに詰める。500グラムを超えるかたまり2個を含め、1.5キロ ほど詰め込んだ。

電車を待つ時間を利用して、駅の隣にある「ヒスイ王国」を見学する。正面に飾っ てある巨大なヒスイ原石は迫力ある。ラベンダーヒスイの巨岩もきれいだった。 加工品に混じって、さまざまな原石や鉱物(なぜか方解石が多い)も展示されて いて勉強になる。

採集したときは半信半疑だったものが、列車の中でしげしげと採集した石を眺め ているうちにだんだんヒスイに見えてくるから不思議なものだ。持ち帰ってから はヒスイだと確信して、周囲に「ヒスイを拾った」と豪語する。しかし、翠宝堂 で買った標本と冷静に見比べてみると、結晶の見え方が明らかに違う。本物は微 細な結晶面がキラキラ光るのに、採集した石に見える結晶は肉眼でも明らかにへ き開面と分かるものだ。それにずっしりとした重さがない。

比重を計ってみたらすべて2.62。石英と比べても軽すぎる。どうやらヒスイとよ く間違う曹長石という鉱物らしい。トーフのような正長石は知っていたが、それ とはちょっとイメージが違う。ヒスイには出合えなかったが、勉強にはなった。 次の機会にはぜひともヒスイ輝石の標本を手にしたいものだ。炎天下で石を拾っ たときの「ヒスイ焼け」で1週間腕と足がヒリヒリ痛んだ。