【領地概略】
聖シッダール山脈東方に広がる、東と北に海、西に山脈を有する天然の要害に囲まれた地に存在する王国です。
領土の大半は平地が多く、水も聖シッダ−ル山脈から流れる豊富な水を元に水耕を行っています。また元々は窯業と林業の為に奨励された植林の為に国の至る所に森があり、近隣の村などにとっては大切な森の幸を得る場所となっています。
聖シッダール山脈が広がる西方では少し趣が異なり、牧畜と林業が主体となっています。
人口は都市部とそれ以外で比較すると、半々よりやや都市が少なめという配分になります。これは水耕による農業の発展の結果、小さな村が結構存在するのも理由の一つでしょう。
また、都市部の建物は他領のものとは異なり、木材を活用した建物が特に一般の建物では多いようです。
これは夏場の気候が比較的高温多湿な反面、冬場は穏やかである為風通しの良い建築物が発達した為と言われています。
領土内には遺跡はやや少な目なのですが、山脈に嘗ての都市と思われる遺跡が見つかっているなど大規模なものが比較的多いようです。
ですが、むしろこの地を特徴づけているのはその文化です。ローファ帝国由来の文化とこの地方の文化とが融合した独自のオリエンタルな雰囲気を漂わせる地方となっており、『キモノ』と呼ばれる衣類を愛用するなど、この地方の出身者は大体一目で分かります。
またこの国の武器は通常の剣と異なり、片身の刃を持つ反身の剣となっています(所謂刀です)。
また、ショルダーアーマーの元が隣接するファーレン王国から比較的早期に伝来したと思われるのですが、その結果なのか盾は殆ど使われていません。もっともショルダーアーマーすらも使わない者も多いのですが。
主要産業は多彩でローファ帝国より流れてきた技術者から伝えられた窯業の他、農業と漁業、牧畜。それに伝統技術に由来する品やお茶各種となっています。特に窯業はローファ帝国の青磁とはまた異なった陶器と白磁を生産しており、珍重されています。
独自の部隊は東西南北にそれぞれ『青竜』『白虎』『朱雀』『玄武』の四個軍団。更に中央に近衛軍である『麒麟』が置かれています。
それぞれの軍はまた特色があり、例えば『青竜』は海軍。『玄武』は防衛戦闘を得意とし、『朱雀』は全部隊中最高の機動力を誇ります。『白虎』は聖シッダール山脈をその守備範囲に持つ事から精強なレンジャー部隊を有している他、シッダール山脈がアルカーナの聖地とみなされている事から神官戦士の割合も非常に高くなっています。また、限られた戦力を有効活用する為に機動性を重視した編成と狼煙を活用した警戒網が張り巡らされています。
基本的に建国以来『侵さず侵させない』を基本とした戦略を取っており、未だ他領への侵攻に使われた歴史は表向き存在しません。
ただし、一説にはこれらとは別にただ単に『影』とだけ呼ばれる他領を探る為の領主直属の特殊部隊が存在するとも言われています。
尚、ローファ帝国とは建国当時は相互不干渉の立場だったのですが、100年程前、当時のローファ帝国の皇帝が『元来その地は我が国の領土』として属国としての服従を命じてきた事から関係が悪化。戦争となりましたが、結果はローファ帝国遠征軍が大敗を喫しました。
これはローファ側がフソウ王国を甘く見ていたという説もありますが、むしろ『青竜』による海上での奇襲と補給路の寸断。『玄武』による水際作戦の成功によるものが大きいと言われています。
以後は戦争は起きていないものの、関係は悪化しています。その一方でファーレン王国とは双方とも領土欲が薄い事が良かったのか古来から良い関係を維持しており、ファーレンへのドレスの侵攻の際にはフソウが密かに援護を行ったという話もあります。
聖エトラムル王国とは公式には友好国扱いですが、実質的には中立という形になっています。アルカーナを国教としてはいるのですが、反面古来より闇種族に対して寛容な政策を取り続けてきた事から現在でもしこりが残っているようです。もっとも聖シッダール山脈の防衛を共同で行う等、現場では協力態勢が確立しているようです。
【支配体制】
こちらはオーベル家が実権を完全に握っています。
ローファ帝国が地方領主に権限を与えすぎて混乱に陥った反省から、中央が大きな権力を有する中央集権体制としたのです。この為、地方領主というものは存在せず、基本的に領主は定期的に交代する中央から派遣された官僚となります。無論、場合によっては不正や腐敗の温床となる筈なのですが……どういう訳か初期はともかく現代では問題と言える程の問題が起きていません。
もっとも、問題となる程の不正をした者は『病死』乃至『事故死』させられるのだ、という噂も絶えないのですが……。
【裏設定】
『影』、これは所謂忍者集団の部類になります。国王直属の部隊で、自国への侵略と国内の反乱を根の段階で積む事を目的としたスパイ組織であり、盗賊ギルドとも深い関係があります。
実はこの国の内部が極めて安定を保っているのは、彼らの働きによる部分も大きく、基本的に表に出ない裏面の部分全般を担当しています。例えば、国内で内乱を企む者がいれば病死に見せかけた暗殺も行っています。
