back

修復四方山話ロゴ

 4.
2000
01.02


   これは、「修復家の集いHP」の2000年冒頭の「掲示版」に投稿
   した内容そのものです。


   ミレニアム2000年…皆様、如何お迎えでしょうか?
   1000年に一度のこの記念すべき年にこうして存在していられる
   事の巡り合わせに、何か妙に感慨深いものがあります。昨年末か
   らのPCの問題「Y2K」も結局は、ほとんど何もなくホッとしており
   ます。我が家のPCも今は、ちゃんと2000年の時を表示していま
   す。皆様のお宅のPCは如何でしたでしょうか?

   さて、私は昨日元旦の午後、思い立って車で約1時間位の…山奥
   にある寺、名前は「龍穏寺」と言いますが、今年の干支に合わせる
   かの様な名前のお寺ですが、場所は埼玉県入間郡越生(おごせ)
   と言う所です。以前一度たまたま看板の案内にひき込まれて立ち寄
   ったことがあったのですが、妙に印象が強かったのでした。こんな所
   に?!…という場所に、大きな山門があり、たたずまいも立派なので
   すが、やはり老朽化保存管理が悪くかなり傷んでいました。今回
   再び訪れてみて、やはりそれは全く変わっておらず、境内のあちこち
   の古びた立て看板に「瓦代5百円寄進願い」と言う語句が書かれて
   おり、また「鐘つき代百円」等いかにこれだけの大きなお寺を管理す
   る事が難しいか!と言うことを実感として感じました。檀家の数も増え
   る訳ではないのでしょうから、お寺の維持管理はこう言った山深い環
   境の中では又特に大変なのでしょう。
   文化財であるとか、そうではないとかにかかわらず我々一般の生活
   の中でのこうした歴史的建造物の維持管理が、現実にはほとんど不
   可能な状況である事に、何か空しいものを感じながら帰ってきました。
   おそらく日本全国にこう言った、同じような建造物等が多く存在するの
   でしょうが、何の対策も執れないまま放置され続けている事を思うと、
   複雑ですね。我々修復家が、色んな分野で仕事をしていて、最近特に
   言われる修復の規定や倫理」に則って仕事をしている間にも、朽
   ち果てていく…こうした歴史的建造物があることを、意識だけでもしな
   くてはいけないと、感じた次第です。

   少々、暗い話になってしまいました。
   さて、1月8日のオフ会は、是非多くの参加が得られればと思います。
   最近は、若い方々の投稿も多かった訳ですが、是非今回…生のご意
   見等をお聞きしたいものです。では、今年も宜しくお願い致します。

                           絵画修復   岡崎純生
              
(龍隠寺の風景)
龍穏寺山門@ 龍穏寺山門A
龍穏寺山門B 龍穏寺別院浮彫


 5.
 2000
 05.29

  暫く、「四方山話し」の記載をサボっていましたので、最近
  の中で、特に興味ある体験をしましたワークショップ参加
  の体験談を載せたいと、思います。これは、修復家の集い
  HPに投稿しました内容の転載です。


  4月24日、25日の2日間おこなわれましたランビエンテ修復芸
  術学院での「Massimo Seroni氏」のワークショップ、及び26日の
  イタリア文化会館での講演会の参加報告(簡単な感想ですが…)
  をしたいと、思います。

  既に、集いメンバーの 中塚さんが、正確なレポートを発信されて
  いますので内容が重複するかもしれませんが、少し観点を変えて
  報告出来ればと思います。なを、会場では、中塚さんとは3日間、
  ずっとご一緒でした。又、同じく集いのメンバーである西山さんは、
  このランビエンテ学院の副学院長でもあります。

  さて、Seroni氏については、既にご存知と思いますので、ここでは
  多くの事触れませんが、1966年のフィレンツェ大洪水後の修復
  プロジェクトチームの一員として、チマブ−エの「磔刑」他、多くの
  作品を修復されています。なを、この集いの在外メンバーである
  Vera Quattriniさんのかっての、先生でもあるそうです。

  今回のワークショップはまず基本的な修復概念からの話…つまり
  短い期間(2日間)でしたので、どのような進展になるのかと、期待
  と興味が混在していましたが、基本的には症例作品を使用しての
  実例作業を伴ったレクチャーでした。実習では目視による調査に
  加え、マイクロスコープによる画面表層の拡大観察、更に紫外線
  や赤外線による作品の表層から中層にかけての非破壊観察が大
  変重要である事を、何度も指摘されていました。これらは最終的な
  画面の洗浄に対しての重要な基本的データになる事が強調されて
  いました。

  別の作品を使用しての「表打ち」そして、もっとも私が興味を持った
  のが、膠と小麦粉を中心素材とした「パスタ裏打ち」でした。対環境
  性…(保存性)に対して、確かに考えさせられる方法だと思いました
  が実際にイタリアでは相当の年月問題無く保存されている作品が
  多いとの事でやはり地域に合致した伝統性を理解する事になりまし
  た。

  洗浄作業の慎重な姿勢と使用できる素材、溶剤の選定は全く日本
  の修復工房等で行われているものとほとんど同じでした。但し今回
  ヨーロッパの伝統的油彩画の表層ニスの除去作業が見られなかっ
  たのは、とても残念でした。

  もう1つ目をひいたのは、リタッチ(補彩)の実演でした。約10分位の
  ものでしたが、テンペラ画面上への3原色を使用してのハッチング作
  業は美しくも大変見事でした。

  私は、残念ながら言葉の壁が有る為、多くの質問は出来ませんでし
  たが、それでも大変熱心に多くの回答を返してもらいました。この、
  Seroni氏の情熱には何か引き込まれるものを感じました。

  26日の講演会はレクチャーの内容を総括して見られる「フィレンツェ
  大洪水」の修復記録映画と更にSeroni氏自身のスライドを使用した
  更に詳しいレポートでした。この、3日間ですっかりイタリアずいてしま
  いましたが…今回、強く感じた事は、作品に対するアプローチの仕方
  ・見方は日本と全く変わらない事でした。但し、扱い方等ではかなり
  大胆な部分もありこれは良くも悪くも民族的、国民的?素地の違い
  かと!?認識しました。出来ればもう少し長期間接することができれ
  ば!と、今も感じています。

                              絵画修復  岡崎純生