ジョルダン人情編2◆ヒッチハイクで行こう Vo.1



1999年9月26日(日)死海

快調にミニバスは飛ばす。延々と続く下り坂をぶっ飛ばす。 すこしばかりの外国人とジョルダン人を乗せ、死海へむけ飛ばす飛ばす。 死海はご存知の通り、世界で最も低い場所であるため、 行きは下り坂、帰りは上り坂なのだ。
「死海楽しみだねえ」
「ホントに浮くのかな」

そう応えるのは、昨日の朝、宿の階段でばったり会ったチョクである。
今日はふたりでビーチ攻め、というわけだ。

さて、このなりゆきは今朝私がシャワーをあび、リビング横のテラスで 貴婦人のようにくつろいでいたことから始まる。
濡れ髪のまま、オフィーリアからもらったリンゴをもさもさ食っていると レセプションに昨日の男の子がやってきた。
「あ、やっぱりここに泊まったんだ」
「はい。ところでこんな朝早くにお出かけですか?」
「うん、死海に行こうと思って行き方聞いてたの」
「なぬっ!死海!?」

きあは、マグロ一本釣り一筋50年の漁師のごとく、その言葉を聞き逃さなかった。 みなさんも経験はあると思いますが、ひとりで行く海水浴の むなしさったらない!遺跡巡りはひとりのほうがいいとして、 ビーチに行くのにひとりがいいなんてただの変態である。
そういうわけで、私はまずアンマンについたら死海へ行く人、それは 日本人外国人問わず探そうと考えていた。 同室のオフィリアは昨日行ったばかりだと聞いていたので誘えなかったのだ。
渡りに船とはこの時ばかりと、ぜひ一緒に行かないか、という旨をまたまた貴婦人の ように丁寧に(気分を害さないように)告げ、あっけなくOKをもらう。 ヒャホー。これで年賀状用の写真が撮ってもらえる〜。
これが、私とチョクのビッグブラザーコンビ結成の瞬間だ。 きあ170cm、チョク推定183cm。ジョルダン人はさぞ日本人はデカいなーと 間違った認識を抱いたことでしょう。すみません、すみません。

死海浮き!

死海浮き!
山下清っぽくはしゃぎまくる。顔に泥も塗ってみる

「ホレ、おめえら死海だぞ」
とか言われたのだろう。へ?ここ?なんもない幹線道路にほうりだされた、と 思いきやむこうに青い青い海!うわっ!死海って青っ!
当然だが、塩分濃度がすごすぎるため魚がすめない海。だから死海と呼ばれ、 生き物がすめないからこそ水がきれいなのは当然なのだが、イメージは どす黒い感じかと思っていたので、意外な青さに驚きが隠せない。 ヒャーヒャーいいながらさっそくビーチヘGO!
ロッカーや更衣室はあるが、私たちは脱ぐだけでOKよンの 装備をして来たので問題なし。浜辺に荷物をどかどかっ!と置き衣裳がえ。
チョクは、ガラベイヤという男性用ねずみ男スタイルの下に短パンなので、 それを脱ぐだけの早業着替え。
きあは、短パンの上にマレーシアで買った布を巻きスカートにして着たので 女神のようにハラリとはずすだけでもうTシャツと短パンは水着に早変わり。 しかも、塩にやられないよう死海用カメラは使い捨てカメラだ。濡れた手で掴めるよう、 ストラップもつけてきた(知ってた?使い捨てカメラにはストラップがつけられる穴があるんだよ)。 フッフフフ。我ながらなんて用意周到なんでしょう・・・

海水は、まるでアイスコーヒーにシロップをいれた瞬間のようにもわわわっ としている。なんだこれ!塩が飽和状態なのかな。もわわわわっ。 足をちゃぷんとつけると、そのもわわわわっも一緒に動く。おもしれー!!
えーーい!ザブーーーーン!うおおおお!うっ、浮くバイ!
実はカナヅチのきあ。海水浴には、コンタクトレンズを守るためのゴーグルと、 命を守るための浮き輪が必須アイテムである。がっ!しかしっ!
今、わたしは人魚のごとく(優雅に)ふわふわ浮いている。つーか立てない。 立とうとするとすごい浮力で水面に足が押し出されるのだ。
「ウオオ〜しょっぺえ!」
海水をなめたらしいチョクが叫ぶ。もうしょっぱいどころか、にがく感じる。
「こりゃ潜れないな。死ぬな・・・」
とつぶやくチョク。うん、潜らないほうがいいよ。死なれたら面倒だし。

