(2004/07/10初出)
ドールカスタマイズの世界もそれなりの年数が過ぎ、各分野の技法で世間的なスタンダードといえるものはおおむね出来上がったように感じられる。その流れの中で例えばフェイスペイントにおける除光液の使用のように当初有用とされていたものに「?」が付くこともある。
今回は、あまり省みられないボディカスタム分野でのスタンダードに「?」を投じてみたい。
ヘッドジョイントのボールジョイント化は常に有効な手法だろうか?
まず、有効無効を論じる前にボールジョイント化について改めて確認しておきたい。
首ジョイントをボールジョイント化する理由はおもに2つ挙げられている。
ボールジョイントというのは言葉通りの球体関節(SDや創作人形のそれとは意味が違う)で、受け側の関節軸に対しておおよそ頂角120度ほどの球錐範囲内※で自由な方向に可動させることの出来る関節構造および部品をさす。これを人形の首内部に埋め込み、ヘッドに開いている首穴と同径のパイプを介してボディとヘッドを繋ぐのがボールジョイント化の技法である。
では、個々の理由について少し検証してみよう。
まずヘッド可動域の増大についてだが、これは必ずしもボールジョイント自体による恩恵ではないというのが私の意見である。
埋め込み深さにもよるが、確かに元の首ジョイントより市販ボールジョイントの方が軸そのものの可動域は広い。しかし、ガンプラのそれと異なり※※完全に内装される人形の首関節の場合、関節周辺の状況によって可動域は大きく制約される。
人形のヘッドに開いている首穴はほとんどの場合ヘッド表面より数mm〜1cmほど奥に引っ込んでいて、首とヘッドが完全にはまりこんだ状態では重なりが出来る。この状態でヘッドを傾けると、その最大可動域は軸の最大可動域ではなく重なった部分同士、つまり首とヘッドが当る位置までとなる。なお、よくボールジョイント化対象に挙げられるボークス系のボディは首先端が平らになっていて、ヘッドを傾けた場合すぐにこの部分で当ることが多い。
通常の首ジョイントには抜け防止用の爪があり、これが首穴周りのヘッド素材とかみ合うことでヘッドをボディに押しつけ固定している※3が、ボールジョイント化した首関節には通例爪は設けられず、軸に被せるパイプの長さをヘッド内部のサイズに合わせることで調整を取っている。つまりヘッドはボディに刺さっているだけで固定されていない。
ボールジョイント化した首を傾けると、そうでない首と同じようにある角度に来たところで首とヘッドが当る。しかし固定されていないヘッドが少し抜けることで当りは回避され、さらに首を動かすことが出来るようになる。このような形でボールジョイント化による可動域の拡大は起きているものと思われる。
続いてヘッドの着脱性についてであるが、上に書いたようにボールジョイント化した首ジョイントはヘッドを物理的に固定していないため当然着脱は容易である。
次にボールジョイント化のデメリットについて考えてみる。
ボールジョイント化した首では爪による物理的な固定方法ではなく首穴まわりおよびヘッド内壁とパイプが接する小さな面積にかかる摩擦でヘッドを支えているため、首穴周りのはめあいが緩かったり超ロングなど重量バランスに問題のあるヘッドを載せると安定しない(いわゆる「やる気のない」状態)可能性がある。
爪のあるジョイントでは爪と首のクリアランスを調整することでヘッドを首に押しつける圧力を変え、首関節の強度を調節出来るが、ボールジョイント化した首の関節強度はボールジョイントそのものに依存するため加工方法によっては将来的に関節強度が低下することがある。特にボークス製のボールジョイントPCは大径の物ほど早期に割れて広がりやすいので周囲をパテで完全に埋めて広がらないようにするなどの事前対策が必要である。
上に書いたとおり、首関節の可動域は首周りの形状に左右されやすい。首の先端をやすりがけして緩いRを付けたり※4ジョイントの出ている穴の角を削れば通常の首ジョイントでもかなりの可動域が確保できる。ヘッドの首穴周りを削るのも1つの手である。
当サイトでは上記のメリットデメリットを比較した上でボールジョイント化に付いては採用しない方針を取っている。長期的に見て関節強度が下がる公算が大きいのもそうであるが、デメリットの項で説明したとおり通常のジョイントでも必要な可動域は確保できるため不必要に高度な技法を導入して完成を遅らせるのは無意味と判断したためである。
また、大はノアドロームCW01から小は同CK1まで様々な大きさのヘッドを付け替えることがある当サイトの人形には対応するヘッドの首穴サイズと内部寸法が1つに決まってしまうボールジョイント化は採用しずらい。既に大所帯となってしまった当サイトはともかく(汗)、保存場所確保の為1ボディに複数ヘッドを付け替えているような所ではこれは結構重要な問題ではないかと思われる。
要はTPOの問題なのだが、カスタム技法についても一般的な技法だからと行ってむやみに採用せず自分の状況を踏まえたうえで十分検証する必要があるのではないだろうか。
※
製品によっては受けの一部が切り欠いてあり、その部分のみ180度の可動域を持つものもある。
※※
厳密に言えば、今時ガンプラでも関節部品そのものが露出していることは少なく、外見維持の為のカバーが被さることが多い。
※3
SAJが首ジョイント自体はスカスカでもヘッドを固定できるのはこの作用によると思われる。
※4
削り過ぎるとヘッドの固定力が下がるので程々に。