30日(7:50)大泉学園=(11:25)水上=(11:55)土合橋→(13:55)1154メートル標 高点、幕営。31日(7:55)幕営地出発→(9:10)松ノ木沢の頭→(9:45-10:20)幕営 地→(11:20)土合橋→(11:40)ロープウエー土合口駅=(12:25)水上=(16:30)大 泉学園
登山口から白毛門方面を望む |
今年最後を締めくくる山は白毛門となった。とはいっても、それに特別の意味は ない。もっと早い時期に雪訓をやりたかったのだが日程が取れず年末を迎えてし まった。やむを得ず勝手知ったる白毛門でビバークでもしてこようとなった。28 日から29日にかけて南岸低気圧が通過し、寒波の入る年末から年始にかけて山は 荒れそうだったが、何とか天気は持った。
昨年は水上までの特急を利用したが、少し時刻が遅く焦った覚えがある。今回は 高崎まで臨時の草津号でいき、在来線で水上へ向かった。高崎からの列車は思い のほか混雑していて不思議だったが、越後湯沢方面に連絡してる列車で、ほとん どの乗客が水上で乗り換えた。昨年同様やはり土合方面に向かうバスは寂しいも のだった。バスの中で冬シェルを着込み、土合橋の雪に埋もれた駐車場の小屋で 装備を整えて、どんよりした空に雪がちらつく中を出発。雪が硬めだったので橋 を渡ってすぐにアイゼンを履く。取り付きの急斜面は雪が少なく、落ち葉が団子 になってアイゼンの裏に付いた。
雪は多いとの情報だったが、昨年と比べたら全然少ない。でも、しまっているの でアイゼンは外せない。岩や木の根に雪が乗っかったいやらしい状態だが、樹林 帯だから怖くはない。昨年は幕営地がなかなか見つからず焦ったが、今年は早め に出たことと、ある程度の当てがあるので余裕だ。急な登りが続くコースはつら いけれど、昨年のように荷物の重さでいやになることもまったくない。というか 、装備の重さなどほとんど感じない。トレーニングの効果かな。途中で下ってき た単独の男性と会う。頂上までは行かなかったとのこと。「登りにくいですね」 と話していた。そ、そんなに悪いのか...と少し不安になる。
稜線上の幕営地 |
ゆっくり登って2時間、昨年の幕営地1154メートル標高点に着く。早い。まだ2時 前だ。先に進むか、ここで設営するか、考える。あと1時間も進めばブナの疎林 になった緩斜面がある。そこで幕営することもできる。心配なのは天気。悪化し た場合、少しでも下の方が影響を受けにくいし撤退も楽だ。そう考えればこの場 所の方がいいだろう。ヒノキの大木近くの雪面を均してテントを張る。今回は悪 天候に耐えられるようテント型のシェルターを持ってきた。ツェルトより設営は 楽だが、そこに落とし穴があった。
テントを立てると、四隅を固定するペグがないことに気付いた。その辺の枯れ枝 で代用しましょうと稜線の先に出かけること数分。戻ってきて、びっくり! テ ン ト が あ り ま せ ん !! 何が起きたんだ?? 一時思考不能に陥り、頭が 真っ白になる。当時はほとんど無風だったので、風で飛ばされたことを理解する には少し時間が必要だった。稜線東側の急斜面をのぞき込んで見ると、果たして はるか数十メートル下方に見覚えのある黄色いテントが転がっていた。よく見る とススーと滑っている。
冬山でテントが飛ばされたという話は聞いたことがある。でも、それは手袋や帽 子が一瞬のうちに吹き飛んでいくような強風下での出来事だと思っていた。まさ か、こんなそよ風で飛んでいくとは夢にも思わなかった。しかし、現実にそれは 起きた。つまり、ちょっとした風でテントがひっくり返ると、雪面と接する部分 が極端に小さくなるため、少しの風で滑り落ちてしまうということらしい。冬山 は侮れないと深く反省した。
この下まで、拾いに行きました |
