28日(5:50)大泉学園=(10:15)角館=(10:40)雫田→(11:50-16:30)日三市鉱山 →(17:00)雫田→(17:30)野田=(18:20)角館、29日(7:07)角館=(7:25)雫田→ (8:10-12:55)日三市鉱山→(13:27)雫田=(14:15-15:49)角館=(19:50)大泉学園
日三市鉱山 |
「いまは日三市ですよ」。そんな話を鉱物科学研究所のIさんから聞いたのは昨 秋、亀山盛から帰ったばかりのころだった。そのときは気にとめなかったが、亀 山盛の近くだし、ついでに寄ってみようかなと下調べをした。日三市鉱山は、秋 田県協和町(現大仙市)にあった荒川鉱山の支山で銅、鉛などを産出した。最盛 期は大正時代で中学校もできるほどの集落があったらしいが、1937年に閉山して 久しい。鉱物では「荒川石」の名前も付いた銅の燐酸塩鉱物であるベゼリ石が有 名だ。
5月の連休に訪問する計画を立てたところ、予想外の積雪と雨とで断念。ころあ いをみて計画を立て直す。当日はまたもや雨の予報だ。それでも、初めての産地 に大収穫を期待するわけでもないし、この間検討してきた雨対策の成果を試すの もいいだろうと決行した。
「おはよう秋田往復きっぷ」で角館までいく。その日に出ても10時すぎには着く。 ずっと雨もようだったのに、角館付近は降っていなかった。市営バスは土休日運 休なので、やむを得ずタクシーで雫田まで入る。人工池を過ぎると整地された鉱 山跡が続く。道端にはそれらしい石がぼちぼちと現れる。
青や緑の二次鉱物がいっぱい |
三差路に出る。めざすズリにつながるのはどれか。ここで考えてもしょうがない ので一本ずつつぶす。正解は「黒滝沢」沿いの道。橋を渡ると道は沢から離れ、 ジグを切って右手の尾根をあがっていく。急坂で路面も荒れているのに単車のわ だちがあった。この先にズリがあるのか当てはない。嫌気が出るころ、突然ズリ に出た。足元に紫水晶のかけらが転がっている。休憩して採集を始める。
ズリは20×50メートルほどの広さで傾斜は約20度と比較的緩やか。土の上に石が 乗っている状態だ。緑色の二次鉱物のかけらがあちこちに散らばっている。割る ほどの石もないので表面採集をする。黄鉄鉱や黄銅鉱、閃亜鉛鉱、それに青や緑 の二次鉱物はすぐに見つかる。二次鉱物は孔雀石や青鉛鉱、珪孔雀石、含銅アロ フェンが目に付く。将棋の駒を薄くしたような板状のブロシャン銅鉱もあった。 掘ればまだ原石が出るけれど、どろまみれで分かりにくい。茶碗のかけらととも に、「寛永通宝」やキセルの吸い口も落ちている。こりゃ、かなり古いズリだ。 ときどき降る雨をかん木で避ける。13時ころから雨が本降りになった。切り上げ て林の中で一休みする。
ズリを探し当てるという当初の目的は果たしたが、もう少し林道を進んでみる。 道はほぼ水平だが、フキなどが生い茂り歩きづらい。20分くらい歩くと切り開き で見通しの良い場所に出る。広場になっているが草が伸び放題で足の踏み場がな い。周囲を見渡してもズリはなさそうなので引き返す。
上部にも広大なズリがある |
ズリのとなりに坑口があった。よく見ると道の反対の山側にも小さなズリがある り、踏み跡をたどると新たなズリに出た。規模が大きく、石も多い。こちらが本 命か。雨も小降りになり、やがてやむ。雨上がりは二次鉱物がきれいに見える。 ついつい夢中になってしまい、気が付いたら16時を回っていた。まずい。明るい ので安心していた。急いで山を降りる。
雫田に着いても携帯は圏外。ズリでは通話可能だったのに。当てにしていたタク シーが呼べない。やむなく地形図片手に野田まで歩く。30分歩き、バス停付近で つながるピンポイントを探し出して電話。これで一安心と思ったら、30分待たさ れた。どうやら違う「野田」に行ってたようで、運転手は平謝りで料金をまけて くれた。
宿で石を洗い、ぬれ物を乾かす。雨の日に暖かい部屋で寝られるのはありがたい。 宿の前の店で夕食を取る。そこの主人は子どものころ日三市鉱山で遊んだことが あると話していた。鉱石を拾ったり、坑道の中に入ったりしたといっていた。警 察署近くの団地にも鉱山があったという。雫田は除雪もされない「角館のチベッ ト」といわれるほど暮らしが大変なところだったとも。地元でも昔鉱山があった ことを知っている人はだんだん少なくなっているようで貴重な話だった。
最上部からのながめ |
29日は亀山盛に行くか相当悩んだ。天気もよくないから、早めに引き揚げられる 日三市を再訪することにする。食料を確保しそびれたので、手持ちの非常食を朝 食にする。試供品でもらったソイジョイとかいう大豆粉のバーを3本食う。こん なもので腹の足しになるのかいな。でも、背に腹は代えられない。あるものでが んばるのも修行のうち。
朝一のスマイルバスに乗る。客は自分ひとり。一律200円はありがたい。歩き出 すとウグイスの鳴き声が谷間に響き渡り、すがすがしい。天気もまあまあ。きょ うは上のズリを集中的に狙う。末端で孔雀石の塊が見つかる。ここの二次鉱物の 特徴は亀山盛と非常によく似ている。同じ荒川鉱山の支山だから当然のことかも しれないが、亀山盛には孔雀石がほとんどない。孔雀石はズリの下部に多く、上 部には青鉛鉱が多い。
もうひとつの違いは紫水晶が多いこと。亀山盛はこれほど多くはない。紫水晶を 目当てにだいぶ人が入っているようだ。大きな結晶は掘らないと無理だけれど、 小さいものはいくらか拾えた。水晶自体はたくさんあって、大き目の母岩に必ず ついている。しかし、取り出すにはかなりの労力と時間がかかるので、そこまで やる気は起こらない。褐鉄鉱に乗った濃緑色、ガラス光沢、球状の結晶集合体が 見つかる。形状は孔雀石のようだが、色が濃すぎるし塩酸で溶けない。断面には 同心円の模様がある。いろいろ調べてみたら、珪孔雀石らしい。
初めは雲が多かったが、日も差し気温も上がってくるとセミが鳴き出す。さすが に暑い。虻がまとわりつき、じっとしていると刺す。手袋は必携だ。曇ればいな くなるのだが、これからは悩ましい季節になるなあ。
時間はあっという間に過ぎる。あわただしく帰り支度をする。ベゼリ石にはお目 にかかれなかったけれど、十分納得できた。30分あれば間に合うだろうと、高を くくっていたら、雫田の三差路でバスに合い慌てた。手を降って乗せてもらう。 自由乗降区間で助かった。一眠りしたら角館駅。稲庭うどんを食って落ち着く。 山ウド、ワラビ、ミズ、フキなどの山菜が八百屋の店先に並んでいた。山ウドを 土産に買って帰る。