彼らは基本的に王家運営の孤児院からスカウトされており、こうした孤児院は彼らの働きによる対価としての面もあります。内部結束は非常に固く、王家に対する忠誠も高いものあります。
辞める際には『薬による部隊の忘却』と『ギアスによる部隊に関する口外禁止』の処置を受ける必要がありますが、大抵の場合辞める者は訓練の結果『影』には向かない(派手好き・迂闊者・方向音痴など)と判断された者や、怪我や病気によって今までのようには働けなくなった者(大抵の場合は教官などに回るのですが中にはこの仕事そのものに恐怖を持ってしまう者もいるのです)、結婚して退職する者などが基本で、それ以外で現役の者が辞める事はまずありません。
【歴史】
元々はローファ帝国領の砦が置かれていた辺境の地でした。それが大きく変化する事となったのは、200年程前に起きたローファ帝国の皇帝継承戦争の結果です。
最大の問題は皇帝が二人の皇子のいずれかの指名で悩む内に急逝した事でした。
当時いずれの皇子ともまず優秀と言っていい二人で、ウェルフレイ皇子とシーディア皇子は遂に双方を担ぐ勢力の衝突もあり武力衝突に移行。最終的にウェルフレイ皇子が勝利し、シーディア皇子は国外へと脱出しました。
この時奇妙な事にウェルフレイ皇子が追撃命令を出さなかった事からシーディア皇子はこの地へと逃れ新国家を建設するに至りますが、当時の歴史を調べてみると、動員兵力の規模にしては損害が双方とも少なく、結構あっさりと決着がついている事。双方の皇子が実は非常に仲が良かった事などが明らかになってきており、こうした事からお互い示し合わせて国内の混乱を最小限にする為に行った狂言ではなかったかという説もあります。
この際、帝国を名乗るとローファの帝位を狙い続ける意図があると判断されるのを避ける為だったのか王国として建国されています。
元々ローファ帝国出身者から構成されている事からこの地でも建国後間もなく窯業が始まりましたが、当初は土や樹木、釉薬の関係から磁器が焼けず、陶器からこの地での焼物の歴史は始まりました。 これが独自の発達を遂げ、『ティー・セレモニー(茶の湯)』と呼ばれる文化をも生みました。
その後の技術の発達で、やがて独自の白磁を誕生させ、こちらでもまた『ティー・タイム』と呼ばれる文化を生みました。現在では陶器と白磁の双方が製作されており、この国ではお茶会へのお招きを受けて始めて親しくなったと言われる程重要な役割を果たしています。
一般に『ティー・セレモニー』の方が格が高いとみなされていますが、これは『ティー・タイム』が場所を選ばずどこでも行われるのに対し、『ティー・セレモニー』は儀礼や場所などに様々な方式がある事が原因かと思われます。
国王はローファ帝国の血を引くオーベル家が代々継いでいます。
一応分家筋としてゼレノア家・フィーベル家などが存在し、オーベル家の直系が絶えた際にはこれらの分家の中から長老会議によって選出された者がオーベル家の名前と立場を継ぐ事になります。他国から見れば信じられない程本家と分家間の関係が良く、政情は極めて安定しています。この長老会議は本家と分家の引退した当主らを中心に構成され、基本的に権力を有しません。彼らの仕事は基本的に次期当主への帝王学教育と本家が絶えた際の次期当主の選定となります。また、長老会議に一旦入った場合、もし継いだ子供が早死にしても自分が一旦継ぐ、或いは後見役となる事は許されません。
この国の一つの大きな特色として、王家の女性と結婚した場合は婚姻相手の男性にも継承権が生じます。この為、貧乏商人の息子から国王となり、名君としての評価を得た人物も存在します。
【宗教及び差別】
アルカーナの聖地と呼ばれる聖シッダール山脈の一部を領土の範囲に持つ事から矢張りアルカーナ信仰が強めで、国教とされています。また、アルカーナが太陽を司る太陽神としての側面を非常に重視しているのも特徴です。
ただし、だからといって、他の宗教が白い目で見られるなどという事はなく、あくまで王家が信仰する宗教としての側面が強く、光と闇双方、合計十二神の神殿全てが王都であるキョウライには存在します。人数比率で言えば、3割のアルカーナ信者と7割のそれ以外の信者という構成になります。
また地方においてはウェンターナの月神としての側面を強調し、太陽と月のワンセットとしてアルカーナとウェンターナを同じ神殿で祭る場合があります。
差別は実はない、と言っても過言ではありません。
建国当初、国を確立するまでは当時の闇種族と呼ばれる種族と対立している余裕がなかった為とも言われますが、基本的に良い意味でいい加減で、闇種族であってもごく普通に扱われます。無論犯罪を犯せば別ですが、これは種族を問わないのは言うまでもありません。世界的にも珍しい存在法に相当する法が一度も存在しなかった国なので、周辺からの闇種族と呼ばれる種族の流入があったようですが、これが急速な国力の充実に繋がったとも言われています。また東方において西方に比べ存在法が緩かったのも、この国の存在によって周辺各国が存在法による規制を緩めざるをえなかった為とも言われています(締め付ければ財産を抱えてこの国に逃げてしまう)。
