手強かった小川山のスラブ


19日(7:35)吉祥寺=(11:20)信濃川上=(11:50)川端下→(13:30)廻り目平、20 日(9:00-12:00)ガマスラブ→(14:00-17:00)屋根岩、21日(9:00-12:00)父岩→ (12:30)廻り目平=(12:50)野辺山=(16:40)吉祥寺

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廻り目平キャンプ場。中央下が金峰山荘。右上は屋根岩

職場の仲間をシローさんがキャンプに連れて行くお手伝いをした。キャンプなど 付き合いたくはないが、初心者に岩登りを体験させるのをシローさんだけに任せ ておくのは不安。ま、小川山ならいってもいいか。

ところが、他のメンバーはみな金峰山荘泊まりで、幕営は自分1人。どこがキャ ンプなんだと突っ込みたい。電車バスを乗り継いで、さらにバス停から全装備を 背負って1時間歩いて、やっと廻り目平キャンプ場に着く。他は全員車。なんだ か矛盾を感じ、空しくなってくる。しかし、現役山ヤにはこれもトレーニングの 一環。まだまだ、楽をする年ではない。なんて突っ張ってみても、いまどき歩い て小川山にくるやつなんていないかもしれない。

水場とトイレの間の一等地にシェルターを張る。夕立がきそうなので雨に強いシェ ルターにした。張るのも楽だし居住性もいい。ここ数年、ツェルトばかりだった ので今回はかなり豪勢なキャンプができそうだ。間もなく夕立がやってきた。東 屋に避難していると小1時間ほどでやむ。するとどこからともなくシローさんが 現れた。ガマスラブを登っていた降られたそうだ。今度は父岩にいくというシロー さんと別れて西股川沿いに水晶とキノコを探しにいく。水晶はあったが、キノコ はさっぱりだった。まずい。夕食のみそ汁の実がない。

途方にくれてキャンプ場に向かうとゴロゴロが始まった。シェルターに飛び込む と間もなく豪雨がやってきた。中でうたた寝をしていたら午後6時ころシローさ んがやってきて起こされる。雨が上がったので飯を作ろうと思ってはたと気が付 いた。米を水につけておくのを忘れた。飯炊きの段取りさえ満足にできない自分 に情けなくなる。慌てて準備をして、風呂に行く。テントがやけに少ないと思っ たら風呂も空いていて驚いた。夏休みでもこんなことがあるんだ。湯船につかっ ていると近くに雷が落ちた。くわばらくわばら。たき火で飯をつくるのをあきら める。

ガスで飯を炊き、麩だけのみそ汁を流し込む。キノコを当てにして出汁を持って こなかったのが悔やまれる。電池を節約するためにローソクをともす。暗くて何 を食っているのか分からない。味もよくわからない。やけくそですべて食う。わ びしく貧しく悲しい食事だ。現役だからと強がってみても辛いものがある。1人 でいいから相棒がいればなあと思う。

午後8時ころ、雷の合い間をついてM田さんら山荘組が慰問にきてくれた。すご くうれしくて涙が出た。ありがたいことです。雷は夜遅くまで続いた。雑音入り まくりのラジオを聞いた。シュラフにマットそれにシェルターという、これ以上 ありえない豪華な装備に包まって、久しぶりにぐっすりと寝た。ツェルトの中で 歯を食いしばって夜明けを待つ、これまでの山行とはまったく異なる一夜だった。

20日。5時半起床。朝食のパンをかじっているとシローさんが鉄なべで昼食の支 度を始めた。ポトフを作るのだそうだ。七輪まで持ってきて気合が入っている割 りには、なかなか火がつかない。手を貸してやっと火がおきる。これで昼飯にあ りつけそうだ。

