シュティール「全然知らないんですが……ここは、どういう国なんですか?」
リスターナ「それがな。一度、通過したんだが、その時は無かったんだよ」
シュティール「……はい?」
リスターナ「だから、無かったんだ」
シュティール「あの……無かったって?」
リスターナ「いや、だから……って、シュティール。お前、ホントにこの国のこと何にも知らないのか?」
シュティール「知らないから聞いているんですが……?」
リスターナ「あぁ……いや、スマン。少しは知ってるもんだと思ってた」
シュティール「国名しか知りません……」
リスターナ「悪い悪い! 実はな、この国は、一年の半分以上は存在しないんだよ」
シュティール「どういう意味です?」
リスターナ「ファーレン王国は、主にカハ平原に住む大小数百の遊牧民族が集まった国なんだ」
シュティール「はぁ」
リスターナ「で、その遊牧民達は、情報や物資の交換のために、年に一度くらい大々的に集まる。ところが、その場所はばらばらで、遊牧民達にしか分からないスケジュールで、ぐるぐる回っているらしい」
シュティール「じゃ、僕達が行こうとしても……」
リスターナ「難しいな。地図にファーレン王国って、ポイントされてるだろ? 実際、これは役に立たない。なにせ一年後にはまた別の場所で『ファーレン王国』ができて、またすぐに消えちまうんだから」
シュティール「……それ、ほんとうに『国家』なんですか?」
リスターナ「一応、な。のんきな国なんだと思うぜ。こんな感じだから、王様ってのもはっきりしないし」
シュティール「なるほど……」
リスターナ「でも、いざと言う時の団結力はほかのどの国よりも優れているだろうな。なにせ、数百の部族がばらばらに存在してるのに、過去幾度となく、ドレス帝国の北部進行を防いでいるんだから」
シュティール「そんなに戦闘力が高いんですか?」
リスターナ「あぁ。この国の騎馬隊は、ほかのどの国よりも錬度が高い。なにせ生活の一部だからな」
シュティール「なるほど、人馬一体ってヤツですね」
リスターナ「しかもカハ平原に住んでるケンタウロス族とも密約を交わしていて、いざというときにはその力を借りることができる」
シュティール「すごい話ですね、それ……」
リスターナ「だろ? 改めて考えてみると、案外、最強の国ってファーレンかもしれないぜ。首都がないから制圧もされないし、いざとなれば民衆のほぼ全員が卓抜した騎馬隊になる。戦争なんて、普段獣に向ける弓を、人に向けるだけの違いだからな」
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