緑がちりばめられた三川の斜面


9日(4:50)大泉学園=(10:15)三川駅=(10:35)新谷バス停→(13:00-16:00)三川 鉱山、10日(11:40)三川鉱山ズリ→(11:45)林道→(13:15)新谷バス停→(14:10) 三川温泉入り口バス停=(14:30)三川駅=(20:00)大泉学園

船岡鉱山の採集会では、「二次鉱物なんてサビ」というあさはかな認識を改めさ せられた。鮮やかな青や緑の鉱物は、これまで採集したことのない新鮮な色彩だっ た。同定にもちょっと自信がついたので、二次鉱物の産地として有名な新潟の三 川鉱山に出かけた。かはくの地学部長・松原聰先生が9月に出した『鉱物ウォー キングガイド』にもちょうど紹介されている。ちょいと鉱物ウオーキング+野宿 で視察してきた。

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やっと着いた三川鉱山

長岡から信越本線快速で新津へ。磐越SL号でにぎわう新津で夕食用の駅弁を買っ て磐越西線に乗り、三川駅で降りる。時間はかかるが鉄道の旅は気楽だし、おも しろい。駅前から新谷行きのバスがすぐに出る。新谷からは延々と林道を歩く。 途中何台も車が追い越していく。こりゃズリも相当にぎやかかなと思ったが、雨 上がりの林道にわっぱの跡がない。どうも近くのオートキャンプ場と釣り堀を目 指す車だったらしい。

1時間ばかりは展望がない。キノコを探すとナラタケ、ヌメリイグチ、ハツタケ、 スギヒラタケがあった。スギヒラタケはかなりの量が、ヌメリイグチもちょうど 採りごろだったが、あたりが怖いので手は出さない。道路わきにハツタケが出て いたのには驚いた。。緑のシミがあるので間違えようはないけれど、場所が場所 だけに、怪しいと思って斜面の上を見たら赤松の林が広がっていて納得。しかし、 気持ちに余裕がないので採集はパス。

展望が開けると上り下りをしながら道は斜面に沿って進む。地形図でズリの位置 は確認しているが、あちこちにガレ場があって特定できない。今晩のお泊まり地 も考えなきゃいけないし、気が焦る。やがて山側斜面に露頭が現れ、落ちた石か ら水晶が見つかる。喜んで拾うが、我に返って先を急ぐ。ズリへの入り口はウォー キングガイドの記述が頼り。側溝を探しながら進むとそれらしい場所があった。 ガイドには右側の側溝に沿って進むとあるが、ススキが生い茂っていて道があり そうもない。左側なら石の散乱する広場があって奥にいけそう。ザックを背負っ て突っ込むが、ヤブにつかまって敗退。おまけにススキで手を切ってしまう。どっ と疲れが出る。

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ズリの末端にツェルトを張る

テーピングで手当てし、手袋をはめる。一部の荷物をデポして、今度は右側の側 溝沿いに登る。入り口はヤブに覆われているが、踏み跡はしっかりしている。ヤ ブもすぐに薄くなる。沢に沿って進むとすぐにズリに出る。やった! ここが三 川鉱山だ。間違いない。ズリ石には緑の孔雀石がいっぱい付いている。水晶も、 小さいけれど、いくらでもある。喜び勇んでそこら中の石をひっくり返す。藍銅 鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、菱鉄鉱などはすぐに見つかった。重晶石の結晶 やブロシャン銅鉱もあった。ズリの上方には割るような大きな石はないが、二次 鉱物なら表面採集で十分だった。ズリの表面を少しつつくと次々と青や緑の二次 鉱が出た。

素手でズリをかき回していたら、突然、小さな蛇が飛びかかってきた。間一髪、 かまれることはなかったが、動きは素早くマムシのようだ。20センチほどのその 蛇には、マムシのような銭型紋はなく、白黒の縞模様だった。しかし、よく観察 すると頭は毒蛇に特徴的なエラの張った三角形。鎌首をもたげた姿勢で威嚇する など、小さくてもやっぱりマムシだ。やあ、危なかった。でも、今回はマムシの 被害を想定して毒出し器を持ってきたから余裕がある。首からぶら下がったルー ペに小マムシは体を丸めて盛んに威嚇ポーズをとっている。ルーペを近づけたら、 すかさず噛み付いてきた。なかなか、おもしろい。