もちろん、テントを取りに行った。見下ろすと約80度ほどの急斜面だ。一瞬、荷 物をまとめて帰ろうかとも思ったけれど、傾斜の緩そうな個所を探して下ってみ る。雪がまだ固まっていないので、それほど危険ではなかった。問題は登り。フ ライのループを手首にかけて、約80度の雪壁を直登した。ふわふわの雪をだまし だまし慎重にはい上がる。微妙なクライミングで面白いが、テントをぶら下げて ちゃさまにはならない。こんな惨めな姿は絶対誰にも見せられないと思った。
そんなアルバイトをしたけれど設営も午後3時には完了した。夕食のラーメン (甘酒付き)を5時ごろ食ってしまうとやることはない。天気予報では冬型の気 圧配置が強まり荒れるという。寒いからか、風雪を警戒したからか、なかなか眠 れない。ラジオを聞きつつ、時々起きて外の様子を見たり、間食をしたりして時 間をつぶす。通気性の悪いシェルター内部はバリバリに凍り付いた。冷え込みが 厳しく夏シュラできたことを後悔する。像足のおかげで足元だけはぽかぽかだっ たのがせめてもの救いだった。
うとうとしていたらテントが明るくなったようなので起きる。まだ午前5時30分 だが、とりあえず紅茶を沸かしてパンを食い、朝食とする。6時を回ってもまだ 周囲は明るくならず、再びシュラフにもぐりこむ。天気は思ったほど悪くない。 風も弱く積雪も大したことはなかった。撤退する理由が見当たらない。少しは足 を延ばさないと格好がつかない。空が明るくなったのを見計らって漢のザックを 背負って出発する。
尾根が広がるブナの林 |
トレースは心もとないがヤセ尾根だからルートは明瞭だ。ブナ帯が始まると尾根 が広くなる。少し雪が深くなるけれど、トレースを外さなければ大丈夫。去年と は違ってぐんぐん進む。傾斜が増すとかん木帯になる。昨年よりヤブっぽく感じ るのは雪が少ないためだろうか。のっぺりした70度くらいの雪壁を上りきると、 そこが松ノ木沢の頭だった。1年前はあえぎながらようやくたどり着いた気がし たのだが、今回はずいぶん、あっけない。雪の状態でこれほど距離感が違うもの なのか。ここは谷川の岩場の展望台だが、きょうは雪で下部がかすかに望める程 度だ。
この先どうするか、しばし考える。目の前の稜線は斜面の反対側から雪庇が張り 出している。その下の70度くらいの斜面を横切って進むのは、どうも気が進まな い。よく踏み固めれば突破できそうだが、天候の変化が気になる。最も気に入ら ないのは、すぐ前にあるはずの白毛門の頂上が乳白色の雲でまったく見えないこ とだ。このときは深く考えなかったけれど、おそらく進んだらホワイトアウトか 吹雪だったろう。今回はトレーニングと割り切っていたので、登頂にこだわる必 要はないと思い、さっさと引き返した。まだ、風もほとんどなく穏やかな天気だ が、空は徐々に雲に覆われ、確実に悪化しているのが分かった。
お先真っ白、松ノ木沢の頭 |
下りはアイゼンを利かせて斜面をまっすぐに降りる。外旋力を意識して足を運ぶ と急傾斜でも安定する。二軸歩行ができているかを登りのトレースで確認しなが ら戻る。雪で真っ白になったテントを撤収。振ると内側の氷がバリバリと落ちる。 幕営地から下は雪が少なくアイゼンでは歩きづらい。落ち葉が団子になるのもや らしい。それでも、凍っているので外せない。途中で男女の2人組とすれ違い、 ラッセルは必要ないなど上の状態を伝えた。駐車小屋で装備を解除するが、バス がしばらくなかったのでロープウエー土合口駅まで行く。帰りは高崎で途中下車 し、駅ビルのレストラン街で念願のアナゴ天丼を食う。
年末年始は本格的な冬山に入るチャンスだ。その時期に雪訓というのは、あまり にも悲しい。でも、いきなり本番というわけにはいかない。今回もテントを飛ば される失態のほか、タワシを忘れるなどシーズン前の調整としても事前トレーニ ングは欠かせない。できれば、来季は年末年始に本番を迎えられるようにしたい ものだ。