流血の緑マン鉱


コースタイム

27日(8:00)新宿→(10:45)辰野駅→(11:20)蛇石→(11:30-14:15)浜横川鉱山→ (14:20-14:55)蛇石→(15:35)木曽沢バス停→(16:30)辰野駅→(19:40)新宿

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黄葉が盛りの蛇石周辺

浜横川鉱山の採集会で採集してきた石を調べてきたところ標本として納得できる 鉱物はバラ輝石以外に乏しかった。当時の知見ではやむを得ない結果だと思うが、 もう少しじっくりと観察し、標本らしいものもそろえたいと再チャレを決行する。 バイクで行こうとも思ったが、町営バスを利用すれば徒歩1時間くらいで現地に 行けそうなので公共交通機関を利用した。

岡谷で飯田線に乗り換え辰野へ。電車を降りると思ったよりも寒い。バスは1時 間後なので5000円かけてタクシーで蛇石まで入る。黄葉がちょうど見ごろだ。周 囲の山はカラマツの植林や自然林がほとんどで、紅葉は期待できる。蛇石キャン プ場付近はモミジなので紅葉の時期はおそらく見事だろう。行く手の山頂には霧 氷が見える。寒いはずだ。

台風23号による豪雨はこのあたりに大きな被害をもたらした。蛇石まではかろう じて車で入れるが、そこから先は通行止め。蛇石も川に降りる舗装道路が半分な くなっていた。水量は減りつつあるが横川の流れは濁ったままだ。蛇石から5分 も歩けば浜横川鉱山の入り口だ。場所はすぐ分かったが、濁流の跡が生々しく、 沢の様相は一変していた。

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沢はすっかり土砂がさらわれてしまった

水量は少なくなってはいたが、1月前にたどった踏み跡は完全に消え、代わりに 広大な河原が現れていた。出合にあった堆積物が流されて川床が低くなり、ヤブ もきれいになくなった。前回の面影はない。おかげで登らなくても石は拾える。 マンガン鉱石らしき黒いかたまりにハンマーを振るうとお目当のアレガニー石や テフロ石が出てくる。今回は大型のハンマーを持ってきたので効率がいい。それ に明るい場所での作業だから鉱物の色や質感が分かりやすくて助かる。

今回の採集ではマンガン鉱山で一般的に出る鉱物をそろえることが目標なのでア レガニー石とテフロ石のよい標本が手に入れば十分だ。しかし、せっかくきたか らちょっと奥の様子も見ておきたい。沢底は岩盤が見え、えぐられた土の側壁が 切り立ってしまっている。高巻きながら少し遡行するが足元がグズグズと崩れよ くない。石積みのえん堤まで登ったが、その先は急斜面の側壁トラバースになる。 前回採集した場所はちょうどそのあたりで、とても採集できる場所ではなくなっ てしまった。これ以上無理をして進む必要性も感じなかったので、えん堤のすぐ 上に腰をすえて石を割る。

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石英脈が蛇のように見える蛇石

川底近くはさらわれていたが、斜面上部はあまり崩壊してはいない。増水はし たが山は崩れなかったようだ。それでも、新しい大き目のマンガン鉱石がいくつ か出ていた。手当たり次第に割ると適度な割合でいい標本に行き当たる。しかし、 見栄えのする標本にするためには、大きさや形を整えるのと同時にまっ黒い酸化 皮膜を削らないといけない。これが結構、手間がかかる。ちゃんとした標本に仕 上げるにはそれなりの苦労がいることが分かった。

マンガン鉱石の堅さは半端ではない。思いっきりたたけば勢いよく破片も飛んで くる。前回、横着をしてゴーグルをせずに石を割っていたら、眼鏡に傷をつけて しまった。今回はちゃんとゴーグルをしていたために目は守れた。けれども、手 は無防備だったため、鋭い割れ口で手を切ってしまった。初めは左手小指、続い て右手人差し指。血がなかなか止まらず往生する。今回に限ってテーピングテー プを忘れたのは悔やまれる。紙を巻いて止血したうえに軍手をしてごまかした。 軍手がちょっと赤くなったが、そんなに痛いわけではないので採集に支障はない。

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増水でえぐりとられた道路

割った石の断面から緑色の部分が出た。テフロ石のそれとはまったく違う鮮やか な緑だ。ルーペで確認する。緑マンガン鉱だ。まったく期待していなかっただけ にうれしい。2つ採集したが、いずれもヤコブス鉱の中だった。この鉱物は割っ た瞬間は緑色をしているが、酸素に触れるとすぐに酸化して真っ黒な二酸化マン ガンになってしまうらしい。急いで写真に撮る。あまり意味がないと分かっては いるけれども、すぐに新聞紙にくるんでザックに放り込む。おまけにネオトス石 も付いてきたのはラッキーだ。

緑マンも採集できたのでさっさと下山する。帰りながらよく観察するといままで 目もくれなかった下流部にもマンガン鉱石はたくさんあった。割るとハウスマン 鉱や菱マンガン鉱なども出てきた。きょうはバラ輝石が少ないなと思っていたら、 最後にちゃんと出てきて一通りマンガン鉱物がそろった。台風のおかげで上部の ズリを観察できなかったのは残念だったけれども、手近なところでも採集できる ようになったのはありがたい。十分納得の成果でヤマを降りる。

それにしても背中のザックが異常に重い。石を詰め込みすぎたか。欲をこいてま た腰が抜けたら大変だ。蛇石を見るついでに採集物を一部捨てる。帰りはバス停 まで約3キロの道のりを歩く。所々で台風で崩れた道路の補修をしている。そん な状態でも蛇石には数人の観光客がきていた。午前中は日が差すときもあったが、 午後はすっかり曇り、山の上部はすっかりガスに覆われてしまった。対岸の紅葉 を見ながら40分も歩くと町営バスの終点木曽沢に着いた。ちょっと遅れてやって きたボンネット風のバスに乗り、運転手から台風被害に付いてあれこれ話を聞き ながら辰野駅に向かった。

帰りのあずさの車中で緑マンが黒くなっていないか心配になってそっと包みを開 けてみる。ちゃんと緑色を保っていて一安心。結晶しているものは緑色が長持ち すると言われているが、こんな染みのような大きさでは結晶しているんだかどう だかわかりゃしない。家に帰ったらまた速攻で写真に収めた。