夕立に泣いた甲武信鉱山


9日(8:00)新宿駅→(11:20)信濃川上駅→(12:15)甲武信鉱山入り口→ (13:00-14:00)ベスブの露頭→(14:20-15:00)柱石の露頭→(15:10-17:00)緑水 晶の露頭→(17:50)坑道跡→10日(7:25)坑道跡→(10:00)町田市自然休暇村→ (10:50)梓山→(13:00)総合運動場前→(13:35)信濃川上駅→(16:40)新宿駅→ (17:30)大泉学園

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水晶がたくさんある柱石の露頭

暑い毎日から脱出して、涼しい山中でビバークしながら甲武信鉱山と秩父鉱山を 渡り歩く計画を立てた。三国峠を歩いて越えるのにはちょっと無理があるような 気がするが、志は大きいほうがよろしい。天気予報と高層天気図を照らし合わせ ると夕立がきそうなことがちょっと心配。

甲武信鉱山に入る前に湯沼鉱泉で入山料1000円を払う。きょうは誰も入っていな いそうだ。タクシーで鉱山に向かうが、運転手は地元の人なのに甲武信鉱山の存 在そのものを知らなかった。しきりに「一花咲かせてくださいよ」という。鉱物 採集の趣味を理解してもらうのは難しい。天気はいいが、積乱雲が結構わいてい る。

山の中は結構湿っている。雨はしばしば降っているようだ。久しぶりの登山で急 登が堪える。いや、荷物かもしれない。ここのところ登山はすっかりごぶさただ からなあ。最初のテラスですぐ休憩。ここは水が流れており、坑道を埋めた穴蔵 もある。ビバークするならここの場所だ。よく観察して、上を目指す。ここから 落ちている石をよく観察する。灰鉄輝石に埋もれた磁鉄鉱をいくつか拾う。傾斜 が急になってくるとベスブ石が現れる。数はたくさんあるがいいものは少ない。 登るスピードが思いっきり遅くなる。露頭近くでは地面に落ちた結晶がキラキラ と光って美しい。小さ目の標本をいくつか採集する。

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方解石のかたまり

道を間違えて下ってしまい、柱石の露頭までちょっと時間がかかってしまった。 ここで灰鉄輝石の結晶を探す。結晶はたくさんあるが、ある程度の大きさがあっ て頭もしっかりしたものを見つけるのは骨が折れる。ついでに水晶とザクロ石を 採集。つぶれたような水晶の群晶がたくさんある。時間はまだ早いはずなのに、 暗くて観察に時間がかかる。雲行きが怪しくなってきたかもしれない。

緑水晶のズリは広大なのでザックを置いて一回りする。ここでは透明な方解石の へき開片が目に付いたので拾いまくる。しかし、自形結晶はなぜか全然見当たら ない。石を探していると時間がたつのが早い。時計を見るとまもなく17時になる。 もう切り上げてビバーク地に移動しなければならない。急いで踏み跡を探して下っ ているとついに雨が降り出した。雨足は急に強くなった。にもかかわらず、この とき焦っていたため不覚にもザックを置いた場所をもっと下だと思い込み、周囲 をよく確認せずに駆け下ってしまった。柱石の露頭まできてやっと間違いに気づ いたが、そのときはもうびしょぬれになった後だった。

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ザクロ石のかたまり

ザックの中から出したポンチョをかぶって急いで下山する。眼鏡が曇って見にく い。道を間違えないよう慎重に進む。疲れも出てきたので、滑落したらやばそう なベスブの露頭手前で砂糖水を飲む。何度も何度も転びながらやっとビバーク予 定地のテラスに着く。ツェルトを張れるような状態ではないので、とりあえず穴 蔵の中に飛び込む。ぬれた衣服を着替えてやっと一息つく。

