31日(8:35)大泉学園→(9:30)上野駅→(12:21)水上駅→(12:45)土合橋→(14:50) ビバーク地、1日(6:00)出発→(8:40)松ノ木沢の頭→(9:40)ビバーク地→ (11:10)土合橋→(11:30-12:05)谷川岳ロープウェイ駅→(12:20)水上駅→ (15:00)池袋駅→(15:30)大泉学園
雪洞で寝たい! と思い立ち、無性に雪山に行きたくなった。手術をした昨シー ズンはスキーや冬山は控えた。それを取り返したいという思いも強い。鈍った体 と技術を鍛えるには勝手が分かる山がいいだろうと谷川岳を考えた。しかし、予 定が多数の入山者が予想される年越しと重なってしまった。込み合うと山にいっ た気がしない。そこで入山者が少なそうな白毛門に計画を変更する。
しかし、またまた問題が。クリスマスを過ぎても雪がないのだ。このままじゃ、 雪洞どころか雪山登山さえもできなくなる、と気をもんだが直前に寒波がきた。
雪面から顔を出した花芽 |
会に山行届を出して登山をするのは2年ぶり。いざ、出発となると気後れする。 そういえば、冬山に出かけるときはいつもこんな気分だったなあ。上野から特急 に乗る。万座行きは満員なのに、水上行きはガラガラだった。バスの中で雪山支 度を整え、土合橋でバスを降りる。山はしっかり雪に覆われていた。はやる気持 ちを抑えて装備を確認。慎重に雪道に踏み込む。
少し歩くとテントが2張り現れる。橋を渡るともう2張り。かなり人が入っていそ うだ。斜面に取りつくと下ってくる人と出会う。昨日に天神平で60センチ近く積 もったので雪はそこそこある。しかし、まだ締まっていないので雪洞は無理だろ う。トレースをたどっても時々踏み抜く。アイゼンは着けずにキックステップで 登る。新しい登山靴は軽くて調子いい。大きめのザックを担いで急な尾根を登る のは何年ぶりだろう。きょうは余裕があるからか荷物の重さは気にならない。やっ ぱり雪山いいなあ。まぶしく光る雪面を見たら、それだけでうれしい。
順調に高度を稼ぐ。しかし、尾根は狭くてツェルトを張れるような空間は確保で きない。地形図を見るとそろそろ尾根が広くなる辺りなのだが、まだ気配がない。 3人組が降りてきてラッセルが大変だったと話してくれた。スノーシューでひざ まで、つぼ足なら腰までもぐったという。きょう登ったパーティーは全部降りる のであすのラッセルは頼むといわれた。しかし、8人も入っているので大したこ とはないだろうと考えていた。彼らと別れてひと登りで木のウロが現れ、平らな 場所に出た。これ以上はないほどの好幕営地だ。30分ほどかけてしっかりと踏み 固め、ツェルトを張る。枯れ枝を雪に突き刺してロープを固定する。入り口を西 に向けるヘマをしたが、風がほとんどなく助かった。
夕食は、レトルトのチーズクリームソースをかけたマカロニ200グラムにミネス トローネ2袋、それに汁粉。さすがに腹がいっぱいになった。18時ごろ横になる。 今回は象足のおかげで足元が温かい。21時ごろまでは紅白を聞いて過ごしたが、 電池切れになってしまった。月明かりがまぶしく、冬山とは思えないほど穏やか な夜だった。マットに穴があいていたようで、空気がすぐに抜けた。背中や腰が 冷たく、あまり眠れなかったけれど、それでも快適な一夜だった。
モルゲンロードに染まる雪面 |
夜明けが待ち遠しく午前4時に起きる。正月の朝はやっぱりモチでしょう。と金 網の上で焼く。ところが、ガスの炎がどんどん小さくなっていく。あれあれ、も うガス欠かな、とボンベを持つ。確かにまだ十分にガスはあるが、ボンベがガチ ガチに凍り付いていた。少し火であぶったら炎は安定した。やれやれ。少し明る くなるまで待って撤収。空身で出発する。
