14日(8:15)大泉学園=(9:10)東吾野→(10:00)廃道入り口→(11:30)250メート ル地点→(12:15)廃道入り口→(13:40)東吾野=(15:30)池袋
地図読みトレ第3弾は、奥武蔵・権現堂周辺の土山集落から南へ下る、313.4メー トル三角点がある稜線だ。標高差はあまりなく、距離も短い。しかも、今回はタ カハラさんがパートナーだから心強い。
東吾野の駅を降りると、どんよりした曇り空。さ、寒い。「これ持ってください」 とタカハラさんが差し出したのは地形図の解説本。ドロナワじゃん。やる気は認 めるけれど、はっきり言って本で得る知識は無意味だと思う。それでわかりゃ、 訓練などする必要はない。読図講習会が人気あるそうだが、それは「分かったよ うな気になる」から。でも、耳学問なんか実践では役に立たない。地図読みは実 地訓練あるのみ! と、今は自信を持って断言できる。だって、それだけの苦労 をしたんだもん。言わせておくれ。
こ、このへんに道があるはずなんだがな |
おまけに、タカハラさんのザックはなんだか重そう。ためしにバネばかりで量っ てみると4キロ以上ある。自分のザックと同じ重さだ。あきれていると荷物を取 り出して、なぜ必要かひとつずつ説明し、最後は「だってきょうは青山さんがい るからと思って油断したわあ」と言い訳をする。トレーニングの原則は「強く短 く、繰り返し」だから、重いザックは問題ない。だけど、何か矛盾しているよう な気がする。「いつもはかりを持ってるんですか」と、やり取りを見ていた別グ ループのおばちゃんが声をかけてきた。「私のも量ってください」というので手 に取ると、これがまた尋常な重さではない。7.5キロ!! それもそのはず、ワイ ンが入っているんだそうだ。こ、これもトレーニングなのか。
ほかのグループはすべて出発した。でも、われわれはまずウオーミングアップだ。 地形図を広げて現在地を確認し、標高を読み取る。次に歩き方・二軸歩行のポイ ントであるかかとで押し出す感覚をつかむ。それで、地図を片手にやっと出発と なる。
深沢方面に左折する道路を探しながら国道を東に向かう。「ここじゃない?」。 最初は当てずっぽうだったタカハラさんだが、真剣に地形図を読む。橋の位置や 道路の分岐から正解にたどり着く。深沢集落のなかに右への分岐がある。次の分 岐はこれか? 「違う」。すかさずタカハラさんが地図と照らして間違いを指摘 する。民家が途切れると道も林道っぽくなる。地形図によると、このあたりで右 側の谷に登山道があるはずだが、それらしきものは気配もない。
廃キング道入り口。道分かります? |
道はどこだ。地下足袋を履きながら考える。先行して偵察したタカハラさんは進 んでも道はなかったという。目指すルートは廃道になってるかもしれない。戻っ て地形を細かくチェックしながら、登山道があるはずの谷を探す。谷は容易に見 当がついた。沢の対岸に石垣が見える。沢に降りて道を探すと、それらしき地形 はある。が、完全に廃道だ。地形図の登山道が当てにならないことは知っている が、こんな人里に近いところでもダメなのか。少し見通しが甘かった。
廃道ハイキングとなれば、本来の目的とはちと違ってくる。どうしたものか。タ カハラさんの意思を確かめると、意欲満々だ。心強い。自分もこの手は嫌いじゃ ないし、ヤブ漕ぎ上等ってことで突っ込む。
道形はある。しかし、いたるところで倒木が道をふさぎ、たどるだけで骨が折れ る。作業用の道が林業とともに放棄されたのかな。沢の右岸に道らしき痕跡が残っ ているが、人が歩いたような形跡はない。果たしてどこまでいけるだろうか。し ばらくすると谷が左右に分かれる。本流は右のようだ。地形図で確認していると タカハラさんは正面の小尾根を登るつもりでいた。今さっき、「道はずっと谷沿 いだね」と念を押したばかりなのに、どうして? 正面の杉に巻かれたピンクの テープを指してタカハラさんはいう。「だって、おいでおいでしてるんだもん」。 そうら、ごらん。本の知識なんてこんなもんさ。ちょっとうれしい。
倒木に生えた杉の芽 |
右手の本流に沿って進んでまもなくゴミを拾う。足元に落ちていたそれはコンビ ニおにぎりの包装だった。残っている海苔の様子から、そんなに古いものとは考 えられない。タカハラさんは今月に入ってからのものだと断言する。少し進むと レジ袋と割り箸もあった。雨にぬれた跡がないことから1週間以内のものと思わ れる。たぶん、上から降りてきた人がいるのだろう。この場に不釣合いなゴミを 回収しながら、こんな所を通る人がいることに少し驚く。
「道」は所々崩れ、さらに怪しくなる。沢に下りたり、登り返したり、倒木を乗 り越えたり、くぐったりと立体迷路を進んでいるみたいだ。尾根下りの出発点と なる峠までは、かなり時間がかかりそうだ。タカハラさんはまだ泣きが入らない し、どこで引き返そうかなあと考えていたら、目の前で道が崩落していた。前進 できないわけではないが、目的が違う。きょうは地図読みトレーニングをやりに きたのだから無理な登攀はしない。標高約250メートル地点で引き返す。
土の片斜面で2度、「滑ったら危ない」といいながらタカハラさんが落ちる。片 斜面で滑らずに歩く方法は先ほど教えたのに。分かったつもりになるのと、でき るのとでは大違い。もう一回、傾斜の緩い場所でレクチャーする。でもたぶん、 頭で理解しているうちは、技術が身についたことにはならない。1にも2にもト レーニングあるのみ。それが分かるまでは、もう少し苦労をしてもらいましょう。
日だまりにはハハコグサの花 |
谷の分岐まで戻って一休み。ここは少し台地状になっている。足元は一面、真っ 赤な実をつけたフユイチゴに覆われている。ジャムがたんまりと作れるほど、そ こら中にフユイチゴが生えている。タカハラさんは絡み合った杉とツル植物を見 て「この子は...」などと感情移入している。確かに生命力の強さには感心する が、そこまで思い入れできるのは何なんだろう。
林道に戻るとすでに正午を回っていた。短い距離だったけど密度が濃い行動だっ たから時間も結構かかった。昼食を取って下山。いつの間にか青空が広がり、日 なたは暖かかった。青紫のヤブランの実や早くも花をつけたハハコグサの写真を 撮って、のんびりと東吾野の駅に向かった。
アプローチでの敗退という結果に相成ったが、山登りはそもそもそんなもの。思 わぬトラブルや想定外の事態が起きるのが山。それをどう乗り越えるかが面白い のであって、初めから終わりまで予定通りに進んだら、かえってつまらん。今回 は、冒険的要素も少し味わえたし、満足している。そのまま突っ込んだら、かな り難易度の高い登山ができた可能性もある。小さな山でも、工夫次第でグレード は上げられるものだね。「山は高きゆえに尊からず」といわれるように、ただ高 さを追求するのは本物の登山じゃあない。低くても面白いと思えるような山やルー トを開拓するのが真の山ヤってもんだ。奥武蔵の地形図をながめながら、しばら くは高い山にいけそうもないなあと思った。