死海
ケガをなくてよかった。たぶんアーネストホーストも泣くほどしみるはず

ここに来た人たちは、総子どもがえり症候群にかかるようだ。
国をとわず、年齢をとわずみんなきゃあきゃあはしゃいでいる。お約束の 浮きながら新聞を読むというベタなポーズで 写真をとっている西洋人を見たときには大笑いしてしまった。いやあ平和だねえ。 私はどうやら肌が強いらしく、1時間入っていてもなんの刺激も感じなかったが そのうち、プカプカ浮くだけでは飽き足らず、きょろきょろ面白そうなものを 探していた。ややっ!あのおやじ、体に泥ぬってやがる
きあの好奇心アンテナは、ビーチの右はしあたりで 現地のおやじが海から黒い泥をすくい、体にベタベタ塗りたくっているのを発見。 その速さは魚群探知機に勝るとも劣らなかった、とだけ記しておこう。
「チョク!見て、あのオヤジぬけがけしやがって」
「おおおっ。負られん、いくぞ!」

さっそく波をかきわけかきわけ、おやじの元へ。
足元ににゅるっとした感触が伝わる。おおこれが美肌に よろしい死海の泥ね!チョクは器用に足で泥をすくうが、高倉健なみに不器用な 私はよちよちあっぷあっぷと、なかなかすくえない。
気の毒に思ったチョクがくれた泥は、思いのほかノビがよい。
「うほぉ〜。エエですなあ〜」
と、その直後監視員らしきヒゲ兄さんにアラビア語で文句をいわれ、いったんは その場所からはなれるが、私たちの行動をおもしろそうだと思った西洋人たちが わらわらとそのマル秘お宝泥スポットに集合。勝手きままに泥を塗りあうので あきらめて注意するのをやめた。勝ったんだわ!私たち!さあ、海の恵みを存分に楽しむがいい。

とにかく死海はおもしろい。ミニバスで一緒だった旅行者ピエールと一緒に 泥塗り遊びでもりあがり、現地のひとの着衣沐浴シーンも堪能できた。
ああ、また来てもいいねえ、といいながらミニバスを降りた場所で アンマン行きを待とうとトボトボ歩いていた。
そこにいきなりパッシングをしながらとまるトラック。ほへ?なに? おやじはアラビア語でなんかホニャホニャ言っている。
どうやら、アンマン?アンマン?乗ってけ!と言ってるらしい。
これが、きあの生まれて初めてのヒッチハイクだ。
ウキウキしながら2人で乗り込む。運転席は狭いのに派手にデコレーション。 これがトラック野郎ジョルダン魂なんだなあ。

やぎ
ベドウィンとヤギの群れにつっこむ私たち

オヤジは嬉しそうに嬉しそうにわたしたちにタバコをすすめたりする。 英語がまったくできないようなので、身振り手振りでのコミュニケーションだ。 私が羊の群れを撮っているといきなりその群れにつっこんでくれ、
「存分に撮りなさい」とばかりにSTOPしてくれたりと も〜〜なんていいやつう!おやじは、ミニバスの乗換えをしたとこまで送ってくれ、そこでペプシまで おごってくれた。いちおう遠慮なんかしてみたが
「も〜いいからっ!い〜〜からとにかく飲め!」
と言った感じで有無をいわさずプレゼントだ。ホロリ。おやじ、サンキュウ。 ここはお店もあるし、日陰があるからのんびりミニバスが待てるよ。 来た道を引返すおやじを見送り(彼はわざわざここまで送ってくれたんだなー)、 さてバス待とうか、とした瞬間、私たちの目の前にヒゲ兄さんが立ちふさがった。
「アンマン?」
「ア、アンマン!アンマン!」
ヒゲ兄さんはまたもや有無をいわさず、こっちにこいとトラックを指差す。 おっ?もしやあなた・・・・私たちをアンマンまで乗せようという気? 給油を終えたヒゲ兄さん、ムハマドのトラック運転席もやはり派手だ。 シュクランミスター!じゃあよろしくね!
「とってもステキねえ」
とほめると非常に嬉しそうだったのが印象的。しかし聞けば私より年下で チョクと同い年の25歳とか・・・ああああ、フケすぎ!アラブ人! ムハマドのトラックは上り坂の続く道をのろのろ運転ですすむ。 その間、あそこはなんという町、というのをやはりアラビア語オンリーで 教えてくれた。しかし見知らぬ東洋人をよく好き好んで乗せてくれるわね、 ジョルダンのトラック野郎ったら。