ただし、政治には殆ど関与しておらず、実権を持つのは人間種が中心で、ドワーフ・エルフ種がある程度という形になります。無論中には大臣を務めるカオエルフなどもいるのですが、あくまで『中にはそういう者もいる』、というぐらいです。ただし、商人には大商人の一角を占めるゴブリン種を含めかなりの闇種族に分類される者がいるようです。
【聖シッダール山脈の扱いについて】
聖シッダール山脈はアルカーナの聖地とされ、聖エトラムルが便宜上全山脈を支配するという形になっていますが、現在実質的には北半分はフソウが支配しています。
一応扱い的には聖エトラムルからフソウ王国が管理を託されているという形になっているのですが……両国間で騒動が起きた時の大半はここ絡みです。
【中心都市】
『王都』キョウライ
ルテット・ヴァギラータへ向かう鉄道の分離地点、半島の根元に置かれた都市で、領主の館もこの街にあります。
始まりは統治の拠点として領主の屋敷が中心に置かれた小さな街でしたが、その後次第に嘗ての街を取り囲むように大きくなり、現在では領主の屋敷を兼ねた城を中心とした政治と鉄道を積極的に誘致した結果による物流双方の拠点となっています。
この地にある領主の屋敷は城に分類されはしますが、他の石造りの城とは一風異なったこの地独特の『カワラ(瓦)』を用いた建築物であり、別名『白鴎城』とも呼ばれる美しい城です。
『白の街』セイマン
白磁と呼ばれる磁器を生産している都市で、国外にもその名を知られています。
『ティー・タイム』で頻繁に使用されるような安い磁器を作る産地もありますが、ここで生産されるのは輸出にも用いられる高級品が主です。一般的に高い技術と美しい装飾を誇り、ローファの青磁にも負けない高い評価を受けています。
『赤の街』レスペデ
セイマンが磁器生産の都市とすれば、陶器生産の拠点都市がこのレスペデです。
使い込む程に色合いの変化するその器は趣があるとして、磁器以上に高く評価する好事家も少なくありません。陶器は磁器と異なり同じ都市で身近に使えるお手軽な価格の物も高級な物も製作されています。
他に代表的な陶器の製作地としてはシラガキ等があります。
『軍港』ルテット
ドーヴァン半島の先端部にある『青竜』の駐留する都市です。
この都市には大陸最大級の軍港があり、精鋭の海軍が駐留しています。艦船の大きさはグランカルヴァーのそれに劣りますが、巨大さより機動性と戦闘力のバランスを重視した優れた設計になっています。もっともこの辺は大量輸送を目的とする商人と戦闘を重視する軍人の差と言えるでしょう。
商港も相当な規模のものが少し離れて存在しており、こちらが都市部としては中心になります。
周辺海域も含め治安は極めて高いので、安心して取引が出来る場所となっており、グランカルヴァーの支店もここに存在します。
【人物】
・ジンライ=デア=オーベル
オーベル家の現当主にして国王。年齢は46歳。黒髪黒瞳の偉丈夫。
見た目は迫力のある人物だが、普段はごく穏やかな人物である。元々は自国の軍団『朱雀』の筆頭将軍でもあった人物ですが、これは領主としての地位ではなく実力で得たもので、最強の領主とも言われています。その立場からも分かるように元々は冒険者出身の一般人で、王家の女性と結婚した事から王位を継ぐ事になりました。もっとも本人は『惚れた女と結婚したら、おまけ(王位)がくっついてきた』と話しているようですが。
言っている通り妻とは未だ新婚にも似た熱々のムードを周囲に発散させており、家庭は至極円満です。一男二女の子供がいます(ちなみに生まれた順番は女女男)。
・サイガ=ネゴロ
細面の優男という雰囲気の人物で、キョウライの行政長官の地位にあります。種族はハーフエルフです。
国王ジンライとは冒険者時代からの付き合いで『おれ、お前』の間柄にあり、ジンライの腹心とも言える有能な人物です。高名な文化人でもあり、特に陶器の蒐集が趣味で、自身でも陶器の製作を行っており、高い評価を受けています。
実は彼は表には出ない特殊部隊『影』の長でもあります。
・『発明王』ドーン=ラインヴァン
フソウでは大変有名な変り者です。
とにかく変わった物を作るのが得意で、中には役に立つ物もあるのですが、殆どは役立たずのガラクタです。ただし、十に一つ程度は役に立つ物を作り、その成功品の内更に十に一つかそこらの割合で無視出来ないようなシロモノを発明するので、王国としても放っておけない人物です。もちろん、中にはとんでもない騒ぎを引き起こした物もあります。一例としては『線路なしに走れる汽車』を先日製作したはいいのですが、試運転を行った際技術長官の見ている目の前で暴走し、城の堀に突っ込みました。もっとも途中まではきちんと走った事は走ったので、将来的には馬と列車に代わる新たな交通手段として使えるのではないかと期待されています。
一応、王立技術省所属の技官としての立場を与えられていますが、実質的には在野の人物です。
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