15日(21:45)上野駅=16日(6:50)秋田駅=(7:20)羽後境駅=(8:00)協和ダム→ (9:00-10:20)二俣→(10:40-14:25)鉱山跡→(16:20)上庄内→(16:40)中庄内= (17:27)羽後境駅=(21:45)大宮駅
ゴロンとシートの寝台 |
三川でそれなりの成果を挙げた二次鉱物を、もうちょっと探したいと調べていた ら亀山盛鉱山の名前が出てきた。青鉛鉱や白鉛鉱など鉛の二次鉱物として有名で、 鉱物同志会でも採集会を行っている。秋田はちと遠いが1泊2日の野宿採集ならちょ うどいい。当初は、もっとも交通費が安くあがるよう秋田新幹線「こまち」でいっ て、翌日もこまちで帰る予定を立てた。しかし、当日は今シーズン初めて天気が 冬型になってしまった。雪中ビバークはみじめだ。できれば避けたい。そこで、 寝台特急を利用した夜行日帰りに切り替えた。
15日は秋田に初雪が降ったというニュースを聞き、上野に向かう。9時45分発青 森行の寝台特急「あけぼの」に乗る。寝台特急に乗るにはふつう、特急券に加え て寝台券が必要だが、あけぼのの「ゴロンとシート」には必要ない。ゴロンとシー トはB寝台と同じ造りだが、シーツやまくら、スリッパなどの付属装備がないだ け。弁当を食ってしまうともう、やることがない。夜だから景色も見えない。さっ さと持参したシュラフカバーにくるまる。席は2階だった。最初は暑くてフリー スを脱いだが、明け方はやや寒くて着込んだ。
秋田に着いた「あけぼの」 |
初めは隣りで子どもたちがはしゃいでいたが、高崎を過ぎると車内放送も終わり、 静かな夜になる。下のおばちゃんが時々通路でタバコを吸うのがいやだったが、 テントに比べれば快適なねぐらだ。ただし、ゆれは激しくてぐっすりとはいかな い。あくまでテントよりはましということ。秋田到着20分前に車内放送が起こし てくれる。外を見るともう明るい。
秋田では奥羽本線への乗り継ぎ時間が5分ほどしかなく、あわただしかった。駅 弁を買おうと思ったが、店も開いていなかった。車窓からは青空が見えたが、間 もなく雪が降ってきた。隣りで通勤のお姉さんが「タイヤ替えなきゃ」と話して いた。羽後境の駅で降りる。駅前にはコンビニどころか店一つない。街道を少し、 バス営業所まで歩くが、やっぱり何もない。朝飯、昼飯どうする。ケンケンのパ ン2切れで頑張るしかない。タクシー営業所から車で協和ダムに向かう。運転手 とは最初、言葉が通じなかったが、地図で調べて初めてきたというと途中の施設 などを教えてくれ、歓迎してくれた。9月にも石を拾いにきた人がいるといって いた。ダムから奥にもいけるといっていたが、9月の土砂崩れの工事が終わって いなかったため、ここで下りた。運転手は日が落ちるのが早いから3時には山を 下りろと忠告してくれた。
あたりが真っ白になる |
ダムは思ったより小さかった。国土地理院の地形図にはまだダムが載っていない。 道がどう変わったか心配だったが、ちゃんと林道終点まで舗装道路が通じていた。 その先も四駆なら入れるような広い道が続いた。大倉沢の入り口には「越口沢」 の標識が立っている。鉱山跡を探しながら道を進む。二俣で沢に出て道は終わる。 沢には水晶のついた鉱石がゴロゴロしている。鉱山は近いはずだがズリは見えな い。支流の右又に入る。ガレに見えたのは雪が付いた若い植林帯だった。ショッ ク。しばらく二俣で水晶を探す。小割りにすると水晶以外にも怪しい結晶が出た。 辺りがまっ白になるくらい、雪が激しく降り出した。
人の気配を感じて顔を上げると対岸に2匹の犬を連れたハンターが現れた。「車 がないけど」というので、ダムから歩いてきたことを告げると少し驚いた様子だっ た。何をしているのかとの問いに「鉱物採集」と答えると、「それであちこちに 石を割った跡があったのか」と納得して去っていった。ハンターが上流に向かっ たことを確認して跡を追う。しかし、すぐに姿も道も見失う。しかたなく、沢沿 いを進む。沢には水晶がゴロゴロしている。目移りしてなかなか前に進めない。 しかし、ほんの数十メートルも進むと右手にズリが現れた。ここが、亀山盛鉱山 だ。
