ジョルダン人情編3◆蒼い紅海、赤いペトラVol.3



1999年10月1日(金)ペトラ

朝、確認するがやはりオフィリアは来ていない。しょうがない、遺跡の中で出会う旅人たちに ワディラムツアーをシェアしないか申し出てみよう。ん〜なんかきまりごとがあるって 面倒だなあ。でもエカブと約束しちゃったもんね。 バッサン兄さんの店で非常食を買い出し、気分はチョモランマ登山者並み、 そしてナリはそこらへんを散歩する人状態で送迎バスへ乗り込み遺跡入口へ。

窓口では迷わず2日券を購入し、おそるおそるゲートをくぐる。
ロバタクシー屋があふれんばかりにうようよとうごめいている道が続く。 うわー・・・この道、おじいちゃんもおばあちゃんも通るんだろうか。 きつそうだな。つうか、見どころまで歩くのに何時間かかるんだろう?
シクと呼ばれる、きりたった岩のすきまの道。 うねうねとした赤いマーブル模様の岩の壁を抜けとことこ歩く。 シクは日陰なので歩きやすい。まだ朝も早いというのに、さすがに日なたは キーンと暑く、帽子がないと倒れそう。そして私は帽子ではなく シャツを頭にかぶっていましたが・・・。

エルカズネ1
ん?なんだあのすきまに見えるのは・・・
エルカズネ2
おーっと、シクを引き裂き!
エルカズネ全景
突然あらわれるエルカズネ

ゲートから45分くらい歩いたところでまず、シクがぱっとひらける。そして そこにはあの、ペトラの絵葉書で有名なエルカズネが顔をのぞかせる。 その登場の仕方ったらすばらしい。 シクの岩の隙間から、日をあびて赤くそまるあのレリーフ宮殿みたいなのが あらわれるんだから、アドレナリンでまくりだ。
エルカズネ前の広場はせまく、どうがんばっても全体像が撮れない。 とにかくデカい。中に入るとビックリするほど狭いし、なにもないただの四角い空間で、 拍子抜けしてしまうほどだ。さすがに映画とは違うわよねー。
門柱みたいなものによりかかり、フウッとひといき。 しかし、ロバ道とシクを歩いただけでこの時間がかかるなんて、一体全部見るのに どれだけの時間をかけろというのだ、ペトラ遺跡!くわっ!
2日券を買ってよかったと心から思うきあであった。

エルカズネを後に、さっそくエドディルに向かうことにした。やっぱ、今日はメインを 見ておかないといけないわよね。エイエイオーウ! 地図をみると、エドディルはかなりペトラの奥まった場所にあるようだ。体力勝負だ。
私はいつもの呪文、「きつくて長い道のりなんだ。死ぬかもしれないくらい 大変な道のりなんだ」と、言い聞かせ(ブータン編参照)岩ゴツゴツの 坂道階段を行くことにした。

エルカズネ柱
エルカズネ正面の柱はこんだけデカい。岩肌のグラデがきれい

「ハア・・・ハアハア・・・」
ところどころにあるレリーフや壮大な景色を眺めながらも、ほぼ 無言で坂道&階段をのぼる。もう意地しかない。 ヘプバーンのようなシャレた格好をしたパンプス姿のおばあちゃんものぼる。 自分の体力不足になきながらものぼりつづける。 でも、そのきつさが旅人同士の連帯感を生むのか、すれ違いざまなど
「あとどれくらいかかる?」
「そうねー、あと30分かしら。がんばって」
「エドディルはいいところ?」
「それは素敵よ!かならずあなたも満足するわ」

と、ちょっとした会話が弾むのでそれはそれで楽しかったりする。
と、そのとき目の前から降りてくるひとに見覚えが・・・
「あ゙〜〜!オフィリア〜〜!」「オー!きあ〜」
ちょっとお、あんた何でこんなとこにいるのさ!キー!

