3日(6:15)大泉学園→(8:10)三峰口→(8:55)大黒→(9:15)六助沢出合→ (13:00-14:10)貯鉱所→(15:20)出合→(16:20)鉱山住宅、4日(5:20-8:40)赤岩 坑→(9:40)ビバーク地→(10:00-11:40)道伸窪→(12:40-13:50)神流川河原→ (14:20)出合バス停→(15:30)三峰口→(18:25)大泉学園
ヤシオツツジ |
秩父鉱山にやってきた。途中、滝沢ダムには水が貯まり、対岸には道路が造られ ていた。約1年もごぶさたしたのか。
山菜を求めて秋田方面に出かけるつもりだったが、角館は「桜まつり」に当たる。 混雑がいやだったので近場に切り替えた。季節はちょうど山桜。山菜にはいいこ ろ合いかも、と期待が膨らむ。六助沢出合に荷物をデポして沢に入る。消えかけ た踏み跡をロープにすがって貯鉱場をめざす。斜面のトラバースは相変わらず緊 張するが、それよりもえん堤越えに使われている朽ちかけた木のはしごの方が怖 かった。落ちるのは時間の問題かと思う。
石膏の結晶 |
実は、六助の貯鉱に大したお宝は期待できない。それは昨年、鉱物同志会創立50 周年記念パーティでYさんから貯鉱の場所を聞いたときにいわれていた。1年半 前に一度訪れたときは貯鉱と気がつかなかったので、もう一度ちゃんと確かめた かったというだけだ。
ルンゼの急斜面をあがって枝沢を詰める。積もった落ち葉でひざまでもぐるり、 “ラッセル”で進む。歩きやすそうな左岸沿いを登ったために右岸に続く踏み跡 を見逃してしまった。やがて落ち葉が消え、焼けたゴロタ石の斜面になる。石の 表面がきらりと光る。細かい石膏の結晶だ。色は悪いが結晶はしっかりしている。 1センチ以上のものもある。いくらでもあるからありがた味がない。と思いつつ もしっかりと確保する。
このまま登り続けると大崩落地にいってしまう。適当なところでガレを登り右岸 に上がる。道をたどるとすぐに貯鉱。あるのは閃亜鉛鉱と黄鉄鉱くらい。うーん、 やっぱり何もないね。それでも、この目で確かめれば納得できる。新緑の山々に 山桜が点々と咲いている。深い山の中にいることを実感できるこの景色は好きだ。
下山は尾根すじにジグを切って付けられた踏み跡をいく。落ち葉が降り積もって 道が消えたトラバースが怖い。ハンマーのチゼルを突き刺してだましだまし足を 運ぶ。下りは危険個所よりゴーロの河原歩きが辛かった。バランスをとる力をか なり消耗してしまったようだ。少し鍛えないといけない。
六助の貯鉱跡 |
出合でザックを担ぎ、ヘロヘロした足取りで赤岩へ向かう。きょうのねぐらは赤 岩坑の手前にある鉱山住宅の奥だ。ところが、鉱山住宅の様子が変だ。公衆電話 と自販機がない。昨夏までは住人がいたのだが。登山道入り口にある水道の蛇口 をひねっても水は出なかった。当てにしていた水場が使えない。いや、それより も住民がいなくなってしまったことがはっきりしたことの方がショックが大きい。 いまさら他の幕営地を探す気は起きない。沢で水をくみ、最奥部の住宅跡地にツェ ルトを張る。
かさばるけど大きめのツェルトを持ってきた。居住性が格段によい。窮屈なねぐ らは辛い。採集や登攀で辛い思いをするのはかまわないが、寝るときはゆったり したいものだ。