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T葉さん

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K田さん

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H部さん

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シローさん

午前中はガマスラブで岩登りをした。参加者はWT江さん、T葉さん、K田さん、 H部さん、シローさん、青山。まず、いちばん簡単そうなルートを青山がリード する。ところが、簡単なルートしか登らないと思ってクライミングシューズを持っ てこなかったのが間違いだった。グリップの甘いサンダルはズルズルと滑る。お 気楽リードのはずが、決死のクライミングになってしまった。核心部? で1メー トルほどずり落ちる醜態をさらした。なめちゃいけない小川山のスラブ。気が付 くのが遅すぎた。青息吐息で終了点に至る。体感グレードは10cくらいかな。降 りる段になってまた誤算が露になった。傾斜がゆるすぎてロープが下まで落ちて いかないのだ。結局、クライミングシューズを履いて末端を回収した。

みなで2本登る。T葉さんは初め岩に張り付いて苦労していたが、2本目は堂々と した登りっぷりで驚いた。K田さんは飄々と登る。何の苦労もないのか。ちょっ と失望した。その分、H部さんがさんざん苦労してくれた。サイドエッジで登ろ うとするからすぐにずり落ちる。フェース系の登り方が染みついているようだ。 スラブ登りは体で覚えるしかないからねえ。シローさんもスラブは下手。靴のグ リップでごまかしているが、へっぴり腰で見るに耐えない姿勢だ。

テン場に戻ってM田ファミリー、M親子と合流、昼飯にする。ポトフはできてい たが、問題はソーメン。たき火や七輪では湯がなかなか沸かない。ソーメンを食 い終わるのに2時間近くかかってしまった。午後は屋根岩までハイキングにいく。 パノラマコースの途中から岩場への踏み跡に入る。これが悪い道だ。Mさんの息 子Fくんは、それをものともせずにぐんぐん進む。初めは待たせていたが、うる さいので作戦変更。わざと遠回りしたり悪い道を登らせたりして時間稼ぎをした。 一方、M田さんの娘Nさんはなれない山道に四苦八苦。なかなか登ってこない。 しかし、ここは普通の道ではないし傾斜もめちゃくちゃ急だから、この反応が正 常だと思う。

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晶洞の水晶

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水晶があった大岩

鞍部から岩場の稜線に出るといきなり展望が広がる。展望というよりは、すさま じい露出感があるといった方が正しい。M田さんは対岸の垂壁を見てへたり込む と腰が抜けてしまった。この先の稜線は確保なしでは危険に思える。ハイカーが きてはいけないところのような気がするが、M田ファミリー以外は行ってしまっ た。とりあえず、M田ファミリーを1人ずつ鞍部まで下ろす。戻ってきた人たち を順次下ろして、やっと一息つけた。のどがからからになった。

下る途中、晶洞らしきものがある大岩を見つけた。よく観察すると奥の方に水晶 があった。シローさんは色めき立ったものの、他の人はなかなか分かってくれな い。手を突っ込んでとがった部分に触れて初めて分かる人もいた。のぞこうとし ない人もいた。反応の鈍さに少しがっかりした。採集できそうな位置にあるが、 タガネをテン場に置いてきてしまった。無理をして結晶をダメにしたくないので 翌朝に出直そう。直後に大型キノコを発見する。柄の堅さからヤマドリ系に間違 いない。ヤマドリタケモドキかドクヤマドリだろう。判断に迷う。とりあえず、 テン場まで持ち帰る。

下りもNさんが苦労した。それでもズルズル滑ってくるので時間はかかるが、め どはつきそうだ。元気が有り余ってうるさいFくんをあちこち引き回して消耗さ せる。そのかいあって遊歩道に戻るころは口数がかなり少なくなった。逆にNさ んは元気を取り戻しておしゃべりになる。黄色いフキの花が目に付いた。味噌汁 の実用に少し茎を採って帰った。

この日は夕立もなく、たき火ができる条件があったので、テン場に戻ってさっそ く準備をする。米の下ごしらえを真っ先にして、それから穴を掘ってたき火の用 意を整える。マキは朝のうちに切りそろえておいた。たき付は近くのカラマツの 枯れ枝で十分間に合う。順番に並べて火をつけたら一発でOK。この辺はうまく なった。湯を沸かしてフキをゆで筋を取る。それにWT江さんから恵んでもらっ たニンジンと麩がみそ汁の実になった。ご飯も順調に炊けた。2時間弱で食事が できたが、残念ながら風呂の時間には間に合わなかった。

