10日(6:30)大泉学園→(9:40)新城駅→(10:03)吉川公会堂前バス停→ (10:00-15:30)吉川鉱山→(16:50)中宇利、11日(8:10)中宇利→(9:20-12:45) 中宇利鉱山→(13:10)中宇利集落センター→(13:40)新城駅→(16:50)品川駅
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アルチニ石などが出る吉川鉱山のがけ |
未練が残った吉川鉱山を再訪。前回見られなかったズリを回る。ズリ石は大部分 が埋められていて割れるような蛇紋岩はあまり残っていない。メーンの産地は崩 落が続いている採石場跡のようだ。それでも、あまり人が入ってないようなので 霰石などが少々残っていた。資料で十分に勉強してきたつもりだったけど、やは り水苦土石以外はよく分からない。とにかく、ちょっと感じの違う? 結晶をか き集める。
前回訪れた場所に移動。採石場の入り口付近にアルチニ石が付いた蛇紋岩が集中 している。そこで石を物色していると、ヒイラギを採りにきたおじさんが現れた。 「ここはいつも石を採りにきている人がいるけれど、どうしてこんな奥に入った ところが分かるのか。東京からくる人もいるけど、どんな石が採れるのか」と不 思議そうな顔で質問攻めにされた。週末は必ずいるという話には自分も驚いた。 おじさんが疑問を持つのも当然だ。
ここの地主は神奈川県にいること、尾根には水抜きの井戸があって落ちることが あるから気をつけることなどを教えてくれた。また、ヒイラギは1本200円位で1 日がんばっても弁当代にしかならないとも話し、石は金になるのかと興味を示し ていた。そんなうまい話はないよっていうと「やっぱりな」と笑っていた。
新鮮な結晶を求めて急斜面のがけを登る。不安定な足場で落石を気にしながらの 作業になる。風化してない結晶があると思ったのだが、下とあまり変わらない。 長居は無用だ。結晶が見栄えのするアルチニ石探しから、お目当てをニッケル鉱 物のヒーズルウッド鉱に変える。ルーペでじっくり観察するとすぐに見つかった。 蛇紋岩中に入っている黒光りする点々が磁鉄鉱で、ヒーズルウッド鉱は真ちゅう 色の点々。いずれもルーペで見てやっと存在がわかるようなしょぼい存在だ。し かも、小さすぎて黒なのか真ちゅう色なのかの識別も難しい。探せば少しは良い 標本を得られるだろうが、そこまで努力をしたいとは思わない鉱物だった。
山越えで宿に向かう。山にはいるとだんだん踏み跡が薄く、荒れ気味になる。日 も暮れかかり少し不安がよぎる。地形図を頼りに峠に向かって登っていくと突然、 舗装道路に飛び出した。こんな道は地図には載っていない。最近できたのだろう。 とりあえず一安心。坂を下って1時間ほどで中宇利に着く。1軒だけある民宿に泊 まる。夕食の量が多すぎて食後1時間は動けなかった。
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中宇利鉱山の露頭 |
午前3時ごろ激しい雷雨になり、朝まで雨が残る。午後は確実に荒れそうなので 早出したい。雨が上がったのを見計らって出発。民宿のおかみさんは鉱山があっ たことさえ知らなかったが、道を間違わなかったら30分ほどで着ける近場だった。 ため池を回り込んだところが少しヤブっぽい。ササの葉の中を突っ切りズリに出 る。カッパを履いていたからぬれることもなく、よく踏まれていたので迷うこと もなく中宇利鉱山にたどり着けた。ズリを詰めると露頭に出る。地面に水色の皮 膜が付いた石が散らばっている。
これが本日一番の目的である中宇利石だ。この鉱物は当産地で発見された新鉱物 だ。発見者は自分の出身大学の先輩だったという事実を最近知って、急に親近感 を持ったというわけだ。地味で見栄えのしないものが多い日本産新鉱物にしては さわやかな空のような青色が美しく存在感があるのも好感が持てる。そんなあり がたい鉱物が、簡単に見つかるとは少し拍子抜けした。結晶の立ったアルチニ石 や薄汚いが霰石もある。
露頭には水色の脈があちこちにきている。取り出すのは難しそうだ。散らばって いるものはほとんどが皮膜状で色が薄い。掘り込まれた露頭の穴から転石を拾い 出してみたが脆すぎる。ダメだ。結晶してなきゃ標本にはならない。蛇紋岩の露 頭は雨をしのげるから都合がいいけど、落石落盤の危険と隣り合わせだ。ぬれて もいいから、ズリで採集しよう。
ズリも掘れば宝が出る。結晶している中宇利石は濃い青色をしているので見付け やすい。だた、結晶は長くて2、3ミリときわめて小さい。「日本産新鉱物」とし ては見栄えのする方だが、素人受けするレベルではないな。中宇利石はアルチニ 石を伴うことがある。色が違うだけで形状はよく似ている。
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露頭で見られた霰石 |
あっさりと、お目当ての標本を手にしたため少し評し抜けした。さて、次は何を 物色しようか考える。こういうときのために「中宇利鉱山の産出鉱物一覧」メモ を作ってきた。そうそう、輝銅鉱、ヒーズルウッド鉱、コバルトペントランド鉱 が次のターゲットだ。黒くて重い石を集める。ずっしりと重い石は、たいてい緑 色の孔雀石が付いているので分かりやすい。ただ、輝銅鉱と磁鉄鉱の区別が付き にくい。光をよく反射して白銀色に見える部分が、たぶん輝銅鉱だろうと見当を 付ける。ヒーズルウッド鉱はその中に入っている真ちゅう色をした部分らしいが、 現地では見付けられなかった。層状になった輝銅鉱の中からは、赤っぽい金属光 沢の自然銅が見つかり、うれしかった。
どこかに坑口があるはずだと尾根に上がってみたが、探し出せなかった。それな りの成果があったので、熱心に探索する気も起こらなかったのだが。ヤブこぎし て下山したら、せっかく乾いた服がまた、ぬれてしまった。土曜日はバスがない ので中宇利集落センターまで戻ってタクシーを呼ぶ。
蛇紋岩に伴う炭酸塩鉱物や硫化鉱物は特徴に乏しく判別が難しい。記憶に頼って いては、ほんの一部の鉱物しか確保できないことを前回の吉川鉱山で思い知らさ れた。もちろん、ガイドブックは持ち歩いているが現場では本など開いてはいら れない。そこで今回は、産出鉱物と産状と特徴を記したメモを作ってきた。とき どき開いてなるべく多くの種類の鉱物を探すよう努力した。その結果、見栄えの するものだけに集中する素人っぽい採集の仕方から脱出できたかなと思う。運と 勘だけでなく経験や蓄積の成果を示せた採集になったことに満足できた。