日が傾いてきたので、ねぐらを考えないといけない。その前に、踏み跡をたどっ てさらにズリの奥へと尾根道を進んでみる。すぐに最上部のズリにたどり着く。 ここはさらに二次鉱物の量が多い。結晶形が残っているものも多い。もう少し時 間をかけて探索したい。それで本日のお泊まり地はズリの末端に決定。多少寝心 地が悪いのをがまんしても採集地に近い方がいい。荷物をとりに林道まで下り、 急いでツェルトを設営。16時までの残り時間をすべて最上部のズリでの採集に充 てる。毎度のことだが、欲張りすぎて選鉱とこん包に時間がかかり、夕食の準備 を始めたのはとっくに日が落ちた17時半を回っていた。インスタントスープと駅 弁・磐越物語という貧しい食事だったが、上々の収穫に十分に満ち足りた。

夜は曇りで星空は見えなかったが、おかげで暖かかった。動物の気配も少なく、 静かだった。それでもなかなか寝付けなったので、ツェルトから頭を出して、手 近なズリ石を観察して時間をつぶす。そんなんでも藍銅鉱くらいは見つかる。久 しぶりのツェルトビバークだけど、室内は広いし、マットはズリの上でもゴロゴ ロしなかったし、快適だった。ぐっすりとはいかなかったが、空が白む4時40分 ごろには気持ちよく起きられた。

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二次鉱物の宝庫・最上部のズリ

明るくなるのが待ちきれず、急いでプレツェルをほおばり、スープを飲む。6時 ごろには最上部のズリで探索開始。傾斜が急なので足場のいい両脇を見る。藍銅 鉱などはいくらでも見つかる。ブロシャン銅鉱の結晶もたくさんある。マリモの ような孔雀石の結晶も出る。目が慣れれば、ズリのあちこちに緑や青の二次鉱物 が顔を出している。げっぷが出そうな産地だ。ズリの上部で。白い粉を吹いた重 い塊を拾う。念願の硫酸鉛鉱だ。7時半から8時までで撤収の準備をし、ふたたび ズリに赴き、極小の二次鉱物をかき集める。

気が付けばいつの間にか11時半を回っていた。急いでズリを降り、荷物を担いで 林道を戻る。山腹に沿って反対側の斜面に回りこむと鉱山のズリが見えた。他の 崩落地に比べれば小さなものだ。松林の下でハツタケを採り、急ぎ足で下る。最 後は走ったが、新谷に着いたときは、すでにバスが行ってしまった後だった。次 のバスまで2時間待ち。駅まで歩いても2時間はかからないだろう。気を取り直し て道路を歩く。しかし、次のバス停まで30分かかり、うんざりする。バス停には 木造の立派な小屋があった。ここで時間をつぶそうとも思ったが、再スタートか ら30分でリタイヤは悔しい。4つほど先の三川温泉入り口がバスの営業所らしい のでそこまでがんばる。さらに40分くらいで営業所に到着。ちょうど10分ほどで 始発のバスが出るとこだった。歩いたかいがあったというもの。

帰りは三川から新潟へ出て、新幹線に乗る。新幹線はさすがに込んでいたが、始 発なので座れた。とりあえず駅弁を食う。ズリを出てから口にしたのはジュース くらいだが、不思議と空腹感はなかった。帰って、ハツタケを見たら緑色に染まっ て不気味だった。でも、味はよかった。

持ち帰った鉱物は多いとは思ったが、2キロあった。二次鉱物はゴシゴシ洗えな いし酸も使えないから、洗浄が大変。泥を落とすだけでも、まる1日間かかった。 大いに後悔した。さらに、同定は簡単ではなかった。現場で青鉛鉱と思ったもの が藍銅鉱だったり、青針銅鉱と期待したものが青鉛鉱だったり、藍銅鉱としてい たものに青針銅鉱が入っていたり、青い鉱物は難しい。よく藍銅鉱と青鉛鉱の見 分け方に「色が微妙に違う」のがあるけれど、そこまでできれば達人だと思った。 三川も相当遠かったけれど、達人への道はまだまだ遠いわ。