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種族名

−森の民−エルフ

 

 次の朝、万端過ぎるほどに準備を整えたニーナが師匠の前に立つ。自分が考えられるありとあらゆる物を持ち出したらしく、まるで荷物にニーナがくっついているかのような少々滑稽な姿になっている。
「一体どんな秘境に向かうのですか? ニーナ」
 上品に口元に手を当てながらシルヴァナはくすくすと笑う。
「だ、だって旅なんて始めてなんですもの……」
 三人分の旅の装備が優々と入りそうな巨大なリュックを背負い、ニーナは恥ずかしそうに顔を赤らめると俯いた。
「だからって、ねぇ……かさばる物はあまり入れないようにして、よく考えて」
「はい……」
 シュンとうなだれてしまったニーナを見て女魔法士は少し困ったように苦笑をもらした。
「始めてなんですからしかたありませんよ……。ところでニーナ?」
「はい。シルヴァナ先生」
「一人旅はさすがに心配ですので、同行者を一人選出しました」
「同行者……ですか?」
 それを聞いてニーナは不安げな表情になる。無理もないだろう。つまりこれから1年近くをその同行者と共にすごしていかなければならないのだ。魔法士協会の決定に逆らうつもりは毛頭無かったが、やはり自分の相方は自分で決めたかった。
「入ってきなさい」
 だが、扉が開け放たれ、部屋には言ってきた人物を見てニーナの顔がこれでもかと言わんばかりにほころぶ。
「クレーシア!」
「久しぶり。元気してた?」
 部屋に入ってきた小柄な女性は、ニーナに向かってにっこりと微笑んだ。薄い蜂蜜色の髪を馬の尻尾の様にまとめ、木を削って作った髪留めで簡単にまとめている。
「クレーシア・バーンミュースト。彼女が魔法士協会の選んだ今回の旅の同行者です」
 ニーナはそういシルヴァナが言っていることをほとんど上の空で聞いていた。
 クレーシアは彼女が幼い頃、両親に死別され、孤児院につれて行かれた時に最初に出会った人だ。三歳の時から七歳の時まで面倒をみてくれ、八歳の時に魔法に興味をもったニーナを協会に推薦してくれ、今まで育て、面倒を見てくれた大恩人である。
 母であり、姉であり、友でもある。
 だが、彼女とクレーシアの年齢はそれほど離れている様には見えない。無論、クレーシアのほうが年上には見えるのだが……。
 その理由は、彼女のつんと尖った耳が示していた。
 エルフ……森と風を愛する一族である。
「最近、石畳の上ばかりでちょっとげんなりしてたからね。どこから見て周ろうか?」
 彼女が言う様に、ここ数十年の間にエルフ森を出て町に住むようになっていた。今では純粋に森に住んでいるエルフといえば北西にある『森の国』くらいだろうか……。
「こちらのほうで旅費は用意してあります。……ニーナ、世界を見てきなさい」
 ニーナはゆっくりと頷いた。
 最初に行くべきところはすでに決めてある。
 まずは、クレーシアの望みをかなえるのだ。

説明
 

 森の民・・・などとよく言われますが、現在のエルフ達で純粋に森に住んでいるのは人間よりも若干多いだけで、大抵は人間と同じように街や国に住んでいます。考え方や風習も若干の違いはあるものの、人間と非常に似通っています。人間の貴族階級の中にも何人ものエルフの名前があげられますし、いくつかの国では人間とエルフを『別の種族』というくくりかたをしていないほどです。
 人間にもっとも親密に接し、友と認めてくれた種族・・・それがエルフです。その証拠として・・・というわけではないでしょうが、この種族との間には『ハーフ・エルフ』と呼ばれる人間との混血種が生まれます。
 平均してエルフ族は人間よりも少々小柄な体格が多く、髪の色なども薄い金などが多いです。


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