たき火を見ながらの飯はきのうよりはましだ。でも、わびしさは変わらない。み そ汁のフキは堅くて食えたものではなかった。欲張って太い茎を選んだのが裏目 に出た。採ってきたキノコを焼いて食えば、かなり食事のグレードが上がったろ う。8割くらいは食えるだろうという自信があった。でも、WT江さんに「明日 も顔を見たいから」とたしなめられて、この日は食うのをあきらめた。

食後のお茶を飲んでいたら、きょうもみんなが慰問にきてくれた。とりとめのな い話しかしなかったけど、いっしょにいてくれれば楽しいものだと思った。北東 の空が雷でピカピカしていたが、雨が降ることはなかった。その雷で少し白んだ 空を見てMさんは「すごい星空」と驚いていた。雷がすっかり収まった午前1時 ごろ、トイレに行ったついでに空を見た。天の川は見えたけれど、雲のようではっ きりしなかった。どこでも見られるような普通の星空だった。いまは、普通の星 空さえ珍しくなってしまったのだろうか。

21日。午前4時半起床、すっかり真人間になってしまった。シローさんはこの時 間から撤収の準備にかかっている。パンを食って屋根岩まで水晶採りに出かける。 道を間違えてうろうろしたが、なんとか昨日の場所にたどり着いた。少しずつ晶 洞を崩して結晶を割り出す。取り出した水晶は最大で直径1.4センチ、高さは2.5 センチあった。じっくりと探せば5ミリ径くらいのものは結構ある。よく見ると この岩、チョークの跡も付いている。ボルダーなのかここは。よくいままでこん な水晶が残っていたものだと感心する。

キャンプ場に戻って撤収をしているとシローさんがいまから登りに行くという。 Fくんがどうしても登りたいんだそうだ。今度は父岩の「小川山ストーリー」だ。 西股沢を渡って取り付きに至ると先客は1組だけだった。まず、Fくんを登らせ る。登りたがっていたわりには1メートルも行かずにギブアップした。ロープを つかめば簡単に登れると思っていたらしい。世の中そんなに甘くない現実を知っ て、二度と登りたいとはいわなかった。まあしかし、このルートの取り付きは傾 斜がきつくて初心者には難しい。Mさん、T葉さん、K田さん、H部さんが挑戦 したが、そこを突破できたのはMさん1人だけだった。岩登りをした事実に間違 いはないが、ゲストは満足しただろうか。こうした登らせ方は好きじゃない。

西股沢の徒渉でメンバーの半分が水没した。ま、これは想定内。でも、Fくんが 沢に入って異様に喜ぶ姿は想定外だった。夏とはいえ沢の水はめちゃくちゃ冷た かった。絶対落ちたくないと思った。だから、落ちたらうるさそうなWT江さん だけは、遠回りして安全そうな別ルートから対岸に渡した。山馴れしていない人 たちは、岩登りよりもアプローチで消耗しちゃったんじゃないだろうか。

帰りはT葉車で野辺山駅まで送ってもらう。川端下まで炎天下の道を歩かなくて 済むことはうれしかったけど、楽をすることに少し後ろめたさを感じた。小淵沢 では特急の連絡が悪く各停に乗ったら冷房がなくてむちゃくちゃ暑かった。たま らずに甲府で降りて八王子まで特急に乗った。込んでいたので冷房の利かないデッ キに座っていったけど、それでも涼しくて生き返った。

お気楽な接待キャンプだと思ったら、意外に苦労した。飯炊きの腕がさび付いて いたのが敗因。スラブ登りも手強かった。こちらもまだまだ修行が足りないと痛 感した。キノコの季節に再チャレをしたい。課題もあったけど、それなりに楽し めた。1人だとついついストイックになってしまう。たまにはにぎやかなのもい いかなと思った。