しかし、よくみるとここも安心できない。天井のあちこちから水がしたたり落ち てくる。飯を食ったらツェルトをかぶって寝る。しずくがボツボツと落ちる音や 地面のゴツゴツした岩の感覚が気になって寝られるものではない。雨はまもなく やむが、岩穴の中も外もしずくが落ちてくる状態に変わりはない。早く朝がこな いものか。

午後10時、雨は完全にやんだ。表に出てみると穴の中よりは落ちてくる水滴はずっ と少ない。外の方が地面が温かそうなのでシートとツェルト、シュラフカバーを 持って穴蔵を脱出する。遠くで空が光ったが、もう雨は降らないだろうと高をく くってお茶を沸かし飲んでいたちょうどそのとき、バシャバシャバッシャーンと 突然大雨になった。あっという間のことで傘を差すのが精一杯だった。飲みかけ のお茶を放り出し、シュラフカバーだけを抱えてふたたび穴蔵に逃げ込んだ。雨 は0時ごろまでふりつづけた。その間、真っ暗な穴蔵にしゃがんみ込んで、滝の ように水が落ちる穴の入り口部分を見ながら、じっと雨のやむのを待った。ばた ばたしているときに片足を水場に突っ込んで靴下をぬらした。

雨が上がると急いでシート類を回収。びしょぬれのツェルトは丸めて捨て置き、 銀シートはよくはたいて水気を落とし、新聞紙で拭いた。穴の入り口は雨が降っ たらもうだめだ。しかたなく一番奥の傾斜地に頭を突っ込んで横になる。この部 分は砂で埋めたようで、背中が岩でゴツゴツしない分だけましか。ひどく寒いの で朝食用のパンをかじるがちっとも温かくはならない。熱い昆布茶を飲んでも同 じ。防寒具といえばダウンベストくらい。長袖のシャツがぬれてしまったのでレ インチャップス(カッパの足の部分だけ)をそで代わりにしている。後は薄っぺ らなシュラフカバーだけ。寒さで歯がガチガチいう。眠れないのは覚悟している が、朝までの数時間を震えながら過ごすのかと思うと気が重い。

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やっと待望の朝がやってきた

午前2時ごろ耐えられなくなってお湯を沸かす。テントの中なら火をつけただけ ですぐに暖かくなるのだが、穴蔵の中は全くだめだ。今度はスポーツドリンクを 温めて飲む。残った湯をペットボトルに入れて湯たんぽ代わりにする。これが結 構効果あった。やっとうとうとできた。次に寒くなったときはお湯をぐらぐら煮 立たせて入れた。ペットボトルが少し変形したけれど大丈夫。温かく朝まで快適 に過ごすことができた。もう少し早く気づいていたら、雨に泣かされることはな かったのに。夜明けごろの気温は11度だった。真冬並みの寒さにこの装備では太 刀打ちできるはずはない。ここは標高約1700メートル。装備計画の甘さを思い知っ た。近頃まじめに山登りをしていないつけが回ってきたか。

ほとんど寝れなかっただけに朝はうれしい。あまりに密度の濃い一晩だったので もう鉱物採集をする気がうせてしまった。さっさと帰ろう。ドロドロのうどんを かっ込んで、ぐしょぐしょの荷物を詰め込んで、穴蔵を後にする。日が差してき たので町田市自然休暇村で荷物を広げて乾かす。綿のシャツ以外は1時間ほどで ほぼ乾いた。少しは軽くなったザックを背負って梓山のバス停を目指す。三国峠 越えも秩父鉱山ももう十分だ。駅へ向かうバスは10分前にちょうど出たところだっ た。ヒマだから駅に向かって歩いたけれど、総合運動場前でギブアップ。サンダ ルが柔らかすぎで足の裏に水ぶくれができてしまった。後1時間ほどで駅に着け るが、バスに乗ったほうがやっぱり早い。

採集した鉱物は約3キロ。あれもこれもと欲張った割には中途半端なものしか採 集できなかった。 これがその一部です。もう少し広範囲に調べるとか、狙いを絞るとかしない とやみくもに歩き回っても消耗するだけだということが分かった。