オフィリアの話を聞くところによると、今はワディムサ中心部の ガーデンホテルに泊まっているらしい。 じつは、ムッサスプリングホテルは中心部からはるか遠く離れた ところにあるので、そこに移動するのが面倒だったそうだ(コラッ!)
「ごめんね、きあ。アタシのロンリープラネットの、ムッサスプリング ホテルのページにメッセージ書いててくれたでしょ?『また会おうって』。だから 気にはなってたのよねー」とあっけらかんとしている。 まあ、しょうがねえ、許してやるよオフィリア。
今日の夜に、私がガーデンホテルのロビーに行くと約束して、まずは この場は別れることにした。

狭く急な上り坂。このまま永遠に続くのかなあーとおもったところで、 これまたいきなり、なにか空間の登場だ。 んも〜ジョルダンたら、いつもいきなりなにかあらわれて私を驚かしてくれるんだからあ。 ・・・と思ったが、オミヤゲ屋となんか広場以外にはなにも見当たらない。 はへ?ここはどこ?と思った瞬間、 ふりむけばエドディルだ。エドディルのすぐ横に でてきたから、振り向くまで気がつかなかった!なんだ!でっけえなあ!!!
2m以上ある敷居をんしょと乗り越え、中にはいるとやっぱりただの四角い空間。 これっていったい中でなにしてたんだろう???しかし涼しいのは嬉しいね。 これも昔の人の知恵であろうか。

エドディル
人間写りこまないくらいデカいエドディル

さすが眺めも最高である。
持参したブドウや水、チョコレートなどを食べてのんびり過ごした後、 ちょうど、エドディルを真正面に見据えることのできる洞穴状に開いた岩を 見つけたのでそこでふたり、寝はじめる。疲れたあ〜。
とにかくひとやすみひとやすみームニャムニャ・・・・

「♪×▽○#〜・・・」
ふと浅い眠りから覚めると、なにやら澄んだ歌声が聴こえる。 アラビア語の唄だなあ。いいかんじにこぶしがきいてるね。いやはやウマい。 ああ、すごくイイカンジにハモってるよ。誰だ〜と考えながら、 唄が終わった瞬間目をあけて拍手をした。 チョクもその歌声に起きたようで、一緒に拍手をしていた。
私たちのすぐそばで唄っていたのは、10才くらいの男の子たち5人組。
「もっと唄って聴かせてよ」
とジェスチャーでいうと、彼らはまた嬉しそうに唄い出した。
唄ってるムハマド(やっぱりこの名前か!)は、どうやら リーダー的な存在らしく、しかも唄うのが大好きらしい。 わたしたちも手拍子をしながら一緒に唄う。ふふふ。可愛いじゃないのさ。

ムハマドたち5人組
黄色い服がリーダーのムハマド

それからみんなで岩に登ったりして遊んでいた。この子たちは この遺跡内に住むベドウィンの子らしいのだが、そのへんはイマイチはっきりしなかった。 でもそんな問題はどうでもいい。この5人組、めちゃくちゃオモシロイのだ。 ひとりの男の子がチョクに、 「今何時?」ときいてきた。
「えーとね、1時・・・あれ?おまえ時計もってんじゃん?」 その子は立派なGショックを持っていたのだが、なんと液晶画面が うつっていない。ワハハハ!みんなで大笑いして、なんで壊れた時計はめてるんだよう なんていいながら、かなりツボに入ってしまい笑い転げた。 そしたら、私たちを笑わせようとまたみんな自分の 壊れたものコレクションを嬉しそうに見せるのだ。 壊れたボールペン、壊れた帽子、壊れたライター。
ムハマドが言った。「エブリシング、ブロークン」。
きあはそれにこたえた。「バット、ハッピー?」。
答えはもちろん、イエスだった。

