湯田周辺の鉱山 その1


これまでの鉱物採集は有名産地めぐりだった。リスクも冒険もない山登りがつま らないのと同じように、外れのない無難な採集は少し飽きてきた。空振り覚悟で 一発大穴を狙う。これが本物の山師でしょう。岩手県内の古い鉱山の資料が手に 入ったので、それを頼りに旧湯田町周辺を探索する計画を立てる。

湯田は鉱山の町。古い鉱山はいくらでもあり、何日かけても回りきれそうもない。 電車と歩きでつなげる範囲を考えたら4泊5日の日程になった。う〜ん。久しぶり の長期山行だ。荷物を減らすために食料はできる限り現地調達を試みることとし た。

8月31日(6:40)大泉学園=(11:00)岩沢駅→(11:25-13:30)綱取鉱山→(13:50)岩 沢駅=(14:15)和賀仙人駅→(16:00)仙人鉱山、9月1日(8:00-9:30)仙人鉱山対 岸のズリ→(10:35)和賀仙人駅=(11:10)ゆだ錦秋湖駅

【綱取鉱山】

初日(8月31日)は岩沢の綱取鉱山と和賀町の仙人鉱山。綱取鉱山は和賀川の対 岸にある。銅などの金属とともに石膏を採集していた黒鉱鉱床の鉱山。ちゃんと 「綱取鉱山入り口」という標柱が立っている。その脇の道をたどる。沢沿いの道 はすぐにヤブに消えるが、それでも踏み跡を頼りに進む。施設跡は残っているが ズリはない。無理やり沢に降りる。溶けた石膏で沢は白く濁っている。微細な黄 鉄鉱は見られるが鉱石のかけらもない。流れは緩やかなので沢を下る。サンダル 履きで助かった。

しかし、まもなく砂防えん堤に行く手をさえぎられる。ヤブをこいで踏み跡には い上がり、適当なところでまた沢に戻る。小尾根が入り組んでいて沢に降りるの も一筋縄ではいかない。すねを傷だらけにして沢を下ると、また砂防えん堤が現 れる。アシをかき分けて脇を巻く。これを2回ほど繰り返してやっと道路に出る。 これだけ苦労して得られた物は小さな重晶石と石膏の塊のみ。失った物は腰につ けていたデジカメ。ヤブをかき分けて探しにいく気力も失せた。幸先悪い。

電車まで1時間以上間があるので、付近を探索する。鉱山跡には結構カラミが落 ちている。重晶石の結晶も見つかる。ボロボロで美しくはない。近くを掘るとずっ しりと重い鉱物の塊が出た。一部に放射状の結晶がある。断面は金属光沢で繊維 状結晶の入っている。磁性もある。何じゃこりゃ。カラミのような雰囲気もある が、結晶するものだろうか。疑問を持ちながらも一応ザックに入れる。苦労して ヤブをこいだり、沢を下ったりする必要はなかった。

【仙人鉱山】

電車を1駅乗って和賀仙人で降りる。本数が少ないためローカル線にしては乗客 は多い。でも、和賀仙人で降りたのは自分1人だった。春にきた道をのんびりと 歩く。軌道跡まできて驚く。沢に水がまったくないのだ。当てにしていた水はな いかもしれない。歩きやすかろうと軌道跡を進む。しかし、その考えは甘かった。 木がない分だけ雑草が多い。そのことに気付いたときはすでに現在地が分からな いところまで踏み込んでいた。慌てて急斜面を下ってヤブをこいで河原に出る。

本流も水は少なく様子が一変していた。ザックを置いて右往左往し、やっと春に 目を付けておいたビバーク地を探し出す。やはり当てにしていた水場には枯れて いた。春には貯水池に見えた場所は湿地になっていた。しょうがないから本流で 水をくむ。沸かせば飲めるでしょう。設営を終えると16時30分を回っていた。採 集する余裕はなかった。

しばらく米を炊くことがなかったので飯作りは失敗の連続だった。水につけてお くのを忘れ、水も足りなかった。炊き直して何とか食った。キノコはさっぱりで 山菜を探すゆとりもなかったので具なしの悲しいみそ汁になった。初日は惨めな 食事だった。風は強かったが、暖かい夜だった。列車の通過する音と自動車の音 がよく響いていた。緊張したからか23時ごろまで目がさえていた。小さいツェル トは軽量化にはなるけれど、窮屈で寝心地は悪い。

1日は4時半に起き、茶を沸かしてパンを食う。まだ薄暗かったので7時まで寝直 す。撤収して河原に下りる。ズルをしてハンマーをザックのストラップにつけた らヤブこぎしている間に落としてしまった。いきなり武士の魂を失うとは。自ら の愚かさにショックを受ける。思い切りモチベーションが下がる。ザックを河原 に置き、サブザックを背負っていったん対岸に渡る。水が少ないのでサンダルで も足をぬらすことはない。川沿いに少しヤブをこぐと踏み跡に出る。それをたどっ て河原に下り、石伝いに対岸に渡ると仙人鉱山のズリだ。

仙人鉱山には、いくつもの鉱床がある。焼けが激しく端からもそれと分かるのが この金肌北端露頭だ。ここの川沿いにあるズリが有名産地になっている。ちょっ と見ると、上の方がよさそうだ。とりあえず、一番手前にあるズリをつついてみ る。大理石、黄鉄鉱、透閃石、赤鉄鉱はいくらでもでる。緑簾石もある。いかに もスカルンという感じだ。

グズグズの赤鉄鉱を転がしていたら“合格ライン”の黄鉄鉱が付いていた。一辺 が1センチ以上ある六面体結晶だ。本当にこんなのが出るんだねェと感心する。 ここの赤鉄鉱は鋼のように黒光りした、しっかりした結晶が特徴。表面採集でも そこそこ拾えるが、鉱物は土の中に埋もれているようだ。掘れば“掘り出し物” が見つかるかもしれない。

さらに上方のズリを探索する。ヤブが濃く、急傾斜で危険なため、あまり人が入っ た形跡がない。ヤブの先には大規模なズリがある。幅は10メートルそこそこでも 標高差が30メートル以上はありそう。しかも、ここの石は大きい。かなり有望に 思えるが、赤鉄鉱などあまり鉱石らしいものがない。割れば出てくるのだろうか。 ハンマーがないのが悔やまれる。孔雀石の結晶が付いた石を拾う。銅の鉱物らし いが同定できない。ズリはまだまだ上部に続いているのだが時間切れだ。

ザックを回収して元きた道を戻る。春はカタクリの花が咲く美しい森だと感じた のに、今は歩きにくいただのヤブだ。距離も長く感じる。つまらなくても国道を 歩いた方が楽だったかなと考える。そういえば朝からずっと水を飲んでいない。 のどがカラカラだ。工場前の自販機で水を買って飲む。こんな田舎で水を買うこ とに若干の違和感はあるが背に腹は代えられない。

和賀仙人から電車に乗る。昨夜あれだけはっきりと列車の音が聞こえたのに、幕 営地がどこなのかさっぱり分からなかった。1駅先のゆだ錦秋湖で降りる。

「湯田周辺の鉱山 その2」へつづく