おいちゃん
可哀相な日本人を拾ってくれたおっちゃん

実は、さっきのオヤジとムハマド、アラビア語しかしゃべらないといいながら ほぼ同じような質問をしてきた。

「おまえらは夫婦か?(恋人同士か?)」

という質問だ。なぜわかるかというと、まずアラブ人独特のジェスチャー、 両手の人差し指をこすりあわせて「サワサワ?」と きく。そしてふたりの左薬指を差す。ここまでくればわからないわけがない。私たちは迷った。が、
「今朝あったばかりのまったく知らない人だよ〜ん」
などというと、敬謙なムスリムにショックをあたえると思い、
「そうだよ、夫婦なのー、指輪は死海にはいったから外したの〜」
と根も葉もない嘘をついたのだ。ああ、ごめんなさい。

ムハマドも途中で、ミリンダをおごってくれたりととにかく楽しい思いを しながらどうやらアンマン市街に到着したらしい。目の前にはトラックターミナル らしき建物。道にはぶんぶんミニバスも通っている。これなら、すぐに ダウンタウンに帰れるでしょう! ムハマドに厚くお礼をのべ、手を振り別れる。シュクラ〜〜〜ン!ムハマドォ〜!
「すごいねー。いい人たちだね」
「なんかさ、ヒッチハイク簡単にできるなこれは」

ふたりともこの経験に味をしめてしまい、明日からの道のりが大きく変わることとなる。

その夜、チョクと夕飯をご一緒することになった。
チョクの帰国日はほぼきあと変わらないので、行こうとしているルートも同じようなものだった、が。
チョクは空港からのバスの中で、ジョルダンに住んでいたことのある日本人ビジネスマンに 会い、そりゃもういろんなレアな情報を仕入れていた。おいしいレストラン情報はもちろんのこと みどころについても。
「キングスハイウェイってのがすごいらしくて、絶対いったほうが いいっていわれたんだ。ワディムジブがいいんだってさ。ジョルダンのグランドキャニオン って言うんだって。でもこの地図みて。ほらココとココはミニバスが通ってないんだって。 だからタクシーかヒッチハイクしかないんだよ。でも今日ので確信した。 俺はヒッチハイクでキングスハイウエイを南下する」
きあのなかにムラムラムラっとした思いが湧いて来た。
チョクが聞いたといういろんなレア情報への興味、そして今日の楽しかった ヒッチハイク。・・・・・・・・・・・・・・・・。
その瞬間、わたしはプライドもなにもかもかなぐり捨てた。

クリフ
クリフホテルのテラスからのながめ

「チョク。私はさ、こんなこと一度もゆったことはないけど、 いわしてもらうよ。私を一緒に連れていってください。いや、連れていかれる んじゃなくて一緒にいかない?キミの話きいてると、ぜんぜん予定になかった のに、私もキングスハイウェイ通ってみたくなっちゃったよ。それに、ヒッ チハイクも、わたしひとりじゃ不安だよ。途中まででいいから。私英語はしゃべれ ないけど、今日見てわかるように結構コミュニケーション上手やろ?」

チョクは笑いながらいいよ、と言った。
「じゃきあはコメディアン&盛り上げ係、おれはボディガード&通訳係ね」
なんだか、目の前がぱっと開けた気がする。とってもとっても言いにくい言葉だった。 しかもチョクはどちらかというとひとりのほうが好きなようなので ※チョクひとくちメモ:自分でも、日本人同士で群れるのは嫌いだとハッキリいっていた。かなり 一匹狼的なクールさと、意外なちゃめっけのある男の子であった。ひとを よせつけない雰囲気があるが、家族思いという激しい二面性を持つ人だったね。チョクみてる? いちおうこれ誉め言葉よー。 よけい言うのをためらったのだが、一緒にいると思いのほか饒舌な のでついつい、こんな甘えを言ってしまったが旅は道連れ。
荷物にならんようがんばりますけん、よろしくでごあす。


本日の出費
■レモネード 50F
■セルビス(ダウンタウン−アブダリ) 500F
■ミニバス(アブダリ−乗り換え−死海) 950F
■死海入場料 2.5JD
■ミニバス(?−ローマ劇場前) 200F
■ジュース 50F
■バナナジュース 200F
■夕食(カイロレストラン) 4.1JD(2人で)
■ブーザ 270F×2個
■水 300F



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