当初の計画では、夕食は山菜付きパスタだった。しかし、鉱物採集と登攀に集中 していて、山菜など探す気にもならなかった。二兎を追う者一兎を得ずか。で、 レトルトのソースをかけただけのわびしい食事を取る。後片付けをして午後6時。 まだ外は明るいが、やることがないのでシュラフにもぐり込む。疲れているはず なのになかなか寝付かれなかった。ここからは街路灯の明かりが見える。野宿っ ぽい雰囲気は少ない。でも、闇の中から鈴の音のような怪しい鳴き声が聞こえて くると、ここはやっぱり山の中かなと思えた。夜中に二度ほど雨が降った。
道伸窪の鉱山施設跡 |
明るくなるのが待ち遠しかったのに、夜明けが近くなるとよく眠れる。ボーっと していたらいつの間にか外が明るかった。食事をして採集に出かける。朝方は冷 えるだろうと思ったら、谷が東向きなので1時間もしないうちに日が差し込んで きた。道草をせず真っ直ぐ上部のズリに向かう。今回は二次鉱物は不作で斧石と 緑簾石が当たりだった。絶対確保したいというものはないから気合が入らなかっ たか。下山して撤収。次の目的地・道伸窪に向かう。
途中、杖を持った中年の夫婦に赤岩への道を聞かれ、目が点になる。ロープなど 当然持っていない。道は教えてあげたけど、峠から先は切り立った岩稜で岩登り になることを示して、やめた方がいいと率直に伝えた。幸い、「そうですか。じゃ あ赤岩峠までにします」と忠告を受け入れてくれた。
道伸窪は黄鉄鉱の巨晶で有名だ。産地の正確な位置は分からないがとりあえずいっ てみる。選鉱所や通洞坑はすぐに分かった。建物はまだしっかりと原型を残して いる。周辺をうろうろするもズリがない。枯れ沢の道伸窪を登ってみる。いばら のヤブがうっとおしい。2つ目のえん堤前までさかのぼってみたものの金っ気が まったくないので早々に撤退する。
現役の秩父鉱山 |
あきらめきれずにゴミの中に散らばる方解石くずを漁る。ベスブ石や黄鉄鉱もあ るけど標本レベルではない。磁鉄鉱はたいていルーズな結晶だが、割るとシャー プな面が現れたのでこれで満足して引き揚げる。もっとしつこく探索する手もあっ たが、ここは鉱物採集で死亡事故が起きている場所だ。沢のわきにはかなり標高 のあるところからの落石跡がある。深入りは禁物だと感じた。
鉱山住宅から事務所までの間に数人とすれ違った。いずれもハイカーではなく、 鉱山施設を見にきた様子だった。家族連れできているグループもいた。鉱山見学 はレジャーになるのか。でも、河原にまで降りている人はいなかった。せっかく きたのなら石も見ていきなといいたい。
大黒トンネルの先で河原に降りてみるが見るべきものはなし。ちょうどさかのぼっ てきた釣り師と出会う。はて、この川に魚がいるのか。だらだらと歩いていたら 道端にシドケらしき新芽が出ていた。おお、山菜を忘れていた。しかし、ザック にしまいこんだ山菜図鑑をいまさら出す気にはなれない。たぶん、ヤブレガサだ と思うが自信がないので写真だけにする。後で調べたらやっぱり違っていた。小 心者で良かった。次に見つけたのはウルイ。これは昨年から目を付けておいたの で間違いない。小さめの新芽をひとつもぐ。そのままいただく。アクがまったく なく、ぬるっとした食感がいい。これで、山菜も収穫があったと記録に書けるぞ。
バスも電車も人が多い。さすがに連休は込む。おかげで、三峰口のソバ屋はソバ が終わっていて悲しかった。なんだか非常に疲れた。久しぶりの野宿だからか、 それとも山行日数が減って体が鈍ったか。もっと鍛えなければいかんと思った。
新しい発見や良い標本が得られたわけではないけれど、春の奥秩父は気持ちいい。 山菜と鉱物の二兎を追うには、まだ実力が足りない。春先にいって素人がいきな り見つけられる山菜はフキくらいのもの。どのへんに何が出るか、めぼしを付け ておくことが必要だと学んだ。