谷川岳東面の展望が開ける松ノ木沢の頭まではすぐかと思ったら、これが意外と 遠かった。日の出直前の午前7時、周辺の雪面がピンクに染まる。モルゲンロー ドだ。生で体験するのは南アルプス地蔵岳に続いて2度目だ。美しい光景に見と れて「写真を撮らなきゃ」と思ったときには、もう普通の朝日になっていた。あ の輝きは5分くらいしか持たないのか。
疎林を登り、尾根が広くなったところでトレースは消えた。まだ先は長そうだ。 少し、気が重くなるが、昨日の約束がある。とにかく行くしかない。降り積もっ たばかりのフワフワの深雪の上をもがくように進む。一番浅いところでひざまで。 斜面が急になれば胸までもぐる。多少は歩きやすかろうとウサギの足跡をたどる。 でも、間もなく足跡の主は、こちらがもがきながらよろよろと進むすぐ横を、跳 ぶように斜面を上っていった。その姿を見て足跡を追うことに何の意味もないと 分かった。
いくら踏んでも雪は固まらない。右足が沈まないうちに左足を踏み出すようなも のだ。傾斜が60度を超えるとピッケルを胸元に突き刺して、ひざで雪面を崩し、 その上に乗り込む。これを左右交互に機械のように延々と繰り返す。松ノ木沢の 頭直下ではブッシュが消え急登になる。真ん中あたりに岩が埋もれていて、その 周りは悪い。左足を岩にかけて左手で雪面を押さえ、右手のピッケルを思い切り 遠くに突き刺す。その体勢で左足に乗り込んで越えた。手ごたえのない雪面に体 を預ける宇宙遊泳のようなクライミングは生きた心地がしない。
白毛門へのトレースはない |
ラッセルは辛い...とはいっても、誰も足を踏み入れてない、まっさらな雪面は、 本当の冬山らしくて美しい。そして、そこに自分だけの足跡を残せるのはもっと 美しい行為だと思う。きょう、トレースのない白毛門の写真を撮れるのは自分だ けなのだ。ラッセルしない冬山なんてどこかインチキくさい。きょうは無風快晴 のラッセル日和で、雪も軽くキラキラと輝いている。いやぁ、おいしい山登りを させてもらった。うれしくてたまらない気分だ。
目の前のピークを登り切ると、やっと白毛門が目の前に現れる。ここが松ノ木沢 の頭だ。谷川岳東面の岩場がよく望める。行く手の白毛門まではやせ尾根をたどっ て2時間くらいだろうか。でも、岩場混じりの鞍部は悪そうだ。クラスト気味の 尾根を下ると岩場に出た。フワフワした雪が載っている岩に手をかけて、雪のテ ラスに足を置くと、雪面に穴があき腰まで落ちた。踏み抜きだ。雪で元もとの地 形が隠れてしまっている。ラッセルなら根性と体力でまだまだいけそうだが、岩 と雪のミックスしたルートをたどる技術は持っていない。ここで引き返すことに 決めた。
頂上には到らなかったけれど、ツェルトビバークや新雪ラッセルなど冬山の楽し さを十二分に堪能させてもらえた。久しぶりの冬山で無理をする必要もない。ラッ セルを始めたあたりで昨日の3人組と出会う。松ノ木沢の頭までだと伝えたら礼 をいわれた。この日は、ビバーク地で荷物を回収するまでに10人くらいに出会っ た。荷物を背負った下りは足にきた。雪が団子になってアイゼンに付き、歩きに くかった。土合橋で装備を外し、新しくなった谷川岳ロープウェイ駅まで歩く。 昔より建物が近くなった。水上駅は観光客でにぎわっていたが、駅の窓口が無人 化されていたのには驚いた。
出かけるまでは、かなりおっくうだったけど、やっぱり冬山はいいなと思った。 ドーハから戻ってもなかなか取れなかった疲れが、少し吹っ切れたかなと思う。 山に登ればすべてハッピー−−とはいかないけれど、80%くらいはハッピーにな れた。まずは、めでたしめでたし。