私たちのような旅人からもらったものなのだろう。
溢れすぎたモノたちを、平気で捨てたりあげたりするひとたち。 この子たちはどういう気持ちでその壊れたものを大切にしているのかなあ。
「ハディジャは、なにか壊れたものは持ってないの?見せてよ」
無邪気に聞く子どもたちに、私はなんの言葉も返せなかった。 壊れたものなんか、なにもないんだよ・・・・。なんだか胸にズシっときた。
新しいTシャツ、何万円もするスニーカー、オイルのたっぷり入ったライター。 みんなと無邪気に「壊れたもの見せ合いっこ」したくても、できないんだよ。 めぐまれてるなあ〜わたしって。
そして壊れたものでも、身につけておきたいこども達。 それは先進国が持ち込んでしまった、ヘンな「見栄」なのかもしれない。
でも、わたしはそんな彼らがとっても可愛かった。

その後5人組は、大人になにか指示されてエドディルの前から去ってしまい、私たちも エドディルを後にすることになるが、結局また会って合流。
ムハマドが「ハディジャ、ムハマド、ローマンシアターに行こうよ。 そこで唄うから!」と嬉しそうに私たちを連れていってくれた。
むきゅう。かっわいい。
唄のお礼に、とコーラを買って差し出すが、まるで日本人のように 遠慮しまくる。その姿はまさに日本人だ。 ジョルダンには日本とおなじく、ホンネとタテマエがあるとは 聞いていたが、いままでにない反応でこっちがビックリした。 これは施しじゃないんだよ。唄のお礼に飲んで欲しいんだ、と いうフクザツなアラビア語が言えないのが悔しかった。

ローマ劇場跡
ムハマドの澄んだ声が響くローマ劇場跡

仲間らしい、ベドウィンの女の子も合流し、みんなローマンシアターの てっぺんでムハマドの唄を聴く。さすがよく響く。 陽は傾きかけ、ペトラ全体が見事に赤く染まっていく。
ボーイソプラノで唄うアラビアンソング、目の前には悠久の遺跡。 こんな贅沢な時間があっていいのか。

結局、入口ゲートまで戻って来たのは16:30。
なんと9時間もペトラ遺跡の中で過ごしたことになる。 ムハマドたちのおかげでかなり楽しい思いもできた。
「明日もムハマドたちと会いたいね〜」
「俺、明日MD持って来て、ムハマドの唄録音しようっと」

とふたりとも大満足。

その後、ワディラム中心街で買い食いをしたり、インターネットを 楽しんだりと時間をつぶし、オフィリアのいるホテルへ。
オフィリアは結局、予定を変えてしまって、
明日アカバにいって、エジプト領事館でビザ待ちをするために 4〜5日滞在するらしい。アウー。
あたしたちはアナタをあてにしてきたのに〜〜!と言っても 後の祭り。しかも長旅をしている人の予定は未定。 まあ、しょうがないということで、あきらめた。 しかし、どうしようワディラム行き・・・。
4人集れば一人あたり30JDですむ。しかしこのままふたりだと、 60JDも払わなければいけない。
実は、わたしはどんなに金をかけても、ワディラムへはいこうと 決めていた。モロッコで砂漠ビバーク出来なかったぶん、この国で 意地でも、ひとりでも、高くても砂漠で寝転がろうと決めていた。
がしかし、チョクはそうもいかない。
そういうわけで、ギリギリまでシェアメイト探しに明け暮れることになる。
あ〜こんなことならエカブと約束しないほうがよかったのかな?と ちょっぴり後悔・・・だって面倒じゃない?

エドディル
ここは火星か?

夜はあいかわらずバッサン兄さんの店で水タバコタイム。
バッサン兄さんはすっかりファミリー扱いをしてくれて 「おれの名字を名乗れ!」と鼻息も荒く笑う。
宿が同じのオーストリア人カップルにシェアメイトの話をもちかけたり してみるが、答えはノ〜。ふへ〜。 頼れる越後も、私たちのためにいろんな旅人に声を掛けてくれているらしい。 ほんとうに越後はいいやつだ・・・サンキュー越後。 アナタとワディラムに行きたかったよ・・・・


本日の出費
■ペトラ入場料 2日券20JD
■コーラ・水 1.5JD
■アイス・ジュース 1.7JD
■シャワルマ 500F
■インターネット 30分2.5JD
■水・ジュース 700F
■タクシー 500F(1人)



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