ズリには巨大な水晶がころがっている。いやいや、まずは二次鉱物。緑鉛鉱、緑 鉛鉱と呪文を唱えながらズリを漁ると案外あっさりと見つかった。大きさはせい ぜい1ミリだが、薄い緑色の六角短柱状結晶だ。後は白鉛鉱、硫酸鉛鉱、青鉛鉱 かな。しかし、悲しいかな青鉛鉱以外はまったく鑑定に自信がない。結局、青鉛 鉱ばかりいくつも集めてしまって反省する。それだけあるってこともすごい。大 小さまざまなズリ石があり、表面採集でも石を割っても、それなりの標本が得ら れる。ダウンベストにカッパをはおっているので、寒さはそれほどでもないが、 運動靴の足元はかなり冷たい。駅前でポットに詰めた紅茶を飲むと、染み入るよ うに体が温かくなる。
亀山盛鉱山のズリ |
白鉛鉱は皮膜状で青鉛鉱や孔雀石に絡んでいる。結晶は石英のすきまに板状や六 角形などさまざまな形で出る。白濁して真珠のような光沢がある。硫酸鉛鉱も褐 鉄鉱上に張りついたものがよくある。こちらは透明で将棋の駒のような形で現れ るものもある。条線が目立つ。青鉛鉱は色で探す。結晶しているものは藍銅鉱の ようだが、形で分かる。孔雀石を伴う場合が多く、石英のすきまや針鉄鉱上にも ある。粘土の中には大型結晶が埋もれていた。取り出すのは難しい。水晶の分離 結晶は表面採集で十分。群晶を割り取るのは大変。石英脈には紫色のものがあり、 紫水晶もありそう。珪孔雀石は多いけれど、きれいなものは少ない。種類や質に こだわらなければ採集は楽な方だ。
鉛の二次鉱物は多いけれど、銅の方は皮膜状の孔雀石と珪孔雀石くらいと貧弱だ。 閃亜鉛鉱も黄銅鉱もそれなりにあるのに。かえって方鉛鉱の方が少ない感じがす る。全部二次鉱物になっちゃったんだろうか。ズリの上部は砂れきに埋もれてい るが、掘ればまだ、大きな石が埋まっている。今後、雨で新たなズリ石が表面に 出てくることもある。しばらくは、鉱物採集が楽しめる場所だと思う。そう考え ると、あれもこれも持ち帰るわけにはいかない。だから今回は、十分時間を掛け て選鉱作業をした。最後に水晶の分離結晶をいくつか確保した。ここの水晶は大 きさも手ごろで、なかなかよい標本になる。
大きな水晶がゴロゴロと |
公約通り、3時前に山を下りる。工事を避けてダムサイトの反対に出る林道を下っ たが、それが10分以上の遠回りになってしまった。ダムを過ぎてからがまた遠かっ た。ここにきてひもじさを感じるようになる。シャリバテしなかったのはケンケ ンのパンだからか。上庄内バス停についたら、10分前に出たばかりだった。携帯 でタクシーを呼ぼうと思ったら圏外。住宅も何件もあるのに、関東では考えられ ない。これが東北なんだと実感した。さらに2キロほど歩いて市営温泉施設入り 口にある中庄内のバス停に到着。ここには小さな待合室があった。バスを待つ20 分ほど中でくつろぐ。バスが着く17時には真っ暗になってしまった。バスに乗っ て約10分。やっと携帯が通じる場所に到達した。
羽後境の駅前は真っ暗。バス営業所の少し先に食料品店をやっと見つけて、いな り寿司とゆべしを購入。駅でむさぼるように食った。18時01分発の電車で大曲に 行き、こまちに乗り換えて東京に向かう。こんな時間でも東京に帰れるんだねえ。 秋田も近くなったもんだと妙に感心する。秋田新幹線は全席指定のため、大曲で の乗り換え時間が5分しかなかったが、いったん改札を出て指定を取った。結構 忙しかった。時間に余裕はあったが、同じホームに秋田行と東京行が並んでいて 、これには焦った。列車の表示で確認したが、アナウンスを聞くまでドキドキし た。途中の田沢湖駅などではホームをはさんだ隣りに2両編成のローカル列車が 止まっていたりして、「これ本当に新幹線?」と思うような光景がいくつもあっ た。「新幹線」なのは名前と料金だけという意見もある。納得できる。
いろんな種類・形態の鉱物を採集したつもりだったが、調べてみれば水晶、閃亜 鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、白鉛鉱、青鉛鉱、緑鉛鉱、硫酸鉛鉱、孔雀石、珪孔雀石、 銅藍、ブロシャン銅鉱くらいだった。違う鉱物だと思って結晶形の異なるものを いくつも採取したけれど、すべて白鉛鉱だった。硫酸鉛鉱はないものとあきらめ ていたが、結晶図通りの結晶があったから、たぶん間違いないでしょう。まあ、 標準的な産出鉱物はそろえられたから、ぜいたくをいってはいけない。
昨年より1カ月も早く雪に降られてしまった。これで今季の東北、北陸方面への 遠征は終わりだろう。ちょっと残念。来シーズンに期待しよう。